BEFORE

 「お風呂空いたわ。」 夜更け、ロビンがキッチンにやってきてサンジに言った。 サンジは、翌日の朝食の仕込みをしていた。  「あ、ありがとう…。」  「…今日は入るんでしょ?」  「…あ…うん…。」 ロビンはにっこり笑い  「なんだったら、私が洗ってあげましょうか?」  「い、いいよ!自分でできる!!」  「そう?…下着は?どうしてるの?」  「…おれの…着てる…。」  「男物でしょ?…貸してあげましょうか?まだ下ろしていないのがあるから。」  「…い!いいよ!いらねェ!大丈夫だよ!…あ、ありがとう!」  「………。」  「な、何?」 ロビンは微笑み  「…戻れるわ。」  「…うん。」  「だから、今を楽しんでしまいなさい。」  「………。」  「…女の子の体だから、できることもあるんじゃなくて?」  「!?…ロビンちゃん…?」 赤く染まったサンジの頬に、ロビンはくすりと笑い  「…2年…耐えてきたんですもの。」  「………。」  「これはチャンスかも知れなくてよ?」 サンジは笑って首を振った。  「…確かに…チャンスかも知れねェ…でも…。」  「………。」  「本当じゃない姿のまま…打ち明けたって…。」  「………。」  「あの野郎…こっちの気持ちも知らねェで…元に戻れなかったら…  嫁にもらってやるなんて軽口叩きやがった…。」  「…まぁ…。」  「………。」  「酷い人ね。」  「…ああ…酷いヤツだ…。」 ロビンは、サンジの肩に手を置き  「私も、ひどいことを言ってしまったわ。」  「そんな事ないよ、ロビンちゃん…ありがとう。」 ロビンは困ったように笑った。  「あなた本来のあなたで、届かなければ意味がないのですものね。」 サンジはうなずき、寂しげに笑う。  「…風呂、入ってくる。」  「ええ、いってらっしゃい。お湯は落としてないから、早くね。冷めないうちに。」  「うん。」  「ナミちゃんが、あなた用にってボディローションを置いてあるわ。使って。」  「あはははは…ナミさん…。」 火の始末をし、サンジは風呂場に上がった。 灯りをつけないまま、パンツを下ろす。 ワイシャツのボタンを外す、襟を開くと、膨らんだ胸が露わになる。 誰にも触れさせたことのない先端は、暗がりでもわかるほど、淡いピンク色をしている。 くびれた腰、豊かな尻、肉感的な太もも。 こんなプロポーションの女性が街を歩いていたなら、途端にサンジが相好を崩すタイプ。 だが、それが自分自身となれば、話は全く変わってくる。 自惚れる訳ではないが  「…かわいいな…おれ…。」 かわいすぎて 涙が出てくる…。 何が嫁だ 何がもらってやるだ 人の気も知らねェで クソ剣士 バラティエで出会って、旅をして、いろんな事に出逢って、いろんな試練乗り越えて…。 気に食わねェ奴だと思ってた。 そりが合わねェと思ってた。 何もかもが気に入らなくて、あいつの一挙手一投足が癇に障った。 いなくなっちまえ。 本気で何度もそう思ったのに、実際にスリラーバークで、 あいつが死んじまうと思った瞬間、おれは自分の身を差し出してた。 あいつがいなくなったら おれも生きてる意味がねェ ああ…おれ…本当はこいつが大切だったのか…。  「…寒…風呂入ろ…。」 浴室の灯りも点けなかった。 今夜は月が明るいから、窓から入る光だけで十分だ。  「…あー…。」 極楽…。 しばらくぼうっと湯船につかりながら、さてどこからどう洗ったものかと思案した。 すると  「…!?」 重い靴音が響いた。 明らかに、ゾロの靴音。  「…うわ…まさか…!」 ざぶっと激しい水音をさせながら、湯船に口までつかる。 まさか入って来やしねェよな!? 来るなよ!来ねェよな!? と  「…コック?」 脱衣所で声がした。  