喧騒が止んだのは、深夜を大分回った後だ。
結論として、あの後ごねるナミをロビンは部屋で宥め、ゾロはサンジを押さえつけた。
ワケのわからない理由でケンカしたくない、というゾロの言葉に、サンジが珍しく素直に振り上げた脚を治めた。
その時にはもう、顔の赤みは、激しい運動の後のそれになっていた。
汗だく。
乱れる呼吸。
夏島が近いせいか、かなり湿度も高い。
「風呂、入るか?」
というゾロの言葉に黙ってうなずき、風呂場で誘うと、素直に腕を広げた。
そして、長い風呂から上がった後、「お先に」と、サンジは男部屋へ引っ込んでいった。
ちゃんと、別れ際のキスも、サンジの方からだった。
その時
「なんで『1826』だ?」
と、ゾロがまた尋ねると、またサンジは頬を染めて、唇をへの字に結び
「…てめェで考えろ。」
「…面倒くせェ…まあ、どうでもいい。…バレちまったから、また変更か?」
「…いや、しねェよ。」
「しねェのか?」
「ああ。このままにしとく。変えない。」
「ふーん。…いいのかよ?」
「ああ。…いい…。」
そして、
「おやすみ。」
笑って、サンジは手を上げた。
いつもの、素直で愛しい笑顔だった。
その笑顔を見送った後。
風呂上り。
“一戦”交えたから、喉が渇いた。
キッチンへ入る。
すると
「お水?」
中から声をかけられた。
見れば、カウンターの明かりだけついている。
ロビンだ。
「まだ、起きてたのか?」
「ええ。ナミちゃんが、教えて教えてって、うるさいから図書室に逃げてたの。少し喉が渇いたから、お水が欲しくて。アナタも?」
「ああ、一杯くれ。」
ロビンが冷蔵庫を開けた。
中から冷えた水のボトルを出し、グラスに注いで、カウンターに腰掛けたゾロへ差し出す。
「はい。」
「………。」
ロビンはボトルを中へ戻し、ドアを閉め、またロックした。
ゾロは、程よく冷えた水を一気に喉の奥へ流し込み
「で?」
「なぁに?」
「なんで『1826』だ?」
その問いに、ロビンは溜め息をつく。
「本当に、ここの人達は、自分で謎を解こうっていう気はないのね?」
「だから、面倒臭ェんだよ。」
「アナタの恋人のことなのに?」
「……だから、余計四の五の考えたくねェんだよ。」
素直なその答えに、ロビンは笑った。
そして
「あなたのお名前は?」
と、おもむろに尋ねた。
「はぁ?」
「名前よ。あなたの。」
何を今更、という顔で、それでもゾロは答える。
「ロロノア・ゾロ。」
「ロロノア・ゾロ。」
ロビンは繰り返す。
「ロロノア・ゾロ。RORONOA・ZORO。こう書くわね?」
カウンターの上に、水で濡れた指で、ロビンはゾロのフルネームを書いた。
「だったがどうした?」
「RORONOA・ZORO。頭文字はR・Z。」
また小さく微笑んで
「RとZ。アルファベットよね?…A…B…C…D…。」
もったいぶるように、ロビンは白く細い指をゆっくりと折りながら、アルファベットを唱えていく。
ゾロは、かなり苛立った顔を見せたが、ロビンの声が「R」になった時、気づいた。
「…S…T…U…V…W…X…Y…。」
「もういい。」
ゾロが止めた。
「……わかった?」
「ああ…。」
ゾロが目を逸らした。
ロビンは微笑んだ。
わかる。
ゾロの顔が赤い。
同じようにはにかむのね、と、ロビンは心の中でつぶやいた。
「じゃ、私ももう寝るわね?おやすみなさい。…あ、グラス、お願いしていいかしら?」
「ああ、洗っとく。」
「ありがとう。」
出て行こうとするロビンの背中に、ゾロが言う。
「おい、今の話。」
「言わないわ。言ったら、大変ですもの。それに、もう別の番号に変更する気はないんでしょう?コックさんも、あなたも。」
「ああ。」
「ウフフ、いい返事だわ。…じゃあね。」
ひとり残ったキッチンで、ゾロは笑った。
ナミがいたら、明らかに馬鹿にされるであろう、のろけた顔だ。
だが、嬉しいのだから仕方がない。
それに、誰も見ちゃいない。
「『1826』。」
つぶやいて、ゾロはまた言う。
「確かに、変更不可だ。…なぁ、コック?」
空になったグラスで、ひとり乾杯。
「あ!!わかった!!」
ロビンが、まだ戻らない女部屋で、ナミはベッドから跳ね起きて叫んだ。
「そうか!そうなのね!?これだわ!!」
ずっと、寝つけなくて悶々としていた。
ナミはベッドの上で、ロビンがキッチンでやったようにアルファベットを唱えながら、指折り数え始める。
「A!B!C!D!E!F!G!H!I!J!K!L!M!N!O!P!Q!R…!!アルファベット18番目!!
S!T!U!V!W!X!Y!…Z!!ラスト26番!!それで『1826』!!!……あ〜〜〜〜〜〜〜!!!
これだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!つまり、R・Z!!RORONOA・ZORO!!…ゾロじゃない!!もぉ、サンジくんたらぁ〜〜〜!!
いやん、もぉ!可愛いんだからぁぁ〜〜〜〜〜!!!」
ベッドの上ではしゃぐナミの声に、ロビンはドアの外で小さく笑った。
そして本当に END
(2008/4/5)
BEFORE
謎ってほどではないですか?
ぱたですから。
精一杯なんだなーと笑ってください。
お気に召したならパチをお願いいたしますv
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