新宿駅西口から、成田空港への高速バスに乗り込む。 バスのシートに座り、ふっと息をつくと、隣に座ったゾロの手が、強くサンジの手を握った。 「………。」 熱い。 少し汗ばんで、何だか緊張しているような…。 とうとう、結ばれる事はできなかった。 でも 心は 前よりずっと強く、結ばれた。 「………。」 サンジは、ゾロの肩に頭を預けた。 他にも乗客がいる、だが見られても構わない。 ゾロが好きだ。 ゾロが好きだ。 その想いに、恥じるところなんかどこにもない。 「…メールするから…。」 「…ああ…。」 「手紙も書く…。」 「…ああ…。」 「………。」 「…おれも…書く…。」 「…うん…。」 「…時々…神楽坂に顔を出す…。」 「……ありがと……。」 「………。」 「………。」 「…疲れたろ…眠っていいぞ…。」 「…飛行機でたっぷり寝る…から…今は寝たくない…。」 「………。」 高速道路は比較的空いていた。 オレンジ色のバスは、予定の到着時間より少し早く、成田空港に着いた。 第一ターミナル・南ウィング。 スーツケースを転がしながら、全日空の窓口で、搭乗手続きを取る。 別れの時間が、確実に近づく。 「…さて、手続き終わった。荷物も預けた……お茶…しようか?」 「………。」 「…どこがいい…?静かな店がいいな…。」 「………!!」 ゾロは、いきなりサンジの腕を掴み、引きずる様に歩き出した。 「…な、何!?何だ!?ゾロ!!」 「………。」 「…?…なァ…ゾロ!?」 黙ったまま、ゾロはずんずん歩いていく。 エスカレーターで上へ上がり、さらにずんずん進んでいく。 きょろっと辺りを見回して、何かを見つけると、そこへまっしぐらに歩み寄った。 「………?」 『成田空港総合案内』 看板の下の受付カウンターに、ゾロは息を切らせて飛びつく。 受付嬢が、驚いて思わず身を引いた。 「…予約した、ロロノアだ。」 何? サンジは思わずゾロを見た。 予約? 予約って何? 受付嬢の前に、『有料待合室受付』のプレート。 「…ロロノア様…少々お待ちくださいませ……はい。ロロノア・ゾロ様。承っております。」 受付嬢は丁寧に頭を下げると、カウンターの中の電話をとり、ボタンを押し 「…ロロノア様、ご到着になられました。ご案内いたします。」 ?????????? 「ご利用料金のご精算、宜しいでしょうか?」 「ああ。」 「お支払い方法は?」 「現金で。」 「では、1時間30分のご利用で36,750円でございます。」 1じかん…さんまん…!!? うわ! 払いやがった! これって、一体…!? 「どうぞ、こちらでございます。」 スレンダーなボディのアテンダントに案内され、エレベーターで1フロア下へ降りる。 人気のない通路。 「…な、なァ…ゾロ…?」 「………。」 「………。」 アテンダントが、オーク色のドアを開けた。 「どうぞ。」 手で示す奥へ入る。 ここは…なんだ? 「ご出発は、16時30分全日空401便、搭乗ゲート26番でございますね?」 「ああ、そうだ。」 「では、30分前にお迎えに上がります。それまで、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。失礼致します。」 深々と頭を下げ、アテンダントは去って行った。 「………。」 窓のない、広い部屋。 重厚な応接セット。 最新型の大型液晶テレビの画面に、滑走路から飛び立つ飛行機が映っている。 どうやら、リアルタイムの映像のようだ。 部屋の一角に、バーカウンターまである。 「…ゾロ…ここ…?」 「…VIPルームだ。」 「VIPルーム…?」 「“有料待合室”…政治家とか俳優とか…一般の待合室だと困る連中が使う有料の待合室。」 「………。」 「……ベッドはねェけどな……。」 「………!!」 「………。」 「……ゾロ……?」 思わず ゾロの首に飛びついていた。 そのまま、激しく唇を貪って、ソファの上にもつれ合って倒れこむ。 「…ゾロ…!」 「………!」 「…ゾロ…。」 「…こんな所で…すまねェな…。」 サンジは激しく首を振る。 「…まったく!てめェってヤツは!!最後の最後まで気が抜けねェな!!」 「………。」 