「…へェ…合宿所っていうから、もっと学校の寮みてェなの想像してたけど…すげェな。ちょっとしたホテルだ。」 6月の半ば。 新幹線の駅からここまでの送迎バスから降りたサンジは、【○○高原合宿センター】と書かれた看板と、目の前の建物を見比べて呟いた。 この時期、運転免許取得の為の教習所は閑散期だ。 その為、シーズン料金でかなりの割安になる。 そしてタイミングの良いことに、サンジの勤めるレストランが店内改装で、昨日から半月の休業になった。 中学を卒業してすぐに今の店に修行に入り、定時制の高校に通っていたサンジは、 21歳の今日まで免許を取るタイミングを失っていて、ようやくそのチャンスが巡ってきたのだ。 ネットで検索し、近県にあるドライビングスクールの【合宿免許:15日最短コース】というメミューを見て、その場で申し込んだ。 3食、某リゾートホテルのシェフが監修したというビュッフェ形式の料理が用意され、部屋はすべて個室。 修検後に、近くの観光地への日帰りミニツアーがついてくる。  (あとこれで、可愛いレディがいたら最高なんだけどなァ…。) 教習の合間にお茶なんかして、「交通法規のここが難しいの〜。ねェ教えてくれる?」なぁんてトコから恋が始まっちゃったりなんかして…。 その時  「がっはっはっはっは!!」 背後ででけェ笑い声がした。 バスのなかでもずっと笑いっぱなしだったオバハン3人。 なんでも、2日間のフォークリフト免許の連中らしい。 あとは…ちょっとヲタクなカンジの兄ちゃんがひとりと、おっさんがひとり。 マイクロバスだったのに、ガラ空きだった。 小さく息をついた時  「本日入校の皆様!どうぞロビーへ!お疲れ様でした〜〜!ようこそ!」 明るい声に、一斉に顔を向ける。 お。 カワイイ。 今時には珍しい、真っ黒な髪。ショートカット。 胸のネームプレートにちらと見えた下の名前、「たしぎ」ちゃん。 ああ、可愛い名前だ。 眼鏡の奥のくりっとした目、実際の年齢、見た目よりもっと上だな。 …中学生みてェ…(笑)  「今から氏名確認で名前をお呼びします。手を挙げてお返事ください!」 3番目に名前を呼ばれた。 そして  「サンジさん、お部屋は302号室をお使いください。」  「ありがとう。」 キーを受け取る。 そして  「えっと…ロロノアさん…。…ロロノア・ゾロさん!」 答えがない。 あれ? 今日の入校は男が3人であとはオバハンだろ? もう、男3人呼んだよな? たしぎちゃんが、ちょっと眉を寄せた。  「あら!遅刻?」  「バスに乗ってなかったわねェ。あら、置いてきちゃったの!?」  「乗り遅れ!?あらぁ!置いてけぼり!」 だっはっは!! …勝手にウケてろ…。 と、たしぎちゃんの目がおれの後ろを見て、少し明るい表情になった。 振り返る。 自動ドアが左右に開かれて、バッグを肩に担いだ背の高い男がのっそりと入ってきた。  「ロロノアさん。」  「………。」 オバハン連中が、途端に静かになった。 こそこそひそひそ 肘で互いを突きあってる。 ……無理ねェか…… オバハンうけしそうなそこそこのツラだ。 ガタイもいい。 まだ肌寒いのに、Tシャツにデニムのラフな格好だ。 上着も持ってねェ。 すすけたバッシュ。 それより何より、すげェ鮮やかな緑の頭。  「ロロノアさん、お部屋は301号室です。」  「…はい。」 うぉ しっぶい声だな…。 オバハンが「きゃ」とか言うな。 てか、部屋、隣かよ…。  「では、みなさんお部屋に荷物を置いて、少し休憩なさってください。  2時から入校の手続きとオリエンテーションを行います。  5分前集合でお願いいたします。それと、サンジさんとロロノアさん。」  「あ、はい?」  「お2人はスピードコースですので、オリエンテーションの後、早速学科の1とシュミレーターに入っていただきます。  これが時間割です。ご確認くださいね。」  「わかりました。」  「…はい。」  「では、また後程。」 たしぎちゃんはにっこり笑って頭を下げ、書類を抱えて小走りに事務所へ戻っていった。 おっさん2人はすぐに部屋へあがって行った。 