BEFORE 街の門を潜ってから、クルーはそれぞれに好き勝手な方向へ別れた。 ナミとロビンは賑やかな観光区域の方向へ、ウソップとフランキーは船の修理の機材を買う為に商店街の方へ、 ブルックとチョッパーは14の塔を回ると言っていた。 そして残る2人は、サンジが船へ帰りながらついでに押えておいたホテルへ直行した。 ベッドに入るには早過ぎる時間ではあるが。 「……んっ…は…ぁ…あ…っ…ん…。」 自分の上で、自ら身をくねらせているサンジを見上げ、腰を突き上げながら、ゾロは荒い息を洩らし 「…おい…そんなに飛ばすな…っ…イっちまうぞ…。」 「…イケよ…まさか…んっ…これ1回で…終わらせ…る…つもりじゃね…だろ…?」 「…クソ…言うじゃねェか…。」 「…は…ぁ…あ…あぁ…ん…っ…!」 「……何が…あった……?」 「………。」 艶やかに笑い、揺れながら、サンジは昼間の教会聖堂での一件を話した。 「…ったく…てめ…ェがっ…んなコト言うから…っ…。」 「教会で催しちまったか?とんでもねェ罰当たりだな?…このエロ天使。」 「言ってろ…よ…!」 ぐいっと腰を引き寄せ、ゾロは半身を起こしてサンジを抱きしめた。 「…で、素直になって悶えまくってるワケだ…。」 「………。」 サンジの頬が、さらに赤くなる。 「……いい子だ。」 金の髪を撫でて、唇に軽く触れる。 「…サンジ…。」 耳朶に唇を寄せて、名を呼ぶ。 「…サンジ…好きだぜ…。」 「……っ!」 顔中を指先で撫でながら、何度もキスを繰り返す。 繰り返す毎に 「……好きだ……可愛い……綺麗だ……。」 「…ん…んァ…あ…。」 言葉が紡がれる度に、サンジは震えて熱い溜め息を漏らす。 「……もっと乱れていいぞ…全部捨てて…もっと素直になれ……。」 だからおれも、と囁いて、ゾロもいつにない優しい熱い言葉を紡ぎ続ける。 絹の糸を紡ぐ糸車の音色の様に、ゾロは何度も何度も言葉を紡ぎ、 サンジの脳髄を痺れさせた。 「……ゾ…ロ…ぁあ…ぞ…ろ…ぉ…。」 「…サンジ…おれの天使…。」 ガラにもねェ。 心の中で、ゾロは自分で自分を笑う。 「…な…ァ…。」 「…あァ…?」 「…天使を犯す…のは…悪魔じゃねェ…。」 「………。」 「……天使は悪魔には屈しねェ…天使が膝を折るのは…神だけだ……。」 ゾロは小さく笑った。 「…ゾロ…っ!」 名を呼ぶ声に、ゾロは大きく肩を上下させ、息をつく。 一点に集中する快楽。 激しく、白い体を突き動かし、金の髪が踊る様に跳ねるまでに揺さぶり、 低く呻いて、ゾロは欲望の果てをサンジの中へ迸らせた。 薄闇の中に、サンジのタバコの火の赤がぽつんと浮かぶ。 そこに、唇がある。 手を伸ばし、煙草をつまみ取って、唇から顎へ指を滑らせ摘むと、引き寄せて自分のそれを重ねた。 抱きしめ、胸の中に抱え込み、そのまままたベッドへ横になる。 サンジは腕だけを伸ばし、ベッドの下に落ちているダウンベストを拾い上げ、 ポケットからあのマシュマロの包みを取り出した。 包みから、白い卵のようなマシュマロをひとつ摘み、歯に咥えると、 サンジは両手でゾロの頬を包んで引き寄せ、口移しでゾロの口中へ押し込んだ。 「甘ェ。」 暗がりの中でもそれとわかる、苦虫を潰したような顔。 いや、甘虫か? 「あれ?甘ェ?…っかしいな…味見したヤツは味も素っ気もなかったのに… …うわ、ホントだ、コリャ甘ェ…甘すぎ…。」 それでも、ゾロはふた噛みくらいで飲み込んだ。 「なんだ?試食品と、味も食感も全然違うぞ?」 