　使用上の注意（1）　

新世界である。空は荒天、海は大荒れ、指針的外れ、水平線には海軍船。魚人島を出て、海上に上がったその瞬間から、サウザンドサニー号は新世界に一歩を踏み出した。嵐をやり過ごし、指針を決め、海軍船を蹴散らして、気が付いたらばカレンダーの日付は11月11日、その日がゾロの誕生日だと気づいたのは、お祭り大好き船長だった。　「そんなワケで！サンジ！よろしく！！」　「何がよろしくだ！！てめェが喜んでるのは、宴の格好の理由ができた事だろ！」言いながら、すでにオーブンの中にはロースト中の海牛の肉。サンジが、仲間の誕生日を忘れるワケがない。それがゾロであっても、いや、ゾロだからこそ　「はっぴーバースデー！！ゾロ―――っ！！」船長の乾杯の音頭で、爆音のような歓声が上がる。つい先日、魚人島でも大騒ぎしてきたばかりなのに、まったく疲れを知らない連中だ。　「ごめんね～ゾロォ、なんせあの騒動だったでしょ？プレゼント、準備できなかったの～。」ナミが、甘えるような声で言った。表情一つ変えず、ゾロが答える。　「2年前も、もらった覚えはねェな。」　「あら！気持ちはあるのよ！？キモチは！」　「へいへい、気持ちはもらっとく。」　「確認しておくけど、ローグタウンでの借金は忘れてないわね？」　「は？ローグタウン？何のことだ？」　「ずいぶん都合のいい脳みそね！！」ウソップが　「まぁ、プレゼントは…後日ってことで…いいかなー？」ゾロが笑いながら　「ガキじゃねェんだ。いらねェ。おれは酒さえ呑めりゃ。」　「はっはァ！スーパーに大人な意見だな！」フランキーが言った。と、チョッパーが、ぴょんと飛び跳ね　「そうだ！おれ、ゾロにプレゼントあるんだ！」叫んで、リュックの中をごそごそ探る。　「ルスカイナ王国にいる間に、ついに完成させたんだ！」　「まァ、何を？」ロビンが尋ねた。チョッパーは満面の笑みで、それを取り出し　「てってててっててってててってて～～～～♪(ドラ●もん)『ダメに効く薬ＥＸ』～～～～～！」　「………はい？」瞬間、ダイニングラウンジは静まり返った。　「…『ダメに効く薬』…？」　「…あ、なんか、前～～～～に聞いたような記憶が…。」サンジが言う。　「…ああ…スリラーバークで、そんな事言ってたな…。」ナミ　「どういう事？あたし知らない。」　「ああ、ナミさんはあのクソ野獣に捕まってたからな…実は…(略)…こういう訳でさ。」と、ナミは目を輝かせ　「て、ことは何！？その薬を飲めば、どんなダメダメ人間もダメが治ってしまうってワケ！？」　「どうかな？おれ、ゾロ対象にしか考えてなかった。」するとゾロが　「おれのどこがダメだ？」　「いやー、ゾロはいろいろあれこれダメダメだろー？」ルフィが言った。途端に、壁にめり込む。サンジが呆れて言う。　「船内覇気使用禁止。確かにダメダメだ。てめェはいろいろ。」　「だからどこがダメなんだ！？」　「どこもかしこも！あれもこれもダメダメだろうが！？」　「上等だ！コラ！表出ろ！！」紅茶をすすっていたブルックが　「あ～～～～ｖｖｖこのカンジ、懐かしいですね～～～～ｖｖｖ　帰ってきたぁ～～～ってカンジがします～～～～♪ずずずずずｚ…。」ナミが叫ぶ。　「スト―――ップ！！ほら！そういうトコがダメなのよ！！　2年前と全然変わってないじゃない！！どこが大人よ！」　「……っ！！」椅子から浮かした腰を、ドスン！とまた戻す。　「ゾロ対象で作ったものでも、効くとなったら…売れると思わない！？」　「ハイハイハイ！始まりましたァ！！」ウソップが叫んだ。そして　「おい、チョッパー！臨床試験は済んでんのかァ！？」　「ううん？」　「ハイ！にこやかに答えましたァ！！不認可！！」　「えええええ！大丈夫だよォ――！！」　「根拠は？」ロビンが尋ねた。　