BEFORE



2人が宿に戻った時、もう日付は変わっていた。

どれほどの時間、あの老婦人の小屋に…あの時間軸にいたのだろう?

よく戻って来られたと、思わず溜め息をつく。



仲間はもうそれぞれの部屋で休んでいるはずだ。

ゾロとサンジの隣の部屋からも、ルフィの豪快ないびきが聞こえている。

あれでは一緒のウソップもたまらないだろうにと思ったら、ルフィのそれに重なる様にして、ウソップのそれも聞こえて来た。



部屋のドアを閉めた途端、ゾロはサンジを背中から抱きしめた。



 「………。」

 「…抱きてェ…。」



いつもなら、まず悪態が返ってくる。

一通りの悪態をつき、つき終えてから、渋々という風に目を閉じてキスを許す。

だが今は



 「……ん……。」



素直にうなずき、目を閉じた。

サンジを振り返らせ、唇を重ねる。



いつもは、重ねるだけのキスから半ば強引に歯を開かせて、それから舌を咥内へ挿し入れる。

キスと愛撫で、少しずつ体の緊張を解いて、それからようやくネクタイに指を掛ける事を許される。

そうして、我を忘れてすがりつくまで、ゾロはいつもとんでもない手間と時間を掛ける。

だが惚れている。

惚れているから、その手間を惜しむ事は無い。

それでも時には、自分から甘えてすがってきてほしいと思う事は多々ある。

だが今、サンジは、深いキスも愛撫も、拒まずに素直に受け入れ、甘い吐息を漏らしていた。



が



 「…待て…ゾロ…ちょっと待て…。」

 「…待てねェよ…。」

 「…風呂に…入りてェ…。」

 「…いらねェ…。」

 「…なァ…頼むから…。」

 「………。」

 「…キレイにしてェんだ…。」

 「……じゃあ…このまま行こう。」



ゾロの言葉に、サンジはうなずいた。



ネクタイを解き、シャツのボタンを外し、スーツを肩から滑らせ、ゾロの手が蠢くと同時にサンジの手もまた、ゾロのシャツの裾にかかる。

意を察して、自分で3本の刀を外し、サンジに口付けながらテーブルの上にそれを載せた。

2人の歩いた後に、1枚ずつ落とされた衣服。

辿った先の浴室の中から、水音と、小さな含み笑いが聞こえてくる。



 「…おい…やめろ…くすぐってェ…。」

 「キレイにしてェんだろ?隅々まで洗ってやるよ。」



バブルエッセンスを落とされた浴槽は、シャワーから注がれる湯ですぐに泡に包まれた。

その中で、まるで子供がじゃれあうように、互いの髪や背中を擦り合った。

時折肌が重なると感じる、ぬるりとした感触があまりに艶めかしく淫らで



 「…っ…あ…っ…。」

 「…エロい声…。」

 「悪いか…。」

 「悪かねェ。」



口づけて、ゾロは泡まみれのサンジの髪に顔を埋めて、何度もこすりつけ頬ずりする。

その仕草がまるで



 「猫かよ。」



サンジが、くすぐったさに笑いながら言った。



 「にゃあ。」



思いっきり野太い声が返る。

サンジは笑い



 「…可愛くねェ。猫ってのはこんなカンジだ。」



する と、しなやかに身を伸ばし、全身をゾロの肌にぴったりと密着させ、サンジは一度だけ、その体をこすりあげた。



 「にゃん。」

 「………。」

 「にゃおん。」



ぺろん



サンジの舌がゾロの顎を舐めた。



と



