「母だ」
サンジは、ブルックから手渡されたスマホの画像を見て言った。
ジェルマ王国王妃ソラと、王女レイジュ、そしてサンジとが写っている。
グランドピアノの前で椅子に腰かけたソラ王妃。
傍らに立ち、バイオリンを胸に抱えたレイジュ。
母の手に片手を置き、もう片方の手でバイエルを抱えたサンジ。
まるで、ロココの絵画のような構図と美しい光景。
あの後ゾロとサンジは、ウソップ、フランキー、ロビン、そしてブルックと共に賢島に移り、
ブルックら国連関係者が宿泊するホテルに部屋を用意してもらった。
ジェルマの全てが明らかになり、ゾロの疑いは晴れた。
もっとも、この後ゾロの経歴捏造の一件で、国内が色々と騒ぐことになるのだが。
ブルックが言う。
「…古い携帯から移した画像ですから、画像はあまりよくないのですが…
わたくしが撮影した写真はそれだけです」
「…ホントだ…レイジュにそっくりだ」
覗き込みながらウソップが言った。
ロビンも
「サンジもお母さま似ね」
「…そうかな…」
小さく笑い、サンジはブルックにスマホを返す。
「…まさかブルックが…そういう目的でジェルマに来たとはな…」
「王妃様がご存命中は自由に動くことができましたが、伏せられてからはなかなか自由が利かず…
亡くなられて、ご葬儀が行われる前に国王様から暇を出されました。
おふたりにお別れを言うことも許されず…黙ってジェルマを出たのです」
「………」
「それでもしばらくは、隣国に留まり、部下を使って内部調査を行っていました。
もっとも、ニジ様からいただいた証拠に勝るものはないでしょう。
すぐに…ジェルマに監視団が送られます」
サンジは、うんうんと小さくうなずいた。
その表情に笑みはない。
当然だ。
やむを得ないとはいえ、自分の父親が裁かれるのだ。
殺されかけながら
それでもジャッジはサンジの父だ。
母が愛した夫だ。
「…そうだ」
サンジが顔を上げた。
ゾロが反応する。
「先生に電話しねェと!」
「…あァ…そうだな」
「あと、ナミさん…あ!ナミさんの電話番号聞いてねェ!」
ゾロは笑い
「ナミはニュースでわかるだろ」
「そうかもだけど…あ〜…しくった…」
ブルックが立ち上がりながら
「…では、ワタクシこれで」
「え?もう行くのか?」
サンジが慌てて手を掴む。
「サンジ様…今はとにかくお体を休めてください…この7日間、お疲れになったでしょう?
…申し訳ない…もっと早くお助けしたかったのですが…」
「…疲れちゃいねェよ…この7日間は…7日前までのおれの苦しみを、全部吹き飛ばしてくれた」
ゾロを見て、サンジは言った。
笑顔を返すゾロ。
それを見て
「……あれ……?」
ウソップが首をかしげた。
フランキーとロビンは互いを見て「ああ」と、うなずき合う。
「ヨホホホ…そうですか…よかった…」
「ブルック、また会えるよな?」
「会えますとも!というか、明日の朝、朝食をご一緒いたしましょう!」
「あははは!そうか!そうだな!」
「積もる話をする時間はたっぷりあります。ですから、今日はゆっくりお休みください」
「うん」
「………」
ブルックはサンジの手を握り
「…父としてのジャッジ様を…嫌いにならないでください…」
「………」
「…今は無理かもしれませんが…」
「…がんばってみるよ…」
ヨホホと笑い、ブルックは部屋を出て行った。
それを送りながら
「じゃ、私は本部に行くわ。いろいろ処理しないと」
ロビンが言った。
「アウ!そうだな…おれも疲れた!眠てェ!」
フランキーが立ち上がり、派手なあくびをしながら言った。
ひとり、空気を読みかねているウソップ。
「???????え???????え?????」
「ほら!行くぞ、ウソップ!!」
「………ええええええええええ!?ちょっ…!?おれも!おれも!チョーォ!!がんばったんですけど―――!?」
ゾロが平然と
「あー…ありがとな」
「それで終わりかあああああああああああああ!?」
フランキーとロビンでウソップを両脇から抱え
「じゃ、2人ともゆっくり休んで。事情聴取は明日にね」
「悪ィな」
「ゾロぉォォォ!?おまっ!それで終わりかよ!?」
「後で奢る」
「ぃよぉーし!!叙々苑の焼き肉な――――!!」
「牛角で勘弁してくれ」
「ジョジョ苑―――――――――――――っ!!」
バタン
「………」
「………」
静寂
「…先生に、電話する」
「おう……風呂入ってくらァ」
「…うん…」
窓の外はすっかり暮れていた。
港や町の灯りがポツポツと浮かんでいる。
あんなに大きな出来事があったのに、夜の海は穏やかで、窓から見える町も、
島々も、背中を丸め眠り込んだ猫のようだ。
バスルームからシャワーの音。
サンジはスマホを取出し
『――――サンジくん!?』
コーシローの声に、いきなり涙があふれた。
『サンジくん!?サンジくん!どうしました!?ニュースを見ましたよ!?