「…こんなサプライズが待ってるなんて…夢にも思わなかった…!!」 ああ!チクショウ!! 最高だ!クソバカヤロウ!! 「…でも…大丈夫か?誰も…来たりしないのか?」 「さっき言ってたろ?30分前まで誰も来ねェよ。」 「……お前…こんな場所があるって…よく知ってたな……。」 「………。」 あ。ヘンな顔。 「…エースだ…。」 「は?」 「…サニーに戻った時…ドアの隙間にこれが挟まってた。」 「………。」 ポケットから、くしゃくしゃになったパンフレット。 『成田国際空港利用案内』 べたっと、『防衛省』のハンコが押してある。 開いてみると、マジックで大きく丸が書いてある場所に 「!!」 『有料待合室:NAAでは、成田国際空港をご利用していただくお客様にご出発までのお時間をゆったりとお過ごしいただくため、 ちょっと優雅におくつろぎいただくための有料待合室(接遇向け)、グループ旅行の集合場所、 会議・打ち合わせ場所に最適な有料待合室(団体様向け)をご用意しております』 「………。」 「…背に腹は代えられねェ……エースに借り作るみてェでイヤだったんだが…。」 サンジは、笑ってゾロの頬に口付けた。 「…素直に感謝しよ…。」 「…ああ…。」 「…大好きだ…ゾロ…。」 「…ああ…。」 「…愛してる…。」 「…おれもだ…。」 抱き合い、キスを交わしながら、互いの服のボタンを外す。 時が惜しい。 サンジの胸をはだけさせ、両手を胸に這わせる。 触れた乳首を両方の中指で刺激しながら、また唇を重ねる。 サンジの手も、もどかしげにゾロの腹を探り、胸を探り、右手の指で傷を辿った。 キスと、舌の愛撫と、布の擦れる音。 呼吸がどんどん荒くなり、熱く乱れる。 「…ゾロ…あぁ…ゾロ…っ!」 「…サン…ジ…。」 「なァ…なァ…ゾロ…。」 「…なんだ…?」 「…軽蔑するなよ…?」 「…何を…?」 「…初めてなのに…おれきっと…すげェスケベで…淫乱…に…なっちまう気がする…けど…嫌わない…で…。」 「…ンな訳あるかよ…!……え…?初めて…?」 サンジは顔を真っ赤にさせて 「……ああ…そうだよ…!おれ…女の子も…経験ねェんだ…!!」 「………!!」 「…中学行きながら…修行してたし…高校行く頃は…色々あって… …サニーに入ってからは…てめェしか見てなかったし…そんなヒマがあったと思うか…!?」 途切れ途切れの告白に、ゾロはありったけの力をこめた抱擁で答える。 「……おれが最初で最後か?」 「………っ!」 「…大事にする…一生…。」 「…ゾロ…抱けよ…なァ…早く…!」 「………。」 言葉は消えた。 後はただ、固く互いを抱きしめ、唇を寄せ合い、互いの炎を昂ぶらせる事だけを望んだ。 全ての服を脱ぎ捨てて、体を重ね、肌を余すところなく愛撫し、ひたすら互いの名を呼んで絡み合う。 ゾロの手で、昂ぶったサンジのものはあっけなく昇り詰め、互いの腹を濡らす。 だが、そのまま遠慮なく、ゾロの手がサンジ自身を愛撫し続ける。 「…あ…あぁ…ゾロ…!…んぁ…あ…っ!」 「……ん…よし……。」 「…ゾロ……ァ…あ…。」 「…サンジ……いいか…?」 「……ひ…ぅ……。」 「…いいな?…触るぞ…解すかんな…。」 「…う…。」 こくこくと、サンジはうなずいた。 ――― つぷん ―― 指 が 「…ひ…っ…!」 「………。」 「…あ…あぁ…。」 ゾロの荒い呼吸が、大きく開かされた足の間から聞こえてくる。 左手で、震える茎を愛撫しながら、右手は花央に触れ、蜜に濡らした指を また ひとつ 「…ふ…!…く…ぅあ…あああ…っ!」 「…まだ…2本だ…ヴァージンでキツイのは承知だが…2本でギブアップしてたら……。」 「〜〜〜〜〜〜!!!」 唇を噛み締め、目に涙をにじませて、必死に息を整えながら耐えるサンジ。 その頬を撫で、キスをし 「…んん…ふ…あ…。」 「………。」 「…あ…ゾロ…ゾロ…。」 「……っ…。」 「…ゾ…ロ…ぉ…。」 指を 刺しいれた部分から漏れる音が、聞くに耐えないほど大きくなる。 濡れたその音が、二人の脳髄を刺激し、痺れさせる。 「…あ…!!…あ!…ああ…!!」 「………っ!!」 わずかに、震えるサンジの腰が浮いた。 ヒクヒクと小刻みに震えながら、明らかに、咥え込んだ指を奥へ誘(いざな)おうとする動き。 