「…そ、そうだよ!」  「明かりが点いてねェから、誰もいねェと思った。」 刀を置く音がした。続いてしゅるしゅると、サッシュを解く音。  「…っ!お前!何やってる!?」  「あ?風呂に入る。」  「バカ野郎!!おれが出るまで待てェェ!!」  「別にいいだろ?風呂大会で一緒に入るじゃねェか。」  「今のおれの状況忘れてんのか!?それともこの状況だからか!?後者だったらはっ倒すぞ!!」  「ガタガタうるせぇな。」 バタン!  「うわああああああああああああ!!!」  「めんどくせぇ。メリー号の時みてェな狭い風呂じゃねェんだ。体がくっつく訳じゃねェだろ。  てめェの長風呂、待ってられねェ。」 前を隠しもせず、いたって普通の状態で、ゾロは桶で湯船から湯を掬い頭から浴びた。  「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」 動けない。  「なんつー…デリカシーのねェ…!」  「んなモンがおれにあるかよ。…暗ェな。灯り点けるぞ。」  「点けるなァァ!!」 おかまいなしに、ゾロはランプに火を入れた。 浴室が途端に明るくなる。 クソ!クソ!クソクソクソ!! 言葉にならない叫びを上げながら、サンジは体を縮め隠しつつ、湯船に身を深く沈める。 ゾロは遠慮なく湯船に入り、湯を大きく波立たせて浴槽に身を沈めた。  「あ゛〜〜〜…。」 タオルを畳んで頭に載せ、浴槽に体を預けながらあくびを漏らした。 浴槽の隅にじりじりと移動しながら、サンジはゾロを睨み付ける。 こいつ ホントになんでもねェのか? てか やっぱおれだから 反応しねェってのか…?  「………。」  「…のぼせんぞ。」  「ほっとけ!!」  「…色気のねェ体だな。」  「うっせェ!あってたまるか!!てか、見るなァァ!!」 その時  「おー!ゾロ、入ってんのか!?おれも入って……。」 バタン!!  「いいかー…?」 ピチョーン パタン  「失礼いたしましたァァァァァァァァァ!!」  「誤解だ!!ウソップ――――――っ!!」 サンジが叫んだ。 勢い立ち上がり、ゾロの目の前に全部晒していることに気付きもしない。  「……あー…下も金髪か。」  「ああああああああああああああああああああああ!!」  「すまん!すまん!サンジぃぃっっっ!!」  「誤解だ!誤解だってウソップ!!」  「言うな!何も言わないでくれ!おれは今?美人の姉貴が、カレシと一緒にお風呂♪  って所を目撃しちまった弟?の気分になってんだ――!!」  「そのホームドラマ気分、流行りか!?」  「もう少し、気を使って差し上げなければいけませんよ、ゾロさん?」  「そうだよ。本当に空気が読めねェな、ゾロは。」 ラウンジ。 ゾロのデコに絆創膏を貼りながら、チョッパーが言った。 風呂場の騒ぎは、最終的にサンジが木の湯桶でゾロをぶん殴り、 それが上手く脳震盪ポジションに入ったところで終息した。  「…何が空気だ。コックだぞ。他の誰でもねェ。」  「そりゃそうだけど。」 チョッパーが呆れて息をついた。  「お辛いのですから、労わって差し上げなければ。」  「…なんだってそう、女扱いができるんだ、てめェらは。」  「だって、現実に女の子だもん。」  「コックだろ。」  「…ヨホホ…。」  「うーん…。」 ゾロは立ち上がり、刀を差し直しながら  「…おれには、てめェらの方がわからねェ。」  「元のサンジさんの方がよろしいと?」  「当たり前だ。」  「そうなんだ!」 チョッパーが驚くと、ゾロは舌打ちし  「…ぶん殴りづれェ。」 ブルックとチョッパーが顔を見合わせた。 意外にも、サンジの次にショックを受けているのはゾロじゃないかな…。 ゾロは、ドアを開けながら  「起こして悪かったな、チョッパー。」  