おれも、と思った瞬間。  「ねぇねぇ!お兄さんはどこから来たの!?」  「学生!?学生よねェ!?こんな時期だもの!」 オバハンたち 2人が緑頭の行く手を塞ぎ、1人がおれの行く手を塞いだ。  「…いや…働いてます…コックです。」  「まぁあ!コックさん!?お仕事は!?いいの?  スピードコースって言っても15日でしょ!?お仕事お休みなの!?」  「店が改装で休みなんです…それで…。」  「まぁああ!そうなの!?お店って?市内なのかしら!?今度行くわよ!なんてお店!?」  「…いや…都内です…青山のバラティエって店です…。」  「あらっ!東京なのぅ!?青山ですって!まーステキ!!」 うわあああ…。  「お兄さん、いい体してるわねェ!スポーツ選手!?そうでしょ!?」  「………。」  「なんていったかしら!?ホラ!!あの、こーんなのをこーやって投げる競技の選手!!  あんな体してる!何の選手なの?学生でしょ!?」 オバハンの仕草を見るに、どうやらそれがハンマー投げの室伏の事を言いたいのだというのは分かったが、緑頭は仏頂面で。  「…そうです。もういいすか?」 ぼそっと答えた。  「あらっ!まあ!ごめんなさいねェ!!そーよね!忙しいのよね!あらやだわー!!」 「がっはっはっは!」が気持ち「ほっほっほ!」になっていた。 女性はいくつになっても女性。 どんなに歪んで崩れてもレディはレディ…。 …歳月は無残… オバハンたちは、そのままロビーの向こうにある喫茶室に入っていった。 あの調子だと、5分前集合は期待できそうにねェ。 エレベーターの『↑』ボタンを、緑頭が先に押した。 すぐに箱が開いた。 すると  「………。」 無言で、「先に乗れ」と目で促したのが分かった。  「…どーも…。」 男2人と、それぞれのバッグで小さな箱はいっぱいになった。 あのオバハンたちとその荷物じゃ、途端にブザーが鳴りそうな小さなエレベーター。  「…ウソだろ?」 おれの言葉に、緑頭がこちらを見た。  「…ハンマー投げの選手だなんてウソだろ?」  「…いちいち否定すんのも面倒くせェ。」  「…確かに…。」 思わず吹き出しちまった。  「…てめェも普通免許?」  「…普通と二輪だ。」  「…へェ…両方取るのか。バイクかァ…。かっけェな。」 ちら、と、緑頭がおれを見た。目が合った。 同時に、小さな箱が3階に着いた。 緑頭の指が、「開」のボタンを押した。  「…こりゃまたどーも。」 こいつ 見かけによらず紳士だわ。 男のおれにやるくらいだから、当然女の子もさりげなく気配り出来るんだろな。 …ぶきっちょそうだが… 301と302。 廊下を折れる方向は一緒。二つ並んだドアに入る前に  「おれ、サンジ。」  「ゾロだ。」 それだけ言って、黙ってドアを閉めた。 合宿免許スピードコース。 ちょっと考えが甘かった。 1日中、それこそ朝から晩まで、学科を受けているか車に乗っているか。 まぁ、学校の授業じゃないから学科で居眠りをしてても講師は何にも言わねェけど。 フォークリフトのオバハンは、2日で免許をGETして、がっはっはと笑いながら帰って行った。 一緒の入校だったおっさんと兄ちゃんは2種免許取得目的だったらしく、気が付いた時はもう、とっくに卒業していなくなっていた。  「おい、次行くぞ。」  「んあ?」 肩を叩かれて、慌てて半身を起す。 見ると、数人の教習生が学科の部屋を出ていくところだった。 叩いたのは、緑頭の室伏広治――ゾロ。  「あ…終わったのか…。」 ヤベ、ヨダレ垂らして寝てた…。 結局 可愛い女の子にはお目にかかれないまま6日が過ぎた。 通学の教習生はそこそこいるが、時間帯が夕方に集中しているので、平日の日中は静かなもんだ。 合宿所の部屋も隣だし、スケジュールも似たようなもんだから、自然ゾロと行動を共にすることが多かった。 ゾロは呆れた顔で  「寝っぱなしだなてめェ。今日のラスト修検だぞ。大丈夫か?」  「…んー?わかんね…。」  「…免許欲しくて来てんだろ?」  「うん…まァ…そうだけどよ…。こんなに、学校の授業みてェなのあるとは思わなかった。」 