今は昔の物語。

まだ、夜は闇しか知らず、魑魅魍魎だけのものだった時代。

大江山の深山に、異形がひとり住んでいた。

人でない肌の色。

人でない髪の色。

人にはない、額から生えた2本の角。

それゆえ、人はそれを異形と呼び、また『鬼』と呼んだ。



鬼は、時折夜の都へ舞い降りた。



時に、人の心を脅かし、人の財を奪わなければ、鬼は生きていけなかった。

鬼でありながら、その心は人に近く、人の様に考える事もした。

異形ゆえに、人の様に、苦しみ悩む事もした。

人と交わり、暮らす事の出来ない鬼は、いつも孤独に、

深山の暗い洞でその肩を自ら抱くことしか出来なかった。



その日も、鬼は闇に包まれた都へ舞い降りた。



満月。

夜でありながら明るいその夜に、あえて異形の姿を晒して

都へやってきたのは、気まぐれであったかもしれない。

月は好きだ。

こんな自分にも、分け隔てなくその柔らかな光を投げかけ、この身を包んでくれる。

犬一匹すら通らぬ都大路を、鬼は一人進んで行く。

通りをひとつ越えれば、主上の住まう御所。

この辺りは、裕福な貴族の屋敷が立ち並んでいる。

今夜の獲物をどこに定めるか、小石を踏みしめる音だけが、キンと冷えた空気を裂いていた。



と



鬼は、歩みを止めた。



牛車の音がする。



 (…こんな時刻に…。)



妖が跋扈する丑三つ時。

どこぞに通うにも、普通ならば出歩くような時刻ではない。



歩くは、鬼ばかり。



口中でつぶやきながら、鬼は自らを嘲った。



やがて、都大路の真中で、立ちつくす鬼の目に、従者が掲げているであろう灯火が映った。

灯火はふたつ。

ゆらゆらと揺らめきながら、こちらへ近づいてくる。

近づいてくる牛車の車輪の音。牛の蹄の音。

鬼は、腰の刀に手をかけた。



かなり造りのよい車。

従者の身なりもよさそうだ。

しかも



女車



今宵の獲物を、鬼は見定めた。











牛車の従卒たちが鬼に気づいたのは、牛の鼻面を取っていた童と、

灯火を掲げていた仕丁のふたりが斬られてからの事だった。

牛車の中から女が叫ぶ。



 「何事じゃ!?」



悲鳴と同時に、鬼は牛車の御簾を払った。

中には女が二人。

少し年をいった女が、その袖の中にもう一人の女を隠そうと後ずさった。

高貴な身分の方はそちらだ。

奥の女は、桧扇で顔を隠し身を屈めたが、鬼は、

手前の年増女を引きずり出して外へ放り出した。

白刃をつきつけた瞬間、鬼は、我が目を疑った。



 「…!!?」



女は、顔を晒してこちらを見ていた。

その姿。



 「…お前…。」



こんな人間を見た事がない。



白い雪のような肌。

朱色の唇。

自分をまっすぐに見つめる瞳の色は、まるで瑠璃のような青。

そして、背中に流れる髪は



 「………。」



月が零れて、川の様に流れているのかと思った。



なんと美しい



黄金色





 「…三の宮様…!!」



放り出した女が叫んだ。

そして、鬼の袂にすがりつき、あるだけの力で鬼を抑えた。



 「お逃げ下さりませ…宮様…!!」



宮?