「いいよ。どうせ見張り番だもん。」  「…そうか…。」  「サンジ、今夜は医務室のベッドで寝るって。」  「聞いてねェ。」  「独り言だ。」  「………。」 そう言いながら チラ ゾロは医務室のドアを見てから、出て行った。  「…医学で治せるものなら治してやりてェけど…悪魔の実の能力じゃなァ…お手上げだ…。」  「そうですねェ…。あ。」  「どうした?」 ブルックは、真剣な眼差し(?)で  「サンジさんに、どんなパンツをはいているのかお聞きするのを忘れました。」  「フツーの男パンツだったぞ。」  「アラ、残念。」  「…ナミさん…次の島までまだかかりそうかい…?」 船首甲板、午後3時。 サンジの問いに、パラソルの下でナミはため息をつき  「わずか数日でやつれたわねェ、サンジくん。」  「…そりゃ…。」  「でも、ずいぶんサンジくんを構うわね、ゾロのヤツ。」  「面白がってんですよ…。あのクソマリモ…。はい、ロビンちゃん。モカ・フロスティです。」  「ありがとう。…そうかしら?わたしには、あなたを気遣ってるようにも見えるけど?」  「あの男に、そんなもんありませんて…。」 と ルフィが、後方甲板からゴムゴムの能力で、一気に飛んできた。  「サ――――――ン――――――――ジ――――――――っ!」 以前のサンジなら、ルフィに飛びつかれてもしっかりと受け止められたのだが。 瞬間、ロビンが一斉に花を咲かせ、6本の腕でルフィとサンジを支えた。  「あ、ありがとロビンちゃん…!あぶねェな!」  「にしししししし!今のサンジ、抱き心地いいんだもんな!  触ると柔らかくてふっかふかして気持ちいいんだ!ところでサンジ、肉!」  「…そりゃどーも!肉はねェ。」 次の瞬間 ズゴン!! けたたましい音を立て、50キロと表示された重りをつけたダンベルが、覇気をまとってルフィを直撃した。  「おごっ!!」  「何やってんだァ!マリモァァ!!」  「あっぶないわね!何すんのよ!ゾロ!!」 芝生の中央甲板からこちらを見上げ、ゾロが仏頂面で言う。  「…悪ィな。手が滑った。」  「どうやったら、覇気をまとって手が滑るのかしら?」 ロビンが言った。 ふいっと、ゾロはきびすを返し、不機嫌な足取りでラウンジへ上がって行った。 ドアを開ける瞬間、明らかにサンジを見て  「……飲んでいい酒はどれだ?」 サンジは、形の良い唇をムッと歪め  「今、行く。」 ナミのオレンジティーをテーブルに置き、サンジは足早にラウンジへ向かった。 見送り、ナミが言う。  「…どこが気を使ってるの?」  「…アラ、気づいてない?」  「……意識してるなーっ、てのはわかるけど。」  「ウフフ…不器用だから、ゾロは。」  「ケンカするってのは、お互いを意識してるからよね。  本当に嫌いな相手なら、とる行動は『無視』だもの。」  「ええ、そうね。」 肩をすくめて、2人は笑った。  「女の子が増えるのは嬉しいけど、サンジくんじゃねー。」  「そうねェ…。」 ダイニングラウンジ。 サンジはラックからバーボンを引き抜き  「ホラよ。」  「おう、サンキュ。つまみもくれ。」  「………。」 気だるげに、サンジはキッチンに入ろうとした。  「ちょっと待て。」  「…あ…?」 振り返った瞬間  「!?」 ゾロの右手が、サンジの頭に置かれた。  「な…?」 そのまま、横に滑らせ、耳と髪の間に手を差し入れる。 突然の事に、サンジは何も言えず目を見開き、ゾロのするままにさせていた。  「…ああ…なるほど。確かに気持ちいいな。」  「……………〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」 その時  「喉が乾いたら〜〜〜〜〜〜♪お水もっいいけっど♪やっぱ牛乳っでしょ〜〜〜〜〜〜♪  サンジさぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!