「………。」答えがない。　「飲めるか！そんなもん！」ゾロも叫んだ。すると　「……………いっしょうけんめい……つくったのに……。」　「…なんで平仮名ばっかだ？…てかなんだ？そのウルウルした目は？絶対ェ！飲まねェぞ！」　「…ぞろが…ぞろが…だめじゃなくなったら…だんじぼ…よどごぶがど… 　おで…がんばった…がんばっだどに…。」ロビンが眉を寄せ　「まァ、ゾロが泣かせたわ。」　「ホラ！こういう所がダメなのよ！」　「まったくだ！ダメだな！」　「大人気ないよな！」　「2年経ってもダメダメだな、ゾロ！」　「ヨホホホホホホ！ダメダメです！」　「…てめェら…。」トドメの一言を、サンジが言った。　「…怖いんだな？未治験の薬だもんなァ…。」　「怖かねーよ！飲めばいいんだろ！？飲めば！！おお！飲んでやらァ！！」言うが早いか、ゾロはチョッパーの手から薬品の瓶をひったくり　「あ。ゾロ、液体1回の用量は１０CCで十分……。」　「ぷはあっ！どうだ！飲んだぞ！！」あら遅かった。　「わー…全部飲んじゃった…。」全員、深いため息をつく。ゾロの何かが切れる音がした。　「全部一気に飲んだらどうなる？」サンジが尋ねた。チョッパーがにこやかに答える。　「わかんない。」　「だよなァ…。」瞬間、座が白けたように静まり返ったが　「ま、どうでもいーや！もっかい、ハッピーバースデー！！ゾロォ！！ブルック唄えェええ！！」　「ハイぃぃぃぃ！船長ォ～～～！！はっぴば～すで～つ～ゆ～～～♪」ルフィとブルックが歌い始めたことで、全員「ま、いっか」という事になり、とりあえず宴は夜中まで続き…。宴がお開きになり、夜更け――。大量の洗い物をようやく片付け、サンジは煙草に火をつけた。灯りの薄いダイニングキッチン。海は優しい波音を立てている。　「………。」来るかな？シャボンディから魚人島バタバタと時が過ぎて、ようやく得た静かな夜だ。　「……――。」靴音。ドアノブを回す音。そして　「――終わったか？」サンジは笑い　「…早く構ってほしいなら、手伝え。」　「…あァ…だな…悪ィ。」　「そういうトコが、ダメダメなんだよ。…ま、てめェの誕生日だからな。」点けたばかりの煙草を灰皿で揉み消し、カウンターキッチンを出てゾロの前に立つ。　「…まさかてめェも、おれへのプレゼントねェのか？」　「…欲しかったら、３辺回って『ワン』て鳴いてみ？」　「………。」　「あ！いい！ホントにやるな！バカ！！」回ろうとしたゾロを慌てて抱きとめて、サンジは愉快そうに笑った。　「…薬…何ともねェか？」　「わかんねェ。…ちょっと体が熱い。」　「…ふーん…。」サンジを抱きしめ、ゾロが言う。　「…誕プレくれ。」　「…はいはい…ハッピーバースデー…。」　「ありがとよ。」 2年長かった…。結局朝方まで抱き合っていたが、『ダメに効く薬』が効いている様子もなく、少し眠って朝を迎えた。　「って、うわあああ！ヤッベ！！寝過ごしたァァ！！メシ！朝飯――！！　あああああ！ナミさん！ロビンちゃん！ごめんよォォォォ！！」腰を押えながら、大慌てでサンジはダイニングへ駆け上がる。午前8時。いつもならとっくに朝食の時間。　「くっそ…(2年ぶりなんだもんな…やっぱあの4回目でやめときゃよかった)…！おれとしたことがァ！」バタン！ドアを開けた。すると　「よう、起きたか？まだ寝ててよかったのによ。」ダイニングだよな？仲間は全員そろってる。だが、ものすごい違和感バリバリな光景に、サンジだけでなく、すでに席についている仲間たち全員固まっていた。すでに、テーブルの上には朝食が整えられていた。焼けた塩鮭の香ばしい匂い。 9個の飯茶碗から立ち上る湯気、綺麗に盛られた輝く白さ。小皿に盛られた厚焼き卵の黄色の、なんと美しい事…。　「……え～～～～と……コレ…ナミさんが……？」