「あ」 「お」 互いの顔を見た瞬間口から出た短い語句。 同時に苦笑いが漏れる。 ある島。 時刻は午後8時。 繁華街からかなり遠く、他に似たような酒場などまったく見当たらない倉庫街の一角。 暗がりにぼんやりと浮かぶ灯りを見つけ、望外の発見に心が弾み、目指し、 ゾロとサンジはそれぞれ右と左からやってきて、店のドアの前で鉢合わせた。 ゾロが言う。 「ナミ達と一緒じゃなかったんか?」 サンジが答える。 「一緒だったんだけどよ、エステ付きのスパを予約したっていうんで」 ゾロは小馬鹿にしたように笑い 「てめェも行って、一緒に磨いてもらやよかったじゃねェか」 「なんでおれが?誰の為に?」 「誰の為?」 ゾロの言葉に、サンジは「しまった」という顔になった。 ニヤ、と唇の端を上げた剣士の顔の、小面憎いことこの上ない。  「ま。余計な事しなくても、てめェの肌は絶品だが」 間髪を容れず、サンジの踵がゾロの脳天にめり込んだ。  「帰る!!」 首まで赤く染まりながら、サンジはくるりと回れ右をしたが、腕をゾロに掴まれた。  「おっと!せっかくの偶然を、フイにするつもりはねェんだ。」  「放せよ!どーせ、サニーまでの道がわからなくて、迷子ってたんだろうが!!  独りで寂しく安酒すすってろ!!」  「いいから、付き合え」 図星を指されたが、ゾロは上機嫌でサンジの腕を引き寄せた。 朝、目が覚めたら船はすでにこの島に到着していて、サンジはとっくの昔にナミとロビンにくっついて、 嬉しそうに町へ出かけてしまったと、ブルックに告げられた。 手持無沙汰で、散歩でもするかと船を降りたのは、まだ陽も高い時刻だったが。 入口に掲げられた看板に『BAR』の文字。 酒を飲ませる店である事は間違いない。 だが、こんな通りから外れた寂しい場所に店を出す店主の気がしれない。 カラン ゾロがドアを開けると、心地よい鈴の音が響いた。  「いらっしゃいませ」 橙色のランプの灯りの向うから、穏やかな声が出迎える。 カウンターだけの小さな店。初老のマスターがひとり。 他に客はおらず、客に酒を勧めて煽る女もいそうにない。 パッと見て、こんな場所には期待しなかった品の良さがある。 だが、マスターの人懐こそうな笑顔が敷居を低くして、来るものを拒むところはなかった。 サンジは、マスターの後ろの棚を見て、思わず  「……へェ……」 と、呟いた。  「酒、揃ってるな…期待できるぞ…これは…」 囁くような声に、弾んだ響きがある。  「どうぞ、奥へ」 マスターが示した席に、二人は腰を下ろした。 すっ と、ガラスの器に盛られたチャームが差し出される。 生ハムとチーズ、小魚のマリネ。 サンジは、マリネに目を止め  「マスター、これ、なんて魚?」  「パーチという魚の稚魚です。この辺りでは、釣り糸を垂らすとバカスカ釣れるので、  ドゥラーク(バカ)とも呼ばれていますよ」 ゾロが、フォークを使わず手で一匹をつまみ、口へ放り込む。  「お、イケる」 ゾロの言葉に、マスターは嬉しそうに頭を下げ  「ありがとうございます。私が今朝、釣ってきたものなんです」  「へェ〜…どれどれ……うん、美味い…これ…マリネといっても酢じゃねェな…?  こいつはもしかして……すだちかかぼす…いや…違うか…なんだ?この酸味…  柑橘には違いねェ…よな?」 マスターはますます嬉しそうに  「シークァーサーの果汁です。お客様…もしかして、料理をなさる?」  「おれはコックだ」  「ああ、道理で!」  「そうか…シークァーサーとは思えねェ…優しい酸味だ…」  「輸入物ですが、このシークァーサーは味がまろやかで…」 サンジとマスターの料理談義が始まる。 カウンターに肘をつき、ゾロはわずかに微笑みながら、楽しげに会話するサンジの横顔を見ていた。 いつも思うが、こういう時のサンジは、まるで子供のような表情をする。 無防備で、好奇心に目を輝かせて、大きな口を開けてよくしゃべり、よく笑う。 こんな時、サンジはいつもゾロのことなど忘れきっているが、嫌ではない。 自分には滅多に見せない笑顔を見られる。 