「どこで買ったんだ?」 「例の教会……たまたま失敗作でも食わされたのかな……。」 「てめ、失敗作をわざわざ買って来やがったのか?」 「……買わない訳にはいかねェ状況だったんだよ。 …ま、いっか。チョッパーに取っといてやろ。灯り…点けるぞ。」 ベッドサイドのランプに火を点す。 決して明るい光ではないが、薄闇に慣れていた目には眩しい。 ゾロが顔をしかめて、目をしばたかせる。 「…シャワー…使うな。」 サンジの言葉に、ゾロは素直に抱いていた手を解く。 ベッドから降りたサンジに 「……交代は明後日だよな。」 「ああ、明後日の昼に、おれがルフィと交代。」 「……じゃ、たっぷり時間は有るな。」 「……今のツラ、鏡で見てみろ……エロ親父。」 悪態をつきながらも、サンジの唇は笑っている。 ゾロは弾かれた様にベッドから飛び降りると、素肌のままのサンジをいきなり抱え上げた。 「うおっ!?」 「おれもシャワー。」 「ちょ…!タンマ!ちょっと休憩!!」 「タンマなし。」 「うおいっ!」 いつになく、互いに気持ちが昂ぶっていた。 こんなに、素直に自分の感情をさらけ出して時を過ごすのは、初めてかもしれない。 結局、船番交代の日の朝まで、ゾロもサンジも一度も外へ出る事はおろか、一度も服を身につけなかった。 交代の日の早朝、ゾロが目覚めると、サンジは鏡の前でネクタイを結んでいた。 「…お。おはよ。」 「…もう、行くのか?」 「…ああ。朝飯、作ってやりてぇからよ。」 「交代は昼だろ?」 鏡の中のサンジが笑う。 「………。」 ネクタイを締め終えて、サンジは振り返りベッドに歩み寄ると、腰を下ろして 「………。」 ゾロを見つめ、軽くキスした。 「……妬くな。」 「妬いてねェ。」 また笑って、サンジは立ち上がる。 その背中へゾロが言う 「…夕方にはおれも船に戻る。」 と、サンジは 「…何言ってる。お前はここで、ルフィを待ってろ。」 「はぁ!?」 「…ルフィをここへ寄越す。…たまにはあいつと遊んでやれよ。」 「………。」 「ルフィと過ごしてやれよ。たまにはあいつに、てめェを独り占めさせてやれ。 わかってねェだろ?ルフィのヤツ、いつもおれに遠慮してくれてるんだぜ?」 「……そりゃ……。」 「ルフィと遊んで、ルフィと寝てやれ。きっと喜ぶ。」 「……天使様は慈愛深くておいでかよ。」 「ふざけんな。」 一瞬、本気でサンジが怒った。 「わかった。」 ゾロは手を上げてそれを制して言う。 「……お前の次はおれが船番だ。」 「そうだ。…だから、まだ日は残ってる。」 ゾロに顔を寄せ、サンジは子供に言い聞かせるように 「……また2日後…今度はサニーで2日間…2人っきりだ……。」 多分、その次の船番フランキーが戻ってきたら、おそらくウソップも戻ってきて船のメンテにかかるだろう。 これだけ長い時間を2人きりで過ごせる事は滅多に無い。 ゾロを独占し過ぎても、何だか罰が当たりそうでコワイ。 「2日も1人で船番したんだ。あいつにも、ご褒美やらねェとな?」 「…真面目にしてたかどうかは定かじゃねェぞ?ルフィだぜ?」 白い歯を見せてサンジは笑った。 「…じゃ、サニーに戻るな。」 「ああ…2日後。」 「うん、2日後。」 顔を寄せて、深く口付けを交わす。 「…ん…。」 「〜〜〜〜〜〜〜。」 しつこい ゾロのキスが、止まらない。 「…おい…ゾロ…。」 「………。」 「…ぞ…。」 「…ん…んン…。」 「………。」 「〜〜〜ん〜〜〜!ん!んん!!」 