ナミが、ブンブンと首を振り、震える指で、カウンターキッチンから出てきた男を指差した。　「ほら、座れ。丁度良かった、揃ったところで飯にしようぜ。」明るい声で告げ、いつもの自分の席に座り　「いただきます。」パン、と手を合わせて、箸を取る。　「い、いただきます！」　「いただきまーす！」ルフィが、あのルフィが、明らかに戸惑っている。ウソップなど、何も見てない、何も聞いていないと言った様子で、慌てて飯をかき込んだ。サンジも、呆然と、卵焼きをひと口齧った。　「…どうだ？」尋ねられ　「…………クソ美味ェ………。」　「だろ？」その時の笑顔を、なんといって表現したらよいのだろう。ただ、ロビンが、あのロビンが、「悪魔の子ニコ・ロビン」が、思わず箸を取り落とすほどに驚異的であったことは語っておきたい。皆、バケモノを見る目でそこにいる男を――ロロノア・ゾロを見る。信じられるか諸君？あの魔獣ロロノア・ゾロの白いエプロン姿などただ、逃げ出すにはあまりに、ゾロの作ったらしいその朝ご飯が美味しすぎて。沈黙の食事が終わりを迎える頃、ぽつり、と、ウソップが核心をついた。　「………………効いた……………。」そう臨床試験1日目が、幕を開けたのである。『ダメに効く薬ＥＸ』の効能ダメダメに効きます。用法用量を守って、正しくお使いください。ピンポーン♪ 服用段階から用法も用量も正しくなかった。いや、そもそも、どんな薬をどうしたらダメに効くのか、それはきっとチョッパーにしかわからない。いやきっと、チョッパーすらもわかっていない。言えるのは、飲んだ薬が、しっかりバッチリ、ゾロに効いていることだ。まさかゾロが、ここまで料理が上手いと思わなかった。本人に尋ねたら、「ナミの読んでいた雑誌に、書いてあった通りにしただけだ。」と答えた。なるほど元々が、「決まり」的な事には結構忠実なタイプ。レシピ通りにきっちりと手順を踏んで作れば、この結果はうなずける。　「ところで島が見えるんだけど。」ロビンが、船首甲板からはるか水平線に浮かぶ影を見て言った。　「え～～～っと、魚人島でもらった海図によると…。」とにもかくにも、島があるなら立ち寄る。ログの為にも。サウザンドサニー号は、その日の午後に島へ接岸した。　「ちょっと出てくる。」接岸するや、ゾロは刀を差し、ふらりとサニー号を降りた。　「ちょ、ちょっと待て！どこへ行くんだゾロ！ひとりで行くな！ウソップ！！着いてけ！」サンジが、マストを畳みながら慌てて叫んだ。　「はぁ！？何でおれが！？自分で行けよ！」　「町に行くなら、食料チェックしてから行きてェんだよ！ひとりで行かせるな！　今の状態じゃ、何しでかすかわからねェ！」　「そ、そか！そうだな！わかった！おお～～～～い！ゾロ～～～～！」係留用のロープをブルックに投げ、ウソップは慌ててゾロを追いかけた。重いロープにアワアワ翻弄されながら、ブルックがヨロヨロと　「お気をつけてェ～～。あああああ重たいぃぃぃ～～～。」見送り、ナミがサンジに言う。　「うふふふふ…楽しみねェ、サンジくん？」　「……何が……？」　「もー♪しらばっくれて！イロイロよｖ」　「…ナミ、お下品…。」ロビンが言った。　「あら、だってゾロのダメダメが治れば、とんでもなく素敵な旦那になるわよ～？　元々、顔はそこそこいいんだから。」　「………。」そしてゾロとウソップは、その日の夜遅くにサニー号に戻ってきた。夕食の時刻にだいぶ遅れたので、サンジは少々機嫌が悪かったのだが、ゾロがドスン！とテーブルに置いた『モノ』を見た全員、目を丸くして固まった。それに真っ先に反応したのは、やはりナミ。　「なに…！このお金…！！」テーブルの上に置かれたのは、大量のベリー札。目をベリーにしたナミが、音速の速さで札束を計測。　「…９６…９７…９８…９９…１００…！