激しい水音がして、サンジは浴槽から引きずりあげられた。

同時に、降り注ぐシャワーの水で一気に泡を流し落される。



 「…うわっ!冷た…!!」



叫ぶより早く、サンジは抱えあげられた。

そのまま、ゾロは弾かれるように浴室を飛び出し、ベッドの上へ濡れたままのサンジを投げ出すとその上に覆いかぶさった。



 「…ん…っ…!」



激しく絡まる舌の愛撫に、サンジも貪るように応えてくる。



 「…ゾロ…ゾ…ロ…ゾロ…!」



本当は泣きたいのだろうと思う。

だが泣けない。

だから



 「…ゾロ…あ…そこ…そこ…イイ…スキ…。」

 「…どこだ…?ここか?」

 「んっ…!あ!」

 「…当たった…。」



部屋に入ってから灯りを灯していない。

だが、カーテンを引かない窓から月明かりが射しこんでいる。

その中に浮かぶ白い体が、いつになく淫らに乱れ



 「…あ…んあ…あああっ…!」

 「…サンジ…。」

 「…ん…?…な…に…?」

 「…灯り、点けていいか?」

 「………。」

 「見てェんだ。」



いつものサンジなら、激しく首を振って拒絶するだろう。

しかし



 「…うん…。」



素直に、サンジはうなずいた。

だが、やはり恥ずかしいのか、ゾロがサンジのライターを使ってランプに灯りを入れている間、サンジはずっと腕で自分の顔を覆い隠していた。



ぽぅ



オレンジの光が辺りを映しだす。

一瞬、サンジの体が強張ったが



 「………。」



そっと、ゾロがその腕を解くと、素直にその腕をゾロの首に絡ませた。



抱きしめ、キスを繰り返し、頬や首筋に口づけてから、ゾロは半身を起し横たわるサンジを見下ろした。



 「―――っ…!」



サンジが驚いたように息を吸い込む音がした。



白い腕 白い胸 白い首筋



細い指 桃色の掌 白い爪



緋色に染まり、固く震える乳首にキスして、腹に当たる固くなったものへ手を伸ばす。



 「…あ…やっ…。」



震えて、蜜を零すそれの先端を指でひっかくと



 「は…んあ…っ!」



ぷちゅん と、わずかに蜜が溢れた。



 「…もう少し…がまんな…。」

 「…あ…ああ…。」

 「…キモチいいか…?」



ゾロが問うと、サンジは手で顔を隠した。

そして、小さな声で



 「………イイ………。」



ゾロは笑い、片方の手をサンジの後腔に這わせた。

灯りに目が慣れてくると、わずかな光源でも鮮やかに情景が浮かび上がる。



乱れたシーツの上に、快感と恥じらいに身をくねらせる愛しい姿がある。

その昂ぶったものも、痙攣する秘部も。

じっと見つめられている事に気づいて、サンジは固く目を閉じて身をよじったが



 「…ダメだ…。」



囁くように言ったゾロの声に、サンジは大きく震えた。

不意に抱きすくめられ、髪や首筋、背中から臀部へ、キスを浴びせられた。



 「…あ!…ああ…!!」



ゾロの昂ぶったものが、身を擦り寄せられる度に背中や腰に当たり、その都度サンジは小さな悲鳴をあげた。

その、嗚咽の様な声を漏らす唇が愛しい。



 「…サンジ……口…いいか?」

 「………。」



青い瞳を潤ませて、ひとつ生唾を飲み込んで、サンジは黙って身を起こす。

そして



 「……っ……。」



