BEFORE
穏やかに
だが、あわただしく、時が流れて行く。
冬の1日は、とんでもなく短い。
夜明けは遅く、夕暮れがあっという間にやってくる。
サンジは笑う。
ゾロも笑う。
くだらない事で、つまらない事で、ささやかな事で、2人は笑う。
辛いというなら、笑って見せるしかない。
サンジが、少しでも楽になるのなら、とゾロは笑う。
笑い、そして真剣に、延喜舞の稽古をする。
来年もまた、帰ってきてここで舞う事に違いはない。
だが、今年の舞は、去年までと、そして来年からとでは、
彼らにとって意味が大きく異なるのだ。
春を待ち、この年1年の五穀豊穣と福を願う。
いつも、ただ型どおりに舞えばいい、それで済むと思っていた。
敬うべきものであるとはわかっているが、信心などゾロにはない。
息が合う事が、心地いい。
目が合う事が、嬉しい。
今年の舞は、一生懸命舞おうとゾロは誓った。
サンジが、全ての想いに耐えて生きる事を決めたなら、自分もそれに倣おう。
こうやって、生涯、この連れ舞をサンジと舞いたい。
どこへも行かない。
一度出て行ったとしても、必ずここへ、サンジのいるこの場所へ帰ってくる。
明日
初午
霜月神社、初午例大祭。
朝から屋台が出て、近隣の住民たちが集まってきている。
ルフィとサボは、その日の朝一番の、駅からのバスに乗ってやってきた。
兎にも角にもの忙しさの中、氏子たちでごった返す社務所で、いつの間にか座り込んでまんじゅうを頬張っている
2人+エースの姿に、ウソップが気付いて仰天したのは、昼過ぎになってからだった。
「どうりで、弁当の数が足りねェと思った!」
サンジに、思いっきり蹴り倒されて、追い出されたとルフィが憤慨していた。
「延喜舞って何時から始まるんだ?」
ウソップの問いにルフィが
「何だよ、ウソップ。見た事ねェのか?」
「あー、ゾロと同じクラスになったの去年でよ。それまで、そんな祭りも知らなかったんだよ。
ウチ転勤族でさ、この町に来たの5年前なんだ。」
「延喜舞は夜の神事だ。日が落ちてからだよ。」
サボが、もっこりした手袋の手を焚火にあてながら、目出し帽の下から言った。
「しかし、すげェ人の出だなァ。アイドル並じゃね?」
エースが言った。
「あっはっは!そだな!」
「絶対去年より多いよな?」
ルフィとサボが言った。
ウソップが
「へー、そんなに有名なお祭りだったんだー。」
「いやいやいや!有名になったのはここ数年!あいつらが舞うようになってから!
よ〜〜〜く見てけよ、ウソップ。サンジときたら、そりゃあもう!色っぽいのなんのって!
これが神事かってくらいエロいぜェ〜〜?」
「ええええええええ!?そ、そうなのか!?////」
「本気にしちゃダメだよ、エース視点だから…。」
「あ。そういう…。」
「あははは!けど、ホントにすげェんだ!おれ、好きだな!」
確かに、境内に集まってきた人々は、確実に女性が多い。
エースが、ちらと見た中に、エースの前でゾロに告白したあの子も交じっていた。
しかし、隣に別の男がいたので、肩で大きく息をして、見なかったふりをする。
社務所
母が、音曲を奏でる氏子たちに清めの酒を出していると、年配の笙の奏者が
「いやぁ…この前音合わせで舞いを見たら、そりゃあもう…先代を上回るっていうかなんというか…
本当に素晴らしかったよ!」
「ああ、きよっさんもそう思ったかい?まったく、1年前から格段に上達したよねェ。」
「自慢だねェ、奥さん!言う事なしの兄弟だ!」
「ありがとうございます!本当に…今年は特別な年になりそうで…。」
「ああ、そうそう!サンジくん、やっと籍入れたんだってね!おめでとう!本当に良かった!」
「…ええ!本当に…。」
社殿脇の清めの場。
延喜舞を奉納する前に、潔斎して身を清める。
3日前から、2人は一切の肉食を断ち、身を清めてきた。