お願いしま〜〜〜〜……。」  「す。」 ぱたん  「ああああああ!!ゴメンナサーイ!お取込み中〜〜〜〜!!」  「ブルック――――――――――っ!!勘違いしてんじゃねェェェェ!!」  「イエ!イエ!どうかひとりにしてください!ワタクシは今、?カワイイ孫娘がデートから帰ってきて、  彼氏と別れ難そうに名残りを惜しんでいる場面に出くわしてしまったおじいちゃん?  の気分なんですぅぅぅぅぅぅぅ!!」  「だから、なんなんだ!?その家族構成はあああああああああっ!!」 ダイニングの騒ぎを聞きながら、ナミがぽつりと言う。  「…あたし、?なかなか煮え切らない、お姉ちゃんの彼氏にイラついてる妹?の気分なんだけど。」  「私、?そんな家族を微笑ましく見ているお母さん?の気分だわ。」  「あっはっはっはっは!!」 心底可笑しそうに、ルフィが笑った。  「もう!もう!我慢できねェ!!耐えられねェ!  このまま戻れなかったら、おれはいっそ死を選ぶ!!」  「オールブルーはいいのか?」  「う!」 一番痛い所をツッコまれ、サンジは沈黙した。 ブルックが逃げ出してから、誰もダイニングラウンジに入ってこない。 気恥ずかしくて、仲間の前に出てもいけない。 結局、手酌で酒を飲むゾロを、ソファの上で膝を抱えて眺める羽目になった。  「おい、ヒマならつまみ作れ。」  「…偉そうに…。」  「戻れなかったら、女のまま生きてく方法を探せ。何度も言うが、それしかねェだろうが。」  「…いやだ…。」  「………。」 膝を崩し、ゆっくりサンジは立ち上がると、ゾロの前に立った。  「…特にてめェに…女扱いされるのは我慢がならねェ…。」  「………。」  「………。」  「…そのセリフは、普段てめェがレディだなんだと言いながら、  女が男より劣る生き物だと言ってるのと同じだぜ。」  「………っ。」  「…ナミやロビンを同等の仲間と見ているなら、そんなセリフは出ねェ。」  「…おれは…!」  「どう足掻いても、女は男の基礎体力に敵わねェ。そんなこたぁ、おれだって百も承知だ。」  「………。」  「おれは、てめェがどっちのままでも構わねェ。」  「…ゾ…ロ…。」  「だが、どうにもわからねェことがひとつあってな…それを確かめたくてよ…。」  「わからねェ…こと…?」 ゾロは腕を組み、首をかしげ  「…なんかてめェを見てると、モヤモヤする。」  「………。」  「多分…2年前からずっと、モヤモヤしてたんだと思うんだが…それがなんなのかわからなくてな。」  「………。」  「……クライガナ島ってとこはな……。」  「は?」 いきなり ゾロが2年、修行していた島の名を口にした。  「とにかく湿気が多い気候なんだが、夜になって気温が下がると、晴れて空が見える事が多かった。」  「………。」  「月が、すげェデカく見えるんだ。」  「…ふーん…。」  「するとな、てめェの後ろ頭を思い出して。」  「!!」 なんだって? 瞬間、サンジの心臓が高鳴り、頬が染まった。  「ムカついて、えれェ修行の励みになった。」  「あァ!?」 期待したおれが、バカだった…。 ゾロは笑い  「ルフィの顔より、てめェのツラを思い出す方が多かったな。」  「…え…。」  「コック。」  「…え?」  「髪、触っていいか?」 立ち上がり、ゾロは言った。  「………。」  「あの時触ったのが、エラク気持ちよくてな。クセになりそうだ。」  「……ちょ…。」 遠慮なく、ゾロはサンジの頭を撫でまわした。 まるで、ガキの頭を撫でるような荒っぽさ。  