大丈夫ですか!?ケガはしていませんか!?サンジくん!?』
どうしてこの人は
ゾロよりもおれを真っ先に気遣ってくれるのか…
「…せんせ…い…だいじょぶ…おれもゾロも…元気です…」
『そうですか!よかった!本当によかった!!』
「…せんせぇ…」
『…どうしました…?ホッとしましたか?』
「…はい…はい…」
『よかった…がんばりましたね』
「……っ…」
『よかった…』
深いため息が聞こえた。
「先生…」
『はい』
「ありがとう…」
『………』
「…ゾロを…ありがとう…」
『…はは…どうしました…』
「………」
『ゾロに伝えてください。なるべく早く、一度帰ってきなさいと』
「はい…」
『…サンジくんも一緒に…は、ムリでしょうか?』
「行きます」
サンジは即答した。
『………』
「行きます」
『では、今度は鹿の肉を解凍して待っていましょう』
「はい」
『待ってますよ』
通話を切り、サンジはそのままスマホの画面に朝の画像を表示させた。
港で撮影してもらったゾロとの写真。
「………」
「サンジ」
風呂からの声に、サンジはハッと我に返る。
「な、なんだ?」
「………」
少し間があって
「来ねェか?」
その言葉に、サンジの顔が真っ赤に染まる。
「…無理強いはしねェが…」
「………」
「………」
「……3分…待ってくれ……」
「……おう」
バクバクバクバクバクバク
途端にハデに鳴り始める心臓
3分
経った
ゾロは湯船につかったままじっと待っていたが
「………」
来ない
「………」
そりゃな
時間もかかるだろ
だが
「…遅ェ…」
湯船から上がり、バスタオルを腰に巻き、ドアを開け――――た。
「あァ!!?」
ゾロの声に、サンジはビクンと震えて振り返る。
「何やってんだ!てめェ!!」
サンジはエヘヘと笑いながら
「…はは…腹減っちゃって…」
ソファに腰かけ、サンジは今まさに、カップラーメンの蓋を開けているところだった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
この時のゾロの顔を、なんといって表現したらよいだろう。
真っ赤になり、歯噛みし、次には青くなり、心底呆れ、また赤くなり
「冷蔵庫の上に英語で『ご自由にどうぞ』って書いてあったから…」
「!!!!!!!!!!」
確かに
すきっ腹にはたまらない、いい匂いが漂っている。
朝、コッペパンをかじったきり、何も食べていないのを思い出した。
「…3分てのァ…そーゆー意味かよ…」
「ちっ…!違ェーよ!!…えと…ちょっと…心の準備って思った瞬間に腹が鳴ったんだ!!」
「………」
サンジはカップめんを両手に持ったまま
「…ごめ…おれも…お湯注ぎながら、何やってんだよって思いはしたんだ…」
ゾロが大きく息をつく。
そして
「〜〜〜〜〜っっくしょィ!!」
「だ、だいじょうぶか!?海にも落ちたし…風邪とか…!」
「…大丈夫だ…」
鼻をすすってゾロが立ち上がった時
ぐぅぅぅぅぅぅぅ…
ゾロの腹が鳴った。
「………」
「………」
「……ぷっ……」
「…くっ…くくっ…」
笑い声
「おい、おれにも寄越せ」
「やだよ!てめェで作れ!」
「おれもシーーフードがいい」
「い・や・だ!お前、もっかい風呂行けよ」
間
「……あ〜…美味かった…日本のカップめん最高だな…」
「安上がりな王子様だ」
「……もう…王子じゃねェ…」
「………」
サンジは微笑み
「ただのサンジだ」
ゾロは、唇の端だけを上げて笑い
「…このままお前が国を捨てるとは思えねェが?」