最後の潔斎。
延喜舞の衣装は、この日に始めて身に着ける。
宮司である父が、衣桁に用意し清めたそれに、袖を通す。
初午例大祭の奉納舞は連れ舞。
五穀の恵みを望む舞であることから、イザナギイザナミの夫婦神を表して舞う。
ゾロがイザナギの男舞。
サンジがイザナミの女舞。
初めて2人に舞わせようとした年に、父は年下のゾロに女舞をさせようとしたのだが、
あまりに動きが雑で、無骨すぎて、急きょ交換した。
そんな曰くもある。
萌黄の衣装に身を包んだゾロと、薄紅の衣装に身を包んだサンジ。
サンジは女舞であるから、唇に、紅を差していた。
「…奥殿に拝礼する前に、お父さんから、言っておきたい事があるんだが…。」
ゾロもサンジも、思わず顔を見合わせた。
こんな時に、真面目な父が「お父さん」と自分を言うのは珍しい。
父は、膝に手を置いて、首を垂れると
「…2人とも、お父さんとお母さんの子供に生まれてくれて、本当にありがとう。」
「!!?」
「…親父…?」
顔を上げて、父は笑い。
「サンジは18歳になった。お父さんとお母さんの、本当の子供になった。」
「………。」
「………。」
「お父さんとお母さんの、イチバンの夢が叶ったよ。」
え?
と、2人は心の中で同時に尋ねた。
「お父さんとお母さんの夢は叶った。だからあとは、君達が君達の夢を、叶えなさい。」
一瞬呆然として、だがやはり、反応したのはサンジだった。
「父さん…!!」
「サンジ。」
言わせず、父は笑い。
「嬉しかったよ。君が、神職に就いてくれると言った時は。」
「おれは…!」
「…大丈夫。お父さんは、まだまだ現役だよ?」
「…親父…。」
「…時々…いや、来年も…その先もこうして…手伝ってくれればそれでいい。」
「………。」
「君たちが年を取って、帰って来たい場所であったなら、帰って来てくれればそれでいい。」
「………。」
「………。」
大きく息をついて、父は笑って言った。
「親を、舐めちゃいけない。」
「………。」
「………。」
「大丈夫。」
父の言葉を、理解するまでかなりかかった。
そして、堪えきれず、低く呻いて、涙をこぼしたのはゾロが先だった。
父が言う。
「…お母さんに…言われるまでは…まさかとは思っていたんだけどね…。」
笑いながら、少し頬を染めて
「…母さん…が…?」
「…女の人は勘がすごいねェ…。そして強い…。」
「………。」
「お母さん、言ったよ。『ゾロが、サンジの手を引いて裏山に逃げたあの時から、
こうなるんじゃないかって思ってた。』って。」
ゾロとサンジの顔が、同時に真っ赤になった。
「…エースもサボもルフィも…君たちが心配で心配で仕方がない…
まァ…祝福してくれる人がいるのなら…それも…人生かと思うよ…。」
「………。」
「…まだ少し…フクザツだけどね…。」
それはそうだ。
それが当たり前だ。
けれど
「…ごめんなさい!」
サンジが、指をつき額づいた。
「…サンジ…。」
「ごめん!父さん…ごめん…!」
「…君が謝る事じゃない。」
「…ごめん…!ごめん…!ごめん…なさい…!」
「…謝るのは、自分の気持ちを恥じているからかい?」
サンジは顔を上げ、激しく首を横に振った。
と、ゾロも、がばっと頭を床に擦りつけ
「…ありがとう!」
「………。」
「ありがとう!親父…!!」
黙って、父は両手で、息子達の頭をポンポン、と叩き
「いいよ。」
笑って、それだけを言った。
「……一生は長いから、いつか気持ちが変わることもあるかもって、そりゃ何回も思ったわよ…?」
延喜舞が始まる前のてんてこ舞いの中、無理やりあれこれを手伝わせながら、母はエースとサボに言った。
「今だって…ホントはそう思ってる。でもね…笑わなくなっちゃったんだもの…あの子たち…。」
「うん。」
エースが言った。
