「もう!!いい加減にしなさいよ、あんた達!! なんで顔を合わせるたんびに、そうやってケンカが始まるの!?小さい子供じゃあるまいし!! 譲るとか、我慢するとか、そういう大人な対処は出来ないの!?ゾロ!?サンジくん!?」 ゴーイングメリー号の中央甲板から、苛立つナミの声が大海原に吸い込まれていった。 ここは偉大なる航路―グランドライン―。 2週間前、彼らの船は、冬島『ドラム王国』を出航した。 砂の王国アラバスタの王女ビビを乗せて始まった旅は、いくつかの試練を乗り越えて、 優秀な医者・チョッパーを仲間に加えて、その船足をアラバスタへと急がせている。 「ああ!ナミさん!!ごめんよ〜!」 「…ちっ…いちいちうるせェな…オカンかてめェ。」 「なんですってェ!?」 「なんだと、このクソマリモァ!!麗しのナミさんに向かって、“オバン”たァなんだ!?」 「……“オカン”よ…サンジくん……。」 「ああああああああああ!!ごめんなさい、ナミさ―――ん!!」 中央甲板の騒ぎを、船首甲板から見下ろしながら、ビビはおろおろとウソップに尋ねる。 「ウ、ウソップさん…止めなくていいの…?」 ウソップは息をつき 「おれにそんな勇気がある様に見えるかー?」 「………。」 勇敢な海の戦士 じゃなかったかしら? 困ったように笑って、ビビは首を傾げた。 新しい仲間チョッパーは、怒鳴り合うゾロとサンジの間でおろおろおろおろと走り回っている。 と、メリーの上で昼寝をしていたルフィがむくりと起きあがった。 そしておもむろに振り返り、寝惚け眼で 「サンジ!!3時だ!!おやつ!!」 と叫んだ。 ブチ切れてナミが答える。 「黙ってろ!!ゴム!!」 と、サンジは 「あ!!ヤベェ!!オーブンの中のマカロン!!」 と我に返り、キッチンへ駆け上がって行った。 「……もう!」 叫んだルフィは、また、メリーの上でごろんと横になる。 ルフィなりの仲裁か、それとも本気でおやつの心配をしただけか…。 「ゾロ。どっちかというとあんたの方が無神経よ。」 「………。」 水入りのケンカ。 ゾロは頭を掻きながら、船尾に向かった。 どうせまた、このまま昼寝をするつもりだろう。 ビビが言う。 「…同じ年で…もっと仲良くできるんじゃないかと思うけど…。」 ウソップは息をつき 「…ああ、そりゃナイナイ…同い年だから、逆にライバル意識の方が強いんだろ、あいつら。」 「…そうなんですか…?」 「正反対だからなァ…性格も嗜好も…。」 「…それでも…認め合うくらいはしてくれればいいけど…。」 「…うーん…。」 「ルフィさんは…口を出すつもりがないみたい…。」 「…まァ、あいつはそういう事する様な船長じゃねェし…。」 「…なんとか…なりませんか…ウソップさん…?」 「………おれ?」 「…お2人に一番年齢も近いし…仲間だし…。」 「………。」 「………。」 「………。」 女の子の こういう目に弱い、心優しいウソツキは、おやつのマカロンをそっとゾロの分を取り分けて、船尾へ向かった。 ゴーイング・メリー号、午後3時20分。 キッチンからサンジの声が聞こえてくる。 チョッパーの分にまで手を出したルフィを叱っているらしい。 「ゾロ、おやつだぞ。」 「………。」 壁に寄り掛かって腕を組み、目を閉じていたゾロは、呼びかけに目を開いた。 仏頂面のゾロに、ウソップは苦笑いを浮かべてマカロンの皿とアイスコーヒーのグラスを差し出す。 黙って受け取り、ゾロはアイスコーヒーを一口飲むと、マカロンを黙々と口に運び始めた。 「…なんだかんだ言っても食うんだな…。甘いのあんまり好きじゃねェだろ?」 「……食い物は粗末にしねェ。」 「はは…サンジに聞かせてェな。」 「………。」 ウソップは、何気なさそうにゾロの隣に座った。 別に迷惑そうでもなかったので、ウソップはおもむろに切り出す。 「ビビが心配してるぜ。仲間なのになんでケンカばっかりするんだろうってよ。」 「……おれのせいばかりじゃねェだろ?」 「んん〜〜〜……そうだなァ……まァ、サンジも悪い所あるよなァ……。」 「……これでもおれは歩み寄ってるつもりだぜ……。」 「んん〜〜〜〜〜〜〜。」 「ちょっと目が合った位で、なんで睨まれなきゃならねェんだ。」 「んん〜〜〜〜〜〜〜。」 「…この前、水の樽をひとりで上に揚げてたから、重いだろうと思って手ェ出したら、“余計な事してんじゃねェ”って怒鳴られてよ。」 「んん〜〜〜〜〜〜〜。」 「いつだったか、冬島の海域だってのにキッチンでうたたねしてたから、上着羽織らせてやったら“余計な御世話だ!”って突っ返された。」 「……ん〜〜〜〜〜〜?」 「…ドラムで負った傷も治り切ってねェってのに、この前の戦闘で散々無茶しやがって…。」 「…………ん…………?」 「……結局、傷が開いて、また寝込んだじゃねェか……。」 「………………………。」 「何が、“ナミさ〜ん”“ビビちゃ〜ん”だ…何がナイトだ…てめェの方がよっぽど危なっかしいくせによ……。」 「……え〜〜〜と……。」 「……人の気も知らねェで……。」 「もしも〜〜〜〜〜し?」 「……大体、初めっからあのバカは……。」 「お〜〜い、ゾロ〜〜?」 「…………………。」 「ゾロさぁ〜〜〜〜ん?」 間 「……うぉ!?居たのか!?ウソップ!!?」 「さっきから居ただろォ!!?」 ゾロの 頬が染まった。 何ともいえない、ガキみたいな困った顔。 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と。 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と? これは もしかしてこれは? えっと、まさかと思うけど。 こういう事も、あるのかもしれないけれど。 もしかして もしかして もしかして♪ あ♪もしかして〜〜〜♪ 歌ってる場合か!!(自分ツッコミ) 「なァ、ゾロ?お前さ。」 「あァ?」 「お前さ。」 ウソップも、自分を落ち着かせようと、ひとつ息をついた。 「サンジが好きなんじゃねェの?」 季節外れのクリスマスかと思った。 ゾロの、緑の髪の下の顔が真っ赤に染まった。 確定。 NEXT (2010/8/6) 恋はドコから始まる?TOP NOVELS-TOP TOP