BEFORE
サン・ジミニャーノ島を離れて数海里。
日が落ちる前にサニー号は帆を上げた。
静かに夜は更けていき、深夜、時折波が船底を叩く音がしている。
夜半甲板で、ゾロはサンジとばったり出くわした。
「…起きてたのか?」
「…ああ、明日の仕込み…。」
短く、それだけを答える。
それきり言葉もなく、ただじっと互いを見つめていた。
そのゾロの目が、背中の羽に移ったのを見て、サンジは
「…気味が悪いか…?」
ゾロは首を振った。
「…お前に似合ってる。…似合ってるから…ヤベェ…。」
「なんだ?そりゃ。」
サンジは笑った。
笑いながらゾロに歩み寄り、その首に腕を絡める。
「恐れ多くて悪さも出来ねェか?」
「…そんな事はねェ。」
「…こんなんでも…いいか…?」
ゾロは、いつもの憎らしげな笑顔で
「いいに決まってんだろ?…昼間、何を聞いてた?」
「………。」
小さな笑いが腕の中で聞こえた。
ゾロはそのままサンジの手を引き、目の前にある扉を開ける。
アクアリウムバーのドアだ。
中は暗く、巨大な水槽の上部から漏れる月明かりが、ほんのりと水の中で揺らめいている。
何匹かの魚が、侵入者に驚いたかのように目を覚まして、飛ぶように水槽を横切って言った。
腰を抱え、キスを繰り返しながら、ゾロはそのまま水槽に沿って備え付けられたソファの上にサンジを座らせた。
キスを止めずに自分も横に座り、シャツの上から肩を撫で、腕をさする。
長く熱いキスが止んだ時、サンジが甘い息を洩らした。
暗がりの中でもそれとわかる青い瞳を真っ直ぐに捉えて、ゾロの指がサンジのシャツのボタンにかかる。
「…背中…どういう仕組みになってんだ?」
「…ああ、切ってスナップで止めてあるだけ…ナミさんにやってもらったんだけどよ…これからどうしようかな…。」
ぷっとゾロが笑った。
「ルフィのヤツ、今度は仕立て屋がいるとか言いそうだ。」
「海賊になろうなんて仕立て屋がいるかなァ?」
「いるんじゃねェのか?物好きが1人くらいはよ。…ところで、どっちで洗った?」
「あ?」
「石鹸かシャンプーか。」
「ああ…。」
サンジは苦笑いした。
「とりあえず、今日はお湯だけで…試しにさ、こっちが石鹸。こっちがボディソープ。
こっちシャンプーで洗ってみたけど…どれもそんなに大差ねェんじゃねェかな?」
思わず、苦笑いするしかないゾロ。
ナミやロビンに心配させまいと、羽は何で洗ったらいい?と言ってはみたが。
かなり、強がって見せていた。
やっぱり洗いづらいとサンジが笑った。
その言葉をキスで止める。
焦らすことなく、ゾロは全ての服をサンジの肌から剥ぎ取った。
素肌と、白い6枚の翼だけの姿。
ゾロもまた全て脱ぎ捨てて、天使の体に身を重ねる。
ぶるっとひとつ震えたサンジに、「寒いか?」とゾロは尋ねたが、首を振った。
躊躇うことなく声を挙げ、思うがままに身をくねらせて、サンジはゾロの優しくも激しい愛撫に応えた。
肌を探る手がとてつもなく熱い。
サンジを呼ぶ名と共に吐かれる息と声。
普段、達する時以外はあまり声を洩らさないゾロが、足を動かし、
キスをする度、低く呻いてさらに肌を強く合わせてくる。
「…っ…く…。」
「…ゾ…ロ……あ…すご…っ……。」
いつになく興奮しているのはわかる。
有り得ないこの姿に、ゾロは激しく昂ぶっている。
不本意なこの状況を悔やみ、あの神父を許せないと毒づきながら、
それでも“天使”を犯すこの状況に、どうしても高まらざるをえない。
「…サンジ…っ…サンジ…!」
翻弄される波に、サンジは身を委ねきって熱い声を挙げた。
