BEFORE







もうひとり、いや2人の“敗者”



淀君と秀頼



秀頼を守り、盛りたてるという名目で、家康は逆に全てを奪って行った。



家康は、秀吉が望んでなれなかった征夷大将軍となり、江戸に幕府を開き、政権を完全に江戸へ移し掌握した。

それにより、豊臣家は65万国の一大名になり、それは大坂城のプライドを残酷に切り裂いた。

猫がネズミを嬲る様に、じわじわと追い詰められ、やがて豊臣家はその落日を迎える。

だがそれはまだ、少し先の話。





よろしいか、妹よ



女の戦は



後に、己が血を遺したものが勝ち





ゾロが選んだ道を、淀君もひそかに選択をする。



父と母の血を、次の世に残す。



早くに夫を亡くし、出家した上の妹・お初には望めなかったが、

江戸の下の妹・お江には、家康の後継となれる男子がいる。



豊臣家でも徳川家でもいい。



最後に勝つのは浅井の血

そして、織田の血だ。





淀君は、この15年の後この世を去る。



家康に攻められての自害を、息子と共にすることになるのだ。



後に、大坂落城から逃れた秀頼の妻で家康の孫、千姫が、側の者にこう漏らした事がある。



 『義母上のお手鏡の中に、金の糸が入っていたのです。でも、それは糸ではなく人の髪でした。

 義母上様にどなたの者かお尋ねすると、悲しそうに“妹”と一言お答えになられました。

 …義母上様の妹は、私の母上とお初様だけのはずなのに…。あれは、一体何だったのでしょう?』











江戸に幕府が開かれ、全てのものが江戸に集まり、全てのものが家康の手に握られた。

家康は、数年後に将軍職を譲った秀忠と共に、次々と徳川幕藩体制を整える政策を推し進めて行く。

大名たちが、奴隷の様なその扱いに不満を訴えても、もはや家康に逆らえる力のある者はない。



この国の主は家康となったのだ。



参勤交代制度は3代家光の代に整えられたが、参勤や江戸屋敷に家族を居住させる事などは

すでにこの頃定められ、それはどんな小国でも例外ではなかった。



チョッパーの正室であるたしぎも、15歳から江戸屋敷に移り住み、そこで生涯を終えることになる。

その後は、1度も関に帰ることはなかったが、妻一筋のチョッパーは、マメに江戸に参勤し仲睦まじく暮らした。

そんな養女夫婦を家康も憎からず思い、最晩年の頃には、側室阿茶の局を通じて、よく気配りをしてくれたという。

たしぎはその死の折に、「亡骸は関に。家族の墓所に。」と遺言し、叶えられた。

彼女はその晩年に、夫によくこう話していたという。



 「とうとう、義兄上から和道一文字を戴くことはできませんでした。口惜しい。」



妻の遺骸を迎えた関の城で、夫が後を追うように亡くなったのはその半年後だったという。



この後、関7万石は、途中石高の減増を繰り返しながらも明治維新まで生き延びる。



関城は、廃藩置県で取り壊された。



その後、昭和初めまで鉄産業で生活は成り立っていたが、生産性の悪さで鉱山は閉じられ、

以後里は廃れ、平成の世を待てずに廃村となる。