 「…皇女…?」



今上に、3人の同腹・異腹の妹がいる事は知っている。

その、末の姫―女三の宮―。



 「…ちっ!」



手を出すには相手が悪過ぎる。



この女を攫ったら、検非違使全てを使って山狩りをされる。



だが



 「……ゾロだ。」



鬼は、三の宮に名を告げた。



 「………。」

 「覚えておけ。」



それだけを言い残し、鬼は、月の光の届かぬ闇へと消えていった。















 「宮…!宮!無事か!?」



夜半にも拘らず、今上は妹の住む承香殿へ駆け込んだ。

女房達が慌てて、御簾を掲げ、頭を垂れて夜着のままの天皇を迎える。

女三の宮は、慌てふためいて蒼ざめた兄を微笑んで迎え



 「はい。大事ございません。」



短く答えた妹の手を握り、天皇はほっと息をつく。

すると、宮はその手を振り払い



 「…なりませぬ、お主上(おかみ)…今宵は…穢れを受けてまいりました…。」

 「………。」



苦しげな顔で、天皇はうなずく。



 「本来ならば…御所に戻るのも憚らねばなりませんでしたのに…。」

 「何を言う…朕の為に、かような夜に方違えをさせてしまった…

 怖い思いをさせて、詫びるは朕の方ぞ。」

 「お主上、疾く…お戻りを…。」

 「…わかった…。」



天皇は立ち上がり、側の者に



 「これからは、方違えで御所を出る時は侍を増やせ。」



と、言い、妹に微笑んで去っていった。

天皇を送り、宮はほっと息をついて、女房達に告げる。



 「お退がり…お前たちも、私の側に居てはいけない。」

 「……三の宮様……。」

 「大丈夫。」



微笑んで、全ての女たちを下がらせる。



広い居室にひとり。

異形の姫宮はふと表情を曇らせる。

と、宮は手にした扇を目の前に放り出した。



 「………。」



 『ゾロだ。』



 「………。」



 『覚えておけ。』



宮は、白い手で耳を覆った。

あの声が、耳の奥から消えない。



月の光に照らし出されたあの二本の角。

血の様に赤い目。

自分を、真っ直ぐに見据えたあの目。



あの目が、瞼の裏から消えない。





 「………。」





恐ろしい鬼。

人ならぬ異形の者。

なのに



悲しい目をしていた。



宮は知っている。



自分に仕えている女房達が、影で自分をなんと呼んでいるのか。





『異形の姫宮』





あの鬼と、自分は





同じだ…。





不意に、風が流れた。

灯火が消えた。

木戸は閉じられているはずなのに。



女房の一人の名を呼んだ。

答えがない。



 「………。」



小さく、何かが呻くような声がした。

宮が、身を固くした瞬間。



 「!!」



一陣の風が吹いた。

その風に攫われて、宮は思わず褥の上に手をつき身を伏せる。

すると、猛烈な力で肩を掴まれ、引き起こされ、次の瞬間床に磔られた。



 「…!?」

 「声を出すな。」



潜めたその強い声に、宮の心臓は、これが最後の鼓動かと思えるほど大きく鳴った。



 「…そなた…。」

 「………。」

 「どうやって…。」

 「…後をつけてきた…。」

 「女房達は…?」

 「…殺しちゃいねェ…眠らせただけだ…。」



庭や、廊下に、累々と転がる男女の体。

死んではいないが、鬼の一撃の強さにピクリともしない。



 「…まぁ、声を出しても誰も来ねェけどな。」

 「…私に…何の用です…?ゾロ…?」

 「…覚えていたか?」

 「…覚えておけと言ったのはお前です…。」

 「上出来だ。」



鬼は金の髪を引き寄せて、その髪に口付けた。

姫宮は、びくりと体を震わせて、小さく声を上げた。



 「…奪いに来た…。」

 「……!!」

 「奪うぞ。」



言い放ち、鬼は横たえた姫宮の体に覆いかぶさり、赤い唇に自分のそれを重ねた。



 「…!!…ん…!!?」

 「………。」

 「……駄目…!!」

 「大人しくしろ。静かにしてくれれば、酷くはしねェ。」

 「違う…!」

 「あァ?」