ゾロの、堪えるような小さな声が天井に吸い込まれていく。

咥えられた瞬間、背筋を電流が走った。

躊躇いの無い舌が、ゾロの肉を喰んでいる。



ぢゅぷ…ちゅ…くちゅ…じゅ…



サンジの金の髪が揺れている。

白い指が、それを捕らえ、時折筋に爪を立てる。



フェラチオは何度か強要した事がある。

その度にサンジは、「コックの口だぞ!」と拒んだ。

それでも、強姦の様に抱くような勢いで、無理矢理咥えさせたりもした。

本当に、この行為は好きじゃないのだろうとわかっている。



なのに、嗜虐と欲求が止まらない。



本当に男は身勝手だ。



相手を恋して、愛してやまないのに、こんなひどい仕打ちを平気でやってのける。



 「…ん…っ…!」



その瞬間、ゾロはサンジの頭を引き離そうとした。

それだけは、させてはいけないと思った。

だが



 「…おい…コック!」



激しい舌は止まらず、ゾロは堪え切れないまま



 「…っ!…くぅ…っ!」



荒い息が交わる。

ゆっくりと上げられたサンジの頬に、飛沫の跡があった。

唇にこびりついたそれを、サンジは指で拭って舌で掬い



 「………。」



へへ、と、小さく笑った。



その笑顔が



 「…サンジ!!」

 「…っ!」



愛しくて



愛しくて



愛しくて



 「…ゾロ…好きだ…。」



 「…ああ…!」



 「…好きだ…すげェ好き…。」



 「おれもだ…それ以上に好きだ…!」



サンジの腕が、強くゾロの背中を抱きしめる。

抱きしめ、感じて、喉を大きく反らせて



 「…ゾロ…ゾロ…。」



呼びながら、背中を何度も掻き毟る。

鋭い痛みが、腹の底から激しい快感を呼び起こす。



 「…サンジ…!」

 「……ん…っ…あ…?…。」

 「…離れるな…ここにいろ…。」

 「………。」

 「おれの隣から居なくなるな…!」

 「…ゾ…ロ…。」



強く、ゾロの背中を抱きしめながら



 「…それは…おれの…セリフだろ…。」

 「………。」

 「…おれの…。」

 「……っ!」

 「…ゾロ…今日…おれ…なんか変だ…。」

 「…変…か…。」

 「…うん…。」



いつの間にか、白い頬に涙。



 「…変だ…よ…。」

 「変でいいじゃねェか…。」

 「………。」

 「…好きだよ…サンジ…。」

 「…うん…。」

 「……好きだ……。」

 「…好きだよゾロ…。」

 「ああ、好きだ…。」

 「…100年も200年も…空の果てまでも大好きだよ…。」

 「………。」



答えは無く、だが固く強い腕で力の限り抱きしめられる。



 「…ゾロ…。」



重ねた唇から、吐息が漏れて交わる。



 「…ゾロ…欲し…い…。」

 「…ああ…ちょっと待ってろ…解してやる…。」

 「…ん…。…!あ…!ああ…っ!?」



ビクンと身を震わせて、半身を起そうとしたサンジを、ゾロは力でねじ伏せ抑えつける。

サンジは、両足を大きく広げられた格好で、ベッドの上で仰向けにされた。



 「…あ…ぁあ…っ…。」



舌を這わせながら、指で撫で摩り、その指をゆっくりと挿し入れ捩じ込む。

ピチャピチャと、いやらしい音が響いている。



 「…あっ…あ…ぁあ…っ…。」



ビクンビクンと腰を痙攣させ、サンジの唇から小刻みに呼吸が漏れる。