今でも、関城址の麓にある菩提寺に、歴代藩主の墓が残っている。

ミホークの代からの墓は、必ず夫婦のそれが並んで建てられていた。

代々、家族を大事にした、その心の表れと言っていい。



そして、その墓所から少し離れた場所に、関ヶ原で西軍につき、勇猛果敢に戦ったミホークの長子と、

その妻・毛利御前の墓が、控えるように小さく寄り添い、今もある。

























関ヶ原から、3年。



関



関城





 「やああああああああああああっ!!」



勇ましい、少女の声がする。



 「遅いっ!!」



返す声も、高い女性の声だ。



たしぎとナミ。



たしぎは刀、ナミは薙刀で相対している。

居室の奥の書院では、相変わらずチョッパーがひとり、分厚い本をめくっていた。



 「ほらほら!!そんなへっぴり腰じゃ、いつまでたっても和道一文字は手に入らないわよ?」

 「まだまだ!!」

 「いらっしゃい!」



家老の妻が、茶と菓子を持ってやってくる。



 「…お方さま、ナミ殿。そろそろ一息つかれませ。」

 「もう少し!!」



家老の妻は苦笑いしながら



 「…ナミ殿…もうすぐ人の妻になろうという女子が、いい加減になされ。」

 「だから、鍛えてるんじゃない!!あいつの女房になるんだから、半端な覚悟で務まらないのよ!!」

 「参ります!!」

 「どっからでもかかってらっしゃい!!」



やれやれ



と、炊場の方から悲鳴が挙がった。



 「む!?」



ナミが顔をあげる。



すると



 「きゃ―――――っ!!肉泥棒―――――っ!!」



ナミが、ダン!と薙刀を打ちすえる。



 「ほら!あのバカ、また!!ルフィ―――――――っっ!!」



薙刀を構え直し、炊場へ駆けて行く。

たしぎは笑いながら



 「もぉ、また中断…ルフィったら…。」

 「本に仕方のない…あれで、お屋形様のお側仕えが出来ましょうか?」



チョッパーが本を閉じて



 「あはははは!いいよ。あれがルフィだから。たしぎ、お茶にしよう。」

 「はい。手を洗ってまいります。」





二の丸



今ここは、ミホークの隠居所になっている。



 「……賑やかだな……。」



碁盤の目を睨みながら、ぼそりとつぶやく声に



ズゾゾゾゾゾゾゾゾ〜〜〜〜



と、茶をすする音が答えた。



 「はぁ〜〜〜〜…お茶が美味しいですね〜〜〜〜〜…生きててよかった〜〜〜って、

 こーゆーとき、つくづく思うんです〜〜〜〜〜ハァ〜〜〜〜シアワセ。」



 「………。」



一度は関の城を出た身。

だが、ここは江戸から遠い。

“とりあえず出家”して、俗世を捨てた身となった“はず”のブルック。

週に一度、碁を打ちにやってくる。

出家したはずなのに、見事なアフロはかつてのままだ。



 「ブルック。」



パチッ



 「はい、御隠居様。」



パチッ



 「…その呼び方はやめぬか…。」



パチッ



 「ヨホホホホ!!左様でございますな!一気に老けたみたいで…。」



パチッ



ゴガガガガゴゴン!!



