ある日の午後、ふとした話の流れからナミがゾロに言った。



 「ゾロの目にはサンジくんが天使に映ってるんでしょ〜?」



何が天使だ。



 「天使…そうね。言い得て妙かもしれないわね。」



ロビンが言った。



元来、天使は美しく優しいだけではなく、時に残酷な存在だとロビンは言った。

一般に、天使と呼ばれる神の使いは、神の使いであるからこその残忍さもあるという。

確かに、仲間の誰もが認める心優しいあの男は、己の誇りや矜持、

何より仲間の体とそれらを守る為に、時に悪魔の様に残酷にもなれた。



あの時、アクアリウムバーにいたのはおれとナミとロビンとフランキー。

だがフランキーは、テーブルの上で細工物をしていて、ろくに話を聞いてはいなかっただろう。

おれ自身、他愛もないヨタ話だと思っていた。



だが、それは



その後に起きる出来事の、予感がさせた会話だったかもしれない。



確かに、初めてコックの姿を見た時、『綺麗な人間がいるもんだ。』とは思った。



ガラじゃねェ



まったく



どうかしてるとその時は思った。



その時は



まさかあいつに



ここまで惚れるとは思ってもみなかったからな。







 「…ん…。」



腕の中で、白い肩が震えた。



すっかりゾロのテリトリーになった展望室。

ソファで抱き合うのも、至極当たり前の行為になった。



薄く開いた唇から、甘い吐息が漏れる。



 「……あ…ぁあ…ゾロ……。」



名前を呼ばれるのが一番イイ。

その声がたまらなく好きだ。



細くて華奢だが、決して貧相な体じゃねェ。

腕にも脚にも、しっかりと肉はついているし肩幅だってそれなりにある。

儚げでもないし、なよっとしている訳でもねェ。

なのに



なんでこんなに色っぽいんだ?こいつは。



この吐息がたまらねェ

この肌がたまらねェ

裸で抱き合うと、まるで元はひとつの体だったかのようにしっくりとする。

重ねた肌が溶け合ったとしても、きっと気づきもしないほどに。



 「天使って、本来若く力強い男性の姿で表わすものなのよ。

 小さな子供で表現するのは、後世に、別の神話のクピドのイメージを混同して広まったものなの。

 フフフ…コックさんがその時代にいたら、きっと名だたる画家達が競ってモデルにしたかもしれないわね。」



ロビンがそう言って笑った。



 天使か



あながちヨタ話でも無ェかもしれねェ。



だが、こいつが天使なら。



 「……ゾロ…?…何…考えてんだよ…?」

 「…あ…?…あァ…悪ィ…。」



笑って、ゾロはサンジの唇を塞いだ。



 「昼間のロビンの話を思い出してた。」

 「…ロビン…ちゃん…?」



巻いた眉を寄せて、サンジは少し拗ねた顔をする。



 「…なんだよ?…おれがナイスガイだってか?」

 「アホ。」



首筋に口付けながら、ゾロは少し考え



 「…てめェが、ちょっと昔に生きてたら…画家がてめェを、

 天使像のモデルにしたがっただろうってよ。」



サンジは、なぜか少し困ったような顔で吹き出し、小さく笑った。



 「…ああ、そりゃあるかもしれェねェなァ…。」

 「言ってろ…。」



ゾロの掌が、サンジの背中を滑る。



 「…あ…っ…!…あ…あっ…。」

 「天使サマは背中が性感帯か?…羽ってのァそんなに敏感か?」

 「……ん…っ…てめ…ェが…んなコト…言うからだ…ろ…っ…!」



背中の、以前にドラムで傷を負った部分。

チョッパーの手術の腕がよかったおかげで、殆ど痕は残っていない。

だが、傷が塞がり、今になってもなお、その部分は感覚が敏感になっていて、

触れるといつも大きく震えて、悲鳴のような声を挙げる。



目尻に涙が浮かんでいる。

小刻みに震えながら、サンジは自分の拳に唇を当てる。

感じて、これ以上理性を手放さないようにする為の仕種だ。

その手首を掴んで、固く握った拳にキスをすると、サンジは小さな悲鳴を挙げた。



 「…クソ…。」

 「神様の使いが、汚ェ言葉を吐いていいのか?」

 「…神…になんか…祈らねェって…常日頃ほざいてんのは…どこのどいつだ…!?」



憎らしい声で小さく笑い、ゾロはサンジを固く抱きしめる。



 「……天使を犯すのは悪魔か?」

 「…知るか…っ…!」



ひくひくと震える腰を引き寄せて、花央に指を伸ばす。



 「…ん…っ…指…や…っ…。」

 「…指が嫌なら何が欲しい…?」

 「……っ!」



固く目を閉じて、サンジは音がするほど歯軋りする。

意地が悪いのはわかっている。

だが、ゾロは今、本気で天使を犯している気分になっていた。

もう何度もこの体を抱いているのに、まるで処女雪のように美しく清らかだ。

『天使』というキーワードが、今夜のゾロを煽り立てている。



もし、こいつが天使なら



それでも、おれのものにしてやる。

背中の翼をもぎ取って、絶対に空には還しやしない。



 「――――。」



サンジのその声は、小さく短かった。

小さかったが、はっきりと、サンジは欲するものを口に出して言った。

愛しさが溢れたが、嗜虐の念の方が強かった。



 「聞こえねェ。」



声を詰まらせ、震えながら、固く閉ざした目尻からまた涙が溢れる。



 「聞こえねェよ…天使サマ?」

 「…悪魔…っ…!」



嫌なヤツだ。

まったくおれって人間は。



いや、悪魔か?





いじめたい。

酷くしたい。

もっと泣かせたい。

もっとおれの名を呼ばせたい。





ああ、もう。



おれの方が我慢出来ねェ…!!