「…自分の子供が悩んで…心から笑わなくなって…笑わないだけならともかく、泣くんだもの…辛いわ…。」
「…見てないようで、ちゃんと見てたんだな、おばさん。」
ルフィが言った。
「…親ってエライな。」
「エライわよ。あなた達も、お父さんとお母さんを尊敬しなさいね。」
「承っておきます。」
サボの頭に、コツンとげんこつひとつ。
これから先、もしかしたらとも思う。
けれど、自分の息子たちがずっと一生、自分の息子でいてくれるというのも、素晴らしい事のような気がする。
まだ、本当の答えは出ないけれど、今はそれでいい。
でも、一度抱えた大切なものを、簡単に捨てるような子供たちに育てた覚えはない。
5歳の時に芽生えたものを、しっかりと抱いて、大切に育ててきた。
親が、それを否定しちゃいけない。
いつの間にか、大人になっていたのよね…。
「………。」
目尻に浮かんだものを拭った。
篝火が艶やかに焚かれ、社殿の前に人々が集まる。
地元のテレビ局まで、延喜舞の奉納を取材に来ている。
そのライトが、社殿中央を照らしていた。
おおっ と、声が上がる。
社殿の左右から、イザナギイザナミの装束を纏った2人が、中央に向かって静清と進んでくる。
人々の中から一瞬「きゃー」と声が上がったが、それはほんの一瞬で、2人のあまりの清廉さに境内は静まり返った。
笙が鳴り響く。
中央で、肩を並べた二人は社殿に向かって一礼すると、袖を捌き、舞い始めた。
2人の神が、生まれ、出逢い、手を取り、結ばれ、国を、神々を、それらを産み落とした古事を、厳かな舞で表す。
ほぅっ と、声が上がる。
キンと冷えた空気の中、響く音曲と鈴の音。
厳かな舞であるのに、なんともいえぬ艶めかしさ。
息を乱さず、拍子もまったくずれず、体の線もぶれぬまま、目を交わし、想いを交わし。
「……ふわぁああ……。」
ウソップが、真っ赤になって思わず呻いていた。
エースが言った「色っぽい」が、あながち間違いではなかったと、ゴクンと唾を飲み込む。
なるほど、これを見たら、誰でもこの二人に心奪われる。
しかしなんという神々しさ。
本当に、神様ってのはこんなカンジかもしれない。
サボが、呆然と
「…エース…これってさ…。」
「…いやぁ…去年以上に色っぽいなァ…。」
田舎の町の、小さな社の小さな祭り。
だが、こんな素晴らしい舞、都会のどんな大きな劇場でも見られない。
奉納舞は、15分ほどで終わる。
その間、見ている人々は誰も声を出さなかった。
これだけの人が集まっているのに、咳ひとつ聞こえない。
聞こえるのはただ、音曲と、2人が携えた鈴の音だけだ。
2人の顔に、自然に浮かぶ笑み。
ああ
「兄弟」でよかった…。
奥殿に向かい、深く礼をして、舞の奉納が終わった。
社殿前の人々から、一斉に拍手が起きた。
奏者の氏子たちも、楽器を膝に置いて思わず、静かな拍手を送る。
手足の指先にまで、全神経を集中させていた。
春まだ浅い夜なのに、ゾロもサンジも、額にじっとりと汗をかいている。
これが神事でなかったら、おそらくアンコールがかかっただろうと、後日ウソップが言った。
父も母も、満足げにうなずいて拍手を送ってくれた。
見守ってくれた人々に威儀を正して一礼をし、粛々と、2人は社殿脇を左右に分かれ、引いていった。
見るものは見た、というように、人々がぞろぞろと移動していく。
実際、例大祭神事はこれで終わりだ。
父や母が氏子たちにあいさつを繰り返し、頭を下げている。
自治会の係りが、篝火を少しずつ落とし始めた。
バス停前の広場に出ていた屋台や出店も、そろそろ店仕舞いを始める。
「ゾロ達に、すごかったって言いてェんだけど、今日はまだ駄目なのかな?」
ウソップがエースに尋ねた。
「あー、そうだな。まだ、内々の神事があるんじゃなかったか?伝えとくよ。」
「じゃあ、頼むわ!学校で会ったら改めて言うけど、バスが無くなっちまうから、もう行くな!」