 「ぐはぁっ!!」



一瞬の沈黙



そして、表情ひとつ変えずにミホークは言葉を続ける。





 「ヒマ潰しに行かぬか。」

 「ハイ?」





ミホークが、関の城から姿を消したのは、それから間もなくのことだった。



ある港で、ある山間の道で



鷹の様な眼の旅姿の壮年の武士と、山の様に盛りあがった頭髪の、

袈裟姿の奇妙な二人連れを見たという目撃談が語られるようになったのは、それとほぼ同時期の事。





そして



秋水 麦の里



 「ああああああああ!!いい!!そんな事はおれがやる!!座ってろ!!じっとしてろ!!ロビン!!」

 「大袈裟ね。少しくらい動いた方がいいのよ?」

 「うるせェ!!いいから言う事を聞け!!だから!そんな重てェもんを持つな―――っ!!」



ウソップが、鞴に火を送りながらうんざりと言う。



 「……カボチャ1個くらいでオーバーなんだよ……。」

 「あァ!?何か言ったか!?」

 「いいえぇ〜〜〜、なぁ〜んにも〜〜〜?里長ぁ〜〜〜?」

 「里長呼ぶな!スーパー照れるじゃねェか!!」



ポーズを決めて、カボチャ片手に照れ隠し笑い。

ロビンが、膨らんだお腹をさすりながら笑う。



一昨年、フランキーとロビンは夫婦になった。

もうすぐ子供が生まれる。

新しい命が、継がれていく。

そして、これを機に引退したクローバーは、次の里長にフランキーを指名した。

誰も、否やはなかった。



すでに、氷雨姫はなく、たしぎの身の回りの世話もナミで十分だ。

他にも江戸からついてきた侍女もいる。

ロビンは城を下がって麦に戻り、フランキーに嫁いだのである。



ウソップはフランキーから独立し、自身の小屋を構えたが、今でもフランキーの大仕事は手伝いに来る。

この後、太平の世になるにつれ、実用的な刀や鉄砲より、装飾に富んだ物が好まれるようになったが、

その時代になってウソップの才能は花開いた。

彫金など、細部まで凝った拵えのウソップの刀や鉄砲は、全国の大名の贅沢品として、高値で取引されるようになるのだ。











そして





麦の里の片隅に、小さな鍛治小屋がある。



細い煙が上がっている時は、その屋の主が何かを打っているしるしだ。

細やかな、細い金属音。



 「さーんーじっ!」



呼ばれて



サンジは振り返り、笑う。



 「よォ、ルフィ。…まぁた、何かしでかしたのか?」



てへへ、と笑いながら、ルフィは彫金台の前に座るサンジの側に座った。



 「ちょこ〜〜〜〜っと、肉の切れっぱ貰っただけなのに、ナミのやつにコレ!!」



指さす頭のてっぺんに、大きなコブ。



 「あのな…関のお屋形様一の側近が、盗み食いなんかすんなよ。」

 「盗み食いじゃねェ、もらったんだ!ちゃんと『いただきます』ってもらったんだから!!」

 「…誰にその『いただきます』を言った?」

 「ん〜〜とな、炊場のシュシュにだ。」

 「犬じゃねェか。」

 「で、何作ってるんだ?」

 「さりげに話を変えたつもりか?……化粧箱一式だよ。ナミの嫁入り道具だ。」

 「うはぁ〜、キレイだなぁ〜〜〜。ナミ、喜ぶぞ!」









3年



サンジはこの小屋でゾロを待っている。



関ヶ原の折、ブルックがゾロを見たのは、あの乱戦の中、家康本陣に向かって行ったのが最後だった。



その話を聞いた時、誰もが青ざめて絶望したが、サンジは小さく笑った。



…あいつらしい…。



ゾロの心情が、痛いほどわかる。



ブルックは、毛利本陣に辿り着き、そのまま一緒に西国街道を回ってひそかにミホーク軍に合流した。

後ろを振り返りながらの帰国。



その後、ウソップは関ヶ原までゾロを探しに行った。

転がる無数の死体のひとつひとつ、確かめて歩いた。

京・大坂も探し歩いた。



全て徒労に終わり、半年、1年、2年…。





未だ、ゾロは戻らない。





迷子になっているにしても、あまりに時がかかりすぎる。

家康に、生きている事を知られたら困るが、それにしても3年は長すぎた。



もしかしたら

本当に戦で命を落としたのかも…。



関の家臣団の中には



 「…どうかご葬儀を…このままでは…亡き氷雨様も…若殿をお迎えできずに彼岸の淵で悲しんでおられましょう…。」



ミホークは、うなずかなかった。

新屋形のチョッパーも



 「兄上は帰ってくる。」



と、突っぱねたため、菩提寺の墓所には氷雨の墓しかない。

あの夜、密かに寺に運ばれ、葬儀もせずに遺骸は埋められた。



ことになっている。



墓の中は、淀から拝領した打ち掛けと白妙のみだ。





3年



長すぎる…。





サンジは、峠までルフィを送り、かつての麦の里のあった谷へ足を向けた。

今は、広大な湖となった麦の里。



遠くに、神社のあの鳥居が天辺だけを覗かせている。



あの社で、ゾロに愛された…。





 サンジ



 必ず帰る





“必ず”



ゾロはそう言った。



思えば、『絶対に』とは言わなかった。



お前らしくない…。



後になってそう思う。



ブルックから、出陣前に、ゾロが三成に会ったと聞いていた。



お前また



厄介な頼み事されたんじゃねェだろうな…。



まったくてめェは…そういう事を、たまには断る気概を持ちやがれ…。





ゾロ



帰ってこい



帰ってきてくれ



いつになったら帰ってくる?



