「それにしても久しぶりね。『冷蔵庫襲撃』。」
3時のお茶の時刻。
ブルーベリーマフィンをほおばりながら、ナミが言った。
ルフィとウソップとチョッパーとブルックは、中央甲板の階段の手すりに、それぞれ縛られて吊るされている。
罰として、おやつ抜き。
ずっと、ルフィの懇願する声が止まない。
「ごめんなさ〜〜いぃ〜〜〜!サンジィ〜〜〜〜おやつ下さ〜い〜〜!てか、寄越せコノヤロー!おれは船長だぞォォォ!!」
「食糧配給の段取りの、重要さもわからねェ船長なんざ、認められるかぁ!!」
その声を聞きながら、ロビンは笑った。
「ウフフ…手強いわね。」
ふと、気づくと、少し遅れてゾロが展望室から降りてきた。
お茶の時刻に遅れた文句が、サンジの口から機関銃の様に飛び出す。
だがゾロは柳に風という風に受け流し、テーブルの上の自分の分を取り上げると、ルフィ達をからかいながら、酒の瓶をあおった。
ルフィの文句は、今度はゾロに向けられる。
その光景をほほえましく眺めながら、ナミは言った。
「そうだ、ロビン。実はあたしも知らないわよ?サンジくんが、変更したっていう暗証番号。」
「私も知らないわ。」
あっさりと、ロビンは答えて、コーヒーカップを口元に運ぶ。
「別に不自由しないからいいんだけど。さっき、ウソップに聞いた数字の組み合わせ、ことごとくハズレだったっていうから。」
「気になる?」
「…ちょっとねー。」
ナミは、オレンジペコの紅茶を一口ふくんで
「教えてくれないのよ?ナイショだって。“あたしにも?”って聞いたら、笑ってたわ。意味深なのよ〜?」
ロビンが、少し首をかしげて、またにっこりと笑った。
「…やってみましょうか?」
「え?何を?」
「『冷蔵庫襲撃』。」
「ええ?」
またロビンは笑い、唇に指を当てた。
そして、その日の深夜。
灯りの落ちたキッチンにふたつの影。
だが、片方の手にはランプの明かり。
気配を探って、そうっとカウンターの中へ入り、冷蔵庫の鍵の操作パネルをランプで照らす。
その灯りが、ナミとロビンの顔を、金属の冷蔵庫のドアにソフトフォーカスをかけたような像を結ぶ。
「…で?」
ナミの小声の問いに、ロビンはまた首をかしげたが
「…多分、これで開くと思うわ。」
「じゃ、お手並み拝見といくわ。お姉さま?」
ロビンが、パネルに並んだボタンを押そうと指を伸ばした時だ。
「誰だ!?」
ドアが開いて声がした。
思わずナミは首を縮めた。
ロビンも、さすがに指が止まった。
2人が同時に振り返ると
「…ぞ、ゾロ!?」
ドアを開け放ち、立っていたのはゾロだった。
そういえば、今夜の見張りはゾロだ。
「こんばんは。」
悪びれず、ロビンは笑って言った。
ゾロは、そこにいるのがルフィでない事に驚いて
「何やってんだ?お前ェら?」
ナミも、ようやく苦笑いして答える。
「冷蔵庫襲撃。」
「お前らが?」
意外、と言う表情を隠さない。
ロビンが
「ええ。心当たりのある数字があるの。」
「へぇ。」
ゾロも、カウンターの入り口から鍵のパネルを見た。
「ねェ、ゾロ。アンタ、本当に知らないの?」
「おれが知る訳ねェだろ?」
「そうよねぇ。いくらアンタでもねェ。」
「ビールも冷えているものね?この中では。」
ゾロは頭を掻いた。
盗み食いならぬ盗み飲み。
ゾロにも前科がある。
「で?自信があるのか?」
ゾロの問いにロビンは笑って
「ええ。」
と、即答した。
「じゃ、開けてみてよ!ここでゴソゴソやってたら、サンジくんが起きてきちゃうわ!……サンジくん、展望室でしょ?」
「いねーよ!男部屋に居んだろ!?何でおれに聞く!?」
「見張りの日=Hの日じゃないの?あら?そういえばアンタ、昼間のままのカッコね。これから?」
「うるせぇ!!」
真っ赤になってゾロが怒鳴る。
図星のようだ。
どうやら、キッチンでの怪しい気配に気づいて、早いうちに黙らせておこうとやって来たらしい。
サンジが展望室に上がって来てから、途中でジャマされるのは最悪だ。
「…静かに。」
ロビンの声に、2人同時に口を閉ざした。
「じゃあ、いくわよ?」
ロビンが、ゆっくりと最初のボタンを押した。
1
一瞬、ナミは、やっぱりゾロの誕生日か?と思ったが
8
「え?8?」
そして
2
最後に
6
ポーン ガチャッ
明らかに、何かの反応があった音。
そして、取っ手にロビンが手をかけ、ひねると
がこん
「開いたァ!!」
思わず、ナミは声を上げてしまった。