「てめェがこんな事にならなかったら、こんな機会もなかったな。」  「…おい…もう止せ…。」  「もうちっと。」 ゾロの手が止まらない。 だが、その手が心地いい…。 もっと もっと 固いその指を、望んでいる自分がいる。 不意に、ゾロの指先が首筋に触れた。  「…ふぁ…っ…。」  「………!!」 ピクン、とゾロの指が震えた。 自分の声に、サンジは思わず口を塞ぐ。  「………。」  「………。」  「……コック。」  「………。」 真っ赤な顔で、サンジはゾロを見た。 すると  「…抱きしめていいか…?」  「………。」 サンジの目から、ポロ、と涙がこぼれた。 激しく、首を横に振る。  「………。」  「………。」 口を覆い、サンジは声も上げずにポロポロ涙を零す。 拒絶されたが、ゾロの手がゆっくりと上がり、サンジの肩に触れた。 ビクン、と大きく震えた肩を掴み、引き寄せようとしたが ドアが、静かに開かれた。 入ってきたのはロビン。  「ごちそうさま。グラスを…。アラ…ごめんなさい?」  「………。」 ロビンは、サンジの顔とゾロの顔を交互に見て、小さく息をついた。 状況を察し、黙って出て行こうとしたが  「ナミは?」 いきなりゾロが言った。  「ナミちゃん?」  「ああ。」 不思議そうな顔をして、ロビンは答える。  「シャワーを浴びるってお風呂に行ったわ。今日は暑いから。」  「そうか。」 言い残し、ゾロは何も言わずにラウンジを出て行った。 サンジの膝が崩れる。 ロビンは、優しくその肩に手を添えた。  「…また、ひどいことを言われたの?」 サンジは顔を覆い、首を振った。 その時だった。  「ぎぃやぁぁぁぁぁあああああ―――――――っ!!!」 絹を裂く、いや木材を引き千切るような悲鳴が、サニー号中に轟き渡った。  「―――ナミさん!?」  「そうね…。」 条件反射で、サンジは甲板へ飛び出した。 ウソップもフランキーも、ブルックもチョッパーも、驚いて各所から飛び出してきた。  「今のナミか!?」  「何があった!?」  「ててててててて敵襲か!?」  「いいいいいいいいやあああああああああああああああああっ!!  バカバカバカァァ――――――っ!!このエロ剣士!スケベ!変態!!デバガメェェェ―――っ!!」 轟くナミの声。 ブルックが勢い良く手を上げ  「ハ―――――イ!!エロ剣士でェ―――す!」 フランキーも  「おう!おれを呼んだか!?」 ウソップが激しくツッコみ、  「言ってる場合かお前ら!!ナミ――!!何があったァ!?」 全員、風呂場に駆け込んだ。 すると  「―――ゾロォ!?」 脱衣所と風呂場の境のドアが、大きく開かれている。 風呂場の浴槽の隅に、体を隠して縮こまったナミ。 浴槽前のタイルの上に、つぶれたルフィ。 そして、脱衣所にゾロ。  「うわ!ルフィ!どうしたんだ!?」 チョッパーが叫んだ。 ウソップが  「ルフィ!まさか!お前ェがノゾキ!?」  「違うわよ!ノゾキはそいつよ!ゾロの方よ!!」  「ええええええええええええええっ!!?」  「覗いてねェだろ。ちゃんと『開けるぞ』っつって、断ったろうが。」  「堂々としすぎて、尚更悪いわっ!!」  「本当か!?ゾロ!?」 フランキーの問いに、ゾロはしれっと  「ああ、確認してェことがあってな。もう済んだ。悪かったな、ナミ。」  「確認!!?確認って何よ!悪かったで済めば警察も海軍もいらないわっ!!  なんなのよ!いきなり――っ!!」  「…どうしてルフィはここでつぶれているの?」 ロビンの問いに  「ナミの悲鳴と共に『大丈夫か!?』って飛び込んできて、ドサマギでナミに抱きつきやがった。」 ゾロが答える。サンジが慌ててナミにバスローブを投げ、ルフィを指差し  「お前がやったのか?」  