サンジさん ご無沙汰をしております。 遠い異国の地で、修行中との事。 夢に向って邁進されている、一生懸命なサンジさんの姿が目に浮かびます。 ロビンさんの結婚式に帰国されると聞いて、本当はとてもお会いしたかったけれど、 丁度こちらでも春のお祭りの時期で、顔役の義務を果たさなければならず、伺うことができません。 とても残念です。 あの時は、黙ってサニーを出ていってしまって、お別れも言えなくてごめんなさい。 でも、お二人が帰ってくるのを待っていたら、決心が鈍ってしまいそうだった。 あの後、母の看護も出来て、看取る事も出来て、それまでの親不孝を 少しでも詫びる事ができて、よかったと思っています。 あれから、なかなか連絡もしないままで、きっとビビは冷たい子だって思ったでしょうね。 でも、私にも、意地っていうものがあるんですよ。 「……意地…?…え…?」 サンジは、ビビの手紙を持ち直し、目に近づけた。 覚えていますか? サンジさん、あなたが、『つき合わないか?』って仰った事 「…覚えてます…。」 酷い人 ウソツキな人 本当に好きな人は別にいるくせに だから、私も答えたんです。 『今、そういう事を考えられないんです』って。 「………。」 サンジさんは気づいていましたか? 私が、ゾロさんを好きだった事。 「…うん…。」 ああ、やっぱり…。 でも、告白した事までは、知らなかったでしょ? 「え!?」 うわ、知らねェ…! 私、その場で振られちゃったんです。 「………。」 『好きな奴がいる。ごめん。』 それが、答えでした。 「………。」 好きな奴 サンジさんの事だって、すぐにわかりました。 「………。」 心のどこかではわかっていたけれど、やっぱりびっくりしました。 だって、サンジさんは綺麗だけれど、男の子ですもの。 なのに、好きなの? 恋愛の対象になってしまうの? それとも、ゾロさんってば、元から男の子じゃなきゃ駄目なの? 私、思わずそう聞いてしまいました。 「………。」 別に男じゃなきゃ駄目って事はねェ。 ただ、アイツと歩くのが好きなんだ。 歩いていたいんだ。 それが、ゾロさんの答えでした。 「………。」 知ってる?サンジさん。 ゾロさんは、あなたと歩く時には、気を遣わなくていいんですって。 サンジさんも酷いけど、ゾロさんも酷い。 私と歩く時は、とても気を遣って疲れてたって言ったのよ? 「…あのバカ…。」 歩調も、歩幅も、ものの考え方も、全部しっくりと合って、とても心地がいいんですって。 もう、聞いててバカバカしくなっちゃった(笑) 「………。」 そうなんだ。 同じだったんだ。 いつのまにか、それはとても自然すぎて逆に気がつかなかった。 ゾロと歩く時、おれは全くゾロに気を遣わなかった。 ものの考え方も、組み立てる方向も結論の出し方も、不思議なくらい噛み合って、ゾロの隣はとても居心地がよかったんだ。 だから、ゾロの心の琴線に触れることができた時、おれの心の隅っこにあった気持ちが一気に膨らんで、 いつのまにかそれは当たり前の顔をして、おれの中に居座っちまっていた。 歩きたい ずっと一緒に歩いていたい こいつの隣にいたい こいつの隣で歩いていきたい。 思えば、ゾロさんは、私が両親や、古い家柄や家の仕事を疎んだ振りをして、無理矢理他の夢を追いかけている、 そんな誤魔化した毎日を送っている事を、見抜いていたのかもしれません。 ただ、がむしゃらに、突き進む。 その道を、一緒に歩いていけるパートナー。 ゾロさんに相応しいのは、私よりサンジさん。 そう思ったら、もう、サニーにいる理由はなくなっていたの。 「………。」 私、ロビンさんとはそれなりに連絡を取り合っていました。 だから、お二人が、しっかりと互いの思いを確認しあった事も聞きました。 その時、私、素直に喜べました。 よかった。 幸せになって欲しいって。 「…ビビちゃん…。」 何があっても、ゾロさんは揺らがない。 信じて、一緒に歩いていって下さい。 そうそう 私、旅館のお客様にネイルのサービスをしているんですよ。 とても喜んでいただけて、若いお客様も増えました。 男性向けのネイルも今流行っていて、ゼヒ!サンジさんにもしてあげたい! 「…はは…。」 サンジさん。 本当にありがとう。 あの頃、サニーでお二人に出逢えた事、一生の宝です。 感謝します。 いつか必ずお二人で、いいえ、楽しいサニーの仲間と一緒に、うちへ遊びに来てくださいね。 精一杯のおもてなしをさせていただきます! 今後のご活躍をお祈りいたします。 どうか、体だけは大事に。 お元気で ビビ 「……ビビちゃん……。」 PS ゾロさんに、この手紙の事はナイショvv 浮気しちゃダメよ、サンジさん(笑) ビビちゃん 手紙ありがとう 読んでいてとても懐かしく、そして泣きたくなるほど嬉しかった。 ごめんね 知らない間に君をたくさん傷つけて まったく あのマリモ野郎も、とことん冷たいヤツだよな? 