ポートガス・D・エース。 初登場。 本編では、名前だけがよく登場していた。 祖父に勘当された弟ルフィを気遣い、よく、サニーへ様子を見に通ってきていた。 がっ まさか それだけなわきゃない エースは、ルフィ以上にしたたかだ。 天然でしたたかなルフィと違い、エースのしたたかさは計算しつくされている。 翌朝、6時。 「…サンジ…サンジ。」 その声に、サンジは目を覚ました。 結局、あの後再び宴会になり、お開きになったのはつい1時間前だ。 気がつくと、全員玄関ホールで雑魚寝状態。 ステンドグラス天井から、淡く白い光が差し込んでいる。 「…ウソップ…早ェな…。」 声の主はウソップだ。 きっちり服を着て、帽子も被っている。 ああ、さすがに眠い。 「起して悪ィ。おれ、行くな。」 声を潜めて、ウソップは言った。 「…ああ、仕事か?」 「うん。今日、ブジテレビ。外にマネージャーが来てんだ。…帰り、明後日になる。」 「…あ…そっか…じゃ、また会えるよな?」 「うん。13日、オフにしてもらってるからよ。…遊んでくれるか?」 学生時代、ウソップはサンジとイチバン仲がよかった。 ゾロを敢えてそのカテゴリから除けば、ウソップが最良の親友と言っていい。 サンジ自身、やはりウソップともゆっくり過ごしたかった。 「もちろん。…がんばれ。」 「おう!…じゃな。」 小声で言い、ルフィを乗り越え、ゾロをまたいで、そっとドアを開けてウソップは手を振りながら出ていった。 軽く手を上げて答え、そのままサンジは起き上がる。 チョッパーの向こうにゾロが転がっている。 頭をかきながら天井を見上げた。 青い鳥 「おはよう、サンジ。」 その声に、サンジは振り返る。 エースだ。 すでに身支度を整えて、出勤しようといういでたちだ。 航空自衛隊の制服。 「制服って、男っぷりが倍増するな。」 「惚れたか?」 「あっはっは。」 「今日は?何か予定あるか?」 「……予定はしてないけど……。」 昨夜の宴会の最中、ゾロは今日も検察庁へ出勤だと告げられていた。 夕方に帰ってくるまでは、用はない。 エースが笑って言う。 「おれ、午後休みなんだ。昼飯一緒に食わないか?新宿出て来いよ。」 「…ああ、いいけど?」 「1時半にアルタの前。駅側でもいいぜ。」 「ああ、わかった。」 「じゃ。」 エースは、寝転んだルフィのほっぺたをつねり 「ホラ、ルフィ起きろ!学校だろ?」 「んん〜〜〜〜……休む……サンジと遊ぶ……。」 「なに言ってんだ?」 と、チョッパーががばっと起きあがり 「やばいっ!今何時!?」 「6時だ。」 「あ。なんだ6時か…よかった…あと30分…。」 ころん 笑って、エースは立ち上がると、帽子を被りなおして出ていった。 玄関が閉じるのを見て、サンジがふとゾロの方を見ると 「………。」 ゾロの姿は消えていた。 同時に、2階の2号室のドアが『ぱたん』と閉じられる音がした。 「………。」 怒ってるな そりゃそうだ 本当なら 幸せな気分で目覚める朝のはずだったのに でも、おれのせいじゃねェぞ? ゾロは検察庁へ ルフィは大学へ チョッパーは病院へ そしてブルックは、サンジの帰国の前々日にもう一度来るからといって、栃木へ帰っていった。 今、サニーに残っているのはサンジとナミ。 約束した1時に新宿、には時間があるので、サンジがナミにお茶を出し、 “ウルトラスーパーデラックススペシャルナミランチ”を準備する。 ナミも、食堂のテーブルに道具一式を持ち込んで、 サンジとおしゃべりを楽しみながら、ペンを走らせていた。 「じゃ、まだエッフェル塔に昇ってないんだ?」 「まぁ、ここにいた時も、東京タワーには昇ってないからね。」 「確かにね、あたしもそうだわ。」 「でも、ベルサイユ宮殿には行ったよ。凄かった、凄まじいって方が合ってるかな?」 「ああ〜〜vvベルサイユのバラ〜〜〜vv行ってみたぁ〜いv 『なぁに?その目は!文句があるならベルサイユへいらっしゃい!』なぁ〜〜〜んて。」 「何それ?」 「知らないの?『ベルばら』のチョー有名なシーンよ?」 「いや、少女マンガはあまり…ベルばらって名前は知ってるけど…。 ベルばらみたいなマンガが描きたいの?ナミさん?」 「今時ベルばらもないけど、レースにリボンにフリルは憧れるかも。 ベルばら並みに、ヒットして売れるのはやっぱり夢よね。」 「プロデビューおめでとう。」 サンジの言葉にナミは 「ありがと。でも、あんまり嬉しくないかな。」 「…どうして?」 「ウソップ達に聞いたでしょ?連載してる訳でもないし、コミックスが出た訳でもない。 描いてる雑誌はメジャーじゃないし、カラー原稿描いたことは一度もないわ。 