「ナミだ。一撃だった。お前ェも覇気を覚えたんだなァ、ナミ。」  「覚えてないわよ!あんた達みたいなバケモノと一緒にしないで!!」  「覇気もなしに能力者を一撃!スバラシイ!ヨホホホホホホ!!」  「どうでもいいわよ!ロビン以外みんな出てけ――――っ!!」 後で罰金10万ベリーだと叫ぶナミの声に追い立てられ、男全員(若干1名疑問)芝生の甲板に降りてきた。  「…ったく!いきなりなんて真似しやがる!!狂ったか!アホマリモ!」 サンジが叫ぶように言った。 ついさっき、自分を『抱きしめていいか?』と、真剣な声で尋ねておきながら、 直後なぜ、ナミの入浴を覗きになど行ったのか。  「……確認したんだ。」  「さっきも言ってたな…確認ってなんだよ!ナミさんと何の関係があるんだ!?」  「……ちょっと付き合え。」 ゾロはサンジの手を引き、ずんずんと階段に向かって歩き始めた。 そして  「おい、お前ら!今からこいつに大事な話がある。下のラウンジ使うからな、誰も来んなよ!」 ウソップが呆然と言う。  「…はーい。いってらっしゃーい…。」  「…おい、お前ら。今の気分はなんだ?」 フランキーが言った。  「『遅い思春期の長男を案じつつ見送る、お父さん』の気分です。」 ブルックが答えた。  「あー、そんなカンジー…。…ま、まァいいんじゃねェ…?  とりあえず、見ざる言わざる聞かざるで…。」 ウソップが言った。 と、人型になったチョッパーに、引きずられてきたルフィが目を覚ました。  「あ。気がついたか?ルフィ?」  「…腹減った…肉…。」  「うん。正気だ。」 船医の判断に、全員ため息をついた。 ドアを閉め、ゾロはサンジを水槽前のソファに座らせた。 握ったままの手を振り払い、サンジは苛立たしげに顔を背ける。  「………。」  「………。」 沈黙が続いた。 それを裂いたのは、サンジの声だった。  「…もう…おれに構うな…。」  「なんでだ?」  「………。」  「なんでだ?」 同じ問いを繰り返す。  「……辛ェ……。」  「………。」 サンジは大きく息をつく。 ワイシャツの下の膨らんだ胸が、呼吸で上下する。 ゾロは、サンジの前で床に胡坐をかいた。  「何を確認したか教えてやる。」  「聞きたくねェ。」  「聞け。」  「聞きたくねェ!」  「じゃあ、今からおれが喋るのは独り言だ。黙って聞き流せ。」  「………。」 どっちにしても、聞かせたいワケか。 どうせ、いくらおれの体が今女の形をしていても、しょせん紛い物だって言いてェんだろ…。  「てめェと風呂に入ったあの後。」  「…語彙を訂正しろ。てめェが後から押し入ってきたんだ。」  「どっちでもいい。あの後、どうも…モヤモヤがムラムラになってな。」  「!!」  「眠れなくてよ。一発抜いた。」  「…う…あ…。」 抜いた。…って。 ソッチの…意味で…合ってるんだよな…。  「てめェの体をオカズにした。」  「だあああああああああああああっ!!」 飛び跳ね、水槽に張り付く。 目の前を、一昨日捕まえたアジが泳いで行った。  「初め、風呂場で見たてめェの体を思い浮かべてたんだが、その内、2年前のてめェの体だったり、  再会してからの男のてめェの体だったり…はっきりしねェままで終わってよ。  おれはただ単純に?女?の体で欲情したのか、それとも?コック?の体で欲情したのかわからなかった。」  「………。」 サンジの顔が、耳まで真っ赤になる。 体が、小刻みに震えていた。 その手を引き、自分の手の中に包み込み、ゾロは言葉を続ける。  「?女?で欲情したなら、ナミかロビンの体を見ても何か感じるものがあるんじゃねェかと思ったんだ。」  「……それで…ナミさんのシャワーを覗きに行くか!?アホか!そういうのを変態っていうんだ!!」  