本人に言ったら次の機会を失いそうなので、決して言わない。  「あ。悪ィ、おれ達何も頼んでねェや。」 マスターが笑って、小さくうなずいた。 サンジはわずかに身を乗り出し、棚の酒を吟味する。  「……そのボトル、見た事ねェな」 ゾロが、棚の隅にある瓶を指差した。  「…ああ…だな。見た事ねェ」 サンジが言う。  「なんだろ…マッケンナみてェなボトルだけど…」 マスターは細身のボトルを手に取り、カウンターに置き  「バーボン、スモールバッヂ・サイラスノーブルという銘柄です。お飲みになりますか?」  「ぜひ!」  「もらう」 同時に答えた。 ショットグラスに注がれた、琥珀の液体。 サンジはグラスを掲げ、「乾杯」とゾロへ差し出そうとしたが ゾロは何の前置きもなく、グラスを持つや一気に喉へ流し込んだ。 サンジはマスターを見て苦笑いし、自分もグラスを口元へ運ぶ。  「美味ェ!」 息をつき、ゾロが言った。  「ホントだ。美味ェ…これ、ナミさんも好きそうだ」 サンジの言葉にマスターが  「ですね、プルーフは強いのですが、女性にも好まれる味です」  「果実のフレーバーがすごい…そのくせガツンとくる。  うん、ナミさんに買っていこう。酒屋にあるかな?」  「あると思いますが…よろしければお譲りしますよ?」  「マジで!?ありがてェ!!」  「お客様、船乗りでしょう?酒屋を探すのも手間でしょう。お節介でなければ」 ゾロが、早くも2杯目を空けながら  「…よく、おれ達が船乗りだってわかったな」 マスターが答える。  「こういう商売ですから、鼻には自信があります。お二方とも、潮の香りが」  「…ああ…なるほど」 微笑み、マスターは  「よろしければ。召し上がってみてください」 皿に載せられたある物を、二人の間に置いた。 ゾロの眉が歪む。  「…チョコレート?」  「お試しください」 どうぞ、という仕草に促され、サンジが小さなチョコレートを指でつまみ、口の中に放り込む。  「ん?」 わずかに目を見開いて、サンジはすぐにスモールバッヂをひと口、含んだ。 すると  「…おい、ゾロ…騙されたと思って食ってみろ」  「…チョコだろ?甘ェのは苦手だ」  「いいから」 もうひとつを指でつまみ、サンジがゾロの前に差し出す。 気は進まなかったが、サンジがこんなことをするのは珍しい。  「………」 ゾロの唇に、チョコを挟む。 渋々、舌の上へ送り、送った瞬間、ゾロも目を見開いた。 そして、サンジと同じように、スモールバッヂを口中に流し込み、驚きの声を上げた。  「…美味ェ…!なんだ?どんな仕掛けだ!?普通のチョコレートだろ!?」  「な!?美味ェよな!?びっくりした!チョコとリキュールの相性が  いいのは知ってるが、バーボンウィスキーだ」  「チョコレートを食った感じが全然しなかったぞ」 マスターが  「カカオの濃さが高いチョコレートです。サイラスノーブルの甘みと非常に相性が良い。  濃厚なバターを食べた様な感じでしょう?お酒に強い女性なら、  ドライオレンジやアップルなどを添えると喜ばれますよ」  「カカオの濃さは?」  「45度です」  「45チョコと、ドライオレンジか…よし、試してみよう。ありがとう、マスター!」 マスターは笑い、うなずいた。さらに  「よろしければコックさん、ノアーズミルというスモールバッヂをお試しになられますか?  葉巻の様なフレーバーを味わえますよ?」  「そんなのがあるのか?ぜひ!ぜひ!」 身を乗り出すようにサンジが言うと、ゾロも  「おれも」 と明るい声で言った。  「はい、かしこまりました」 マスターも、久しぶりに酒の味がわかる客が来たといった様子で、嬉しそうに棚から酒を取り出した。  「……こういう店、いいな」  「ああ、いいな」 あれから、二人が3種類目のバーボンを味わい始めた頃合いになって、ぽつりぽつりと客が訪れ始めた。 どれも馴染みの客らしく、少ない言葉のやり取りの中で、スムーズに情景が流れて行く。 騒がしい音楽も、べっとりとした女の声もない。 居心地がよすぎて、時折眠気まで襲ってくる。 