だが、その時
「触るな!!」
サンジが叫んだ。
いきなりの怒声に驚き、ゾロは半身を跳ね上げた。
一瞬、暗示が戻ったのかと思った。
ゾロの下で、サンジは小刻みに震えながらゾロを見上げ、泣きそうな顔で
「…羽に…触るな…。」
「…サンジ…?」
「…頼む…羽には…触るな…。」
愛撫の手が、思わず翼に触れていた。
触れた手で、そのまま撫で下ろしただけなのだが。
「…羽も…感じてるのか?」
「……いやだ…触るな…それだけだ…。」
「………。」
セックスで、「いや」と、思わず口走るあの感覚ではない。
本当に、触れられる事を嫌悪している。
「わかった。触らねェ。」
「………!」
ゾロの言葉に、サンジはすがるように首に腕を巻きつけた。
そのまま頬にキスし、腰を抱いて引き寄せる。
「…挿れろ…。」
サンジが耳元で囁いた。
正常位で、このまま揺さぶったら羽が傷つく気がした。
正面から向かい合って座ったまま、ゾロは自身をサンジの花芯へ押し進めた。
「…あ…ああ…っ…ゾロ…!」
「………。」
「…もっと…もっ…と…奥…まで…!」
「…おい、サンジ…そんな動くな…っ!」
「…もっと…おれの中…てめェでいっぱいに…して…ェ…。」
「…サンジ…?」
「…ゾロ…っ!」
すがりつき、震えるサンジを固く抱きしめる。
と
「………!!?」
翼が
「サンジ…。」
「………っ!!」
サンジが激しく首を振った。
白い頬に涙が溢れる。
口惜しげに噛み締めた唇が赤い。
翼が、激しく震えていた。
うねり、波だって、まるで翼自身が、ゾロの愛撫に反応しているかのように。
「…くそっ!!」
ゾロはサンジの腰を抱え、そのまま激しく揺さぶった。
翼に手を触れず、肌だけを愛撫して。
「…ひっ…!…あっ…!あっ…!あ!…ああっ!…あ…!!」
「…っ…!!」
ゾロの行為が激しくなる程に、翼も大きく震える。
サンジが感じると、翼も感応していた。
「…あ!…ああっ!!…ゾロ…!…ああ…ヤダ…こんな…!!ああっ!!」
「…クソ…っ!!」
「…う…く…うう…っ!」
「…サンジ…イケ…!ガマンするな!!」
「…ヤダ…嫌だ…!!こんなの嫌だ!!」
ゾロは激しく唇を吸い、離して、叫ぶ様に言う。
「…お前の中にいるのはおれだ!!受け止めるのはお前だ!!イケ!!」
「……ゾロ…ォ……!!」
「イクぞ…お前もイケ…!!」
「…ひっ…!!…んぁ…あ…あ…ああ!!……あああああああっ―――!!!っ!!」
その瞬間。
ゾロは奇跡のような光景を見た。
達して、大きく顎を反らせたサンジの背中にある翼が、達すると同時に左右に大きく広がって白い羽を散らした。
ぴくぴくと翼は震えて、サンジがゾロの腕の中に崩れるのと同時に、力尽きた様にしなだれて折れた。
「…っ……。」
はぁはぁと荒い息が交わる。
触るなとサンジは言ったが、ゾロは、しおれた翼にそっと触れた。
びくん
激しく震えた。
瞬間、サンジが怒りを含んだ目を光らせたが、その同じ目に涙を溢れさせた。
呆然と、ゾロが言う。
「…こいつ…イったのか…?」
「………。」
しっかりとサンジを抱きしめ、ゾロは呻く様に大きく息をつく。
「…ゾロ…。」
「…ん…?」
「……くれ…。」
「あァ…?」
「…切ってくれ。」
「…何?」
「この羽、切ってくれ…。」
「……!!」
何かを言おうとするゾロの言葉を遮り、サンジは叫ぶ。
「お前の手で感じるのはおれだけだ!!お前のでイクのもおれだけだ!!
お前の手で…お前のモンで…おれ以外のヤツがイクなんて許せねェ!!