「よくできた体だとは思ったが、全っっっ然、コなかったな。」  「ナミさんに失礼な事を言うなァァ!!」  「それでわかった。おれは、てめェでムラムラすんだってな。」  「……っ!?」 ニヤリと笑い、ゾロはポンポンとサンジの手を叩きながら  「…こういう事にならなかったら、多分気づかなかった。」  「…よせ…ゾロ…?」  「…あん?」 手を放し、サンジは小さな声で言う。  「…そういうのを…気の迷いっていうんだ…。」  「………。」  「…こういう事になったから…てめェは…少し迷っただけなんだ…おれが元に戻ったら…  同じように思えるか?思えねェよ。絶対。」  「決めつけるな。」 サンジは小さく笑った。 悲しい笑顔だが、綺麗な笑顔だとゾロは思う。  「…カマバッカにいる時な…。」 サンジが、穏やかな声で言う。  「………。」  「修行の時にバケモノ共が言うんだ。『愛しいお方の顔を思い浮かべて、集中して技を出すのよ!』…ってな。」  「………。」  「愛しいお方…おれにとって、愛しいお方はナミさんとロビンちゃんだ…  2人を思い浮かべて蹴りを出すなんて…おれにはとてもできねェ…だから…。」  「………。」  「…てめェの…ツラを思い浮かべて…必死に修行した…。」 ゾロが笑う。  「同じだな。」  「………。」  「なんだ。」  「………。」  「同じじゃねェか。」 サンジが顔を伏せる。 その顔を下から覗きこみ、ゾロはサンジの襟首を掴んで引き寄せ、唇を寄せる様に 囁いた。  「そういうことでいいだろ?」  「………。」 サンジの碧い瞳が、海のように波立つ。 まさか ゾロと、想いが通じ合っていたなんて思わなかった。 おれは、2年前にはもうなんとなく気づいていて、カマバッカにいる間に、 あの苦しい気持ちがそうなのだと自覚していた。 だが、再会してまた旅を始めても、その思いを告げる事なんか、決して出来るはずがないと思っていた。 想いが通じるなんて、奇跡でも起きない限り、ありえないって…。 奇跡が 本当に… 涙声で、サンジは呟く。  「元に戻りてェ…。」  「ああ。戻れる。」  「…戻りてェよ…。」  「戻してやる。あの野郎を見つけてお前を元に戻させたら、おれがぶった斬る。安心しろ。」  「…ゾ…ロ…。」  「…冗談抜きで、戻れなかったらおれがもらってやる。いや、戻っても。戻った時こそ――。」  「………。」  「コック。てめェはおれのもんだ。」 涙が溢れる。 襟首を掴んで、そのままゾロは唇を寄せた。  「…ムードねェな…。」  「充分だろ。」 唇が、重な――――。  「………え………?」  「………おい………。」  「……………。」  「………はは………。」 ゾロは これ以上ない満面の笑顔で、サンジを抱きしめた。 サンジの腕も、ゾロの背に回る。 しっかりと、背中を覆う力強い腕。 広い肩。 厚い胸。  「……ゾロ……。」 聞きなれた、眩むような低い声。 頬を包み、髪を撫でまわし、最後にゾロはサンジの顎髭に触れた。  「……ムラムラするか?」  「おう、鼻血が出そうだ。」 笑い合い、もう一度抱きしめあって 唇を、重ねた。  「…あー、これだわ。アッサリ元に戻ったのは、きっとこれのせいね。」 甲板で、先ほど届いたニュースクーの新聞を広げ、ナミが言った。 クルー全員甲板に集まって、サンジが元に戻った翌日午後3時のティータイム。 フランキーが尋ねる。  「何が載ってんだ?」  「手配が消された賞金首の公報。ホラ、こいつよ。間違いないわ。」 新聞を覗き込み、ルフィが声をあげる。  「ホントだ!あいつだ!」 ウソップが、さらに横から覗きこみ  「え〜〜〜〜〜と…なになに〜〜〜?…『ボルボ海賊団船長、ギャクギャクの実の能力者トカチェンコ、  賞金稼ぎワシーリィに討たれ、死亡。』