ゾロの言葉に、サンジは照れくさげに笑い
「…キビシイなァ…」
「図星だろうが」
「…うん…確かに…」
サンジは顔を伏せ気味に、小さく笑い
「…でも…」
「………」
「…大丈夫だ…きっと…」
テーブルを挟んで向かい合わせに座っていたゾロは、サンジの隣に移り、サンジの肩を引き寄せた。
「…おれよりずっと…イチジの方が辛かったんだ…」
「そんなことはねェ」
「………」
「奴の計画の中で、お前が死ぬことを想定に入れていなかったはずはねェ」
「…だろうな…」
「………」
「…いろんなことを考えて…悩んで…苦しんで…それを表情や言葉にさえ出せないのは…辛い…」
「………」
「さすがは…次期国王だ。真似できねェや」
笑うサンジの顎を掴み、自分の顔に寄せてゾロは言う。
「自分を貶めるのはもうやめろ」
「………」
「もう、必要はねェ」
「………」
サンジの目に涙があふれる。
「おれの側にいろ。いてくれ。ずっと」
「……う……」
「この7日間のお前に惚れた。それより前のお前は必要ない。
これから先のお前をおれに寄越せ。全部寄越せ」
「………っ」
父を陥れた。
全ての後始末を兄弟に丸投げした。
自分ひとりが、こんな幸福に酔っていいのか…。
「サンジ、じゃあ聞くぞ。お前、レイジュが不幸でいいのか?」
「…んなワケあるか…!レイジュこそ一番幸せになってもらいてェ!」
「レイジュも、お前に同じことを考えてる」
「………」
「互いに譲り合ってたら、いつまでたってもどっちも幸福は来ねェぞ」
「………」
サンジを抱きしめ
「お前が幸福になりゃ、兄弟も後に続く。負けず嫌いの連中だ」
「……ははは……」
両手でサンジの頬を包み、引き寄せる。
「…奪うぞ…」
「………」
「…いいな?」
「……ん……」
顎に指を添え、顔を寄せる。
ついばむように
噛むように
吸うように
口で口を全て覆い
舌を絡め
「…っ…ん…ぁ…む…」
息ができない。
呼吸を求め、肺が大きくうねる。
耳の奥で、心臓から強く押し出され始めた血液の流れが、激しい飛沫のような音を立てている。
「…ん…んん…っ…ん…」
肩を、背中を、強く探られ、熱い手がシャツの裾から忍び入り、腹から胸へ登ってくる。
ゾロの素肌が、シャツの上から摺り寄せられる。
「…っ…ふぁ…っ…そこ…や…だ…」
緋色の乳首をつまみ、舌で転がす。
濡れた音が高く鳴る度、サンジは羞恥に顔を背けた。
「…ぁあ…やっ…やだ…そこ…はずか…し…」
「…恥ずかしくねェ」
「…んあぁ…っ…あ…っ…」
乱れ始める呼吸。
腕の中で震える体を抱きしめ
「…カワイイ…」
耳元で囁きながら、ソファにサンジを押し倒す。
「…っ…あ…やだ…灯り…」
「見たい…」
「…やぁ…っ…」
探る手が、下へ伸びていく。
「…固ェぞ…」
「…言う…な…っ…」
ゾロは体をずらし、サンジの太腿を押さえつけ、いきなり開かせるとその間に顔を埋め、
デニムの上からサンジのそれへ口づけた。
「…や…っ!」
「…上からわかるぞ…感じてるだろ…」
「言うなって…!」
「…しんどくねェか…?ズボンが固くてキツイだろ…?」
サンジは右足の踵でゾロの背中を叩き
「わかってっこと言うな…!」
涙交じりの声に、ゾロは少しバツの悪そうな表情を浮かべ
「悪ィ。てめェがかわい過ぎて、ついイジメたくなった」
「…う…」
「…もしかしたら…お前ェの兄弟もそうだったかもな…そういう顔、つい意地悪いことしたくなる」
「…そん…な…っ…あああぁっ…!」
悲鳴にも似た声。
「…ゾロ…も…つら…い…脱ぎてェ…」