今でも、年に数回コミケで本売って、短時間や期間限定バイトして描いてるのよ。プロじゃないわ。」 「………。」 「悲観してる訳じゃないの。『まだまだ』ってこと。だから、おめでとうって言葉はまだ言わないで。」 「じゃ、いつ言ったらいいのかな?おれ、そっちには詳しくないからさ。」 「そうね…集英社とか、講談社とか、小学館とか、そういう出版社からコミックスが出た時がいいな。 それもちゃんと『第一巻』!って、つくのが出た時に。」 「わかった。じゃ、その時に。」 「うん。そしたら次は、CD化でしょー?アニメ化でしょー?ドラマ化でしょー? ドラマが当たってー映画化されてー、印税がっぽりってのが最終目標よ!」 「…ははははは…。」 「主役は小栗旬かな〜〜〜vv水島ヒロとか〜〜〜〜vv佐藤健クンとか〜〜〜〜〜vv 瑛太とか〜〜〜〜vv平岡祐太とか〜〜〜〜vv いや〜〜〜ンvv会った時どうしよ〜〜〜〜vv」 妄想腐女子健在 「この前、ウソップが向井理クンのサインもらってくれたの!!もぉ〜宝〜〜〜vvあ。そうだ。」 言って、ナミは携帯を取り出し、ワンセグのボタンを押した。 音が流れ始めた画面を、ナミはサンジに向ける。 『は〜〜〜い!コチラ、ウソップでぇ〜〜〜す!!今、井の頭公園に来てま〜〜す! いやぁ〜〜、平日ですが、お花見のお客さんがすんごいですよぉ〜〜!!』 液晶画面に、大写しのウソップ。 「お、ウソップ。」 「これ、レギュラーなのよ。週1だけどね。出てるの深夜番組が多いかな? あとゴールデンに1本と。後、この春から、『いいとも!』出てるの。」 「へぇえ!?スゲェなそりゃ。ったく、いつの間にって感じだよ。 …そう言えば、話すと長いっていうから聞かなかったけど。何でタレント?公務員試験は?」 ナミは笑って 「落ちたのよ、三期連続で。一種も二種も全滅。それで腐って腐って…。」 「うん。」 「そしたら、そんなある時街頭インタビュー受けたらしいのね。サンジくん、“遊楽亭とんぼ”って知ってる?」 「とんぼなら知ってるよ。日本に住んでたんなら誰だって。」 「そのとんぼの、『アンタの夢かなえちゃる』って特番だったの。 その時、ウソップってば『有名芸能人になって、将来は自分が生まれた県の県知事になりたい!』って…。」 「…言っちゃったんだ…。」 「言っちゃったのよ。」 サンジが呆れて、だが笑って煙草を咥えなおす。 「で、とんぼが面白がって、自分の番組に素人で出して…。」 「ウケちゃったんだな…。」 「そうなのよ〜。」 「ウソップだモンなぁ…。」 「ウソップだモンねェ…。」 『昼ですが!失礼します!!じゃ、いただきますね〜〜カンパ〜〜〜〜イ!! ……ひゃっはっは!いやァ、仕事で飲む酒は美味いっ!! …あらららら!おかーさんいけませんよ!ワタシ仕事中ですから!そうですか?じゃ、もいっぱい!!』 「…人気者になるべくして、生まれてきたようなヤツだから。」 「そうね。…ウソップ、本気よ。ちゃんとあたしへの借金も完済したし。 資金貯めて、本気で政界に打って出るつもりでいるわ。通信制で、別の大学にも入ったのよ。」 「………。」 「…ゾロも頑張ってるわよ。」 「………。」 「元々、第二外国語でフランス語とってたらしいから、今はオランダ語と…法律系の英語と勉強しに行ってるわ。 …暇、全然ないみたい……1週間くらい、全く会わない時もある。」 「……そう。」 「…ねェ、サンジくん。下世話な意味でなく、聞きたい事が有るの。」 「何?」 「…いつ…ゾロのコト好きだって自覚した?」 「………。」 「…あたしが、このアパートに来た時は、サンジくんもうゾロのコト好きだったでしょ?」 「…よく見てるね…ナミさん…。」 「腐女子はね、男の子が2人いたらその時点で、妄想という名のフィルターをかけて見るものなのよ。」 「ははは…。」 「…ゾロの方も、すでにサンジくんのコト好きだったもの。こんな美味しい話、あたし的になかったわ〜。」 「…え…?そう…?」 サンジの言葉に、ナミは目を丸くする。 そして、ぷっと吹き出し 「……やぁ〜だ!もぉ、サンジくんカワイイ〜〜。」 頬を染めて、サンジは顔をしかめた。 「…あ、時間だ。ごめん、ナミさん。いってくるよ。」 「いってらっしゃい。…気をつけてね。」 「ああ、大丈夫。ゾロじゃねェから、迷子になんかならないよ。」 「………。」 そうじゃなくて。 と、ナミは心の中でつぶやき。 「…やっぱり、恋に試練はツキモノよね?」 今度は声に出してつぶやき、にまっ、と笑った。 待ち合わせの場所からほど近い店。 ランチがあるのが少し不思議な感のある、オイスターバー。 