恥辱に震えるような表情、だが明らかに感じている顔で



 「…ゾ…ロ…やっ…あ…。」

 「………嫌か?」

 「…ん…ううん…。」

 「……指…もぉ…いいから…てめェの…。」

 「…おれの…?」

 「…てめ…ェの………が……欲……しい…。」



ゾクリ



背中を走る快感に、ゾロの嗜虐性が鎌首をもたげ、牙を剥く。



 「…ダメだ…まだ解れてねェ…。」

 「…も…いいから…。」

 「…待て…。」

 「…なァ…。」

 「………。」

 「…ゾロ…なァ…。」



ひくん と腰を震わせて、サンジは



 「…待てねェ…。」

 「………。」

 「…来てくれ…ゾロ…。」



手を差し伸べ、微笑んで



 「…好きだよ…。」



その涙声の一言に歯噛みし、獣が呻くかのように



 「てめェのせいなんだぞ…!!」

 「……っ!」

 「おれが…どんだけてめェに惚れてるか…!!」

 「…ゾ…ロ…。」

 「…この…奥の奥の…ずっと奥にあるものまで全部…欲しいんだ!!」

 「………。」

 「サンジ…!」



まだ、挿入するには固く乾いた場所へ、ゾロは思いっきり身を進め、深く沈める。



 「…あ…あああああああああああっ…!!」

 「この奥の…ずっと奥のモンまで!!」



突き上げ、揺さぶりながら、ゾロは拳でサンジの左胸を叩いた。



 「…この奥まで全部…!」

 「…てめェのモンだよ…!」



青い目に涙を溜め、苦しい呼吸を漏らしながら、サンジは叫ぶように言い放つ。



 「…全部…全部…てめェの…だか…ら…!」

 「……っ!」

 「……おれは…ずっとお前の…隣…に…いる……おれは…置き去りにはされない…おれは…。」

 「……サンジ…!!」

 「…は…っ…ああ…あ!…あああっ!」



魂が枯れ果てて、消えてしまうまで、おれは…。



腰を振り、背中を掻きむしりながら、いつになく淫らな声を隠さずに挙げる愛しい者に、ゾロは何度も口付け、熱い楔を打ちつけながら



 「…サンジ…サンジ…。」



名を呼び



 「…好きだぜ…愛してる…。」



囁き続ける。



 「…ああ…ゾロ…うん…ぁ…おれ…も…好き…だ…ん…好き…すげェ好き…。」



小刻みな、だが規則的な荒い息。

軋むベッドの音。



 「…んん…あ…すご…すげ…ェ…ゾロ…イイ…も…イ…。」

 「…このままイケるか…?…ケツで…イケそうか…?」

 「ん…!ん…っ…う…。」

 「…イケそうだな…。」



サンジは何度もうなずき



 「…この…まま…っ…このままイって…あ…あああ…っ!!」

 「…このまま正面でいいのか…?…てめェの好きな体位になってやっぞ…!」

 「…このまま…このまま…っ!」

 「…じゃあ…目ェ開けろ…!」

 「……!!」

 「…目ェ開けて…おれを見ろ!!」

 「…あ…ああ…あっ…!」

 「…てめェにしか見せねェ顔だ…おれしか見れねェ顔だ…!」

 「…う…う…あ!…あ・あ…!」



真正面から繋がり、必死で首を起こしてサンジはゾロの目を見つめる。

黄金色の目が、蕩けるように自分を見ている。



 「…ゾロ…!」



この目を、他の誰かに見せるなんて嫌だ…。

やっぱり嫌だ!

誰かにコイツを奪われるのは嫌だ…!!