 「脚開け…!」

 「……!!」



まるで、翼を引き裂くように――。



貫かれ、一気に奥まで満たされた瞬間、天使はこの上も無く神々しい、満足げな笑みを浮かべた。



















サウザンド・サニー号がその島に到着したのは、その年の瀬も押し迫った時期のことだった。

その島は春島で、季節は冬。

うっすらと街を染める雪の白と、街並みの煉瓦色のコントラストが美しい。

島影が浮かび上がって見えた頃から、街の至る所に聳え立つ何本もの塔も臨む事が出来た。



 「この島、なんて島だ?」



ルフィの問いにナミが答える。



 「サンジミニャーノ島よ。」

 「え?サンジが地味?」



ルフィのボケに、ロビンが笑う。



 「サン・ジミニャーノ。聖ジミニャーノという意味よ。昔の聖人、ジミニャーノを祀った教会を中心に栄えた島。」

 「聖人ってなんだ?」



チョッパーが尋ねる。



 「神様の教えを忠実に守りぬいていった人…かしら。」

 「神ねェ。」



フランキーがつぶやいた。

ブルックが耳を(無いんですけど)そば立てて



 「ヨホホホ!教会の鐘の音が聞こえますねェ。実に美しい。」

 「あ〜…宗教を中心に栄えた島か〜〜〜。」



ウソップの少し戸惑ったような言葉にナミが



 「…くれぐれも注意してね。うかつな場所へ行ったり、うかつに物を触ったりしないこと。特にルフィ!」

 「わかってるよぉ。しつけーな。」

 「しつこく言っても聞かないからでしょう!?…もぉ!…

 さて、まずは船を隠して、上陸して、記録(ログ)が何日で貯まるか聞いてこなくちゃ。サンジくーん!」

 「はぁ〜〜〜〜いvvナミっすわぁ〜ん!!」



即座に応えて、この船のコックはラブハリケーン全開で、帆を畳んでいたメインマストのてっぺんから馳せ参じる。

ナミの前に片膝をついて腰を落とし、大げさな身振りで



 「お待たせしましたナミさん。貴女のナイトですvvv」

 「あ。ごくろーさま。」



軽くあしらい。



 「サンジくん。記録(ログ)お願いね。」

 「お任せを、姫。」



全員が賞金首になってしまった麦わら海賊団。

唯一面の割れていないのは、手配書が『あの』ヘタクソな似顔絵のサンジだけだ。

新クルーブルックも、手配書は『生前』の顔なので割れにくいのだが、身長2メートル越えのガイコツが、

巨大なアフロを揺らして「ヨホホ ヨホホ」と歩いていたら、それはかーなーり!目立つ。



なので

島に到着したら、真っ先に記録(ログ)の確認に街へ行くのはサンジの仕事になっていた。

あの忌々しい手配書も、ナミの役に立っていると思えば腹立たしさも小さくなるというものだ。



ついでに言っておく(いい加減にしなさい)。

ウソップの場合、手配書の写真があれであっても、かなりの高確率でばれてしまうのと本人が辞退するのとで対象外になっている。



それでも、念のためにとサンジは眼鏡をかけて、ラフなデニムのパンツと

