「ただいま。」 夕刻 澄んだ明るい声に、サウザンドサニーの住人と元・住人たちは、一斉にテラスやホールに飛び出した。 「お帰り!ロビーン!!」 「ヨッホッホホホホ!管理人さん、おかえりなさーい!!」 「お帰り、ロビン!」 「お帰り、ロビンちゃん!!」 「ロービーン!お土産〜〜〜〜!」 「お前ェら、おれにお帰りはねェのか!?」 「えー?別にいいよ、フランキーは。」 「あら、あんたいたの?」 「帰ってこなくてよかったのに。」 「お前らァァァ!!」 「ウフフ…。」 二人を見送ったのは日曜日だった。 その時と比べても、一層美しくなったロビン。 「ああ、帰ってきた…やっぱり我が家が一番いいわ。」 「ヤーダ、ロビン?発言がオバサン。」 「オバサンですもの。」 「ロビンちゃんのどこがオバサンだよ!?ロビンちゃんがオバサンなら、作者は既に妖怪だぜ?」 失礼な。 「おや?また声が?不思議ですねェ。」 「ロビン!お土産!!」 「はいはい。」 渡された包みを喜び勇んで受け取ったルフィは、梱包を解くためのハサミを取りに走って行った。 「楽しかったか?ロビン?」 チョッパーの問いに、ロビンは笑って 「ええ、もちろん。ガラス工場の方、みなさんよくしてくださって…みんなによろしくって。」 「どんな所行ったんだ?フランキー。」 サンジが問う。 「ああ、明治時代に建てられた工場とか、洋館とか、ちょっと足を伸ばして、ロックハート城も見てきた。」 「ほら、これよ、ナミちゃん。」 バックからパンフレットを出して、ナミに見せる。 「うわぁ!素敵!こんなお城があるんだ〜〜。」 「本物の中世のお城を移築したものだそうよ。素敵だったわ。」 と、ルフィが戻ってきて 「うぉい!ロビン〜〜〜〜!!こんにゃくじゃねェかァ!こんにゃくじゃ力が出ねェぞ〜〜〜!!」 「名産品だっていうから。」 「こんにゃくじゃダメだ、こんにゃくじゃ…(T△T)」 泣きながら、それでも食べる。 「ウフフ…ちゃんと他にもお土産があるのよ。」 「食えねェけどな。」 言いながら、フランキーはボストンバッグの奥から、ダンボールの包みを取り出した。 「なぁに?」 箱を空けるフランキーの手に視線が集中する。 やがて開かれた箱の中から出て来たのは 「ワイングラス?」 「ええ。」 「うわぁ、キレイだ〜〜〜虹みたいだ!」 チョッパーが言う通り、ワイングラスは全てが違う色をして、箱の中で緩衝材に埋もれていた。 「ガラス工場で、フランキーと2人で作ったの。」 「これだけで1日潰しちまった。デキはまぁまぁだと思うぜ。」 「あ、名前がカッティングしてある。このオレンジ色、あたし?」 「ええ、そうよ。」 「あ、このピンクおれのだ。」 「この赤いのがおれか!」 「紫がロビンで、水色がフランキーね。」 「おお、この黒いのはワタクシですね?」 「ワイングラスとしては邪道な色だな。」 「しょうがねぇだろ?イメージで作ったんだ!ほらよ、これがマユゲ、お前のだ。」 フランキーが取り出したのは、コバルトブルーのグラス。 「この緑がゾロ。」 ロビンが、ゾロの分もサンジに渡した。 「…綺麗な緑だ…。」 「だろ?その色出すのに苦労したんだ。」 ルフィが、残りのグラスを引っ張り出して 「この黄色がウソップだな?この、もう一個赤いのは?」 「ルフィのよりちょっとオレンジ色かな?」 「でも、ナミさんよりは濃い色ですね。」 「それはエースに。」 ロビンが言った。 「火みたいな色。」 ナミが言う。 「情熱の色、ですか?ヨホホホ!」 ブルックが笑った。 サンジは、自分とゾロのグラスを両手に持ち、チン、と鳴らして 「今夜は、これで乾杯しよう。」 「さんせ――い!」 チョッパーが言った。 ロビンも微笑み 「楽しみだわ。」 「お任せあれ。」 その時 「うおーっす!今をときめくウソップ様の凱旋だぁ〜〜〜!レッドカーペットで迎えてくれたまえ、諸君!!」 「結果は小笑いでーす。」 「えええ!?せめて中笑いで!!」 「あら、ウソップ。」 「おおおおお!!ロビーン!!」 「ルフィ、肉が来たぞ。」 「おおおおおおおおおお!!!