…１００ベリーの束が… 　ひーふーみーよ―…５…束…？…ごっ…５００万ベリー！！」しれっと、ゾロが言う。　「それで借金完済だな？」　「へっ！？借金！？」　「ローグタウンの借金だ。あと、いろいろあっただろうが、細かい金額は忘れた。足りねェか？」ナミは、瞬間「足りない！」とにこやかに笑って言おうと思ったが、気を取り直し、そこまで阿漕では女を落とすと瞬間悟り　「ううん！十分よ！！すごいわ！これ、どーしたの！？」　「稼いだ。」　「稼いだって…上陸してから半日も経ってねェぞ？」サンジが言った。するとウソップが　「賞金首を捕まえて、突き出したんだよ…。」　「賞金首って…おれ達も賞金首だろ？」フランキーが言った。　「だから、捕まえたヨソの賞金首を、そこらのチンピラに代わりに警察に連れてかせたんだ。ちょっと小遣い渡してよ。」　「小遣い！？いくら渡したの！？」　「懸賞金の中から１０万ベリー。」ゾロが答えた。　「その賞金首の懸賞金っていくらだったんです？」ブルックが尋ねた。　「６００万ベリー。」　「差し引き９０万ベリーはどうしたの？」ナミが言うと　「おれがもらってもいいだろ？買い物もしてェんだ。」ゾロが答えた。チョッパーが　「買い物？」と、問うとゾロは　「来月クリスマスだからな。年が明けりゃあすぐ、誕生日が続くしよ。」全員が、驚いてゾロを見た。　「…クリスマス…？」　「…誕生日…？」　「…まさか…プレゼント資金…？」　「…ロビンとか…サンジくんとか…？」ゾロは言う。　「後、フランキーな。お前まで何とか残るんじゃねェか？ナミ？ま、残らなかったら、また稼ぐだけだ。」　「稼ぐ！？」ゾロの口から、「クリスマス」「誕生日」「プレゼント」「稼ぐ」などという言葉が出ること自体、異常事態。ルフィが手を上げ叫ぶ。　「ゾロ！おれ、肉がいい！A5ランク最上霜降り肉！！」　「おお、任せろ。」途端に、チョッパーが眼鏡をかけ、ファイルを取り出し、ボールペンを走らせる。　「ダメに効く薬ＥＸ臨床試験１日目、感謝と思いやりと太っ腹が芽生える…と。」　「順調ね、チョッパー。」ロビンが微笑んで言った。　「腹減った。メシ残ってるか？」刀を腰から抜きながら、ゾロがサンジに尋ねた。　「あ、ああ…ちょっと待て。ウソップ、飲み物何がいい？」　「あー、お茶で！」　「了解。今日は、冷蔵庫掃除したからカレーだぜ。」　「おお、そりゃ嬉しいな。」瞬間、全員が再び硬直。　「…今の…ゾロの発言か…？」フランキーが言った。　「ゾロだったわね。」ロビンが言った。さらに　「お前のカレーがイチバン美味ェ。」　「………。」　「ああああああああ！サンジ！勿体ねェェェェ！！」ルフィが叫ぶまで、カレー皿からカレールーが溢れていることに、全く気付かなかったサンジだった…。ちなみに、溢れたカレールーは、オタマの下でルフィが直接口で受け止め、無駄にせずに済んだ。　「チョッパー…あの薬、いつ効果が切れるんだ…？」その後、皿を洗いながら、サンジがチョッパーに尋ねた。チョッパーは読んでいた本から目を離し　「うーん…350ミリリットル全部飲んじゃったからなァ…。　当初20ミリリットル程度で、1日程度の計算だったんだけど。」　「…単純計算で12日か…結構長ェな…。」　「サンジは、ダメダメじゃないゾロはダメなのか？」　「いや、ダメダメなゾロがいいって訳じゃねェよ。　そりゃあおれだって、ダメじゃねェゾロの方がいいに決まってる。」　「だよな？」　「……うん。」確かにダメじゃないゾロの方がいい。だけどゾロのどこがダメなんだろう？ちょっと考えてみる。緑なトコ迷子なトコ根腐れなトコ剣術バカなトコルフィヲタクなトコ頑固なトコ融通が利かないトコ冷たいトコそれでも甘いトコもしかして迷子と根腐れ以外ダメなトコなんて、ねェんじゃねェか…？