……へー、あいつ死んだのか…。」  「能力者が死んだことで、能力の支配から解放されたのね…ホラ…金獅子のシキの時と同じよ。  あの時も、シキが意識を失ったことで、あの島々はフワフワの実の能力から解放されたでしょう?」 ロビンが言った。ナミが息をついてうなずき  「そっかぁ…よかったわ…気の毒ではあるけど。」  「気の毒なもんか!まったくだぜ!」 ウソップが言った。 チョッパーが嬉しそうに  「これでサンジも元通り!安心して新世界に進めるな!」 その一言に、ウソップがドーンと落ち込み  「ああああああ…どこでビッグ・マムに出くわすだろぉぉぉ…。」  「そん時はぶっ飛ばすだけだ!おれは早くあんにゃろぶっ飛ばして、魚人島をおれのナワバリにしてェんだから!!」  「あー…はいはい…そーでした…。」 ルフィが、思い出したように憤慨し、鼻と拳を鳴らす。 と、ゾロが  「ああ、チョッパー。全部元通りじゃねェぞ。」 と、言った。  「え?なんで?どーゆーこと?ゾロ?」 チョッパーが問う。仲間の視線が一斉にゾロに集まった。 ゾロはさらりと  「コックがおれのもんになった。言っとく。よく覚えとけ、特にルフィ。」  「へっ?」 サンジが、飲み終えて空になり、回収したコーヒーカップを空へ放り投げた。 フランキーとブルックが反応して、何とか全部落とす前に回収し、破損を免れた。 沈黙  「問題あるか?」 ゾロが言った。  「ないわ(笑)」 ロビンが答えた。  「…ああ…そうなの…。」 ナミが、呆然と言った。  「あ。おめでとー…………って、………えええええええええええええええええっ!!?」 ウソップ。  「ヨホホホホホホホホホホホホホホホホホ――!!!ヨーホーヨーホーヨホホホホー♪♪」 歌いだすブルック。  「…いつの間にそういう事に…。」 フランキーが呟く。 と、ナミが  「…ゾロ!!あんたやっぱりサイテーね!!女の子だったのをいい事に手を出したのね!!」  「出してねェよ。」  「あ、あの、ナミさん…話せば長くなるんで…。」  「ちょっと、ルフィ!!あんたなんで黙ってんのよ!!何とか言いなさいよ!あんた船長でしょ!?」 呆然と、ルフィはゾロとサンジを見つめている。 驚くとも、怒っているとも、喜んでいるとも判断の付かない表情。  「……悪ィ…そういうことなんだ…ルフィ…。」 サンジが言った。 すると  「……ちょっと待ってくれ…ゾロ…サンジ…。」  「………。」  「…ルフィ…。」 ルフィは、きわめて真面目な顔で、ゴクンと唾をひとつ飲み込み  「……おれは今?いきなりクルー同士に『結婚しました』って言われて、驚いてる船長?の気分なんだ。」  「まんまじゃねェか!!」 全員からの激しいツッコミ。 ゾロの笑い声が、マストのてっぺんにまで響いた。 その隣で、これからもずっと笑っていられる。 ありのままの姿で。 さあ、前へ進もう。 新世界はまだほんの入り口。 後日、彼らが到達したパンクハザード島で、トラファルガー・ローの能力によりサンジとナミが入れ替わり、 再びドエライ目に遭うとは、まだ誰も想像していない。 END    BEFORE 2012ゾロ誕、匿名希望のST様リク 『小説で海賊設定。21歳。サンジ女体化。その状況になってサンジが気になり始めるゾロ。』 いかがでしたでしょうか? 再会後くっつくパターン、書いていて新鮮でしたvv リクエスト、ありがとうございました!                     (2012/11/19) 僕らの恋のはじめ方‐TOP
お気に召したならパチをお願いいたしますv

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