二人とも普段、酒を飲むのにチェイサーなどつけないが、すっ、と、マスターが二人の前に水のグラスを置いた。 それをひと口含み、サンジが言う。  「ビール」  「かしこまりました」 口の中が、バーボンの苦みで染まっている気がする。口直しをしたい。 チェイサーはその絶妙のタイミングで差し出された。 そのあまりのマッチングに、サンジはゾクリと震えさえした。 二つのグラスにビールが注がれる。 薄い琥珀の、きめ細かな泡。注ぎ終える頃には、もう泡は半分消えていた。 サンジが、声を潜めてゾロに言う。  「…常温で出してきた…このマスター、マジただもんじゃねェぞ…」  「そうなのか?」  「インペリアルスタウトだ…これは冷やさず常温で飲む。  切り口じゃねェビールでスタウトを出す店はそうそうない」  「ふーん…」 差し出されたビールを、ゾロはこともなげに煽る。 飲み干し、息をついて  「うん。美味い」  「…あ〜…いい店…明日も来てェ…」 サンジの言葉に、マスターがまた微笑んだ。 と 穏やかな空気を、ゆったりとしたバラードが柔らかく裂いた。 客の1人が、店の隅にあるスピネットピアノを弾き始めた。 1曲、2曲目に引き始めた曲のイントロで、サンジは小さく「あ」と声を上げた。  「聞いたことあるな」 ゾロが言う。  「うん」 サンジが答えた。 カウンターに肘をついていたサンジは、背筋を伸ばし  「『スィートメモリーズ』だ。ガキの頃、イーストブルーでめっちゃ流行ってた」 サンジが言うと、スピネットを弾いていた中年の男が  「あんた達、東の海から来たのかい?」  「…ああ、あんたもイーストか?」 サンジの問いに男は首を振り  「おれは新世界生まれだ。昔、付き合ってた女がイーストの生まれでね。よく歌ってた」  「…まさか…泣かせたんじゃねェだろうな?」  「ああ、泣かせちまった」  「可哀想に」 サンジの言葉に苦笑いしながら、男はまたイントロを弾き直し、「どうぞ」とサンジを促した。  「………」 サンジは、困ったように笑いながらそれでも立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。 ゾロが、カウンターに肘をつき、顎を載せる。 そして なつかしい痛みだわ ずっと前に忘れていた でもあなたを見たとき 時間だけ後戻りしたの 低い、染み透る様な声。 サンジの歌を、ゾロはよく聞く。 キッチンで、甲板で、サンジは手を動かしながらよく歌っている。 同じ歌を何度も繰り返すこともあるが、いろんな歌手のいろんな歌を、いつも楽しそうに歌う。 ルフィが「その歌いいな!教えてくれ!」と、サンジに歌をねだる事もよくあった。 明るい、元気が出る歌が多い。こんなバラード調の歌は初めて聞く。 囁くような歌い声は、愛撫を始めて間もない時の吐息にも似て、わずかに血が熱くなる。 「幸福?」と聞かないで 嘘つくのは上手じゃない 友だちならいるけど あんなには燃えあがれなくて 失った夢だけが 美しく見えるのは何故かしら 過ぎ去った優しさも今は 甘い記憶 Sweet memories Don't kiss me baby We can never be So don't add more pain Please don't hurt me again I spent so many nights Thinking of you Longing for your touch I have loved you so much But I have wondered Why only lost dreams Are so beautiful to me Sweet tenderness of days gone by Remembered as those sweet Sweet memories ..… 歌い終え サンジは「ぺこり」と、金の頭を下げた。 スピネットの男と、カウンター端の若い男女とマスターが、パチパチと拍手を送る。 女が  「素敵な声だったわ。