臨床試験2日目魚人島を出てから先、新世界のログは半日で貯まる。なるほど、ナミのログポースの３つの針のうち、どうしてもひとつが不安定な動きをしている。針が不安定なほど、危険な島であるという。ルフィは、あえてのその危険な島への航海をする気満々だ。ルフィと、ルフィの決断に嫌と言ったことがないゾロとサンジと、ルフィの決断は絶対のフランキーとロビン・ブルック。危ない場所は行きたくない、ナミ・ウソップ・チョッパー。弱小トリオは解散だとウソップは言ったが、なんのまだまだ現役だった。なので、まだ出航を決めかねている。食糧は、魚人島でたんまりいただいた。さして大きな買い出しもない、さわやかに午前10時のお茶をと、サンジはナミにオレンジスムージー、ロビンにアーモンドモカファッジを作り、図書室に向かった。　「あれ？…ゾロ…？」　「よう。」図書室。テーブルを挟んで、ゾロとロビンが何か楽しそうに話していた。ゾロの、普段見たこともない笑顔に、サンジの心臓が「チリ」と痛む。　「…な、何してんだ？」サンジが問うと、ゾロは大きく息をつき　「ポーネグリフの読み方を教わってた。」　「はァ！？お前が！？」　「ゾロ、結構筋がいいのよ。」ロビンが笑って言う。　「2時間かかって、やっと自分ェの名前だけだ。」ゾロが言った。サンジが驚き　「２時間！？２時間ここで…ロビンちゃんにポーネグリフの文字を教わってたのか！？」新聞さえも、スポーツ欄と4コマ漫画だけ読んで、１０分で投げる奴が。　「あら、サンジの名前も書けるようになったじゃない？自分の名前より早かったわ。さすがね。」　「あはは…はははははは…お、おれの…？」　「ああ、こう書くんだとよ。」広げられたノートに、ゾロはポーネグリフ文字で、サンジの名前を書いた。　「…濁る発音は同じ文字を使うんだそうだ…この『ジ』は、おれの『ゾ』と同じこの文字を使うらしい。」　「へ、へぇ～～。」　「この次に来る文字の組み合わせで、子音を解くの。」　「は…！難しいな、まったく。」　「うふふ…そう簡単に解読されたら、考古学者は失業よ？」　「そうだ。一度聞こうと思ってたんだが…。」　「まァ、なぁに？」　「おれの故郷のシモツキ村は東の海(イーストブルー)にあるんだが、　その村の辺りは、新世界にある鎖国国家ワノ国に、風習や風俗がとても似ているらしい。　実際行って見た訳じゃねェが、興味がある。　源流が同じだとしたら、どういう過程で新世界から遠く離れたおれの故郷が、　ワノ国に似ているんだと思う？」　「まぁ…それは確かに興味深いわね……そうね…例えば… 　鎖国国家であるからこそ、国を出たワノ国の住人が、故郷に戻ることができず、　東の海に定着して独自の文化を築いた…とか…。」　「ふむ…なるほどな…。」ふたりの会話の間に入れない。けれど、出ていくタイミングも失って、サンジはトレーを持ったまま、呆然とその場に立ち尽くしていた。ゾロが、こんなことに興味を持っていたなんて…。まだ、議論が続いている図書室に、ナミが入って来た。　「あら！いたのねサンジくん！」　「あ、ああ、ナミさん！」　「さっきのオレンジスムージー美味しかったわ！また作ってｖ」　「喜んで！」　「そうだ、サンジくん、買い物付き合ってくれない？」ナミが言うと、ロビンが　「あら、もうそんな時間？」　「そんな時間よ？行こ、ロビン。サンジくん、いい？」　「もちろん！お供いたしますよ！」　「待ってて、着替えてくるわ。…じゃ、ゾロ、あとでね。」　「ああ、ありがとう。勉強になった。」ありがとう？今、ありがとうって言ったか！？勉強になったって言ったか！？と、ゾロも立ち上がり　「ナミ、おれも行っていいか？」　「は？どこへ？」　「服の店に行くんだろ？」　「そうだけど…え？一緒にショップとか行くの？」　