昼を過ぎている為か、少し年のいった奥様方の姿が多い。 ラフだが、ジャケットを着てきてよかったと思う店。 エースは、制服ではなくスーツ姿だ。 「面白い店知ってるな、エース。」 「ああ。この前、事務官の女の子に聞いたんだ。ひとりでオイスターバーもないだろうと思ってたからさ。 ルフィを誘っても、ゆっくり雰囲気味わえねェし。」 テーブルの上に、アラカルトが並ぶ。 数種の牡蠣が、彩りよく並べられていた。 昼だが、エースは遠慮なくワインを注文し、グラスを掲げて言う。 「じゃ、再会に乾杯。」 「……乾杯。」 一口、ワインを舌の上に転がして味わい、喉の奥へ流し込むと、サンジは微笑んで 「日本のワインも侮れねェよな…逆に、日本の牡蠣には日本のワインの方が合う。」 「はははっ、嬉しいねェ。喜んでくれて、誘ったかいがあったな。」 「夜の料理が楽しみな店だな。」 サンジが思わずそう言うと。 「じゃ、今度は夜に来よう。」 「断る。」 「………。」 遠慮のない即答に、エースは眉を寄せて笑った。 「…夕食に誘っても、多分OKしてもらえないとは思っていたが…。」 「だから、ランチって言ったんだろ?エース?」 「…このまま、ワインをどんどん勧めて、酔わせて拉致って、すぐそこの新宿プリンスに担ぎ込むって手もある。」 「…やれるもんならやってみな。国家公務員。」 エースは笑顔を崩さない。 サンジも微笑んで、だが目だけは鋭く光らせたまま 「…とっくの昔に、おれはあんたをフった筈だぜ?」 「2年の間に、多少熱が冷めたんじゃねェかと思ってさ。」 「………。」 「なァ、サンジ?…まさか、おれが、あれで諦めたと思っちゃいねェだろ?」 「…思ってねェ…けど、おれは、あんたをそういう意味で好きにはなれねェ。」 エースは肘を突き、真っ直ぐにサンジの目を見た。 サンジも反らさない。 と 「……初めてサニーにルフィの様子を見に行った時、 オンボロアパートのあの階段を降りてきたお前さんが天使に見えたよ。」 「…その話は何度も聞いた…。」 一目惚れだった。 エースは、根っからのバイセクシュアルで、しかも激しいメンクイだった。 サンジを一目で気に入り、ルフィにかこつけて、サニーに通い詰めた。 本当はサニーに住みたい勢いだった。 だが当時のエースは、地方に赴任していてそれは出来ず、ずっと東京近郊への異動願いを出して、 やっとの思いで、しかも飛行機に乗る事をしばらく諦めてまで本省勤務になった時には、サンジはフランスの空の下だった。 しかも 「トーヘンボクで、朴念仁で、恋愛ぶきっちょのあのロロノアが、まさか、告白するとは思ってなかった。」 「残念だったなァ…つっても。…なァ、エース…?おれは、その1年も前に、お前さんに告白されて、 されたその場で断ったはずだ。いい加減に諦めてくれ。」 「…ああ、確かに。あの時お前さんは断った。だが、あの時、お前はこう言ったんだ。 “あんたの気持ちは嬉しい。けど、今は、そう言う事を考えられる余裕はないんだ。”」 「………。」 「このセリフで、おれが諦める訳はねェ。」 「………。」 「…こう言えば、おれは諦めたんだよ。“おれはゾロが好きなんだ”ってな?」 「………。」 「…あの時、お前はおれに嘘をついたんだ。だから、おれは、その嘘に付き合うことにした。 だから、おれはまだ諦めない。おれはお前が好きだ。 お前が欲しい。フられたその日からも、この想いは変わらねェ。」 「…勘弁してくれ…。」 エースは、唇の端を上げた。 俯き加減のサンジの髪の向こうの眉が、苦しげに歪んでいる。 「…悪かった…だから…おれを困らせないでくれ…。」 「困らせてるつもりはねェ。おれはおれに、正直になってるだけだ。」 「………。」 「……悪ィ。おれがお前を困らせてるな。」 サンジは首を振った。 「…2年も離れていて、それでも変わらねェか…。」 「…2年…秘めていて叶った恋だ。同じ2年間で、冷める訳がねェ。」 エースは笑い、グラスを傾けた。 「サンジ。」 「………。」 エースは急に顔をしかめ、何かを考え込む様に眉を寄せ 「…どうしてもわからねェ事がひとつある。…お前、ロロノアのどこに惚れた?」 「………。」 「さっきも言ったろ?朴念仁のトーヘンボクのぶきっちょ。 おおよそ、愛だの恋だのに縁遠そうなヤツ。…どこがよかった?」 「………。」 『…いつ…ゾロのコト好きだって自覚した?』 いつ? 気づいた時には、好きで好きで。 なのに 初めて出逢った瞬間は、ムカツクくらいあいつが気に入らなかった。 NEXT BEFORE (2009/3/9) めぞん麦わら−2号室と5号室−TOP NOVELS-TOP TOP