野望もある。夢もある。



けど、それらにすら、コイツを渡したくない。



 「……あ……!」



無理なのはわかってる。

そして、それを捨てちまうようなコイツなんかおれはいらない。



おれが愛したのは



 「…ゾロ…!ゾロ!」



夢を捨てず誇りを捨てず、信じたものを誇って死んだ、あの男の様なお前だ。



 「…サンジ…!…いいか…!?」



荒く激しい息でゾロが叫ぶ。



もう、保たない――。



 「…いい…!…あ…イク…イ…!!」





見つめ合ったまま、一瞬止まった呼吸。





固く握り合った手と、溶けるように重なった半身。

ドクドクと脈打つ激流が、サンジの体内を流れていく。



はぁ はぁ と、ふたつの呼吸音が重なる。



ゾロは、サンジの顔の両脇に手をついたまま、陶然と自分を見つめるサンジに



 「……少し…このままでいいか……。」

 「……うん……。」



繋がったままの部分が火の様に熱い。

人間という生き物として、本来ならば許されないこの繋がり。



だけど



 「…ゾロ…。」

 「…ん?」



サンジは笑い



 「…おれは…こういうヤツだから…お前みてェに腹の中のもの全部…曝け出して見せるなんてできねェんだ…。」

 「……ああ…知ってる……。」

 「……でも……。」

 「言わなくていい。」

 「………。」



ぐっと身を奥へ進め、さらに深く繋げて、抱きしめながらゾロは言う。



 「……お前に出逢えてよかった……。」

 「………。」

 「…ありがとう…。」



サンジの目から涙が溢れる。



生まれてきてくれてよかった。

生き延びてくれてよかった。

出逢えてよかった。



そんな風に、ずっと言葉に出して言われたかった。



その言葉を惜しげもなく、照れ臭さもなく、この男は言ってくれる。



ルフィも、仲間も。



ここにいてくれてありがとう。 と







どれほど遠くに離れても

どれほど何かに心を捕われていても

どれほど友を想うとも







あなたを愛しています、ノーランド。



そんなあなたを愛しています。



そんなあなただから、愛しています。







今までも、今も、これからもずっと



私を



愛してくださってありがとう…











 「ゾロ。」



その声は、快楽の名残の声ではなかった。

いつもの、甲板の上から彼を呼ぶ時の、あの力に満ちた声と同じだった。



 「おれを愛してくれてありがとう。」

 「………。」

 「愛してるよ…。」



黙って、ゾロはうなずいた。



 「……ゾロ……。」



わずかに、声が濡れる。



 「……もう一度…シて…くれね……?」

 「頼まなくたって、てめェわかってんだろ?」

 「……そりゃな…なんか…すっかりまたお元気になっちまってるみてェだし…?」

 「…てめェん中が良過ぎん……だ!」

 「うぎゃっ!?」



物すごい勢いで体を捻られ、今度は背後からいきなり突かれる。



 「…やっ…!!…はぁ…んっ!!…ぃや…ああっ…!!」

 「イヤだぁ?どの口が言いやがる?」

 「…っ…!今、のっ…!…ヤ、サシ…サっ…ド、コ、行った…ァっ!?」



サンジを激しく揺さぶり抱きしめながら、ゾロはにやりと笑い



 「空の果て。」

 「!!!!???」

















 「………ん〜〜〜〜?」



ムクリ、と体を起こし、ルフィはキョロっと辺りを見回した。

カーテンの向こうはまだ暗い。

隣のベッドにいるはずのウソップは、足だけを残して反対側に墜落していた。



ポリポリ、と頭を掻いて、ルフィは寝惚け眼で首を傾げた。



 「……今、サンジが『クソチクショォォォォォォ!』って叫んだ気がしたんだけど…………。」







ポリポリ







 「ま、いっか。」











次の島には、どんな美味いもんがあるんだろう?