「ああ、サニー号に置いといた服が、肩とかキツクなっちまってよ。」　「い、いいけど？あ！荷物持ちしてくれる？」　「ああ、いいぜ。待っててくれ、おれも着替えてくる。」ナミとサンジが仰天する。　「(こそ)あっさり『いいぜ』って言ったわよね！？」　「(ひそ)言ったね…確かに…。」５分後　「お待たせ。」甲板で待っていた、サンジとナミの前にロビンとゾロが揃ってやってきた。ゾロの姿を見て、サンジが仰天する。　「…おまっ…！そのかっこ！！」　「あ？どこかおかしいか？」　「い、いや…おかしか…ねェ…が…。」しどろもどろに、サンジは答える。カッコいい。レザーのジャケットにレザーのブーツ。ちゃんとネクタイまで結んでいる。ゾロらしいテイストで、ワイルドな中に上品ささえある。見事なセレクトだ。ナミも目を丸くして　「…ヤダ…かっこいい…。ロビンが選んだの？」　「いいえ、自分でコーディネイトしたようよ？…うふふ…素敵ね。」　「はっ！まさか！これも『ダメに効く薬ＥＸ』の効能！？」　「そうかも。」４人が訪れたのは、その島一番のファッションストリートだ。魚人島を出て初めの島であるから、その一角にちゃんと　「あった！パッパグの店！『クリミナル』！」　「…ヒトデさんに、たくさん頂いてきたのじゃなかった？」　「それはそれ！これはこれ！」　「ヒトデのくせに才能あるよな、あいつ。」店の中に入りながら、サンジが呟いた。隣にいたゾロが、まっすぐメンズのコーナーに歩いていく。　「おい、コック。」　「あ？」呼ばれ、振り返ると、ゾロはラックにかかったシャツをサンジに見せて　「これ、いい色だな。お前に似合いそうだ。」　「………。」瞬間サンジの背筋をサブイボが音速で駆け抜けて行った。　「あら、ホント！素敵ね～～～ｖ　あ、コレ、魚人島の本店にもなかったわよ？　この柄新作ね！あいつ、出し惜しみしたんだわ！」　「買ってくか？」　「……あ…ああ…うん…あ！いや！…いい！いらねェ！」　「遠慮すんな。金はある。…お、こっちのジレもいいな。」　「〝ジレ〟なんて最近のファッション用語、知ってんのか！？お前！？」　「あ？」と、ナミが、２枚のニットワンピを持ってきて　「ねぇねぇ、ゾロぉ？こっちとこっち、どっちがいいと思う？」　「…今日のニーハイブーツなら、そっちの細身だな。」　「あ、やっぱり～～～？」ニーハイ？ニーハオなら知ってるけど。なんで、こんなにセンスがいいんだよ？なんでこんなに、いろいろ知ってんだよ？ゾロじゃねェ。こんなの普段のこいつじゃ…。　「ああ、そうだ。帰りに工具屋寄ってくぞ。」　「工具屋？何？フランキーか？」　「いや、ウソップだ。１２角のソケットレンチ頼まれた。そういや、フランキーのヤツ気づいてるかどうか… 　水の汲み上げ機のファンベルト、ヒビ入ってたぞ…ついでに買ってくか…。」すげェ気の付き様…。ナミが、購入を決めたニットワンピを抱きしめながら、サンジにススッと近寄り　「気の付く旦那様になったわね～～？勉強熱心だし、センスもよくなったし、　いう事ないわね？サンジくん？」　「…ははは…。」　「いよいよ『ダメに効く薬ＥＸ』、量産体制に入らなくっちゃ！世の奥様方に売れるわよ～～～～！」チョッパーが、その日の夜、ダイニングテーブルで『観察日記』にペンを入れているのをサンジは見た。　「臨床試験２日目、向上心が芽生える、センスが良くなる、気遣いができるようになる…と。　ふむふむ…さすがだなー！おれって天才かも知れねェ！」ムカ喜ぶチョッパーのはしゃいだ声に、ちょっとムカついた。なんで？　　 NEXT 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（2012/12/3）使用上の注意‐TOP NOVELS-TOP TOP