ロングスリーブのTシャツにダウンのベストというスタイルに替えて船を降りた。

いかにも、観光客といういでたちだ。



 「サンジ!美味いものあったら買ってきてくれ!」

 「やなこった。」

 「えええええええ!!?」



笑いながら、手を上げて出かけていくサンジの後ろ姿を見送って、ゾロはそのまま展望室へ上がった。

いつものことだ。

そうやって、街の様子を探ってからこの後の行動を決める。

自分が賞金首になってしまってから、ナミの行動はますます慎重になった。

それをしぶしぶ承知して、ルフィも最近は勝手に飛び出すことをあまりしない。

記録(ログ)は大事な案件だから、ルフィ自身それの確認をする前には飛び出していかないのだ。



だが



この時



何故一緒に行かなかったのかと、後にゾロは思った。



自分でなくてもよかった。

誰か共に、この時一緒に行っていたら……。













サン・ジミニャーノの街は、街全体が城壁に囲まれた城塞都市だった。

街の何箇所かに門があり、今でも兵士が立哨している。

荷車を引く老人の後について、サンジがその城門をくぐった時、右側の兵士がチラリとサンジを見たが。

折りよく、旅行者らしい集団がやってきて、サンジはその群れに紛れ込んだ。



 (…ま、こんな時代だ…警護ぐらいは当たり前だろうな。)



『サン・ジミニャーノ』をルフィが聞き間違えたように、時折自分が呼ばれたかと思って振り返る。

それは、旅行者が「サン・ジミニャーノ聖堂はどこ?」と、街の人に聞いているのが殆どだ。

街の本屋で、観光ガイドを1冊買った。

買ったその場で、ページを繰る。

それによると



『1150年に“コムーネ(共同体)”として成立。

街には以前から防衛のための塔が建設されており、13世紀に入り街が繁栄したことで、

貴族の権力の象徴としての塔建設が次々と行われ、50mを超える物を含む72もの塔が街内に建設された。

教皇派と皇帝派に分かれて、より高く、美しい塔を建てることを貴族同士競い合った。

当時は防衛や監視のためイタリアの他の都市でもこういった塔の建設が行われていた。

しかしその後、ペストの流行と内部での権力争いによって町が衰退し、

1353年にフィレンツェ共和国に組み入れられる。

一時はフィレンツェとシエナの前線基地とされたが1555年にシエナがフィレンツェに降伏し、

さらフランチジェーナ街道が利用されなくなったことで交通の拠点からも離れ、

サン・ジミニャーノは廃れた街となった。

他の多くの街では塔は不要なものとして解体され、街の再開発が行われたが、

サン・ジミニャーノは経済的な余裕もなく、寂れていたため戦争などに巻き込まれることもなく、

塔も町並みも13世紀から14世紀の状態を良く残している。

現在残っている塔の数は14。街並、城壁を含めて地区として世界遺産に登録された

地区内には12世紀〜14世紀頃に建設された建築物が林立している。』

(以上・ウィキペディアより、ひねりもなくそのまんま抜粋:笑)