ありがとう」  「どういたしまして。お粗末でした、レディ」 マスターが言う。  「御謙遜を…お上手でした」  「ありがとう」  「ステージ代です」 冗談めかしながら、マスターはサンジにミントジュレップを差し出した。  「ありがと」 飲み干したサンジに、肘をついたままゾロが言う。  「…甘ェ歌だ」  「タイトル思い出せ。『Sweet Memories』だ。甘いに決まってんだろ?」  「別れた歌だよな?」  「……あれ?」 サンジが、天井に目を泳がせた。マスターが笑いを零す。  「そっか…これ、失恋ソングなんだ」 髪をかき上げ、サンジは苦笑いを洩らした。 ゾロが  「歌いだしから『懐かしい痛み』だろが」  「…だな…ガキの頃は、普通に甘い恋の歌だと思ってた」 ミントジュレップのグラスからミントの葉を一枚摘み、唇に挟んで  「……おれさ、この歌の歌手に会った事あるんだ」  「ほう」 歯を見せてサンジは笑い  「ガキの頃。バラティエで」 マスターが、二人の前から体をずらした。 会話を邪魔しないための心配りだ。 本当に、バーテンダーの大会があったら、間違いなくおれはこのマスターを優勝にするなとサンジは思う。  「もっとも…この歌はいろんな歌手がカヴァーしたからな…オリジナルの歌手かどうか知らねェけど。  とにかく…綺麗なレディだった。黒髪で、背が高くて…指がとっても綺麗だった…」  「………」  「ちょっと有名な歌手だったみてェで…パティとカルネがエラク興奮してよ…  どっちの料理が彼女の気に入るかって、アホみてェに張りきっちまってな。  ところが…コースが進んで…もうすぐデザートにかかろうって時に…別卓の客が彼女に絡んだ…」  「…酔っ払いか?」  「ああ。…よく来ていた上客だったが…ロクに味もわからねェ成金野郎…  おれは好きじゃなかったが…金払いが良かったからな…ジジィのカモになってた」 小さく、ゾロは笑った。あのオーナーならやりそうだ。  「その頃…そのレディは、歌手としてはもう人気に陰りが出ていたらしい…  要はドサ回りの途中で、バラティエに寄ったんだ。  そしたら…その成金野郎…金を払うから、ここで歌えと言いやがった」  「………」 氷が解け、殆ど水になったミントジュレップのグラスを口元に運ぶ。 チラ、とマスターがサンジを見たが、何も言わなかった。  「初め…彼女もマネージャーも断った。だが、成金野郎は引き下がらなかった。  最後には怒鳴り始めてよ…とうとうジジィが厨房から出てきて…」 と、ゾロが  「てめェは、何してた?」  「………」 黙り込むサンジに笑い、ゾロは言う。  「大方、ガキのくせにその成金野郎にくってかかって、事をデカクしたんだろ?」 サンジは眉を寄せ、だが唇の端をわずかに上げながら  「正解」 お見通しかよ。と、吐き捨て、サンジは氷を噛み砕いた。  「殴られて、壁まで無様に吹っ飛んだ」  「おーおー」 ふっ、とサンジは目を落とし  「…ジジィが厨房から出てくる寸前…彼女…席を立って歌い始めた。それがさっきの曲だ」  「………」  「絶品だったよ…歌で感動したのは初めてだった…そうか…失恋ソングだよな…  今思うと…なぜ彼女があの時これを歌ったのか…わかるような気がする」 失った夢だけが 美しく見えるのは何故かしら サンジが頭を抱える。  「…いっぱしのナイト気取って、庇ったつもりで庇われちまった…  だああぁぁぁ…マジ…あの頃のおれ痛ェ…」  「安心しろ。今も十分痛ェ」  「んだとァ!!?」 荒い声を、サンジは思わず口を覆って抑えた。 マスターが、きょとんとした顔でこちらを見る。 こんないい店で、騒ぎを起こしたくはない。 ぐるりと、偉大なる航路と新世界を周ってまたこの島を訪れたなら、 絶対もう一度来たい店であることは間違いないのだ。  「一番美しく見える夢は、失った夢じゃねェ」 サンジが思ったフレーズを、ゾロが口にした。 肩と一緒が心臓が震える。  「掴み取った夢だろう?」 ゾロの言葉に、サンジは静かにうなずく。  「……だな」 スピネットは、優しい音を奏で続けている。 