コックと、『そういう関係』になってから、どうもヤツを目で追う事が多くなった。
多分に、その無意識の行動は『それ』なのだろう。
だから
「サーンジっ!」
と、はしゃいだ声を挙げて、まるでガキの様にコックの首に巻きつくルフィや
「サンジ―ww」
と、幼稚園児の様にすがりつくチョッパーや
「おう!サンジ!」
と、軽々しく肩に手を置いたりするウソップらに
「………。」
感じるそれが『嫉妬』なのだという事も、おれは十分わかっている。
だが、それを顔に出す様なヘマはしない。
ナミになんぞ知られようものなら、あのドヤ顔で何を言われるかわかったもんじゃねェ。
「ああ、もう!いい加減に離れろお前ら!」
怒鳴りながら、どこか嬉しそうなコックの声。
そうだ。
あいつは、誰かに触れられるのが嫌いじゃない。
セックスの最中も、背中や肩を撫でると、潤んだ目で甘い息を漏らす。
ほんの少し、ウソップのようなノリで、コックの腕に指を伸ばした。
触れて、口に出す言葉も用意していた。
倉庫から上げろと言われていた油の樽を、どこに置いたらいいのかと聞くつもりだった。
が
「触んな!!この変態マリモォァ!!」
偉大なる航路を進む船の上。
爆発の様な音と、コックのドスの利いた叫びが響き渡った。
照れ臭さかと思っていた。
だが、実際に触ってもいない。
ちょこっと位いいじゃねェか。
真っ赤な顔で、肩で息をして、コックは心底キモイという顔で、床に転がったおれを見下ろしている。
なんなんだ?
昨夜はあんなに素直に、ビクビク震えて縋りついてたじゃねェか。
「…何なんだ、てめェは…。」
一発、ぶん殴ってやらねェと収まらねェ。
立ち上がり、コックの襟首に手を伸ばすより速く
「触んなっつってんだろ!」
再び蹴り。
同じ手は食うか。
「いい加減にしなさいあんた達!!」
頭の上からナミの怒鳴り声がした。
だがいちいち聞いちゃいられねェ。
いい加減にしろと言いてェのはこっちの方だ。
手を伸ばし、掴もうとすると、まるで心を読んだように身をかわす。
心底嫌だという顔をして、必死の形相で。
「……この!!」
蹴りをかわし、懐に飛び込んだ勢いで、そのまま顎に頭突きを食らわせた。
「きゃあああ!!サンジくん!!」
ナミの叫びで我に返った。
目の前で、コックが昏倒していた。
「ケンカにもルールがあるだろ!手加減くらいしろよ、ゾロ!」
チョッパーが、サンジの体に毛布を掛けてやりながらゾロを睨みつけ、言った。
「手加減なんざできるか。」
「大人げねェなァ、ったく。」
ウソップも、呆れたように溜息を漏らす。
「反省しろゾロ!お前のせいで今夜の飯があぶねェんだぞ!」
ルフィが言った。
そしてチョッパーが、医療道具を片づけて立ち上がり
「責任もって看護しろよ!!」
「あーハイハイ。」
「ハイは1回ィ!!」
「うっせェ、鼻。」
男部屋からやかましい3人が出ていくと、船底のそこは途端に静けさに包まれる。
「……おい、サンジ。」
目を閉ざしたサンジの表情に変化はない。
少し苦しげな顔で、薄く唇を開いて眠り続けている。
自慢の顎髭が、チョッパーの貼った絆創膏で見えない。
「………。」
こんな時に
考える事がこういう事ってどうだろうな。
今なら触り放題
「………。」
指を伸ばして、額に触れてみる。
「………。」
額から眉をなぞる。
「………。」
眉から目尻 目尻から頬
「………。」
頬から唇
「………。」
唇から顎 顎から首筋
「………。」
ぴくん
サンジの頬が動いた。
首筋から鎖骨のラインへ
肩へ
腕へ
ぴくん ぴくん
「…っ…。」
甘い声
愛撫に答える切ない声
「…コック…。」
囁くように耳元で呼んだ。
悪かった。と詫びようとゾロが唇を開いた時
「…触る…な…。」
朦朧とした目で、サンジははっきりと拒絶を口にした。
「………。」
怒りが、静かに沸騰するのがわかる。
だが
「……っ!」
触りたい。
今はコックに触りたい。
「……やめ……。」
ひくん、と震えながら漏らす声。
聞きたい。
「…触るな…。」
「…うるせェ、触らせろ。」
「…やっ…。」
愛撫には程遠い。
指先で輪郭をなぞり、唇を辿り
金の髪を、細くつまむと
「……ふ…ぁあっ……!!」
激しく
背中まで大きく逸らしてコックは震えた。
「……え……?」
「…さわ…る…な…って…。」
「…お前ェ…まさか…。」
「………。」
さっきまで、まだ意識が混濁していたのが、今、覚醒したのがわかった。
「…ヤダ…っ…。」
「………。」
「…ゾロ…っ!」
指先だけで
もう一度、頬に
「んぁっ…!」
眉に
「…あ…っ…。」
瞼に
「…ん…ふっ…。」
唇に
「…ん…んぅ…ふ…っ…。」
首筋から
「…あ…!は…ぁ…!」
胸から腹
臍から、下へ真っ直ぐ
「…や…ぁ…っ…あ!」
震えるコックを抱え起こし、また指先だけで、背中の線を辿った。
「んあああっ!」
ビクンと、大きく震える全身。
おれの肩を掴む白い手が、ブルブル震えている。
「…ゾロ…ゾロ…頼む…放せ…触るな…。」
「…いや、触る。」
「ゾロォ…っ。」
さっきまで沸騰していた怒りは悦びになる。
まだ、抱きしめない。
この悦びはおれだけのもんだ。
「…ゾロ…いや…ぁ…。」
感じるんだ。
おれの指だけで
おれが触れただけで
ルフィやチョッパーが触れても、決して起こらない体の反応。
なんてヤツだ。
おれの手だけで、指先だけで、こいつはこんなに感じるんだ。
だから、他の連中の前でおれには近づかない。触れさせない。
敏感すぎる体が反応してしまうから。
その感覚は、おれだけがこいつに与えられるもの。
それはつまり
「…コック…好きだぜ…。」
「…ふっ…!」
腕の中で、恥じらうように震える体。
頬を両手で包んだだけで
「…は…!あ…っ!」
まるで、達した時の様な声を挙げた。
「…悪かったな…そうか…。」
「…言う…な…っ…。」
目尻に涙。
悔しいという顔で、唇を噛んで、コックは言う。
「…クソ…クソ…なんで…っ…。」
「悪かった…普段はもう触らねェよ。」
「……っ!」
「…感じちまうんだよな…?おれがちょっと触っただけで…。」
「…ちが…っ…。」
「…ああ、そうだな。そういう事にしとけ。」
唇を重ねながら、髪を探る。
「ん…はぁ…ああ…っ!」
「…すげェな…髪まで感じるンか?」
「……あ……。」
既に乱れた息を漏らす唇が、何かを紡いだ。
おそらくは、拒絶か否定の言葉だろうが
「好きだよ――――サンジ。」
ビクンと、肩が震えた。
青い瞳が涙に濡れた。
子どもの頃、陽の光にかざしてみたビー玉みてェな色。
「今は、たくさん触っていいよな?」
ゾロの言葉に、サンジは黙って緑色の頭を抱き、顔を埋めた。
END
之さまのネタを横からかすめ取りました(おい)
敏感過ぎるサンジww
(2011/9/9)
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