「…まだだ…」
「…くそ…っ!…」
じゅ じゅ じゅ
ゾロの舌の音と、サンジの荒い呼吸が響く。
「…ゾロ…ォ…も…なァ…頼…む…」
その部分だけが、恥ずかしいほどに濡れた色に変わる。
「…痛ェ…ゾロ…頼むから…っ…」
「………」
悪戯な光を帯びていたゾロの目が、わずかに焦りを含む。
腰のベルトに手をかけ、忙しなくバックルを外し、ファスナーを降ろす。
「……っ!…あ…あ…っ…」
シャツを首までたくし上げ、パンツを剥ぎ取る。
ローライズのボクサーパンツの中央はじっとりと濡れ、震え、昂ぶっていた。
「……っ」
ゴムに手をかけ、引き下ろすと、サンジのそれはこらえきれずに天を突く。
「―――――っ!!」
それを、ゾロはためらうことなく口に含んだ。
「―――や!だめだ!…風呂…まだ…!」
「シテからでいい」
「…汚ェ…!」
「汚ェもんか」
「やぁ…っ!ゾロ…ゾロ!」
「暴れんな」
カリ
歯先で軽く、亀頭を噛む。
「あああああああああっ!!」
ビクンと大きく震え、サンジは叫ぶように言う。
「…クソ…っ!…恥ずかしいんだよ…!!わかれよ!!」
「…おれとするのがなんで恥ずかしい?」
「―――――!!」
ゾロは半身を起こし、サンジも引き起こし
「好きな相手と、思いっきりエロいことしてェ。恥ずかしいことか?」
「…うぅ…わ…わかんね…」
「わからねェことあるか。…これでわからねェならアホだ」
サンジのそれを握り、先端に爪を立てる。
「―――――!!」
「…気持ちいいか…?」
「…あ…あ…」
背中を抱きながら、ゾロは手をゆっくり上下に動かす。
「…ふ…あ…ぁ…ああ…」
「イイか…?」
「……っ…」
すがりつき、サンジはうなずく。
「…そか…」
「………」
「…ベッド…行くか…?」
震えながらうなずくサンジの髪にキスし、ゾロはひょいとサンジを抱え上げ、
ベッドの上に身を重ねながら横たえる。
肩を抱き、見詰め合い
「………」
唇を重ね
髪を梳き
頬を撫で
肩に口づけ
胸に
腹に
「…ゾ…ロ…」
「………」
固い指が、秘所に触れる。
ひく
と
体の本能がそれを痙攣させた。
「…ゾロ…待て…な…一度…」
「…だな…いきなりぶち込んだら壊れちまいそうだ…」
「…って…やっぱ…挿入…んの…?」
「挿入てェ…だめか…?」
「……………」
「………ん…?」
サンジはゾロの胸に顔を埋め、小さな、蚊の鳴くような声で
「………がんばる……」
「ありがとよ」
ベッドサイドのスイッチで、ゾロは灯りを落とした。
窓辺のオレンジ色のライトだけを残すと、しっとりと濡れたサンジの肌と表情が艶めいて浮かんで見える。
「…ああ…こっちのがいい…」
「…え…?」
「なんでもねェ…で…大丈夫か?」
「だから…がんばるって…」
「うし」
体勢を入れ替え、互い違いになり、互いの太腿の間に顔を埋める。
コーシローの「森の学び舎」で一緒に風呂に入った時は、こんな形で目にすることになるとは夢にも思っていなかった。
「…てめェの…デカ…い…」
「そうか?お前のもなかなかのもんじゃねェか」
「言うな…」
一呼吸置き、サンジのそれをひとつしごきながら
「…悪ィな…童貞のままで一生終わらせちまう」
「余計なこと心配すんな!!アホマリモァ!!―――!!んあっ―――!!あ…むっ…!」
「……ほー…上手ェじゃねェ…か…」
「…っ…っ…ん…う…ん…っ…」
じゅぷ ぐちゅ ぬぷ じゅぷっ
くちゅ じゅる にゅぷ ぐじゅっ
絡み合う濡れた音が、互いの脳髄を刺激し痺れさせる。
「…は…ぁ…あ…は…っ…」