長い沈黙。 心地よい、緩やかな時間。 カウンターの下で、足がわずかに触れ合っている。 伝わる熱。 不意に、サンジは目を擦った。 目尻に、薄く涙が浮かんでいるように見えた。  「…何、泣いてんだ?」  「…泣いてねェよ、バーカ…タバコの煙が目に染みたんだ…」 嘘をつけ 口には出さず、ゾロはグラスの氷をカランと鳴らし  「おかわり。…これラストで、チェックしてくれ」  「かしこまりました。…コックさんは?」 マスターが、サンジを見て言った。  「あ…ぁあ…じゃ、同じもの」  「はい、すぐに」 ロックグラスに丸く削り出した氷を入れ、酒を注ぎ、ステアし、二つのグラスをマスターは同時に差し出した。 サンジが問う。  「…ただのロックじゃねェとは思ったが…カクテルだったのか…今、何を入れた?」 言いながら、ひと口、グラスの酒を含む。 マスターは手を拭きながら  「アマレットを。体が温まりますよ。外、降って来たようです」  「え?雨…?」 ゾロはグラスの酒を空け、席を立ち、入口のドアを開けた。  「…ホントだ。よくわかったな」 ドアの脇にある看板の灯りが、水に煙っている。 激しい降りではないが、しとしとと、そぼ降るように降り出した暖かい雨。  「鼻が良いもので」 マスターが言った。 カウンターを出、ドアを押えながら  「よろしければ傘をお持ちください」  「要らねェ」 ゾロの即答に、マスターはサンジを見て笑った。 サンジも肩をすくめる。  「どうぞ、サイラスノーブルです。…お気をつけて、航海の無事をお祈りします」  「ありがとう」 少し酔った サンジは片手にボトルを抱え、スーツの上着を脱ぎ、肩に担いだ。 火照った体に、雨がありがたい。 肩を並べ、夜の港を歩く。  「…Don't kiss me baby  We can never be  So don't add more pain〜〜〜♪」 サニー号まで ゆっくり ゆっくり サンジの歌が、雨音に混じる。  「おい、コック」 立ち止まり、ゾロが言った。  「てめェの上着、貸せ」  「はァ?どうすんだよ?」  「こうすんだ」 サンジの上着を、羽織るように背中へ回す。それを、傘の代わりに頭上に掲げた。  「傘の代わりにすんなよ」  「ほら、来い」  「……聞け、人の話」 腰を屈め、上着の下に頭を入れる。 ゾロが掲げた手と自分の手を入れ替えると、そのままゾロの手がサンジの腰に回り  「!!」 引き寄せられ 片手に酒を抱えていた。 サンジの体は何の抵抗もなく、ゾロの腕に抱えこまれた。 黒いスーツのジャケットの下。 雨が、生地を叩く音だけが耳に届く。 唇が離れた時、サンジは薄く目を閉じながら、ゾロの肩に額を載せた。 囁くような小さな声で  「……もっともっと…強く…なりてェ……」  「……ああ、なる」 戦う強さだけでなく、心も、ゾロへの想いも。 過去にはしない。 死ぬまで、往きつくその時まで、絶対に痛みになどしない。  「……帰ろ」 顔を上げ、サンジが言った。  「帰んのか?」 唇をへの字に曲げ、ゾロが子供のように拗ねた声で言った。 サンジは笑い  「……たまには迷子もいっか?」  「おう」 上着をかぶり直し、少し歩みを早めて、ひとつになった影が雨の帳の向うへ消えていった。 END    323232HITキリ番ゲッター、RUI様からのリクエスト作品でございます RUI様のリクに沿った作に仕上がっておりますかどうか…不安; ご賞味いただけましたら幸いですvv たまには素直なサンちゃんもいいですねvv 背景に使用したイラストは2007年に描いた自作を使用しました ストーリーの彼らは21歳設定ですが、描いている間にこの絵を思い出しました RUI様、遅くなりましたがどうぞお納めくださいませvv ありがとうございました                     (2014/4/1)
お気に召したならパチをお願いいたしますv

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