大丈夫 おれも絶対揺らがない 必ず、2人で夢をかなえて、これからも、どこまでも一緒に歩いて行くよ いつになるかわからないけれど、必ず、ビビちゃんの旅館へ遊びに行きます。 連中も一緒だと大変だぜ? とにかく食う連中ばっかりだから(特に1人、トンデモねェのがいる!) ビビちゃん でも、おれは ビビちゃんの事、本当に好きだったよ 守って上げたいお姉さんってカンジで、とても好きだった 嘘じゃない それだけは信じて それは ゾロも同じだから ビビちゃん あの事件の時に、警察でレイリーって刑事に会ったのを覚えてる? あの刑事さん 実は、ゾロが昔、両親とお姉さんを亡くした時の、事件を担当していた刑事さんだったんだ。 ゾロはね 13歳の時に、街の中でいきなり見知らぬ男に襲われて、両親とお姉さんを殺された。 ゾロも、胸に大きな傷を負った。 男は、精神鑑定を受けて病院に送られたけれど、刑務所には入らなかった。 3人も殺して、小さなゾロを傷つけたのに だからゾロは 犯罪に対して、人を傷つける事に対して、ものすごく敏感なんだ。 あの時、ビビちゃんを襲ったあのクソ野郎に、狂った様に殴りかかっていったのも ビビちゃんを、やっぱりゾロも、亡くなったお姉さんに重ねていたからなんだと思う。 「………。」 そこまで書いて、サンジは、『ゾロも同じだから』の後の文面を書いた便箋を、破り捨てた。 そして 『ビビちゃんに、素敵な人ができたら知らせてくれよ?どんな奴か、おれとゾロでじっくり確かめてやるから。 その日まで。ビビちゃんも元気で。』 便箋を丁寧に畳んで封筒に入れ、切手を探してゾロの文房具入れの中を探る。 カラーボックスの上の、サンジが生けた小さな花束。 このコップの中に、ゾロは花を欠かさない。 両親と姉への、手向けの花。 ビビが出ていって間もなく、ある日の朝、ゾロがサニーから出かける格好がいつもと違った。 珍しく、ジャケットを羽織ってネクタイまでしていた。 しかも、色合いが暗い。 「どこ行くんだ?」 おれの問いに、ゾロは靴を履きながら 「三鷹、実家だ。」 「へぇ、お前三鷹が家なの?…なら……何で、こんなアパート借りてんだ?」 「今、人に貸してんだ。つっても、オヤジの親族だけどよ。」 「…ふうん…なんで?家族は?」 「家族はいねェ。死んだ。」 「…え…?」 「今日、法事なんだ。仏壇、家に置いてあるからよ。」 「………。」 「家の賃貸料がおれの収入なんだ。その親族に、位牌預かってもらってる。」 「…両親共にいねェの…?今日はどっちの法事?」 「両方だ。ついでに姉貴も。同じ日に死んだんだ。」 「!!…事故…か?」 「……殺された。通り魔に。」 「……っ!!」 事も無げに、ゾロは言う。 「…ムシャクシャしてたんだとさ。誰でもよかったんだと。」 「………。」 「…だったら、他の奴にしてくれりゃよかったのに。」 「…ゾロ…。」 「ああ、こんなコト言ったら罰が当たるな。…行ってくる…今日は、飯はいらねぇ。」 「……今日、帰るのか?」 「ああ、帰る。けど、飯は…。」 「待ってる!」 「………。」 「待ってるから…。」 「……なに泣いてんだ?」 「え…?」 あれ? あ。 ホントだ…。 「泣くな。」 「!!」 「…まったく…何でてめェは、人のコトでそう泣くんだ?」 「…うるせェ…。」 ゾロは笑った。 そう言えば ゾロの胸に大きな傷がある。 手術の跡だと言っていた。 何の手術だか聞かなかった。 事件の傷跡なんだ…。 「…ごめん…。」 「謝る事はねェ。」 「………。」 「…傷が痛いのも、悲しいと思ったのも…もう終わった。だからいいんだ。」 「嘘をつけ…。」 「…だって…おれは今だって悲しい…姉貴が死んだのも…お袋が死んだのも…。」 「………。」 「少しくらい…弱音を吐きやがれ…。」 ゾロは小さく笑った。 「そうだな…。」 ぽん、と ゾロの手がおれの頭に置かれた。 「笑え。」 「………。」 「てめェは、笑ってる顔の方がいい。」 ゾロの、無邪気なまでの笑顔。 「行ってくる。……帰り…。」 「……うん。」 「…駅まで迎え、頼むな。」 「…ったく…。」 ああ 好きだ おれ、ゾロが滅茶苦茶好きだ。 「じゃ、おもっクソ、サービスしてやっか。」 「あァ?」 「駅まで送ってってやる。」 「………。」 歩きたい あいつと一緒に歩いていきたい。 ずっと でも やっぱり 男のおれが男のコイツを 好きになるって いいのかな…… それに おれにこんな顔を見せてくれたからって、ゾロがおれに、 そういう気持ちになってくれるかな、なんて、甘い期待もいいところだ。 だったら 一緒に歩くだけでいい お互いがサニーにいる間でいいんだ。 駅からの5分 駅までの5分 一緒に、肩を並べて歩くだけで それだけで NEXT BEFORE (2009/3/23) めぞん麦わら−2号室と5号室−TOP NOVELS-TOP TOP