もう



ひとりは嫌だ…。



いや



ひとりではない

みんながいる



それでも寂しい



お前がいない



たまらなく悲しい



ゾロ



会いたい



なァ



もし



もしも



もしも、魂だけになっちまってるっていうのなら



ユーレイでもなんでもいい



おれの所へ帰ってこいよ…!



なァ



 “当たり前のことを言うな…帰るに決まってんだろ…おれの生きる場所はお前の隣だ。”



そう言ったのはお前だろう!?



“一緒に生きようぜ。飽きるまで、とことん。”



“おれの為に死ぬ気があるなら…おれの為に死ぬ気で生きろ。”



“おれの為に生きることを許してやる。”



“誓え、サンジ。 おれの為に生きろ。生きてくれ。”





お前がそう言ったから、お前が帰るのをここでずっと待ってる。



お前と生きる為に。

お前の為に生きる為に。

飽きるまで、お前と一緒に生きる為に。



なのに



そう言ったお前がなんで戻らねェ!







 「…ゾロ…!」







いつの間にかあふれる涙。



ここに立つといつもそうだ。



この3年、この場所で何度てめェの為に、泣いたと思ってんだあのクソ馬鹿野郎!!



カラスの鳴き声がした。



夕暮れ。



サンジは涙をぬぐい、麦への道を登り始める。

山道へ上がると、向こうの山の頂に関の城。



 「………。」



城を見つめ、息をつき、行こうとした。



 「………。」



木々の陰に



今、何か見えた…



谷あいの道



何かが



こちらへ歩いてくる



 「………。」



熊?猿?狐?



いや、これは



人…?



 「………。」



 「………。」



赤い夕陽の中



はっきりと、それが人だとわかった。



 「………。」

ゆっくりと、ゆっくりと



こちらへやってくるひとつの影



 「………。」



よろ



と、影がよろけた。



躓いた事に、ひとりで照れ、道の石ころに文句を垂れる。



よろけた影の腰から伸びた、3本の長い指し物…。













 「………。」











 「……ゾロ……?」















相手の目が、こちらを見た。



 「………。」





 「………。」





 「………。」





 「……サンジ……。」





 「………。」





 「………サンジ!!!」







 「…………!!」





 「サンジ!!」





影が駆けだす。



夕陽の中。

赤く染まった髪が、はっきり緑色だとわかる。



サンジも、呆然と、ゆっくり歩み出し、やがてその歩みは勢いを増し、弾けた。



 「サンジ!!」



 「……あ…あ…ああ…あああああ……っ!!ああああ!!」



言葉にならない。



涙が、青い瞳から滝のように溢れる。



 「…あ…ああ…あああっ…!!」



 「サンジ!!」



わずかな距離が、千里にも感じられた。

手を伸ばし、必死で走り、ようやく



 「サンジ!!」

 「………っ!!」



骨が砕かれるかという力。

背中が引き裂かれるかというほどの抱擁。



ゾロは、サンジの顔を手で包み撫で回し



 「…顔、見せろ…!サンジ…サンジだ!!サンジ!!」

 「…あ…ああ…!!」



あまりの衝撃に、言葉が出ない。



 「…どうした?おれを忘れたか?呼べ、サンジ!!」

 「……ゾ…ロ…ゾロ…ゾロ…ゾロ!ゾロ!!」

 「…ああ…お前の声だ!サンジ…本物のお前の声だ!!」

 「ゾロだ…ゾロだ…ああ…触れる…触れる…本物だ…本物のお前だ!!」

 「サンジ…サンジ!!」

 「ゾロ…!!」



唇を合わせ、何度も口付けを繰り返す。



ゾロの顔は無精髭だらけで痛いくらいだ。



激しい口づけに、ようやく唇を離した時、互いにはあはあと荒い息を吐いた。



見つめ合い



また抱きあい



また唇を重ねて



また抱きあって



 「…ゾロ…。」

 「………。」



夕陽に染まる、山肌に張り付く細い道。

しっかりと重なるふたつの影。

影は、いつまでも離れず、元からひとつの影だったように微動だにしなかった。





と



 「……こんの、クソ馬鹿アホマリモァ!!一体今日まで3年も、どこで何をしてやがった!?クラァァァァ!!?」



すさまじい蹴りで、サンジはゾロを地中に沈めた。

そのゾロを引きずりあげ、襟首を締め上げてサンジは言う。



 「…まさか…3年も迷子になってました。とか言うなよ…?いいか?