「……ちっ。」 ようやく、唇が離れた。 息苦しさに、サンジは呼吸を乱してゾロを睨みつける。 まだ裸のままのゾロ。 抱えたサンジの腰を離さない。 真正面にサンジの青い目を見つめて、真剣な顔で言う。 「……久しぶりにてめぇのスーツ姿見たら……。」 「………見たら?」 「……引っぺがしたくなったな。」 「!!!!!!」 「最後に一発させてくれ。」 冗談!! サンジは慌ててベッドから飛びのき、ドアまで逃げようとした。 だが、ドアノブに手をかけようとした瞬間、ゾロに背中から掴まった。 「…せっかく着たのに!!」 「また着ろ。」 「あああああ!シワになる!!」 2日もぶっ続けで興じていた。 さすがにキツイ。 なのに (…おれも若いってゆーか…スキっつーか…なんで感じちまうかな…。) ドアの板1枚隔てた向こうは日常だ。 そのドアにすがるように、サンジは背中から受ける愛撫に息を乱す。 下だけをずらされ、スーツのジャケットをシャツごとたくし上げられて、 まだ柔らかく濡れてさえいる場所へ、ゾロは自身を沈めた。 この2日で何回ヤって、何度サンジの中へ注ぎ込んだろう? なのに、全く尽きる事を知らない自分を、自分で褒めてやりたいと思う。 サンジへの想いが尽きる事を知らないように、体も、尽きることを知らないのかもしれない。 「…あ…あ・あ…ああ…っ…。」 ああ、ヤベ。 やっぱ、ちっとかかりそうだ…。 2日後、またたっぷり楽しむ為に、束の間の休息もいいかもしれない。 ただ、ルフィのお守りじゃ倍疲れるかもしれねェな…。 ルフィと、久しぶりに2人で過ごすのも悪くない。 仲間が増えてから、しんみり話をすることもなかった。 特にスリラーバークを出てから、一緒に過ごしてやる事もしなかった。 あいつに、逆に気を遣われてるってのもなんだしな…。 「…ゾロ…も…いい加減にイケ…よ…っ…。」 「…ん?…あァ…もちっと…。」 さらに身を進めて、サンジの背中に頬を押し当て激しく腰を前後に揺すった。 「…あ…あああっ…!!」 刹那の声。 抱きしめ、今この時の最後を惜しむ。 ふと 「…ん?」 ゾロは眉を寄せた。 だが 「…ほら…もう、抜け…!…ったく…風呂に入る時間もねェのに…。 …スーツにシミつけなかっただろうな…?」 「ん?…あ。ああ……全部中に出したからな。」 「〜〜〜〜〜〜。」 頬を染めて、サンジは天を仰ぐ。 「ま、いいや……じゃあな。」 「ああ。」 「2日後、サニーで。」 「……ああ。」 髪を撫でつけ、服を直して、あでやかに微笑むとサンジは新しい煙草を咥えた。 軽く手を挙げ、ドアを閉めた。 遠ざかる足音を聞きながら、ゾロはふっと息をついた。 「………。」 さっき、達した時の違和感が甦った。 「…あいつ…背中でも打ったか?」 背中に、奇妙な違和感があった。 どんな風に、と問われたら答えられないかもしれないが、いつも触れ、 撫でている背中の感触ではなかったような気がする。 「…まぁ…服の上だからな…。」 頭をポリポリと掻いて、フロントへの伝々虫を手に取ると酒と食べ物を注文し、またベッドにゴロンと横になる。 1人きりになって初めて、自分が疲れている事に気づいた。 ルームサービスを受け取ってすぐ、ゾロは酒にすら手もつけず、そのまま深い眠りに落ちた。 その事を、同じ日の内にどれほど悔やむことになるのか、その時はまだ、思いもせずに。 (2008/12/18) NEXT BEFORE 熾天使は笑うTOP NOVELS-TOP TOP