愛してるぞー!ウソップー!!」 「って、生で齧るなーっ!!おれまで齧るなぁあああ!!」 「……ただいま。なんだ?うるせェな。……よぉ、お帰り。」 「ただいま。お帰りなさい、ゾロ。」 「おおお!色男が帰ってきたか!!」 「誰の事だよ。」 「早かったのね、ゾロ。」 「ああ……一段落ついたからな。」 「なんだよーいつも通りの時間なら、1人頭の肉の量が増えたのにィ!!」 「悪かったな。」 「ウフフ…やっぱり、みんなが揃うと賑やかね。」 ロビンの言葉に、みな一瞬静かになった。 そして、ルフィが言う。 「…全員集合だ!!」 誰も、何も言わなかったが、みな、心の中では同じ思いを持っている。 「よぉ〜〜〜〜し!!全員集合した所で宴だァ〜〜〜〜!!!」 「お―――っ!!」 ほんの少しの疎外感を感じながら、熱冷シートをデコに貼ったままのエースも、テラスの上から親指を立てた。 「あら、エース。」 「お帰り、管理人さん。結婚式、欠席でごめんよ。」 「いいのよ。…どうしたの?風邪?」 「失恋という名の病よ。」 「まぁ、誰に?」 「聞くのか?」 昨夜、あれだけ飲んで潰れて帰ってきたのに、 エースはそんな事など全て忘れたかのように、注がれた酒を片っ端から飲んでいく。 10個のワイングラスに酒が途切れる事は無く、 サンジの料理を堪能しながら、サウザンドサニーの大宴会は夜更けと共に盛り上がる。 「コックさん、そろそろ店じまいして、座って。」 「ありがとう、ロビンちゃん。このパエリヤができたら座るよ!」 サンジがエプロンを外すと、ロビンが自分の隣に招いた。 そして 「…帰ってきてくれてありがとう。嬉しいわ。」 「おれも、ロビンちゃんに会えて嬉しいよ。ホントにおめでとう。…よかった。」 「ありがと…。あなたががんばってるって、わかってはいたけど…。思い出すと、心配になってしまって。」 「ありがとう。元気でやってるよ。」 「…少し痩せたみたい…。」 「そんなことないよ。」 ロビンの言う通り、サンジは少し痩せた。 修行の日々、毎日料理に囲まれながら、食えない日もある。 客の残した残飯を、味を盗む為に口にする事で、空腹を賄うことも少なくない。 「…ゾロも…すごくがんばってる…。」 「…うん、知ってる。」 ロビンがゾロを見る。 ルフィが、鼻に割り箸を刺して踊る十八番の芸を、一緒にやろうと誘われて必死に断っていた。 「早くあなたの所に行きたくて、一生懸命だわ。」 「うん……。」 「…そうだわ。手紙、読んだ?」 「手紙?」 「あら。」 ロビンは目を丸くして 「やだ。忘れてるのね?」 「………あ。」 忘れてた。 ロビンちゃんが新婚旅行に出かける直前に…。 「…ヤベ…スーツのポケットに入れたままだ…。」 「まぁ、ひどい。」 「ごめん…。」 ロビンは困った様に笑いながら、首をかしげた。 「読んでくる。」 「ええ。」 サンジが立ち上がると、ゾロがいぶかしげにこちらを見た。 目が合ったが、その時 「どうした?」 ウソップが尋ねた。 「ああ、ちょっと部屋に忘れ物。」 「サンジィ!なァ、お前もこれやろうぜ〜〜〜!!」 「やなこった。」 「ちぇ!じゃあナミ!!」 「やるワケないでしょ、バカ!!」 エースは、ブルックと何かを話し込んでいた。 不意に、声を潜める様にして、妙なこらえ笑いを浮かべていた。 あの顔は、きっとエロ話だな……。 サンジはゾロを見て笑った。 結婚式の時に着たスーツは、2号室の壁にかけたままだった。 帰る時に片付ければいいや、とほったらかしだった。 「えっと…これだ。」 白い封筒。 宛名はロビン。 裏を返して見る。 「…あ…!」 ビビちゃん…! 中には、ロビンへの手紙と、そしてもうひとつ封筒が入っていた。 封筒の表に “ サンジさんへ ” と、書かれてある。 「………。」 瞬間思ったのは、同じ手紙をゾロも受け取っているのだろうか? という疑問だった。 丁寧に封を切り、手紙を取り出す。 淡い水色の便箋に、たおやかな文字。 NEXT BEFORE (2009/3/23) めぞん麦わら−2号室と5号室−TOP NOVELS-TOP TOP