「ああ、気を付けてな!ありがとう!」
「おやすみー!あ!お前ら、まだこっちにいるんだろ?」
ルフィが
「おー!春休み(自主)だからな!いるぞ!」
「じゃあ、いる間にまた遊ぼうぜ!」
「ああ!わかった!ありがとう!」
サボが手を振る。
ゾロとサンジの父が、三兄弟の側に来て
「悪いが、氏子さん達の車を誘導してくれるかな?歩行者優先で頼むよ?」
「わかった!」
「よーし!任せとけ!」
「ルフィ、君はいい。」
「えー!?なんで!?」
「倍、危なくなりそうだ。」
「あっはっは!」
「おじさん、あいつらは?」
エースに問われ
「もう1回潔斎して、祝詞を捧げる仕事が残ってるんだ。終わるのは…1時間後くらいかなァ。」
ルフィが
「あいつら、ずっと肉食ってないんだろ?可哀想だよな!なァ、もう食っていいんだろ?」
「ああ、済んだらね。」
「あー!焼肉食いてェ〜〜〜!明日の朝飯、焼肉―!」
「却下。」
「ああああああああああ。」
社殿脇を左右に回り、表から見えない裏側で、瞳を交わし、イザナギ役の方から言葉を発する。
日本創生の古事だ。
定められた言葉を、ゾロが言う。
「あなにやし、えをみなを。」
サンジが返す。
「あなにやし、えをとこを。」
なんと、美しい女
なんて、素敵な男
言葉を交わし、奥殿で祝詞をあげる。
だが
「!!?」
ゾロの手が、サンジの手を掴んだ。
そのまま、引きずるように奥殿脇の、禊の間に飛び込む。
冠を毟り取り、捨てる様に投げた。
「…ゾ、ゾロ!」
「………。」
「………っ!」
冷たい板敷の間。
2人とも裸足だ。
ゾロは、サンジを壁際に追い詰めるように押し込み、舞の衣装のまま抱きしめた。
「…ダメだ…まだ…全部終わってねェ…。」
「もう、いい…形ばかりの祝詞なんざあげても意味はねェ!」
「…ゾロ…待っ…。」
「待たねェ!…13年待ったんだ!もう、待たねェ!!」
「…ゾロ…だ…め…だ…!」
「だめじゃねェ!!」
力の限り、サンジを抱きしめ
「…許してもらおうなんて…思ってなかった…。」
「………。」
「…嬉しい…。」
サンジの目から涙が溢れる。
嬉しい
うん
嬉しい…
「……?サンジ?、好きだ。」
腕の中で、サンジがうなずいた。
「好きだよ…ゾロ…。」
「………。」
「…?ゾロ?大好きだよ。」
「………。」
恥じらい、躊躇い、だが熱く、ゾロはサンジの赤い唇を吸った。
勢い奪ったあの時よりも、数倍甘く、熱い。
「……な…だめだよ…。」
「…だめって口で言ってる割には、こっちはダメじゃねェみてェだぜ…?」
「……てめ……可愛くねェ……。」
「…可愛くねェ弟で、悪ィな。」
「………童貞のくせに……。」
瞬間、ゾロの顔が真っ赤になる。
「てめェだってそうだろが!」
「てか、やり方知ってんのか!?勢いツッコむだけじゃねェんだぞ!?」
「シュミレーションはやった。」
「だああああああああああああ!!?マジ!!?」
叫んだ瞬間、誰かが、大きな声で笑う声がした。
「………。」
「………。」
す っと
サンジの手が、ゾロの頬に延ばされた。
「………?あなにやし、えをとこを?」
ゾロもまた、サンジの頬を包んで
「?あなにやし、サンジ?」
囁き、深く舌を絡め、口づけた。
サンジの腕が、ゾロの背中に回る。
萌黄の絹が、ざわりと波立った。
5歳で出会った時から、他には誰もいらなかった。
互いだけが欲しかった。
手を引き、引かれ、守り、守られ
そうしてずっと、一緒に生きてきた。
これからも
一緒に生きていける…
「…だめだよ…なァ…。」
「………。」
「…ここじゃ…それに…衣装…汚したり破いたりしたら…言い訳できねェ…ぞ…。」
「……じゃ、こうしようぜ。」
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