 「…私は…汚い…穢れがこの身に憑いている…お前に穢れがうつる…。」

 「穢れだ?」

 「………。」



ぽろり



と、青い瞳から、涙が一滴零れて落ちた。



 「…私は…お主上の穢れを受けて生まれてきたのだ…だから…。」

 「………。」

 「私に触れてはいけない。私がこんな醜い姿をしているのは、穢れのせいだ。」

 「違う。」

 「!!」



鬼の即答に、姫宮は青い目を見開いた。



 「…こんな綺麗なモンが、穢れなんかであるはずがない。」

 「………。」

 「お前が穢れで出来ているのなら、おれは何で出来ている?……さしずめ、欲望か?」



三の宮は、天皇と一緒に生まれてきた。

双子を忌み嫌う風習と、生れ落ちた時の宮の姿に、母親である女御は絶望したという。

しかし、その宮を、厭うことなく祖父が育ててくれた。

やがて、長じた兄が東宮となり、天皇になった頃、病に罹った。

その折、神託があった。

今上の穢れを、『異形』に移せと。

天皇は本復し、以来、異形の三の宮は、

兄の穢れを一身にその身に受ける役を担うことになった。

穢れを受け、方違えを繰り返し、穢れを受ければ受けるほど、

三の宮は異形ゆえの美しさを募らせていく。



 「おれは鬼だ。今更、穢れなんざ恐れねェ。」

 「…ゾロ…。」

 「お前は綺麗だ。」

 「………。」

 「欲しい。」

 「………。」

 「初めてだ。こんなに、耐え切れねェほど、何かを欲しいと思ったのは。」



同じ異形



きっと



誰より心が近い。





けれど





 「…駄目だ…。」



三の宮の声が変わった。

苦しげに吐き出す声が、悲しみに染まっている。



顔を伏せ、震える宮の体を抱きしめる。

身じろぐ力は、鬼の腕相手には無力に過ぎる。

鬼は、抱きしめながら褥の上に宮を横たえ、幾重にも結わえられた紐のひとつに手をかけた。



 「…駄目だ…!」

 「……言ったはずだ、奪う。」

 「…違う…!!駄目なんだ…!!」



重ねられた衣の、どの紐を引き抜けば全てのそれが緩むのか知り尽くしている。

引き抜き、乱れた襟に両手をかけて、鬼は一気にそれを左右へ裂いた。



 「……え…!?」

 「………!!」



白い肌。

滑らかな艶。



しかしそこにあるはずの、ふたつの膨らみがない。



 「……お前……。」

 「……だから……駄目だと言ったんだ……。」



女三の宮。

の、はずだ。



姫宮



女のはずだ。



これは



 「…お前…男か…?」



三の宮は、自嘲げに笑うと



 「…見て…わからないか…?…わからねェのは相当のバカだ…。」



いきなり、姫宮の言葉がぞんざいになる。

声も、ずっと作っていたのか、薄く開いた唇から漏れた言葉は染透る様に低い。



 「双子である事を隠し…異形であることを隠し…親王であることを隠し…そのお陰で今日まで生きてこられた。」

 「………。」

 「こんな自分でも…あの優しい人は『妹』として大切にしてくれたんだ。

 …あの人の為に穢れを受けろと言われた時も…やっとあの人の役に立てる…

 それを思えば躊躇いはなかった…。」

 「………。」

 「……ゾロ……このまま…行ってくれ……。」

 「………。」

 「…興が醒めただろう…?さぁ…行け…。」



身を起こし、宮は乱れた襟を合わせた。

丸めた背中に流れた髪が、夜目にも光って震えている。



その背中を



 「……!!」



あらん限りの力で抱きしめられ、宮は息を飲んだ。



 「…奪う。」

 「…ゾロ…?」

 「お前が欲しい。」

 「…駄目だ…。」

 「…欲する熱が消えねェ…。」

 「……!!」

 「宮、お前が欲しい。」

 「…駄目だ…いけない…。」

 「…おれが怖いか?」



鬼の問いに、宮は首を振った。



 「…怖いものか……怖いどころか…。」

 「………。」

 「……愛しい……。」



その言葉に、鬼は宮の体を抱きしめ激しく唇を吸った。



 「……今更…穢れることを恐れはしないな?」



鬼の言葉に、宮は小さくうなずいた。



