BEFORE


翌日の修検、受かった。 路上教習に進めた。 ゾロの方が一足早く路上に入っていた為か、時間割がすれ違うことが多くなった。 メシの時間ぐらいはと思っても、昼前に二輪の方に行くこともあって、 食い終わると戻ってくるタイミングが増えた。 女の子じゃねェんだ。「待ってる」なんてする事もねェ。 食い終わればさっさと  「お先に。」  「おう。」 で終わっちまう。 ゾロが食ってる間、お茶でも飲んで側にいるくらいは許されるだろうか。 けど、それって、なんか違うよな…? まるで、カレシ待ってた女の子みてェな行為だよな? 夜、教習が終わってから、話すくらいはしてもいいかな? こっそり、ビール持って部屋に行ってもおかしくねェかな…? いや できるかよ そんなこっ恥ずかしいこと…。 1時間、空きができてコンビニに雑誌を買いに行った。 教習所に戻ってきたタイミングで、ゾロが運転する教習車も戻ってきた。  「………。」 チラ、とこっちを見た。 目が合った。 合っちまったから、立ち去るのもなんだな…。 車は駐車スペースに止まり、しばらくして教官が降り、続いてゾロが降りてきた。 ゾロは、まっすぐおれの方に歩いてきて、言った。  「終わった。明日卒検だ。」  「…そ…。」  「てめェは?」  「あと4時間乗らねェと。しくじらなきゃ…その次の卒検かな…。」  「そうか。」  「…二輪の方は?」  「終わった。」  「…そうか…。」 じゃ 明日には、さよなら…かな…。  「がんばれよ。」  「おう。お前もな。」  「ありがとう。」  「今日、まだあるのか?」  「7時限乗っておしまい。」  「じゃあ、外に飲みにいかねェか?」  「…え…?」  「明日、卒検受かったらその足で帰る。」  「………。」 あっさり 言いやがった。 チリ 胸が痛む。  「…終わった後のサファリ観光とか行かねェのか?」  「行かねェ。目的は免許だけだ。」  「自信あんだ…。」  「おう。」  「………。」  「嫌か?」 その一言に、思わず  「嫌じゃねェ。」  「じゃ、決まりだ。…二輪の教習所の側の居酒屋だが、いいよな?」  「あァ。」  「じゃ、行って来い。」 ポン 肩を叩かれた。  「!!」 ふれられた場所、電流が流れた。 ありえねェだろ? ありえねェよ。 こんなんありっこねェって…。 ドキドキするとか 胸が痛いとか それって普通は女の子に感じるものだろ? 一緒に寝て起きて、枕代わりに抱き絞められただけだ。 あんなセクハラ、男友達なら普通にやるだろ? 友達でしかない。 たまたま知り合った、気の合う相手でしかない。 それ以上の感情なんか、奴は絶対持ってねェ…。 第一 ディスプレイに浮かんだ『 ナミ 』の文字。 ナミ ナミちゃん ナミさん 可愛い名前だ どんな子だろう? あいつにはちゃんと彼女がいる。 普通に、たしぎちゃんみたいな可愛い女の子がいいに決まってる。 そうだよ おれだって おれだって女の子の方が… でも あいつの腕の中 すっげェ気持ちよかった… 二輪の教習所まで車で5分。 歩いてもちょっとで辿り着ける場所。 そのすぐ側に、小ざっぱりとした居酒屋があった。 教習所で見かけた顔も何人かいた。 おれとゾロが入っていくと、少し笑みを浮かべて会釈する仕草をした。 10人も入ったらいっぱいになりそうな店。 カウンターの端に座って、ビールと適当に料理を頼み、差し出されたつきだしを受け取った。  「お…美味いな…。」  「だな…二輪の教官が、ここがいいって言ってたんだ。」  「へェ…。」  「……卒検も修検も1日交代だからな、お前の卒検明々後日だよな。」  「…明日印鑑もらえたらな…。」 そもそも 修検落ちたのもてめェのせいじゃねェか(逆恨み)  「サンジ、お前んち東京のどこだ?」  「店は青山だが…住んでるのは三軒茶屋だ。」  「いいトコ住んでんな。」  「…あれ?お前東京…?」  「田舎はこっちだが、今住んでるのは東京だ。」  「そうなんだ…。どこ…?」  「道玄坂。」  「………そか………。」  「電話番号教えろ。メアドでもいいが、おれはあんまりメールはしねェ。」  「え?」 言われるがままに、電話番号とメアドを交換した。 交換したけど  「…いいのか…?」  「あ?」  「おれが電話しても…いいのか?」  「…何おかしなこと言ってんだ?」 うわ 嬉しい ここを出たら、つながりが途絶えると思ってた…。 ああ 安心した…。 ほっとするとタガが外れるのはおれの悪い癖だ。 今日こそは、しっかり意識保って、こいつに手間かけねェ様にって気合を入れたのに、 料理が美味くて酒が美味くて、何よりコイツとの時間が嬉しくて…。 明日で終わり。 いっそゾロが、明日の卒検に落ちればその次の実施日におれと一緒に受けられるのに。 けどダメだよな。 「ナミさん」が待ってるんだもんな。 「それまでに」帰らなきゃならないんだよな…。  