都心に住んでいるので、特に免許がなくて不自由することもなかった。 けどやっぱり、車の運転って憧れる。してみてェって思う。 かっけェ車のナヴィにカノジョ乗っけて、高速かっとばしてみてェって思うだろ?誰だって。1回くらいはさ。 そのタイミングで、長い休みを手に入れたんだ。挑まないワケはねェ。 けど、まさかこんなに座学があるなんて。  「…あー…次、何だ?」  「知るか。てめェの時間割見ろ。」  「んー…あ、空き時間だ…あ、珍し…1時間空いてる…てめェは?」  「おれは二輪の方の教習だ。」  「あー…そっか…。」 合宿所がある教習所では、二輪の教習はしていない。 ここから車で5分くらいの場所にある、二輪専門の教習所で行うのだ。  「バスが出るから、おれァもう行くぞ。」 教本を入れたバッグを肩にかけて、出ていこうとするゾロの背中に  「ちょ、待て。おれも行く。」 と言うと。  「…なんで?」 と、仏頂面で答えた。  「いいじゃん。バイクでコケるてめェを見てみてェ。」  「………。」 お。コメカミに青筋たった。 観光地に近い田舎の教習所だ。 周囲にこれといった商業施設があるわけじゃない。 合宿所には図書室もあるし、DVDも借りられるしテレビもあるけど、普段からテレビは見ねェ。 ちゃちいゲーセンが近くにあるけど、ゲームも興味ねェ。 2時間。ボケーッとしているのもつまらねェ。 こいつもいねェんじゃ、話す相手もいねェしな…。 二輪の教習所、初めて来る。 平日の真昼間、そんなに教習生もいねェだろうと思ったら、これがかなりの人数。 結構、おっさんが多い。しかも、すでにリタイアしたような黄昏世代ばっかりだ。  「見学ならこの上に喫茶室がある。」 教習カードをカウンターに出して、サンジの元に戻りながらゾロが言った。  「…あー…じゃ、そこで見てる。」  「おう。」  「せいぜい派手に転んで来い。」  「…言ってろ。」 にっ、とゾロが笑った。 あ。 なんか、あいつが笑うの初めて見た気がする…。  「ロロノアさーん!11番にお乗りくださーい。」 係りの声に、「じゃな」と短く言って、ゾロはお仕着せの「11番」と書かれたヘルメットを抱えて管理棟の外へ出て行った。 ガラス戸の向こうに、教官と言葉を交わすゾロが見える。 と  「…お兄ちゃん、ロロノアの友達かい?」 いきなり、白髪のおっさんに話しかけられた。  「え!?…えと、ああ…四輪の方で、合宿所が一緒で…。」  「へェそう!君も仲間なのかと思った!」  「仲間…?」 その時、おっさんも係員に呼ばれ慌てて行ってしまった。  「………。」 周りを見ると、教習生の何人かがガラス越しにゾロを見ている。  「……?」 なんだ? あいつ、なんであんなに注目されてんだ? こっちで、あいつ何かやらかしたのか? 不思議に思いながら、2階にある喫茶室に上がった。 自販機でコーヒーを買って、窓際に陣取ってコースを見下ろす。 11番 いた…。 二輪の教習では、決められたヘルメットとジャンパーを着て教習を受ける。 ケガの防止と判別の為だ。 けど、その指定のジャンパーはゾロには小さすぎて、背中がはち切れんばかりだ。 袖の丈も足りなくて、かなり腕が露出している。ほとんど意味をなさねェ。  (…すげェ腕…マジ、スポーツ選手じゃなかったら、コイツなんなんだ?筋肉マニアか?) そういや 聞いたことねェな… あいつ、学生なんだろか それとも仕事持ってるのかな? けど、こんな時期に合宿免許取ってるリーマンなんかいねェよな? それ以前に、リーマンってツラか?アレ。 スーツ着てるの想像できねェ体だよな。 ちょっと待て…確かあのやろもおれと同じ年だったろ? だとしたらやっぱ学生かな…。どこの大学かな…地元か?… 入校の日、自分で来たんだもんな…。いや、地元だったら何も合宿じゃなくても…。  「うわぁ…上手いなァ…。」 ちょっと離れたテーブルで、2人の教官が笑いながらコースを眺めてる。 見ているのは  「………。」 ホントだ。 免許を取りに来てる奴の運転とは思えない。 