おれの中に、お前以外のモンが入ってるなんて耐えられねェ!!」
同じ想いを
その瞬間に共有した
だが
「………。」
「…ゾロ…。」
涙に濡れた声。
「愛してるよ…。」
かすれた小さな声に、ゾロは床に置いた和道一文字を取り上げた。
薄闇に、ひと筋の白銀が光る。
「…一気にいくぞ。」
「どうぞ…。」
サンジは背中を向けた。
すぐ側に、煙草が落ちていた。
1本を抜き取り、火をつけ、紫煙をひとつ吐き、静かに目を閉じる。
「……来い。」
「〜〜〜ううううううううううううう〜〜〜〜〜!!!」
「…だから…悪かったって…。」
「うううううううううううう〜〜〜う〜〜〜う〜〜〜う〜〜〜〜っ!!!」
「…もういい加減にしろよチョッパー、ゾロもサンジも謝ってるんだからよォ。」
ウソップの言葉に、チョッパーは顔中涙と涎と鼻水だらけにして、ぐりん!!と振り向くと
「ゆどぅでる゛がぁぁぁ!!!あでほど…あでほど…いどぢにががばどぅっで…
だんどぼだんどぼいっだどに…ドドもダンヂも゛…どぼじでひどどゆーごどぎがだいんらよぼぉ〜〜〜!!
だずがっだがだよがっだげど…どぼずずづぼりだっだんだよぼぉ!?」
(訳:許せるかぁぁぁ!!あれほどあれほど、命に関わるって何度も何度も言ったのに、
ゾロもサンジもどーしてゆーこと聞かないんだよぉぉ!!
助かったからよかったけど、どーするつもりだったんだよぉ!?)
「悪ィな。」
あっさりと言うゾロに、またチョッパーはキレる。
「悪いで済めば医者はいらねェ!!おれだって…おれだって、一生懸命調べて…
道具とか、自己輸血の準備とか、色々段取りしようとしてたのに!!」
「…あ〜、ごめんごめん。」
医務室のベッドの上から、うつ伏せになったままサンジが言った。
顔がかなり青い。
「解剖の準備とか、ホルマリンとか、標本とかにしたかったのに!!
もっと生体のまま研究したかったのに〜〜〜!!!」
「って、そっちかよ!!?」
「ヨホホホホホ!!コワイ、解剖コワイ!!」
改造人間フランキーと、死んで骨だけブルックがツッコんだ。
ナミが尋ねる。
「で、その天使の羽、捨てちゃったの?」
「ああ。6枚全部海に捨てた。海王類が食ってくれるだろ。」
ゾロの答えに、ナミは大きく肩を落とし
「あ〜あ、残念。」
「何の金儲けの算段してたんだ!!?」
ウソップが
「なぁ、チョッパー。それでサンジの背中、大丈夫なのか?
切った痕とか…こう根っことか残らねェのか?」
「…うん…。ゾロの切り口が鮮やかだったから、痕も残らないよ。」
3日前、ゾロに起されて夜中に医務室へ行って見ると、血塗れのサンジがベッドにうつ伏せにされていた。
驚くチョッパーに、ゾロは一言『頼む』とだけ言った。
一目で、ゾロがサンジの背中の羽を切ったのだとわかった。
そして慌てて手当てするチョッパーの前で、サンジの血塗れの背中から何かがずるりと這い出してきた。
「!!」
「!?」
生き物だった。
赤茶けた、目玉だけ異様に大きい、未成熟の胎児のようなグロテスクな姿。
これが本体だ。
翼を繋いでいたらしい、6本の血管や神経をずるりと引きずって、
じりじりと動き震える姿は、どう見てもバケモノだった。
「…うわああ…っ!」
「…!!」
次の瞬間、ゾロは刀でその『物体』を貫いていた。
ピクっと震えて、それは絶命し、動かなくなった。
こんなもんが…!!