「…っ…く…ぅ…」
ぴくぴくと震え、サンジは苦しげに身を折る。
「…だめ…も…だめだ…ゾロ…っ…」
「いいぞ…好きな時にイケ…てか…おれの方がもちそうにねェ…てめ…ホンットに初めてか…っ…!」
「…ん…ん…!」
「―――くぅ…っ!!」
「ん!うぁ…ん…っ!!」
瞬間、ゾロはサンジの口からそれを引き抜いた。
放たれたものの雫が、サンジの頬や唇にかかった。
「ん―――!」
「…悪ィ…汚しちまった…!」
「ん…ううん…いい…」
はぁはぁと息を乱しながら、サンジは薄く目を開けゾロのそれを見る。
「…なんで…イッたのに…勃起ったまんまなんだよ…」
「お前ェとシてるからに決まってんだろ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「1回イッたからな、多少は楽だぞ」
「…そうは思えねェ…ムリ…」
「がんばるっつったろうが。男に二言はねェ」
「…あー…それ映画で聞いたことある…こういう時に使う言葉だったかな…」
キスで、サンジの言葉を奪い。
肌を探り、優しくキスを繰り返す。
「…ゾロ…」
「…なんだ?今さら嫌だとか言うなよ」
「言わねェよ…」
ゾロの髪をくしゃっと掻き回し、サンジは微笑む。
「お前に会えてよかった」
「それはおれのセリフだ」
深く口づけ、声を揃えて
「ありがとう」
抱きしめ
そして
「…繋げるぞ…」
「……うん……」
「…どんなに痛がってもやめねェからな」
サンジは笑う。
手を広げ、差しのべて
「…来い…」
長い
長い
長い愛撫
躊躇うように、振り払うように、優しく、時に強く
ゆうるりと
ゆうるりと
「…あ…あ…っ…ぁあ…っ…」
「…好きだ…好きだ…サンジ…」
「…うん…うん…うん…」
「―――――」
あいしてる
そう、言ったのかもしれない
聞こえなかった
でも
「――――――――っ!!あ!あああああああああああああああっ!!」
「――――っ!!……っっっ!!」
前戯の優しさとは裏腹の、挿入した勢いに任せたままの激しい律動。
叩きつけられるような激しさに、サンジは悲鳴のような声しか出せない。
「…やっ…!…強…痛ェ…よ…っ…!」
「悪ィ…!だめ…だ!我慢なんざできるか――!!」
「…んっ!…ふっ…ぐ…ぁあ…っ!ああっ!!」
「――――!!」
「あっ!あっ!…ぁあ!あ!ああ!」
打ちつけられるリズムで声が出る。
それが、無性に恥ずかしい。
けれど
「…あ…ゾロ…!ゾロ…!…好き…すげーすき…すき…」
かわいい
なんて愛しい
そうか
これが
「―――――サンジ」
「――――ゾ…ロ…」
互いの背中に爪を立てんばかりに抱きしめ合い、息をすることさえ忘れ、上り詰める。
激流のように流れ込んでくるそれが、サンジの中を満たした。
「…熱い…」
「………っ…」
僅かに身じろぎ、さらに体を密着させると、互いの腹を濡らしたものがヌチャヌチャといやらしい音を立てた。
「…たくさん出たな…」
「…てめェこそ…」
「………」
キスし、抱き合い
「…愛してる…」
かすれた、呟くような声は、どちらのものだったろう。
「………」
気がつけば
開け放たれた窓から、明るい光が差し込んでいた。
聞こえてくるのは波の音。
海鳥の鳴き声。
ベランダに立つ背中を、ゾロは目を細めて見た。
差し込む光に金の髪が映える。
手すりに肘をかけ、背中をわずかに丸めて、サンジは青い空と海を眺めていた。
乱れたベッドから滑るように降り、ゾロはゆっくりとその背中に歩み寄り
「――――!」