「『1826』!?『26』はロビンの誕生日?じゃ、『18』って、何!?誰の誕生日!?あ!ゾロ!?初キスの日とか!?」
「んなワケあるかァ!?」
「いいえ、ナミ。『26』も、私の誕生日じゃないわ。」
「え!?じゃあ、何!?」
「………。」
ゾロも、怪訝な顔でロビンを見た。
そしてロビンは、ナミではなくゾロの顔を見て
「知りたい?」
と、意味深な笑顔を見て答えた。
その時。
「ルフィ!!てめェ、便所に行くとか言ってまた性懲りもなく…!!」
勢いよくドアが開き、聞きなれた声と言葉が爆発音の様に響いた。
ナミとゾロは、心臓が飛び出るかというくらい驚いたが、ロビンだけは一向に普通の様子で
「こんばんは。」
と、また軽く、挨拶をした。
カウンターの中にいる3人の顔を見て、サンジは目を丸くする。
「ロビンちゃん…ナミさん…!?で、クソ剣士!?…な…?ここで、何やってんだよ!?」
「『冷蔵庫襲撃』よ。」
ロビンは答えて、開いた冷蔵庫を手で指し示した。
開ききった冷蔵庫のドアを見て、サンジは愕然となる。
「…嘘だろ…!?ロビンちゃんが!?」
「ええ。」
「!!!」
次の瞬間、ゾロはサンジの表情の変化に驚いた。
ナミも。
だが、数字の謎を解いたロビンだけは、にっこりと微笑んだ。
暗がりでもそれとわかるほどに、サンジの顔は赤桃色に染まっていた。
眉を寄せて、心底困ったという顔でロビンを見、次にゾロを見た。
だが、ゾロと目が合った瞬間に、一気に眉を吊り上げて
「てめェがロビンちゃんに、こんなコトさせたのか!?」
襟首を締め上げ、怒鳴る。
真っ赤な顔のまま。
「はぁあ!?何のことだ!?」
「違うわ。これは、私とナミちゃんで企んだことよ。」
「へ!?」
「実はそうなの、サンジくん。あたし達も、この暗証番号が気になっちゃって。
ゾロはねー、サンジくんの大切な冷蔵庫を守ろうとして、あたし達を退治に来たのよ。ねー?ゾ・ロ・?」
「うるせェよ!!」
するん と、サンジの手が滑り落ちた。
まだ、顔の赤みが消えない。
口元を手で隠したまま、サンジは少し小さな声で
「…なんで…『1826』だって…。」
ロビンは微笑み
「わかるわ。だって、それ以外にあなたの大事な数字は無いと思ったから。」
「大事って…大事なんかじゃ…。」
「あら、大事でしょ?」
ロビンは、冷蔵庫の中から炭酸水のボトルを取り出すと
「もらっていくわね。ジントニックが飲みたかったの。」
「……ああ、じゃあ…今、レモンを……。」
サンジが、奥へ行こうとするとナミが止めた。
「いいわよ、自分でやるから。じゃゾロ、見張り、しっかりね?」
「………。」
もう、怒鳴るのもバカバカしい。
「おい、行くぞ。」
「偉そうに…。」
「あんだと?やんのか?」
「おお!やったらァ!!」
勢い、外へ飛び出して行く2人を見送り、ロビンがつぶやく。
「あらあら、しょうのない人達。」
レモンを取り出しながら、ナミが首をかしげた。
「ねェ、ロビン。謎解きしてよ。どうして『1826』なの?『26』は、ホントにアンタの誕生日じゃないわけ?」
船首甲板の当たりから、衝突音と怒鳴りあう声が聞こえてくる。
まぁ、アレは放っといても支障はないだろう。
ロビンは笑って
「ナイショ。」
と答えた。
「えー!?何で!?教えてよ!!」
「ダーメ。今度は私が怒られちゃうわ。秘密よ?」
「あん!もぉ意地悪!!ねェ、教えて〜お姉さまぁ〜ん!」
スライスしたレモンを皿に載せながら、ロビンは言った。
「じゃあ、ヒントだけね。」
「うん!」
「……あの数字は剣士さんの数字よ。」
「え!?やっぱりゾロ!?…でも、なんで『1826』!?」
「だから、そこからはヒミツ。」
「わかんなーい!教えてぇ〜〜〜!」
まだ、甲板での騒ぎは続いている。
サンジが照れ隠しに売った喧嘩。
カワイイんだから
ロビンは、また小さく笑った。
「ねェ〜教えて教えて〜〜〜わかんないぃ〜〜〜!どうしてアレがゾロの数字なの!?」
ナミの甘えるような声が、暗い波間に吸い込まれていった。
さぁ、アナタにはわかるかな?
END
(2008/4/5)
…今『終わりかよっ!?』って叫んだでしょ?
消化不良?ごもっとも
じゃ、謎解きいたしましょう。
サンジの設定した数字と同じ番号を打ち込んでください。
開けないという方
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