にんまりと笑って、ルフィはボスンと枕に顔を埋めた。













 「あら、おはようゾロ。………サンジくんは?」

 「まだ寝てる。」

 「………だ〜かぁ〜ら…無理させるなって言ってるでしょぉ?可哀想に。」



ハイ!とゾロに皿を手渡して、ナミは呆れたように首を振る。

受け取るゾロの手の甲から腕にかけて、真っ赤な蚯蚓腫れが何本も出来ていた。



ホテルのレストラン、朝食ビュッフェ。



 「お客様!困りますお客様!トレーごと料理をお持ちにならないでくださいませ!」

 「この肉じゃが美味ェ〜〜〜〜〜〜〜!!」



麦わら海賊団は、相も変わらず誰も振り向かない。



ゾロとナミが、テーブルに着いた時、背後のテーブルに座った船乗りたちの会話が耳に入ってきた。



 「……だから、ここから航路を変えた方がいい。」

 「しかし、ここで航路を変えたからって、この先の危険が減るってもんでもないだろう?」

 「抱えるリスクは、少ないに越したことは無いだろうが。」

 「だが、しかし…。」



ナミが、オレンジジュースを一口含んで



 「航路を?変える?か…。」

 「………。」



ウソップが、納豆をかきまぜながら尋ねる。



 「そんなこと出来んのか?」



ロビンが、バターロールをちぎりながら



 「記録指針(ログポース)を替えればできるわよ。3本の航路が交わると言っても、ナミちゃんのログポースは、最初のログが示した航路を外しはしないわ。」



チョッパーは、トーストにブルーベリージャムをてんこ盛りに載せて頬張りながら



 「へ〜〜〜〜!面白いなァ〜〜〜〜!」



フランキーは朝からコーラをジョッキで煽り



 「で?ウチはどうする?変えるのか?変えても、最後の島は必ずラフテルなんだろ?」



何故かブルックの横に牛乳のサーバーマシン。

そこからコップにジョロジョロ牛乳を注ぎつつ



 「でも、どの航路を辿っても、ワタクシ達には初体験ですからねェ。…初体験…あwなんか素敵な響き〜www」

 「船長?どうする?」



今まさに、レストランからつまみ出されそうなルフィにナミが尋ねた。



 「このままだ!変えねェ!」



ニッと笑って即答するルフィ。

ウェイターが溜め息をついて、ルフィの首根っこを解放した。

走って、ルフィは自分の席にどっかりと座った。



 「真っ直ぐ!このまま真っ直ぐだ!!」



ウソップも笑い



 「だよなぁ〜?」

 「ウフフ…そう言うと思ったわ。」

 「まァ、そうだな。」

 「だよね!」

 「ヨホホホホ!!」

 「それでいい?ゾロ?」



ナミの問いにゾロも笑い



 「おれに決定権はあんのか?ねェだろ。」



ルフィを見てまた笑い



 「船長はルフィだ。」



皆が笑ってうなずいた。



 「ししししっ!んじゃ、そういう事で!!……あれ?サンジは?」

 「今かよ。」



ウソップが突っ込んだ時



 「ナミすわァ〜〜〜ん!!ルォビンちゅわァ〜〜〜〜ん!!遅くなってごめんよほォォ〜〜〜〜っ!!」



ネクタイを締めながら、髪を振り乱してサンジが駆けこんできた。

ナミはしれっと



 「あぁら、起きたの?もう少し寝ててもよかったのよぉ?」

 「いやぁ…2日も続けて寝坊じゃ…。」

 「いいじゃないの、海賊だもの。自由気ままが一番よ。」



ロビンが笑って言った。するとルフィが



 「そーだサンジ!お前ェ、昨夜、なんかデケェ声で叫んでなかったか!?」

 「は!!?」



叫んで、その場で昏倒したのはなぜかウソップ。

サンジも頬を赤くして



 「…さ、叫んでた?さ、さー…さぁあ!?別に?おれ、何も!?」

 「そっかぁ?聞こえたんだけどなァ。」



ナミが意地悪く



 「ルフィ?どんな叫び声だった?」

 「な、ナミさん!?」

 「色っぽい声だったんじゃなぁい?」

 「ん〜〜〜?色っぽい?」



がばっと飛び起きウソップが叫ぶ。



 「おい!よせルフィ!!さわやかな朝の会話じゃねェェェ!!」

 「感極まって、言葉になってなかったんじゃない?」

 「ロロロロロロロロビンちゃ…!!?」



必死に言い訳をするサンジに溜め息をつく。





また、いつものコイツに戻っちまったか。





まァ、仕方がねェ。







と





…カラァン…



 「……?」



カラァン カラァン…



遠くから聞こえてくる、澄んだ鐘の音。



美しい音だ。



いつか、どこかで聞いたような…。



 「…空島の鐘の音みたいだ…。」



チョッパーが言った。



 「空島?…ああ、そう言ってな。お前ら、空へ行ったって。」



フランキーが言った。



 「…ああ…うん、似てるなァ。」



ウソップも、呟くように言った。





カラァン  カラァン  カラァン





ホールが、突然に沸き立った。

客も、ウェイターやウェイトレスたちも、興奮して一斉に窓に飛びつき空を見上げる。

ウェイターのひとりが麦わらの一味に叫ぶ。



 「『導きの鐘』、でございますよ!!お客様!!」