「おい、おいサンジ。」  「……ん〜〜〜〜〜〜〜。」  「…ったく…ホンットてめェは酒に弱ェな…。」  「…んらこらない…。」  「せめて歩けるくらいには意識を保ちやがれ、しょうがねェな。」 飲まずにいられるか。  「…また寝坊したらかなわねェぞ…おっさん、勘定してくれ。」  「あいよー。」 そんな会話を、聞いたのが最後の記憶だった。 ゾロにおんぶされて合宿所に戻ったらしい。 途中、なんかゆらゆら気持ちよかったのを覚えてる。 いや おれ、いろいろ記憶してたよな。 酔ってはいたけど意識はあった。 もしかしたら おれ 意図的に酔い潰れたフリしてたのかもしれねェな…。 だってさ 明日にはさよならだ。 食事に来るって約束したけど、きっと「ナミ」さんと一緒なんだろう…。 お前が彼女と一緒の姿なんか はっきり言って見たくねェ…。  「おい、鍵どこだ?」  「………。」  「サンジ。」  「………。」  「…しょうがねェな…。」 301号室 ゾロの部屋 鍵開けて ドア開けて おれをベッドの上に放り出して  「………。」 ポケット探って、鍵を取り出した。  「…ん〜〜〜〜…。」  「起きたか?」  「…ん〜〜…。」  「おい、自分の部屋行け。」  「…ん〜〜…ゾロォ…?」  「あ?」  「…デニム…きつい…脱がせて…。」  「こんな細っせェの履くからだ。」 ぶっきらぼうに言って、手荒にベルトを外し、ファスナーを下ろして  「………せっ!!」 一気に引き抜かれた勢いで、足がベッドに叩きつけられた。  「…きゃーえっちぃ…。」  「てめェが脱がせろっつったんだろ!」  「…うー…。」  「…てめ、明日大丈夫か?」  「…心配だったら一緒にいてくれ…。」  「…あ?」  「…明日…起こしてくれ…。」  「おれに頼むことか?」  「……起こし…て……。」  「………。」 クソ なんで、おれこんな真似してんだよ? 女の子みてェに 何だよおれの手… 勝手に動いてんじゃねェ… どこ握ってんだ…? ああ… ゾロのシャツの裾か…袖口か… ぎしっ 重みが、ベッドのマットにかかる。 ああ、ゾロがいる。  「…誘ってるつもりか…?」  「………。」  「都合が悪くなると寝たふりか。」 ゾロを、独り占めできるのは今夜で最後かもしれない。 運転免許の合宿所で出会っただけのヤツ、これ以上の何があるってんだ? 増して、自分の世界に帰ればもっと大事な人がいるヤツ。 ごめんね 明日 返すから だから 今夜は…  「…ここにいろ…。」  「………。」  「…いてくれ…ゾロ…。」  「…あのな…。」  「こっちはおれの部屋だ。」  「………。」  「明日まで、このベッドはおれのベッドだ。」  「………。」  「おれのベッドで、2回もそんなカッコで寝てて、何も起きねェ方が変だよな。」  「………。」  「……後悔しねェな…?サンジ。」  「…………。」  「…サンジ?」 ゾロの体が、覆いかぶさってくる。 重みが、背中にかかる。 あ、なんか目頭熱い…。  「…後悔する…。」  「………。」  「…後悔…しまくる…。」  「………。」  「…でも…。」  「………。」  「………。」 でも  「好きだよ、サンジ。」 うそつけ てめェ、彼女がいるくせに あー…涙…勝手に出てくる… 男にされるなんて初めてだから、どうしていいのかわからねェ。 だから、ただただゾロにしがみつくしかなかった。 ゾロの肌の匂い 熱い胸 固い肌  「……サンジ……。」 痺れる声 ゾロ 男も経験あるのかな…。 なんか すげェ気持ちのいいトコ、ピンポイントで突いてくる。  「…ん…っ…ああ…っ…。」  「…エロい声だな…てめ…。」  「…う…ん…んなコト…ある…か…。」  「…てめェ…男の方がいいのか…?」  「…え…?…あ…っ…。」  「…それだけ聞いておきてェ。」 いきなり、酔いが冷めた。 自分がしていることが、急に恥ずかしくなった。  「…やだ…っ…。」  「…あ…?」  「放せ…いやだ!」  「…サンジ…?」 顔を覆った。 涙が溢れてくる。  「…悪ィ…。」 ぎゅうっと ゾロの腕がおれを抱きしめる。  「…お前が好きだ…。」 耳元で、ため息とともに漏れるゾロの声。  「……男なら誰でもよくて誘われたのなら…許せねェ…そう思った。」  「………。」  「違うよな?」 うなずいた。 大きくうなずいた。 言葉でなんか、恥ずかしくて言えねェもんよ…。 ウソでも好きだって 言ってくれただけでうれしい ありがと 大丈夫だ この思い出だけで…おれは大丈夫だよ…。  「…ゾロ…。」  「………。」  「…好きだよ…。」  「……ああ……。」 固い腕 ああ… すげェ嬉しい…    NEXT BEFORE                     (2012/3/21) License!!‐TOP NOVELS-TOP TOP