思わず
サンジの口を塞いだ。
「アホか!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「…放すぞ。」
ぷはっ と、息を吸って
「いきなり脱がすな!!」
「汚したくねェんだろ?」
ゾロも、慣れた手つきで一気に舞の衣装を脱ぎ捨てた。
すげェ体
ガキの時は、おれより小さくて弱そうだったのに。
厚い胸板に、思わず顔が熱くなる。
「どした?」
「……こんなメンドイ着物、脱ぐの早ェなと思ってよ…。」
「胴着も和装と一緒だからな。…っしょっと。」
衣装を、足で押しやる。
「罰当たり。」
「だから汚すよりいいだろ?」
奉納舞を舞うためであったから、衣装の下には単衣しかつけていなかった。
それを脱いでしまったら、下帯すらない。
旧暦の2月。ようやく梅が咲いた里。
春はまだ遠い。
火のない潔斎所は、どこもかしこも触れれば冷たい。
「…怖ェ…。」
胸に顔を埋め、サンジが囁く。
「…やっぱり…怖い…。」
「…大丈夫だ…。」
「………。」
「ちゃんと、よくしてやる…。」
「……ぅう……。」
「お互い男でよかったな。きっと女じゃこうはいかねェ。」
「…も…好きにしろ…。」
「おう、好きにする。」
神社の奥殿の、禊された空間で、いけない事をしている自覚は十分にある。
けれど
「……ん…ぁあ……。」
「…エロい声…。」
カリ と、緋色の乳首に歯を立てた。
「…ひ…ぁ…っ!」
…くちゅ… くちゅ …ちゅ…
ゾロの唇が、舌が、サンジの肌の到る所を滑っていく。
その度
「…ふ…く…ぁん…。」
サンジの声は、あまりに艶があり過ぎて
「…てめ…ホントに童貞かよ…初めてでそんなエロい声出るのか?
…まさか、童貞でも処女じゃねェとか言わねェよな!?相手、誰だァ!?」
「……アホか……てめ……。」
うるうると、今にも泣きそうな目。
薄暗がりでよく見ると、サンジは真っ赤な顔で、必死に震えを抑えていた。
「…悪ィ…。」
サンジを抱きしめ、キスして
「…ごめん…。」
「………。」
肌に触れた互いのものは、すっかり熱く、硬くなり、ピクピクと震えている。
自分の手に、二つのそれを包んで、ゆっくりと、手の輪の中で上下させる。
「……あ……っ…。」
「……零れてる……。」
「……ふっ…ん……ん……!」
ゾロの肩にすがり、顔を埋め、羞恥に必死に耐えている。
顔、見てェ
髪を掴み、無理やり目線を合わせる。
「……あ……。」
「…うわ…。」
思わず、ゾロが声をあげた。
…エロい…。
ついさっきまで、清冽なオーラを全身から醸し出して、女神を舞っていたとは思えない。
「…や…っ…。」
脚を広げ、その奥へ、指を伸ばす。
ゾロの心臓も、爆発するのではないかという勢いで脈打っている。
男同士でもできるのだと、ずいぶん前に誰かに聞いた。
その時はここを使うのだとも、その時知った
その場所へ
指を
「……っ…ああ…っ!!」
指を入れたすぐそこに、イイ場所があるらしい。
「…ホントだ…。」
「……っ!…やめ…っ…や…っ!…あ!…ゾロ…っ!」
サンジは激しく身をよじり、逃れようと手を伸ばした先にあった、
紅の衣装を掴んで引き寄せ、顔を隠した。
「………。」
薄紅の衣装が絡む、白い肌。
ああ、たまんねェ…。
指が激しく動くのは自然な欲求だった。
動かせば動かすほど、愛しい体が跳ね、のた打ち回る。
「…やっ!…やめ…ろ…だめ…!…おい…っ!」
「…ああ…なるほど…。」
「…何が…なるほ…ど…だ…!もう…やめろ…!やめ…て…くれ…!」
「…よくねェか?」
「………っ!」
衣をさらに引き寄せ、顔を埋め、隠してしまう。
「……いいんだな?」
「―――っ!!」
だが
「…やっぱ…あんま濡れねェな…。」
「…た…り前…!」
「…くそ…なにもねェ…ああ、畜生!」
どうしたらいい?