ロビンが



 「『導きの鐘』?」



と問うと、若いウェイターが興奮した様子で



 「稀に…どこからともなく聞こえてくる鐘の音でございます!」

 「どこからともなくって…どっかで誰かが鳴らしてるんじゃねェのか?」



ウソップが言うと



 「いいえ!この島には鐘突き堂はないんです。なのに聞こえてくる不思議な鐘の音なんです!」



ウェイトレスも嬉しそうに言った。



 「……どこからともなくって…ちょ…まさか!?」



ナミが叫ぶ。

弾かれるようにルフィが駆けだす。



 「外だ!!」



ルフィに続いて全員が走る。

テラスからホテルの庭へ飛び出すと



 「ルフィ、見て!」



ナミが指差す方向に



 「積帝雲よ!!」



見上げる空に、巨大な黒雲。

途端に風が起こり、風が草波を鳴らす。



 「まさか…!?」



ブルックがぽっかり空いた眼窩を見開く。

フランキーも興奮した様子で



 「おい!…まさか…これか!?」

 「…ええ…!」



ロビンが答えた。



 カラァン  カラァン  カラァン カラァン



ルフィが空に手を突き上げ、声を張り上げ叫ぶ。



 「おおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!」



届くはずもない。

だがルフィは嬉しそうに叫ぶ。



 「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!コニス――!!おっさ――ん!変な騎士―――!!」





カラァン  カラァン





 「おれ達は元気だぞ―――――っ!!」





カラァン  カラァン  カラァン





『導きの鐘』



ほんの少し前から



3本の航路の交わるこの島の上空を、あの大きな雲が覆う時、どこからともなく聞こえてくるあの鐘の音を、この島の住民たちはそう呼んでいるという。



進むべき道を迷うものを、この先へといざない導く不思議な鐘の音だと。



鐘の音が遠のく。

雲が離れていく。



 「そうか…気流に乗って空を漂っているから…定期的にこの上を通るのね…。」



ナミが言った。



 「…鐘…鳴ってたな…。」



ウソップが呟いた。



 「…ああ…。」



ゾロが答えた。



 「鳴ってたな…。」



サンジが。







カラァン  カラァン  カラァン  カラァン







シャンディアの灯をともせ







叫んだ男の顔が脳裏をよぎる。

あの鐘は、今日も空の上で鳴っていた。



側に、仲間がいる。

ホテルの客も従業員もいる。

だが



 「………。」



ゾロは、サンジの頭を抱えて引き寄せた。

サンジの目に涙が見える。

金の髪を探りながら、ゾロが言う。



 「粋じゃねェか。ノーランドの奴も。」

 「………。」

 「女房を迎えに来たんだ。空島あげてな。」



カラァン  カラァ…ン  カラ…ァ…ン



















 「いっちゃった…。」



チョッパーが呟いた。



見上げる空は、どこまでも青い。



ゾロの肩と、自分の前髪に表情隠したままのサンジを笑う仲間はいなかった。

空島に、ノーランドに、サンジが深い想いを持っているのを知っている。



 「…ゾロ。」

 「おう。」

 「…ずっと…おれの隣にいてくれ…。」



サンジの、素直な思いを吐いた声は小さかった。

その声をしっかりと聞き届け、頭を抱く手に力をこめて



 「それはおれのセリフだ。」



遠い空の果てから、美しい名残の鐘の音。



シャンディアの灯を絶やすな



鐘を鳴らして君を待つ



おれたちは





 「ここにいる。」





ゾロの言葉にうなずくサンジの髪を、風が優しく撫でていった。











END







(2011/8/6)





BEFORE





お疲れさまでしたw

20万HITゲッターふぃ様リク『珍しく素直なサンジに喜ぶゾロ』でお送りいたしました。

ええ。『珍しく素直なサンジに喜ぶゾロ』です

ふぃ様…すみません;ゾロ、喜んでますかね?これ…



実は、このネタはずいぶん前に書いたものなのですが、この話を入れたUSBメモリを紛失してしまい、サイトアップをしていなかったものです。

失くしたショックで全てを放棄した次第。

ですが今回のリクで「あの話、もう一度書こう。あのサンジは珍しくゾロに甘えるんだよね。」と、古いネタ帳を開きました。

しかし、ノーランド夫人ネタを使っただけで、全然違う話になりました。はい。



共有する想いは、感応しあうと思います。



感応しあって、ゾロとサンジは共に生きていきます。

たとえ遠くに離れてもw



ふぃ様wリクエストありがとうございました!













誰が為に鐘は鳴る-TOP




お気に召したならパチをお願いいたしますv

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