ゾロ すげェかっけーな…。 あんなでっけェバイク、簡単に操ってやがる。 はっ!? おい、おれ…何ぼーっと見惚れてんだ!? 何でさっきからあいつの事ばっか考えてんだ!? 慌てて、目を逸らしてコーヒーを飲む。  「………。」 中学卒業して、すぐコックの道に飛び込んだ。 とりあえず高校には行けと修行先の社長に言われて定時制に入ったけど、まともに通わなかった。 実は、免許を取ろうと思ったのは、店のオーナーシェフに「休みの間に取ってこい。 てめェが仕入れに行くたびに、誰かを連れて行かれるんじゃ効率が悪ィ。」と言われたからだ。 そこで合宿で取れるぜと仲間に教えてもらい、ネットで検索し… どこでもよかった。 たまたま適当に選んだ予約センターに頼んだのがここだった。 ここで よかったって思ってるおれがいる…。  「……なんだよ、全然コケねェなあいつ…つまんね。」 11番のバイクが戻ってきた。 バイクを枠線内に停めて、一通りの手順をこなして、ゾロはヘルメットを取った。  「………。」 6月だけど、今日はいい天気だ。 少し汗ばんでるのがわかる。 ふーっと息を吐いて、ジャンパーを脱いでハンドルにひっかけた。 教官が言った言葉に何度かうなずき、最後に会釈した。 教官が、教習カードをゾロに手渡した。 教習終了だ。  「……マリモ頭……。」 無意識に、声に出してた。 と  「!!」 ゾロの顔がこっちを向いた。 目が合った。 そして 笑った  「………。」 慌てて目を逸らした。 手にした紙コップ口に運んだ。 空っぽだった。 一気に、のどが渇いた。 なんだ!? なんでいきなり、こんなにのどが渇くんだ!? つい今しがた、これ全部飲み干したところだろ!?  「終わった。」 野太い声に、びっくりして振り返る。 いつの間に上がってきた!?  「…あ、あ?…ああ!!お、おつかれ!」  「おう。…バス出るぞ。」  「あ、ああ…うん!」 ばっくん ばっくん ばっくん なんだ? なんかすげェ鳴ってっぞ、心臓…! テーブルの上のつぶれた紙コップ。 ゾロの手が拾い上げ、ポンとゴミ箱に投げ入れた。  「急げ。」  「…ああ…。」 ばっくん ばっくん ばっくん 歩き出したゾロの背中を見ながら歩く。 すげェ背筋 がっしりした頭 太い首 盛り上がった肩 ばっくん ばっくん ばっくん 止まれよ心臓。何勝手に鳴ってやがんだ…。 て、心臓止まっちまったら困るけどな。 結局 戻ってからも心臓は鳴りやまず、おれは修検を落とした。  「…修検で落ちる人は珍しいですよ。」 少し呆れた笑顔で、カウンター向こうのたしぎちゃんが息をついた。 呆れるくらいに、おれの修検の(特に学科)の結果は散々だったらしい。  「次の修検は明後日なので…明日のこの学科とこの学科は…仮免交付の後でなければ受講できませんから…  車も塞がっているので、明日の午前中は空いてしまいますね…。」  「…厳しい?」  「明後日の修検に落ちたら厳しいですけど(笑)」  「がんばります…。」  「じゃ、変更後の時間割、明日お渡ししますね。」  「お願いします。」  「がんばってください。」 カウンターの椅子から立ち上がると、エレベーターからゾロが降りてきた。 ゾロは修検に合格した。 明日から路上教習になる。 ちょっと 差、つけられた。  「終わったか?」 え? おれの様子を見に来たのか?  「…あ、ああ、終わった。」  「そうか。」 すると  「明日から路上ですね。」 たしぎちゃんが言うと。  「………。」 仏頂面でうなずいた。  「がんばって。」 言い残して、たしぎちゃんはおれのファイルを抱えてパソコンのデスクに腰を下ろした。  「………。」 あれ? 今、たしぎちゃん、ゾロに「がんばって」って言ったな。 おれには「がんばってください」だったのに。  「………。」 無意識に、たしぎちゃんをじっと見てしまった。  「おい。」  「…え?な、なに?」  「…コンビニ行くが、何かあるか?」  「…お使いしてくれんのか?」  「ついでがあったらな。」  「………。」 1週間、合宿所のビュッフェ飯だ。 