ったく、いつまで動き回りゃ気が済むんだ? ナミとロビンに、新しいカクテルを差し出すコックの後姿を見つめながら、ゾロは口中でつぶやいた。 今日は11月11日。 ゾロの誕生日だ。 豪勢に祝ってくれと言った覚えなど皆目無いが、それを理由にバカ騒ぎをしたがる奴が若干名いる。 それに、水を注すつもりも無い。 それに。  『よぉ、クソ剣士。誕生日の特別メニュー楽しみにしてろよ?』 こんな時でもなければ、思いっきり料理をしまくれないコックが、笑顔で言うのだ。 黄色い頭の中で、あれこれと、料理の献立を組み立てているのだろう。 それが、アイツの喜びなら、好きにさせてやる。 だが。 時計の針を見る。 すでに11月12日。 いい加減に座れ。 口に出して、言いたくなった。 言おうと思った。 が、  「サンジ君、さっきの紫のカクテル、美味しかったわぁ〜。もう、一杯くれる?」  「イエッサ――!!」 ナミ…。 ちら、とこちらを見て      笑いやがった。 ダンスのステップでも踏むように、サンジはナミとロビンにカクテルを差し出し  「さ。ど―ぞ、お姫様方。」  「ありがと。」  「ありがとう、コックさん。…もう、座ったら?」 代弁者。  「剣士さん、失礼して先に休むわね。」 ロビンが立ち上がる。  「あ、アタシも。」 ナミも。 そして  「じゃあ、お先に。サンジ君、美味しかったわ!ゾロ!ハッピーバースデイ!」  「おやすみなさい、ナミさん、ロビンちゃん。」  「ああ、おやすみ。」 女2人が、小さく笑った。 オレ、そんなにほっとした顔したのか?  「おら!ガキ共!!お開きだ!!さっさと行った行った!!ネンネの時間だぜ!!」 コックが、まだまだ盛り上がっている3人に言う。  「え〜〜〜〜?まだ食い足りねぇ!!」  「わ!日付変わってる!オレは寝るぞ!明日はオレが不寝番なんだ!!」  「ふわぁ〜〜〜、サンジ、片付け手伝うぞ。」  「ああ、今日はいいよ。早く寝ろよチョッパー、瞼が半分落ちてるぞ?」  「うん、おやすみぃ〜〜〜〜。」 がやがやと、5人分の足音が消えていった。 訪れる静寂。 それでも、コックは座らない。 テーブルの上の皿を重ね、残った料理をつまみながらシンクへ運ぶ。  「おい、コック。」  「ん?」  「後にして座れ。」  「ん〜、こびりつくと面倒だからよ。」  「いいから、座れ。」  「すぐに済む。」  「…座れ!」 襟首掴んで、いすに腰掛けさせる。 手に、油を拭き取る反故紙を握ったままだ。 半分髪に隠れた顔、そこにある青い瞳にあからさまな不快。  「…座ってろ。朝からずっと立ちっぱなしだろ?」  「バラティエにいる頃は、これが当たり前だったぜ。」  「…後はオレがやるから、少し落ち着け、鬱陶しくてかなわねぇ。」  「あぁ?鬱陶しいだぁ?」 言って、ゾロは立ち上がり、本当にシンクの汚れ物を洗い始める。  「おいおいおいおい!本日の主役が、何やってくれてんだ!?」  「もう日が替わった。今日は誕生日じゃねぇ普通の日だ。」  「おい、止めろ、座れよ。」 立場逆転。  「座れって!!」  「……。」  「……。」 ぷ。 低く、声を殺して笑う。 ラウンジの、いつもの木箱の長椅子に、互い違いに並んで座っている。 と、サンジの頭が、ゾロの肩にもたれた。  「…美味かったか?」  「ああ。」  「なんにも言わねぇんだもんよ。」  「食う料理ごとにいちいち美味ェって言ってたら、食う暇がなくなるだろうが。」  「うぉっ!!キター!!それ、いただき。」  「アホ。」 テーブルの上のボトルを取り、栓を抜いてあおる。 当たり前のように、サンジが手を伸ばし、ゾロが手渡す。  「…しかし、テメェはよく、人の好みがわかるな。」  「たりめぇだ。オレはプロだぜ。テメェの好みなんざ、百も承知だ。」  「ま、オレだけじゃねぇんだろうケドよ。」  「おんや?ジェラシってるね?そーさ、特に熟知しているのはナミさんとロビンちゃん!」  「だろうな。」  「でもな、みんなに共通してることが、ひとつある。」  「?」  「…みんな、愛されて料理を作ってもらってたってコト。」  「……。」  「ジジィが言ってた。人間の味覚ってヤツは、5歳くらいまでに決まるんだと。  その頃に、家族がどんな暖かい手料理を作って、ちゃんと食べさせてもらってたかで、一生の味覚が決まる。」  「……へぇ。」  「チョッパーでさえ、いい舌持ってんだ。  きっと、死んだドクターとか、ドクターくれはは、アイツに美味いもの食わせてくれてたんだろうな。  ナミさんはお母様。ウソップだって、お袋さんがいただろ?  ロビンちゃんは…どうか知らねぇが…きっと…。  ルフィは…まぁ、あいつは、何だって、美味い美味いって食ってくれるよな。…テメェも。」  「……。」  「…お前、愛されて生まれて、愛されて育ったんだな。」  「…そうかもな…。いったい、どれをもって基準とするかはわからねぇが…。」  「ひねくれんなよ。そうだって。」  「…それを言うなら、きっとテメェもそうだろ?」  「ああ、そうかもな。アレも、そうかもしれねぇなぁ。」 ふと、会話が途切れた。  「…お前が生まれてくれてよかったよ…。」  「その台詞、テメェの時にそのまま返すぜ。」  「…お前を好きになってよかったよ…。」  「それも、そっくり返してやる。」 肩にもたれていた顔が不意に上がり、  「ん。」  「ん?」  「労ってくれるつもりなら、キスのひとつもくれてやろうとか思わねぇのかよ?」  「プレゼントもらうのはオレだろ?」  「日付はとっくに替わってんだ。そう言ったのはテメェだぜ?」  「へいへい。」 唇に 軽く。  「ずいぶん安いキスだな、おい。」  「労いとしちゃ、上等だろ?」 と、サンジの両手がゾロの両頬を包んだ。  「じゃ、これはオレから。」  「日付替わったんだろ?」  「だから、またよろしくのキス。」  「もらっとく。」 ゾロの手が、サンジの背中に回る。 サンジの手が、頬から首に回る。 長く、深く、熱いキス。  「なぁ、来年は、もう少し料理の数減らせ。」  「あ?なんで?」  「聞くなよ。」  「…わかった。」 肩を抱く。 愛しい体を確かめるように  「来年の御予約、承りましたムッシュ。」 END 「あま―――――い!!」 と、叫んでください。 きっと、ぱたに届きます。 (ゾロ誕トップからお越しの方はプラウザを閉じてお戻りください)