「…早ェ」
「よく寝てたからよ」
「…ああ、くそ…寝顔が見たかった」
サンジは笑い、背中から自分を抱きしめるゾロの頬に唇を寄せた。
「何見てる?」
「…海…」
サンジはまた視線を前へ戻し
「きれいだ」
「………」
「…な?」
「…そうだな…」
サンジの頬に自分の頬を寄せながら、ゾロは言う。
「…サミットで来た時は、ただ『海だ』と思っただけだった」
「………」
「…こんなに、綺麗だったんだな」
サンジは笑い、ゾロの胸に背中を預け
「さて?どうしてだろなァ?」
「さァ?」
わかっている
お前と見ているからだ
こんなに世界が美しいなんて、互いを知って、初めて気づいた。
「海を見て暮らせたらサイコーだろうな」
サンジが言った。
「…島に飛ばされてた時、海辺の派出所で暮らしたが…なんでもかんでも直ぐに錆びちまって参った」
「…ムードって言葉知ってっか?」
サンジを抱きしめる手に力を籠めながら
「じゃ、海の見えるとこに引っ越すか。東京湾じゃ、あんまきれいじゃねェがな」
その時、ドアをノックする音。
「おお〜い!ゾロ!サンジ!起きてるか!?メシ食いに行こうぜー!!」
ウソップだ。
ふたりは軽くキスを交わし
「おう!今行く!!」
それから
数ヶ月が経ったある日。
サンジは、海を渡る船の中にいた。
船の名前は『さるびあ丸』
行先は伊豆諸島。
大島で下船する。
あれから
いろいろな手続きをした。
いろいろな場所へ行き、いろいろな書類を書き、まだケリのついていない事もたくさんある。
一度、ジェルマ大使館にも行き、そこでジェルマにおける権利の全てを放棄する手続きもした。
日本での身元引受人にはコーシローがなってくれた。
もう少しで、サンジは本当にただの「サンジ」になれる。
もちろん、あれからのジェルマの事が気にならないわけではない。
でも、きっと大丈夫。
そういえば、驚いたことがひとつある。
あの後直ぐに、レイジュの元に戻ってきたコゼットだが、どこをどうしてどうなったのか、
なんとニジと婚約したという。
レイジュの話では、ニジは元々コゼットが好き過ぎて、天邪鬼な行動ばかり繰り返していたらしい。
レイジュは大反対したが、自分の意志でコゼットがプロポーズを受けてしまっては、それ以上の反対は出来なかった。
強引な流れにレイジュは不安だと嘆いていたが、何かあったら、また私がニジからコゼットを取り上げるから大丈夫、
それに実は、コゼットが本当に妹になるなんて嬉しくて仕方ないと本音も漏らしていた。
父、は。
ジェルマの王宮の一隅に軟禁されてはいるが、それなりに元気でいるらしい。
1日一度、運動代わりにヨンジの監視付きで、母ソラの墓参りに出かけるのが日課だそうだ。
イチジは
国王として忙しく、ふてぶてしく、支配者然としているのだろう。
あいつが一番想像出来る。
兄として慕ったことはなかったが、こうして放り出してくれたことに、とても感謝している。
「ほら、港が見えてきたぞ!」
誰かの声に、サンジは目を瞬く。
まもなく接岸のアナウンス。
長い航路だった。
スーツケースと、ウソップやロビン、フランキー、そしてコーシローから持たされた餞別の入った紙袋を手に、サンジは立ち上がる。
青い空の下、三原山からわずかに上る水蒸気。
「………」
知らず知らず、頬が紅潮する。
「よろしくな」
山の頂に、独り言のように挨拶した。
船が、白い波を蹴立て、ゆっくりゆっくりと桟橋に接岸する。
桟橋には、観光客を迎える現地添乗員や旅館・ホテルの送迎、家族を迎えるなどの島の人々でごった返している。