挿入れたい
けれど
「…や…っ…痛ェ…んなの…ムリ…っ…。」
「………っ!」
震えてる…
「………。」
このまま無理に押し入っても、サンジを傷つけるだけだ。
どんなに欲しくても、傷つけたくはない。
ぎゅう
震える体を、抱きしめる。
「………。」
「…一緒にイこ……。」
サンジがうなずく。
ゾロの首に腕を回し、縋り付いた。その腕に、力が籠る。
頬に口づけ、互いのそれを手で包み――。
「…あ…ふ…っ…。」
サンジの息が、ゾロの耳の裏にかかった。
「……っ!」
ゾクッと来た。
瞬間背筋が震え、その快感にイったような錯覚が起きた。
「……あ…っ…あ…!…ゾロ…っ…。」
「…おい…耳…あんま…。」
ゾロが、大きく息をつく。
サンジがふと顔を上げ、腕を解き、ゾロの頬を包んで口づけ、その唇をそのまま耳へ滑らせた。
「…おいって…!」
「……おればっか…ずりィじゃん…。」
「…く…。」
サンジにキスをされながら、ゾロの手も止まらない。
「…ん…っ!ふぁっ…!あ…!」
「………。」
無意識に、腰が揺れる。
その動きに合わせて
「…あ!ああ…っ!…ん…イク…ヤベ…もぉ…っ!」
「………っ!…う…く…っ…!」
「あ!あああ…っ!ゾロ―――!」
深く、熱く、長い吐息。
崩れる体を抱きしめ
また唇を重ね
深く―――。
「……そろそろ…誰か来るかもな……。」
「…そうだな…。」
壁に寄りかかったサンジの膝を抱いて、ゾロは目を閉じていた。
単衣をゾロの肩にかけながら
「…おい、離れろ…服持ってくる…。」
「…いい…おれが行く。…キツイだろ?」
ゾロが半身を起こした。
頬を赤くしただけで、サンジは何も言わなかった。
何も言わなかったが、目が
「…怒ってんのか?」
ゾロが尋ねる。
「…怒ってるに決まってるだろ…こんなトコで…こんな忙しなく…。」
サンジが、震える声で言った。
ゾロは、肩に単衣を羽織っただけの姿で腰に手を当て
「…そんなじっくりできるワケねェだろ?ココで。時間もねェのに。」
「…!!だったら!ちゃんとやることやって!着替えて!場所変えて!
改めるとかしねェか!?フツー!!」
「どーてーにそんな余裕があるか。」
「!!!!!!!!」
薄紅の絹で、素肌を隠すように肩を抱き、サンジは口をへの字に曲げた。
ゾロは、ニヤリと笑い
「…可愛かったぜ?サンジ?」
「う!!」
「挿入てやれなくて、すまなかったな。」
「うああああ!言うなァ!!」
「確かに、てめェの言う通りだな。準備もなしに突っ込めねェ。よくわかった。」
「ああああああああああああああ!!」
サンジの顔を覗き込み、またゾロは笑い
「…先が長ェ事になったからな。じっくりたっぷり勉強して、
てめェトロットロにしてツッコめるようになってやる。楽しみにしとけ。」
「………はああああああああああああああああああああああああ!?」
なんだ!?
こいつのこの豹変ぶりは!!
ああ、もう…!!