 迷子なんて言い訳には限界があるからな…?」



ゾロは苦笑いしながら



 「……いや……その…迷子だ……。」

 「3年も迷子ってなワケあるかぁ!!いい加減なウソをつくんじゃねェェェ!!」

 「マジで!!ホンット!!迷子だったんだ!!」

 「関ヶ原から、一体どこに行ってたんだよ!?」



ゾロは、頬を赤くして



 「………仙台………。」













 「はああああああああああああああああああ!!?」













 「仙台って……せ、仙台!?奥州の!?あの!?…伊達政宗の!?」

 「そうだ…。」

 「なんで…なんで美濃の関ヶ原から迷子になって、仙台なんだよ!?」

 「…いや、気がついたのが仙台ってだけで、政宗の話だと、どうやら平泉の方まで行ってたらしいんだな…

 あの時見たキンキラキン、金色堂だったんだ。うん。」

 「平泉だぁぁぁ!!?」



よい子の皆様、地図を確認。



 「政宗って…伊達殿に会ったのか!?」

 「ああ、政宗に会ったから、あそこが仙台だって気がついたんだ。奥州だもんな、道理で寒いはずだった。」

 「………。」



呆れて、ものも言えない。



サンジは天を仰ぎ、大きく息をついた。

ゾロは言う。



 「…家康の本陣突っ込んだ後、そのままおれも逃げようと思ったんだが、とにかく最短ルートは敗走軍の大渋滞でよ。

 山に逃げても、どこもかしこも残党狩りで鬱陶しいし。しょうがねェから、ちょっと遠回りで、

 越前か若狭の方から抜けようと思って行ったんだが………気が付いたら……仙台だった。」

 「そのものすごい中略は後でゆっくり聞くとして…よく、政宗に会えたな…。」

 「ああ、なんか入った町で普請の人足を探してるって言うからよ。金もねェし腹も減ったし、

 雇ってもらって櫓の基礎工事やってたら、お殿様がご覧になられるってなってな。来た殿さま見てみたら、あの野郎だった。」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」



氷雨姫存命中(笑)は、まるで恋文の様な手紙をマメに送ってきた政宗だった。

しかし、その氷雨がミホークに斬られたと聞いたのだ。

文を送る必要もなくなった。

繋がりが絶えて久しい。



 「…驚いてたろう…政宗…。」

 「ああ、そりゃもう。あの時のマヌケ面、てめェにも見せたかったぜ。」



関ケ原以降消息のない、あの激戦の中死んだと思っていたゾロが、

自分の青葉城の普請場に人足としていたら、そりゃ驚くだろう。



 「まぁそれで、そのまま引っ張っていかれて、あれこれ聞かれて…ここがどこだ?って聞いたら、

 奥羽の仙台だって言うじゃねェか。たまげたぜ。アイツ、いつあっちの方まで領地広げたんだ?」

 「……で…それはいつごろの事だ…?」

 「ああ、1年くらい前か?」

 「1年前!?だったら、なんでそこから報せを寄越さねェんだ!!?」

 「…出せるかよ。伊達は常に家康から目をつけられてる。そんな書状や密使、途中で捕まったらどうにもならねェ。

 災難が及ぶだろ?伊達にもここにも。」

 「…う…。なら…どうしてすぐに、戻って来なかったんだよ!?」

 「すぐに冬になったからな。政宗が(雪山で迷子になったら目も当てられねェつって)春を待てというから、

 その間松島の瑞巌寺に居た。…ああ、すんげぇいいトコだったぜ。松島。

 海もいいよな。ま、それはともかく。春になって、関を目指してあっちを出たんだ。」

 「………聞いてもいいか?仙台を発ったのはいつだ?」

 「……確か、2月の末か……雪が消え始めたんで出たから……。」



サンジはプルプルと震え、ギリと歯噛みした。



 「今日は10月の20日だ!!仙台からここまで8カ月か!!?