「うわっ!!ゾロ!!?なんだその腕!!?」
「………。」
ゾロの左腕から、サンジのではない血が滴り落ちていた。
狭い医務室での騒ぎは、ダイニングラウンジまで丸聞こえだ。
読んでいる本に目を落としながら
「翼を斬ったその返す刀で、自分の腕まで切ったなんて…。」
ロビンが、独り言のように言った。
「怖いわね…そして強い(こわい)人…。」
それを聞いていたのは、ソファに寝転がっていたルフィだけだった。
「……大丈夫だ。」
「………。」
「……おれがいる…みんながいる……大丈夫だ……。」
ロビンは本から目をあげ、ルフィを見て微笑んだ。
狂ったまま、この先へ行くというならそれもいい。
暴走し、あの神父の様に狂ったとしても、ゾロの側にはおれ達がいる。
何より、サンジが側にいる。
命ある限り、サンジはずっとゾロの傍らに立っていてくれるだろう。
ルフィの背中を見つめながら、いつまでも、振り返れば必ず2人はそこにいるはずだ。
「あ!起きちゃダメだサンジ!!」
チョッパーの声がした。
「大丈夫だって…ずっとうつ伏せで寝てるの辛いぜ?起きてた方が楽なんだよ。
治療、終わったんだろ?」
「サンジくん、ムチャしちゃダメよ。」
「あああvvvナミさん、心配かけてごめんよぉ〜〜vvでも、もう大丈夫だから!
ずっとヤローのメシ任せっきりでごめんね?」
「え!?サンジ、飯の支度できるのか!?」
「ああ。もういい加減、禁断症状だ。とびっきりのフルコース作ってやるぜェ!!」
「ヨホホホホ!楽しみです〜〜〜♪あ、ディ〜ナァ〜アっ!あ、それ♪ディ〜ナァ〜アっ!」
「ディ〜ナァ〜アっ!ディ〜ナァ〜アっ!」
「うううう!これでナミの暴力ぼったくりレストランから解放される〜〜!
それ!ディ〜ナァ〜アっ!ディ〜ナァ〜アっ!」
「ディ〜ナァ〜アっ!ア、イエ♪ディ〜ナァ〜アっ!オ、イェ♪ディ〜ナァ〜アっ!」
ついさっきまで怒りまくっていたチョッパーと、ウソップと、そしていい歳をしてフランキーも。
がやがやと騒がしく医務室のドアが開き、バイオリンを弾き鳴らしながらブルックが真っ先に飛び出してくる。
「ディ〜ナァ〜アっ!ディ〜ナァ〜アっ!」
「ヨホホホホ♪ヨッホホッホ♪あ、ビンクスの酒を〜〜〜〜♪」
ルフィが起き上がった時、サンジと目が合った。
いつもの笑顔で、ルフィに言う。
「ルフィ、何食いたい?」
ルフィもいつもの顔で答える。
「肉!!大盛り!!」
「了解!キャプテン!!」
叫んで、ルフィも歌の輪に入る。
入れ替わるように、ゾロがソファに腰を下ろした。
腕まくりをしながら、サンジは紫煙を吐いてキッチンに入った。
「さよなら港 つむぎの里よ♪ ドンと一丁唄お 船出の唄〜〜♪」
「金波銀波も しぶきにかえて♪ おれ達ゃゆくぞ 海の限り〜〜♪」
仲間の愛しい姿を見て、笑うサンジをゾロは見つめる。
その視線を受け止めて、サンジもまた微笑んだ。
天使の様に、艶やかに。
END
(2008/12/18)
BEFORE
あんまりサンジをいじめるのはよそう。
そう思いながらつい。
自分的に有りえないくらい、サンジを
愛しすぎているゾロを書いてみました。
『天使』のテーマで、始めはコメディ
で書こうとしてたんですが。
…いつ間違ったんだろう…?おかしいなぁ。
舞台のモデル『サン・ジミニャーノ』
イタリアの街です。
ここもゼヒ訪れたい場所です。
ちょっと前にぱたのブログへ
『サンジミニャーノ』の検索が『サンジ』
で引っ掛かって
来訪された方がおられました(笑)
ごめんなさいね。こんなんで。
宗教的な概念とかはあまり追求しないで下さい…。
愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。
愛は自慢せず、高慢になりません。
礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、
怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。
すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。
(コリントI 13章4節〜7節)
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