船から上陸用のタラップが降り、先ず小さな子供がふたり駈け降りていき、祖父母らしい老夫婦に抱きついた。
次々に、人々が降りて行き、それぞれの向かう方へ流れていく。
その人々を縫うように、桟橋に近づく姿を見つけ、サンジは足早にタラップに向かった。
桟橋のその影は、甲板のサンジを見つけると満面に笑みを浮かべた。
「ゾロ―――――!!」
思わず、体が先に動いていた。
勢い、鉄の階段を駆け下りる。
ゾロは、2カ月前に、ここ伊豆大島に異動になった。
ジェルマの一件で、勝手な行動を取り、警察組織の規律を破り、
触法すれすれの逃亡劇を展開したゾロへの処分だ。
結果として、ジェルマ王国の闇を暴き、サンジの命を救ったのだから、
レイジュが言ったようにゾロは英雄のはずだ。
ジェルマにとっては。だ
日本警察としては、今回の騒ぎを見過ごすことはできない。
なんとか事を荒立てないようにと、ロビンもいろいろとがんばってはみたが、いかんせん、
やった事がやった事なので、警察官としての責任は取らなければならないという結論がコレだった。
「また、島流しかよ」
と、ウソップもフランキーも呆れた。
異動前、ふたりで『森の学び舎』を訪ねた。
「海がきれいだって聞いたぜ」
「ああ…毎日嫌ってほど眺めてられるぞ」
「楽しみだ!」
「…覚悟しとけよ…離島だからな?不自由の方が多い」
「どんとこいだ」
「………」
ゾロは急に黙り込んだ。
「どうした?」
「…悪ィな…」
「おいおい…おれが原因だろ?」
「あー…そうだった」
サンジはまだ、コーシローのスマホを使っている。
そのLINEを開きながら
「ナミさん、『遊びに行く』ってさ。『あたしが東京に来たのに、なんで異動になるかな』…だとよ」
「おれが知るか。上に聞け」
「階級が降格しなかっただけ、よかったな」
それを聞いたコーシローは
「これで、少しはおとなしくしてくれるとよいのですが………無理でしょうねェ」
と、深いため息をついた。
「サンジくんだけでも、ここに住めばいいのに。がっかりです」
「ま。前回も2年で帰ってこられたからな」
「何を呑気に。2度目の左遷ですよ?自覚しなさい」
本当は、サンジも一緒に行きたかった。
だが、サンジが日本に住むための手続きが煩雑で、その度に本土に戻ってくるのはあまりにも手間で、
ゾロのアパートを引き払ってからは昨日まで、ウソップの用意してくれたウィークリーマンションに住んでいた。
ようやく
今日
タラップの下に辿りつき駆け寄り、ザ・警察官の制服姿のゾロが叫ぶ。
「サンジ――――――――――――!!」
両手の荷物を放り出し、その手を大きく広げ
「ゾロ―――――――――――――――!!」
飛ぶように
ほんの少し前まで、雪と氷に覆われた国の王子は、海を渡り、小さな島の住人になる。
青い空
青い海
ふたりで
END
ここまで読んでくださりありがとうございました。
2人にはやはり笑って終わってもらいたいです。
原作はまだまだWCI編ですが、ヴィンスモーク家の皆がどう動くのか気になるところです。
私個人は、ジャッジが血も涙もない父親とは思っておらず、その希望をこのお話に少し籠めました。
ちょこっとフラロビ・ニジコゼも描けたし楽しかったです。
みんなが幸せでありますようにv
BEFOER
(2017/12/18:完結)
お気に召したならパチをお願いいたしますv
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