 「奪うぞ、宮。」

 「………。」



鬱陶しく重ねられた単衣を全て剥ぎ取り、鬼もまた引き締まった筋肉に覆われた体を

晒し、白い雪のようなそれに重ねた。

御所の奥殿で、大切に、だが屑籠の様に育てられた宮の体は細く、

華奢で、だが念入りに磨かれた肌は艶やかで美しい。

男だと知ってしまえば、確かに男性の顔立ちをしている。

逆に、男であるのに、なんという美麗だ。



 「…あ…あ…ぁあ…っ…。」

 「……こうなったことはないか…?…ここ…初めてか…?」



体の芯を捉えて、熱く、固くなりかけたそれを掌で包んで鬼は尋ねる。

宮は、恥じらいを必死に隠し、羞恥を押し殺しながらうなずいた。



 「…そうか…じゃあ、教えてやる…。」

 「…あ…や…っ…。」

 「…何もしなくていい…じっとして…感じていろ…。」

 「…や…っ…。」

 「…ん…ちゃんと男だな…。」



耳元で、小さく笑う声に宮は一瞬青い目を見開き、表情を一変させた。



 「…触るな…!」



鬼の手を払い除けた。



 「……っ。」



紛れも無い男の力。

衣を引き寄せ、身を屈めて震える白い背中。

だが、自分を睨むその目は、鬼のそれより鋭い。



 「悪かった…。」

 「………。」



生まれた時から異形と蔑まれ、全ての穢れを一身に受けて、しかも男であることすら隠されて。

一番触れてはいけない部分に触れてしまった。

わかっているはずなのに。

それが、どれほど苦しいことか。

虞(おそれ)が、鬼の心臓を掴んで締め付ける。



詫びて、詫びたその自分の言葉と感情に鬼は驚いていた。

欲しいというだけの熱ではない。

愛しいと感じた。

心の底から、愛しかった。



 「…宮…。」

 「………。」

 「…愛してる…。」



鋼のような腕の、優しい抱擁。

その腕にすがり、宮は崩折れた。



 「…あ…あぁ…っ…。」



か細く、耐えるような声。

いかなる穢れをも、恐れずその身に受けてきた姫宮だった。

なのに、愛おしいと思いながら、愛撫のひとつひとつが怖くてならない。



鬼の掌に包まれた芯が変化していくのがわかる。

全ての血と熱がそこに集まって、恐れながら鬼の手の愛撫を請う自分に、宮は自らを恥じるように身を折る。



 「…大丈夫だ…体の熱に…全部任せろ…。」

 「…う…ん…んん…ぁ…。」

 「………。」

 「…あぁ…あ…!ああ…っ!」



切なく短い悲鳴だった。

手の中に迸ったものを全て受け止めて、鬼は白い体を抱きしめる。



 「………。」



熱が



どんどん高まっていく



宮は力尽きたように、鬼の腕の中で必死に荒い息を抑えようとしている。

その唇を再び塞ぎ、鬼は、濡れた手を宮の菊の蕾へと伸ばす。



 「…宮…。」



呼ぶ声に目が眩む。



 「…奪うぞ…。」



囁く声に、宮は目を固く閉ざす。



 「…あ…ああ…!…っ…あああっ…!」



カタカタと震える体を、力の限り抱きしめる。

小刻みな吐息。

揺れる黄金の髪。



乙女のそれよりも固い蕾。

この雅やかで清しい体。

穢れることを恐れないなと問いながら、鬼自身、穢す事ではなく傷つけてしまうことへの虞れが一瞬脳裏をよぎった。



瞬間、躊躇った。

だが



何も言わず、ただじっと自分を見つめる宮の目。



青い



空のような青









いや



これは







昔、ただ一度だけ見たあの





海の…









 「…ゾ…ロ…。」



震えながら、宮は白い手を差し伸べる。

苦痛に耐えて、それでも鬼を求めて。



見つけた



同じ魂の持ち主



唇を吸い、白い体をゆっくりと揺らしながら、呼吸を合わせる。



ゆうるりと



ゆうるりと



鬼は身を進めた。



熱い襞が、鬼の全てを包みこんで愛撫する。

眩むような悦び。



 「…宮…宮…!」

 「……っ……!」



抑えるには、あまりに高すぎる快感だった。

突けば突くほど愛しさが募り、募るほどにもっと深く身を繋げたくなる。

痛みに耐える青い瞳が濡れている。