「…まったく…てめェって弟は!!」
「可愛い弟だろ?」
「!!」
ああ、もう。
「好きだ。」
屈んで、サンジを覗き込み、頬を包んで仰向かせ
「………。」
笑った唇に、もう一度―――。
3月末
サンジが家を離れる。
だが、入学したのはK学院大学ではなかった。
「入学金払っちゃったわよ?」
母は怒ったが、顔は笑っていた。
「出世払いで返すから。」
「期待しない。」
期日ギリギリに申込み、入学したのは都内の調理師専門学校。
「コックになりたい。」
と、祭りの翌日、両親に告げた。
困ったような、さびしいような、複雑な表情だったが、許してくれた。
「K学院大にはおれが行く。」
その時、ゾロがいきなり宣言した。剣道の方で誘いが来ている。
後は神道の協会から推薦状があれば、入学は決まったようなものだ。
父が、驚き、嬉しそうな顔をして
「君が後を継いでくれるのかい!?」
「まぁ、それは追々考える。とにかく東京行って、サンジに悪い虫がつかねェ様に見張る。」
「そっちなの…?」
「一番の虫が、同じ屋根の下だからな。」
多分、後継ぎにはならないなと、父は肩を落とした。
まァ、資格を取ってくれる気になっただけでも良しとしよう…。
鳥居前広場の転回所からバスに乗り
シロップ台でウソップが乗ってきて
駅に着き
切符を買って
いつもなら、夕方にはまた戻ってくるはずのホーム。
だけど
「…じゃ、2人を頼むな?ゾロ。」
「言われるまでもねェ。」
「…あのな、とりあえずガラケーでいいから…電話買っとけ?」
「わかった。…ガラケーってなんだ?」
カクっと、サンジの肩が下がる。
そこからかよ。
「………。」
「なんだ?」
ホームの片隅まで、サンジはゾロを引っ張っていった。
ルフィが追いかけようとしたが、エースとサボ、ウソップに止められた。
そして
「……ゴールデンウィークに、一度帰ってくるから。」
「………。」
サンジの手が、ぎゅっと、ゾロの手を握り
「……ひとりで戻るから。」
「………。」
俯き気味のサンジの頬が、わずかに赤い。
「……………そん時な?」
「……………………おう。」
「………。」
「………ヤベ、勃起っ……。」
「!!」
無言で、サンジの膝がゾロの股間に食い込んだ。
「何やってんだ?あいつら?」
ウソップが言った。
「あっはっは!」
3つの口が同時に笑った。
電車が、ホームに入ってくる。
しばしの別れ。
けれど
見送るサンジはもう、「兄」であって「兄」ではない。
ゾロの大事な「サンジ」だ。
「じゃ!世話になったな!」
「また来るからなー!」
「おじさんとおばさんによろしく!」
手を振り、ウソップが言う。
「おー!また来いよー!サンジ!がんばれよ!!」
「ありがとう!お前もな!…ゾロを頼むわ!」
「おう!任せとけ!」
「余計なお世話だ、クソ兄貴。」
ドアが閉まる。
愛しい顔が、笑顔で動き出す。
別れではない。
これからの為の、これは旅立ち。
走り去る列車を見送り、ウソップが言う。
「あー、おれも東京の大学行くかなー!」
「おれは行くぜ。」
「そか!じゃ、おれもがんばってみっかな!」
「………。」
「お!ゾロ、急げ!4時のバスが出る!!」
「おう!」
弾かれるように走り出す。
もうすぐ、春。
END
まるも様リクエスト『兄弟ゾロサン』
すみません!ごめんなさい!(最初に謝る)
鬼畜にもきわどい18Rにもならなかっ…た…;;
おそらく、まるも様はもっとコメディテイストで
もっと鬼畜な感じを望まれていた…と思います;
思い浮かんだ『宮司の息子兄弟』設定がどうしても書きたくて;
コメディで行きたかったのに、なぜかシリアス路線で書いてしまいました;
ホンットスミマセン;;
ちょ、ちょっとでも、楽しんでいただけたら嬉しいです;
ありがとうございました!
えーと、お稲荷さんで、初午の神事があるのは本当ですが
内容は完全創作です;ご了承ください
(2012/12/15)
BEFORE
春待ち TOP
お気に召したならパチをお願いいたしますv
TOP
COMIC-TOP