「………。」 「…あ…や…こんな…嘘…だ…っ…。」 「…いいんだ…サンジ…恥なくていい…!淫乱になっちまうって、自分で言ったんじゃねェか!」 「…う…!…っ…。」 「…思いっきり…乱れろ…もっと淫らになっていい!」 はぁっ と、大きく息をつき、それまで激しかった愛撫が止まる。 激しく上下するサンジの白い胸、赤桃色に染まった乳首が、ツンと上を向いて震えている。 その桜桃のような赤に、ゾロは優しく口付けた。 「…ん…っ…!」 「……サンジ……。」 「………。」 「………。」 そっ と ……。 ゾロの固い手が、サンジの足をさらに左右に押し開く。 「………。」 「…っ…。」 「………。」 「…サンジ…。」 「………。」 「…入るぞ…。」 駅からの5分の道 駅までの5分の道 肩を並べて、一緒に歩けるだけでよかった 何も望まない それだけでいい それだけで それだけで 「―――――っ!!」 「………っっ!!」 「…あ…ぁ…ああ…ああああっ!!」 一瞬ためらい、だが、すぐにその逡巡を振り払い、ゾロは、奥まで一気に身を進めた。 「…あ…は…ぁ…あああっ…!!」 「…サンジ…っ!」 「…ゾロ…ゾロ…!…ゾロぉっ!!」 「…く…熱ぃ…。」 「…あ…あ…あ…中…すげ…深……っ。」 サンジの両手が空を探る。 その手を掴み、力任せに引き寄せ、抱いて、背中を抱え、正面から抱き合い揺さぶった。 「…悪ィ…!止まらねェ!止めたくねェっ!!」 「…あ…んぁあああっ…!止めるな…止めないで…っ!」 「サンジ…サンジ…っ!…ああ…クソ…っ!行かせたくねェ!!離れたくねェ…っ!!」 サンジの目から、滝の様に涙が溢れた。 「…バカヤロ…っ!…んなコト…言うな…っ!…迷っちまうだろ…っ!」 激しく揺さぶられると同時に、サンジも自ら身をくねらせる。 ゾロの頭を抱え、髪を探り、顔中にキスの雨を降らせ、離れ難い思いを腕にこめて、何度もゾロの髪に頬ずりする。 激しく濡れた抽挿の音 肌がぶつかる音 サンジの涙混じりの、悦楽の声。 ゾロの、叫ぶような荒く乱れた呼吸。 「…ああ…クソ…終わらせたくねェ…でも…イキてェ…!!」 「…ゾロ…ゾロっ!…ゾロォ…!」 「…っ…く…っ!」 「…イって…おれの中…お前を残して…お前でいっぱいに…。」 「…サンジ…っ!」 「…おまえのいっぱいの愛…一緒に連れてく…。」 「…サンジ!……う…っ…!は――― ぁ……っ…!!」 「あ…ああ…あ ―――― …… あぁ あああ…… っ!!」 瞬間 二人は、ひとつの彫像になった。 繋いだ体を、さらに深く結んで。 一瞬でいながら永い、その悦びを深く噛み締めて、サンジはゾロの胸の上に静かに倒れこんだ。 ソファの座面に体を投げ出しながら、胸の上のサンジをしっかりと抱きしめる。 荒い呼吸が、絡み合いながら天井に響く。 その呼吸が、静かに、穏やかなそれに変わる。 ゾロの声が、静かに沈黙を裂く。 「…クソ…。」 「………。」 「…抜きたくねェ…。」 「………。」 「………。」 「………。」 力任せに体を起こし、そのまま、ゾロはサンジを体の下に組み伏せる。 小さな悲鳴を挙げながらも、サンジはゾロの両の二の腕をしっかりと掴み、叩きつけられる楔を受けた。 激しく だが、まるで泣き叫ぶかのような 「…あ…ああ…あああっ!!」 「サンジ…サンジ…サンジ…っ!!」 「…ゾロ…来い…よ…絶対ェ…!!」 「…行く…絶っっ対ェ!!てめェの所へ行く!!」 「…ゾロ…!!」 「………っ!!」 「…あ…あぁ…ん…ああああああああああああああっっ!!」 「……ジ…っ!!」 「…ゾロ…ゾロ!!」 離れたくない 放したくない 愛してる 心の底から… けれど 「…あ…。」 「どうした…?」 「…鳥だ…。」 裸のまま、ゾロの腕に抱かれていたサンジが、壁を指差した。 壁にかけられた、額装された日本画。 細い枝から飛び立つ、青い鳥 「………。」 「………。」 体を寄せ合い、肌に触れながら、ゾロとサンジは静かに笑った。 愛と同等に大切な夢が、空の果てに待っている。 NEXT BEFORE (2009/4/6) めぞん麦わら−2号室と5号室−TOP NOVELS-TOP TOP