それでも、自分を抱く胸にすがって、宮は口付けをせがんだ。

溢れる愛しさと、全身を駆け巡る熱。



 「…あ…あ…あ・あ…っ!」



















こんなに







満たされたのは初めてだ。



真実、愛しいと感じた者との交わりが、これほどの悦びとは知らなかった。



腕の中の体がまだ震えている。

抱きしめ、髪を探り、顔中を唇で触れた。

溢れる涙に頬を濡らして、それでも姫宮は微笑む。

頬を寄せ、鬼は自分の頬で涙を拭った。

晒した肩に、単衣の一枚を引き寄せてかけ、また固く抱きしめる。



 「…いいのか…?」



宮が、小さな震える声で言った。



 「なんだ?」

 「…これは…男女で行うものじゃないのか…?」



その問いをする姫宮の目は、まるで幼い童のようだ。

既に成人している宮であるのに、その知識を持っていない。

鬼は、不意に気まずさに襲われたが



 「…いいんだ。」

 「………。」

 「…愛しければいいんだ。」

 「…そう…か…?」

 「ああ。」



宮は、ようやく明るい表情で笑い、鬼の胸に頭を預けた。

鬼の胸に、袈裟掛けに走る大きな刀傷。



 「………。」



白い指で、そっと触れる。



 「人に斬られた。」

 「…痛むのか…?」

 「…いや…。」



笑って、鬼は宮の髪を撫で



 「もう、痛くねェ。」

 「………。」



宮の白い腕が、鬼の背を抱きしめた。



その時



バタバタと激しい足音が響いた。

いくつもの床を踏み鳴らす音と、武具と太刀の交わる音に、鬼は腕に宮を抱えたまま身構える。

バラバラと侍達がなだれ込み、弓に番えた矢を一斉に鬼に向かってつきつけた。

倒れていた女房の誰かが、気づいて助けを呼びに走ったらしい。



 「鬼め!宮様を放せ!」

 「……!!」

 「宮様!」

 「三の宮様…!」



大勢の侍の背後に、宮の兄・天皇が駆けつけてきた。

そして、妹の姿に愕然とし、顔を蒼ざめさせる。



 「宮…!」

 「………。」



宮は、鬼の背中に顔を埋める。

と、



 「宮。」



鬼の声に宮は顔を上げ、鬼の真っ赤なその目を見つめた。



 「来い。」

 「……!!」

 「来い!」



力強い声。

差し出される腕。



 「ならぬ、宮!!」



今日まで、慈しんでくれた兄。



それでも



それでも



 「………!!」



宮は、鬼の腕を取った。

瞬間、鬼の両腕は宮を抱えあげ、虎のごとく跳ねた。

深山で生きるために鍛え上げられた脚は、居並ぶ侍たちを飛び越え木戸を蹴破り、

白み始めた御所の庭へ躍り出る。

慌てふためいて振り返った天皇が叫ぶ。



 「宮!!」



 「……ごめん…なさい……。」



次の瞬間、再び鬼の体は跳ね、御所中を駆け巡るとやがて禁裏の外へと飛び出した。

宮を両腕に抱え、大江山の方角へ走りながら、鬼は腕の中の愛おしい者へ



 「…宮。」

 「………。」



しがみつきながら、少し泣きそうな顔で宮は鬼を見上げる。



 「もう、お前は女三の宮じゃねェ。」



宮は、大きくうなずいた。



 「名前を決めた。……三の宮だったから、“サンジ”だ。」

 「……変な名前……。」

 「なんだと、あァ!?」



泣きながら笑って、宮、いやサンジはゾロの首に腕を回した。











それから、都に大江山の鬼が現れることはなくなった。

鬼に、穢れを受ける姫宮を奪われた後の今上が、その後を恙無く

過ごしたのかどうか、この物語はそこまでは伝えていない。







今は昔、二人の異形の物語。





END





ゾロ誕企画『Ayakashi』の参加イラを描いた後に

ぶわっとゾロサンの神が降りてきて(笑)書いた話。

本当はもっと長くなるはずだったんだけど、

理性で押し止めました。ぜいぜい

全く誕生日な話ではないですが、そんな理由でゾロ誕用







(2008/11/11)





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