 「……何だかよくわからねェな……ま、いっか…で…記録(ログ)記録(ログ)…お、あった。」



記録(ログ)要日数





13日





 「13日かよ…結構あるな…。」



記録(ログ)日数はわかった。

とりあえず一度船に戻らなければならない。

だが、さっきから、多くの旅行者が同じ方角へ歩いて行くのが気になっていた。



 「…聖堂ってこの先かい?」



土産物屋の主人に尋ねてみた。



 「ああ、そうだよ。ホラ、あの赤い屋根の向こうに見える十字架がそうさ。」

 「ふぅん…。」

 「なんだい?アンタも旅行者なら、サン・ジミニャーノ聖堂がお目当てなんだろ?」

 「…ああ、いや…おれは仕事でたまたま立ち寄ったんだ…あまり歴史には興味なくてね

 …でも、塔がすごいから少し歩いてみたくてさ。」



主人は笑って



 「そうかい。けど、せっかくなんだから聖堂をお参りしていくんだね。

 商売がうまくいくように、お祈りしてくるといいよ。」

 「ありがとう。そうするよ。」



でもまさか、『海賊稼業がうまくいきますように』とお祈りしても、カミサマは聞いちゃくれないだろう。



まぁ、せっかくだから。



聖堂ってくらいだから、ナミさんが喜ぶようなキンキラキンのものがあるかもしれねェし。





旅行者のグループに紛れて、聖堂前の広場に辿り着いた。

観光で成り立っている島らしく、広場には土産物屋や屋台、カフェなどが並んでいて、物売りの声も混じって賑やかだ。

小さな子供も、バスケットにいれた花やお菓子や絵葉書などを、広場に入ってくる観光客に薦めている。

それらを笑顔でかわしつつ、サンジは開け放たれた聖堂の扉をくぐった。



 「……へェ……。」



ちょっと、想像と違った。

その聖堂は決して煌びやかではなく、どちらかというと質素で、華やかな雰囲気はどこにもなかった。

ただ、見上げた天井に描かれた絵が美しい。

一緒に入ってきた観光客の夫婦が、興奮した様子で天井を指差しながら、

機関銃の様に何かをまくし立てている。



うるせェな



そう思いながら、サンジも天井を見上げた。



 「………。」



天使だ。



手に槍を持ち、どこか、何かをきっと見据えた天使。

その背中から、白い大きな翼が3対生えている。



サンジの想像する天使とはまるで違う、雄雄しい肉体、力強い表情。









途端に、サンジの頬が真っ赤になった。

この前の、ゾロとのセックスが一気に甦ってしまった。

慌てて口元を押さえ、天井から目を逸らす。



 (…うわ…ヤベ…。)



その時



 「いかがなされましたか?」



背中から声をかけられ、サンジは振り返った。

ルフィと同じ位の身長。

すらりとした体の、若い神父。

眼鏡の奥の黒い目が、にっこりと笑った。



 「…あ…いや…。」



堂の中は薄暗く、サンジの頬が赤いのまではわからないだろうが



 「お体の具合でも?」

 「いや…ちょっと…いえ、なんでも…。」



しどろもどろのサンジ。



まさか、教会聖堂の中で天使の絵を見ながら、禁忌ともいえるセックスの妄想をしていたとはとても言えない。



 「絵が…あまり綺麗なんで…。」



やっとの思いでそう答えると、神父は笑って頭を下げた。



 「ルネッサンス期の作品です。この聖堂の象徴のひとつです。」

 「…へェ…見事なもんだ……あ〜…聞いていいかな?」

 「はい?」



ようやくサンジは自分を取り戻し、神父に尋ねる。



 「あの天使、どうして羽が6枚もあるんだ?」



神父はうなずき



 「あれは“熾天使”…セラフィムです。」

 「熾天使(してんし)…?」

 「はい。天使にも階級がある事をご存知ですか?」



サンジは首を振った。



 「世間一般に“天使”と呼ばれるものは、実は天使の位では最下級のものなのです。

大天使と呼ばれる天使ですら…ね。

 熾天使は、その天使の中でも最高位に君臨する天使です。…ほら、翼の後ろに炎を背負っているでしょう?