 またどんだけ迷ったんだ!?このアホ――――っ!!!」

 「…気が付いたら、なんか砂丘の真ん中にいたなァ…。」



鳥取は島根の右側です。



 「……まったく…!!…てめェって奴は……!!」



 「………。」





 「………。」





 「………。」





 「……てめェって奴は……。」





 「………。」





 「……てめェ…は……。」





後から後から



涙が溢れてくる



生きていると信じて待っていた



何度も願った



何もいらない



ただ、ゾロをこの手に返してほしい



その願いが



ようやく叶った…。





ゾロの手が、またサンジを抱きしめる。



サンジの手も、ゾロを固く抱きしめる。



 「………お帰り………。」



 「……ただいま……。」





命があるという事はこんなに素晴らしい。





ゾロは、サンジを固く抱いたまま、谷の湖を見下ろす。



 「……ところで…ここは麦の里だろう?…この有様はなんだ?何が起きた?」



サンジは、ゾロの唇を指で押さえ



 「…ゆっくり…ひとつずつ話すよ…。」

 「………。」

 「…時間は…たっぷりあるんだから…。」

 「………。」





また、ゾロはサンジを抱きしめる。



夕焼けの中の、長い長い抱擁。

















 「………ゾロ………。」



 「………あ?」



 「……なんか…堅ェモンが当たってるんだけど……。」



 「……3年溜まってっからな……。」



 「……嘘つけ。どうせ仙台で、政宗の据え膳食ったんだろ?」



 「………。」



 「…否定しねェのかァァ!!」



キレるサンジの目の前に、ゾロは



 「!!」



“氷雨”を差しだす。



 「……こいつを傍らに置いて、んな真似ができっか。」



 「……ゾロ……。」



頬を染めて、サンジが微笑んだ時



 「……そういう事にしといてくれ。」



 「……!! てめェはぁぁぁぁぁぁぁ!!」









笑いながら、逃げ出すゾロの後をサンジが追う。



明日の朝を迎える為に落ちて行く夕陽が、鋼の山と城を、赤く赤く染めていた。













END





(2009/10/14)





お疲れさまでした(笑)

ぱた禁じ手の戦国時代でした。

なぜ、戦国時代が禁じ手か?

答え:『歯止めが利かなくなるから』

余計なことまで書きそうになるので必死に抑えました。これでも…。



元々、オリジナルで使おうと思っていたネタでした。

ところがうまい事まとまらず、断念していました。

それがゾロサンで書き始めたら、まァ、勝手に動くこと動くこと…(笑)

そっかー、BLで書けばよかったんだこれ…と。

『関』は読んでいてわかった方もいらっしゃると思いますが、岐阜県関市をモデルにした架空の国です。

場所も山陰という設定です。

実在の武将も、かなり勝手設定してます。フィクションですのでその辺りは目をつぶってください。

『天地人』のせいなのか、どうしても景勝・直江が北村・妻夫木になっている模様。

でも三成はオグリではないです。……政宗……(笑)

できましたら…あの…謙さんで…小十郎は…星のフラメンコで…お願いしま…;;

ええ、れっつぱーりな方でも構いませんがっ;;



書き始めた当初

“氷雨”というキャラクターがどうにも扱えませんでした。

それはおそらく、作中のサンジ自身もゾロも同じだったような気がします。

…なんかね、氷雨ちゃんがどんどん可愛くなってきて(笑)

氷雨なサンジじゃなく、サンジの中の氷雨が。

女装や女体化は少々苦手なんですが、なんか、最後は自然に書いてましたね…。



とにもかくにも戦国時代は大好きです。(でも、『歴女』と呼ばれるのはイヤ)

大好きな武将とゾロサンがいっぺんに書けてうれしかったです。

もう書かない…とは言い難いのですが、ひとまずこれにて。

最後までお付き合いいただきありがとうございましたv



鉄は本当は黒鋼ですが、ラストシーンの赤い夕陽に染まる城を初めに思いついたので

赤鋼にしました。

黒鋼の城だとマジンガー…むにゃむにゃ





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