ちょっと飽きが来てる。  「……酒飲みてェな。」  「ビールでいいか?」 即答だった。  「…一緒に行くよ。」  「おう。」 歩いて5分弱のコンビニで、何種類かの酒を買って合宿所へ戻った。 最後の教習時間の最中。  「…なァ…ここって部屋で酒飲んでいいのか?」  「いいんじゃねェか?20歳過ぎてんだ。」  「ダメだってどっかに書いてあった気がする…。」  「飲んじまえばこっちのもんだ。」  「はは…空缶どこに捨てよう…。」  「面白かったか?」  「あ?」 エレベーターのドアが開く。 また、ゾロが『開』のボタンを押しておれを促した。 おれを先に降ろして自分も降りながら  「バイクの教習。」  「あ…ああ…いや…。」 ヤベ ドキドキが甦ってきた。 腕とか 肩とか 背中とか  「…コケるてめェを見に行ったのに、そつなくこなしやがって面白くねェ。」  「あーそーかよ。」 あ。 ちょっと怒った? 部屋の前で、おれはコンビニ袋の中を探った。  「え〜と…お前の分ヱビスとアーリータイムスだよな…。」  「あ?何で分けんだ?」  「え?」  「めんどくせェ。一緒に飲(や)ろうぜ。1人酒も味気ねェ。」 言いながら、ゾロは部屋の鍵を開けて  「ん。」 いつもの様に  「…おじゃましまーす…。」 あ。 コイツの匂い…。 そりゃそうだ。 合宿所とはいえ、1週間もいりゃ部屋の匂いも染まってく。 造りはおれの部屋と同じだ。 ただ、ユニットバストイレとベッドとテレビの位置が逆なだけ。 テーブルの上に、バイク雑誌が投げてある。 その上に、ゾロはコンビニ袋を置いた。 ドカッと、ゾロが1人用のソファに座っちまったので、おれがそこに立ったままでいると  「ベッドでいいぞ。」  「…あ、ああ…。」 上着脱いで、ベッドの端に座った。 ゾロはもう、最初の1缶目を空けて勢いよく喉に流し込んでいる。 うわ…スゲ…ノドボトケ…。  「ぷはーっ!美味ェ!!何日ぶりだ!」  「…おっさんか…。」  「あァ!?」  「はーい、カンパーイ!」 あー、ホント美味ェ…。 酒禁止の合宿所 秘密の酒盛り 時々馬鹿笑いしちまってデカクなる声を、互いにどつきあいながら抑える。  「なァ、お前ェ、二輪の教習所でなんかやらかしたのか?」  「あ?何もしてねぇぞ。何でだ?」  「…なんか…向こうでてめェ注目浴びてたからよ。」  「…あー…。」  「……?」  「なんでもねェよ。気にすんな。」  「…ふーん…。」  「…なんだ?気になるのか?」 そう言ったゾロが、ニヤッと笑ったのがカチンときた。  「別に…。」  「………。」 ゾロが笑いながら、コンビニで買った焼き鳥缶を開けた。  「そういや、お前コックだって言ってたな。」  「ああ。」  「青山の…なんだっけ?」  「バラティエ。」  「カタカナってことは洋食か。」  「フレンチだ。」  「ああ、そんなカンジだろうな。てめェ見てるとわかる。」  「そりゃどーも。…お近くへおいでの際はゼヒ。」  「予約しなけりゃならねェ様な店は行かねェ。」  「……あー左様で……けっ。」  「美味ェのか?」  「あ?」  「てめェの料理だ。美味ェか?」 かっちーん  「…誰に向かって言ってんだ?おれはこれでもバラティエの副料理長だ。」  「へェええェえ。」  「クソ…ここにキッチンがあったら、おれの料理食わせてぎゃふんと言わせてやんのに!」  「じゃあ食わせろ。」  「予約がいるような店は嫌いなんだろ?」  「てめェが入れとけ。」  「はあああ!?勝手なこと言いやがんな!てめェ!!」  「そうだな。免許取って、ほかの用事済ませて…7月の中頃ならいつでもいいぞ。」  「聞いてんのかてめェ!!」  「声が大きいぞ。」  「!!」 ムカつく。 焼き鳥缶とチー鱈とサラミ。 野菜スティックとあたりめ。 ポテトチップにピスタチオ。 あとは酒、酒、酒。 缶ビールって、こんなに美味かったかな…。 あー 楽しい…。    NEXT                     (2012/3/21) License!!‐TOP NOVELS-TOP TOP