 熾天使セラフィムは、炎そのものだと言われています。

 ですが、この天井絵の作家は、そのセラフィムを人の形で表わしたかったのでしょう。

 そして、上級の天使達は皆、6枚以上の翼を持っているといいます。」



 「ふぅん…。」



サンジが、天井を見上げながらつぶやくと、神父は小さな声で言った。



 「申し訳ございませんが、堂内は禁煙でございます。」



言われて、慌てて煙草を口から外す。

と、神父は手に灰皿を持っていて、微笑みながらサンジにそれを差し出した。



 「…あ、悪ィ…スミマセンねェ…非常識で…。」



それを告げる為に、サンジに近づいてきたのだ。

神父は小さく笑って、また天井を見上げると



 「似ていますね。」

 「あ?」

 「あなたに。」



言われて、サンジの頬がまた赤くなる。

神父は、天井を見て、そしてサンジを見て言った。



 『天使サマ。』



そう呼んだゾロの声が、耳の奥で甦る。



すると、先ほどの夫婦の妻の方が、神父の言葉を聞き付けて



 「…まぁ、本当…似ているわ!…まぁ、なんて素晴らしいんでしょう!」



手を祈りの形に組んで十字を切る。

サンジは、一瞬苦笑いして



 「…いや、気のせいですよマダム…!髪の色が同じなだけで…!」



ここは、さっさとずらかるに限る。

いい加減にして戻らなきゃ、ナミさんが待ってるんだ。



と



 「はい。」



いつの間にか、すぐ側に赤い服の小さな女の子が立っていた。

両手に、小さな銀の器を持ち、それをサンジに捧げる様に差し出している。



 「…あ?」



すると神父が笑って



 「当教会で、参拝者の皆様にお分けしているマシュマロです。お気に召していただけたら、どうかご喜捨を。」



見ると、銀のボンボニエールの中に白い卵形のマシュマロが1つだけ入っていた。

つまり、この聖堂教会の収入源の1つなのだろう。

美味しかったら買って下さい、という意味だ。



 「どうぞ、天使様。」



少女の言葉に、周りにいた観光客が微笑ましげに笑う。

こんなに注目されてしまっては、食べない訳にはいかないし、買わない訳にもいかない。



 「ありがとう、小さなエンジェル。」



言って、サンジはマシュマロを手に取った。

人々が注視する中で、サンジはそれを口に運んだ。



舌に載せると、マシュマロはすぅっと口の中で溶けて消えた。



 (…味も素っ気もねェな…これで金取んのかよ?ボッタくってんじゃねェか?)



まぁ、観光地の土産物だ。

名物に美味いもの無し、なんて言葉も聞く。



だが、りんごのほっぺの愛らしい女の子が、ワクワクした目でじっと見つめていたら

その期待を裏切らないのがサンジなのだ。



 「ありがとう、美味しかったよ。ひとつもらえるかな?」

 「はい!天使様!」



少女は、腕にかけたバスケットから、リボンのついた包みをひとつ取り出して差し出した。



 「500ベリーです。」



しっかりした天使だ。

ご喜捨に決まった金額があるのかよ。

心の中で苦笑いして、サンジは500ベリー硬貨を少女に渡した。



 「ありがとうございます、天使様!」

 「ありがとうございます。神様のお恵みがありますように。」



神父は十字を切り、微笑んで頭を垂れた。



 「ありがとう。」



笑って、サンジはマシュマロをダウンベストのポケットに入れ、少女に手を振って聖堂を出た。

サービスなのか、神父が入り口まで送ってくれた。



 「あなたに神の祝福がありますように。」



神父が言った。

サンジはまた「ありがとう。」と答え、足早に広場を後にした。

一刻も早くその場を離れたかったサンジは、背中に投げつけられた視線に、まったく気づくことはなかった。





 「……てな、事があってね。遅くなってごめんよ、ナミさん。」

 「ううん、遅いってほどの時間じゃないわよ。ご苦労様。…さて、13日もあるのね。」

 「なァ、サンジ!海軍基地は!?」



ウソップが、真っ先に問うのはいつもこれだ。



 「無ェよ。」

 「無いのか〜〜よかった〜〜〜〜。」

 「うん、よかった〜〜〜。」



ウソップとチョッパーが胸を撫で下ろす。



 「…ただ、独自の軍隊は持ってるみたいだったな。やっぱり、時々は海賊に脅かされることもあるんだろう。」

 「上陸は危険かしら?」



ロビンが尋ねる。

歴史のある町だ。ロビンは上陸したいのだろう。



 「いや、観光で成り立ってる島だからね。旅行者の振りをすれば大丈夫じゃないかな?

 手配書の類がそんなに貼りだされているでなし。多分、やり過ごせると思う。」

 「やったー!上陸だァ!!」



ルフィが諸手を上げる。



 「上陸だァ!!」



ウソップ・チョッパー・フランキーが拳をつき挙げて声を揃える。



 「ヨホホホ!楽しみですね〜〜!!」

 「お楽しみの前に!毎度おなじみ、船番決めアミダくじ大会〜〜〜〜!!」



どんどんどん♪ ぱーぷーぱーぷー♪















 「運がなかったな、ルフィ。」

 「じゃ、がんばってね〜〜♪」

 「行ってくるわね、ルフィ。」

 「そう、しょげるな、スーパーにイチバン大事な仕事だぜ。」

 「よっ!船長!船番かっこい〜〜〜〜♪」

 「先に美味いモンいっぱい食ってるからな〜〜〜〜。」

 「ヨホホホホ!行って参りまぁ〜〜す♪」

 「2日の辛抱だ。男なら耐えろ。」



仲間の声に、ルフィはサニーの芝生に突っ伏していた半身を起こし。



 「ちくしょ―――――!!!アミダのカミサマのバカヤロ―――――ッ!!」



と、叫んだ。









(2008/12/18)



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