BEFORE


 「…じゃ…行く…。」  「…ああ…。」  「………。」  「………。」  「………。」 出発ゲート 時刻は16時18分 搭乗の、最終アナウンスがかかる。  「…ゾロ…。」 熱い目で見つめ、濡れた声で呼ぶサンジの肩を引き寄せ、ゾロは深いキスをした。 人目はある。 だが、かまわない。 恥る事は何もない。 おれは、コイツを愛してる。  「…いってこい…。」  「…おう…。」 抱擁を交わし、もう一度キスし、固く握手を交わして、名残を惜しみながら、最後の指を離そうとした。 その時  「よぅぉお!!ゾロ!サンジ!!」  「!!!」  「!!?」 まさか まさか いや、いくらなんでも ウソだろ まさか まさか! まさか!!  「サンジ!今から搭乗か!?どの便だ?」 恐る恐る 二人は振り返る。 互いの指は、まだ離れていない。  「エ――――――スっ!!!?」 ちょっと待てやぁぁ!!!?  「エース!?」  「エース!!」 間違いない。 本物のエースだ!!  「エース…なんで?…ここに…?」  「てめェ…!!出張じゃねェんか!?」 エースはスーツ姿で、リュックを肩にかけ、ニコニコと笑いながら  「出張ですよォ?任務で、ちょっとテルアビブまで。」  「テルアビブ…?」 って、どこ?  「…よかった、偶然か…。」 ゾロが、ほっと胸を撫で下ろした時、エースはニヤリと笑って言った。  「パリ経由でね。」  「はああああああああ!?」  「パ、パリ?」  「え〜〜〜っと、16時30分離陸予定のANA401便?」 ゾロの顎が、がっくーんと下がる。  「……同じ…飛行機…?」  「え!?そうなのか!?いやぁ〜〜〜偶然だなぁぁ〜〜〜〜。」  「………エース……てんめェエエエエエエ!!!」  「おおお!搭乗が終わっちまう!さ、急ごうぜ、サンジvv」  「え?え?…ええええっ!?」  「あ。ゾロ。これは防衛機密だから、くれぐれも他言無用ってコトで。」  「何が防衛機密だ!!?そういうのを機密費の不正使用ってんだ!!告発すっぞ!!てめェ!!」  「人聞きの悪い〜〜〜。あくまでも、飛行機が同じになったのは偶然!本当に偶然!」  「こんなタチの悪い偶然、あってたまるかァ!!おい、サンジ!!別の飛行機にしろォォ!!おい!エース!何さり気に触ってんだァ!!」  「はいはい。大事な大事なサンジだから、パリまでおれが、ちゃ〜〜〜んと送り届けてやっからな?感謝しろよ?」  「するかああ!!」 喧騒に、周囲の目が集まる。 いきなり、エースの手がゾロの胸倉を掴んで引き寄せた。  「!!」  「……いい、匂いさせてんじゃん?」  「…っ!!」  「…首尾良くいったってトコロだな?」  「…う…。」 言い返せない。 サンジはこれ以上おかしい事はないという笑顔で、ゾロの背中をバンとひとつ叩き 一歩、出国ゲートへ下がると  「じゃあな!いってくるぜ!ゾロ!!」  「サンジ!!」  「待ってるからな!!」  「………っ!!おう!!待ってろ!!」  「じゃ、行こうぜ、エース。」  「ああ!いってくるぜ、ゾロ!!」  「くたばっちまえ!!」 エースが、サンジの肩に手を回す。  「触んな―――っっ!!!」  「…これくらいのお返しはしろよ、こっちは哀れな失恋男だぜ?」 ゲートの向こうに消えながら、サンジが叫ぶ。  「クソ愛してるぜ!!ゾロ!!」  「………おう!!」 やがて、愛しい姿が見えなくなる。 そこにいつまでも立ちながら、ゾロは決意を新たにし、歩きはじめた。 新たな決意  「……帰ってきたら、ぶっ殺してやる。」 それはエースへの殺意かもしれない…。 それから それからどうしたって? うん、じゃあ話そうか? あれから2年後、ゾロは約束どおり、国際司法検察局の700倍もの関門を突破し、サニーを出てオランダへ渡った。 同じヨーロッパ、飛行機や電車で往来ができる距離になった。 ハタから見れば、相変わらずの遠距離恋愛だけど、それでもパリと東京よりは各段に近いし、 それなりに稼ぐようにもなれたから、会おうと思えばいつでも会えた。 おれ? おれは、その1年後に独立して、パリに店を持った。 あれよあれよと店が拡大して、フランスに4件、東京に1件の店を出した。 東京の店の店長は、なんとデュバル。 最初の店をパリ市内に出してすぐ、おれを追いかけてパリへ来て、押しかけ弟子になったんだ。 パティやカルネは怒り爆発だったが、親父はあっさり許したらしい。 親父は、右足に麻痺が残ったけれど、今でも現役で頑張ってる。 ゾロの次にサニーを出たナミさん。 その1年前に、念願の連載を持つことができた。 しかも、信じられないことに某国民的少年誌に、だ。 それまでのキャリアの全てを一旦白紙に戻し、初めの一歩からやり直したナミさんは、ダメモト覚悟で投稿した作品が手塚賞を取り、 1年後に連載開始、コミックスがベストセラー、そして大ブレイク。 その1年後にはドラマCD化、2年後にはアニメ化、1年後劇場版、さらに半年後ミュージカル化、関連グッズは飛ぶように売れた。 昨年は、長者番付漫画家部門、第12位に輝いていた。 結果大満足のナミさんに、約束どおりコミックスの『第一巻』を受け取ったおれは、すぐにオメデトウの電話をしたんだが  「……この前…TRCで、オンリーイベントがあったのよ…  こっそり行ってみたんだけど…なんかすご〜〜〜〜く、フクザツな気分だったわ…。」 と、今度は自分の作品が二次創作物のエジキになった感想を、率直に述べていた。 アシスタントを常時5人も抱える身分となっては、狭いサニーでの生活はムリだ。 それでも離れがたいのか、ナミさんはすぐ近くに、新しい部屋を借りたらしい。 そして  「そろそろ、分譲マンションもいいわね。」 なんて言っていた。  「ジョーダンじゃねェ!ナミ!こっちに来いってば!!」 ルフィ 大学を卒業したルフィは、あれほど嫌がった自衛官になった。 エースと同じ、航空自衛隊。 戦闘機パイロットになった。 だがそれも、宇宙飛行士への近道と割り切って。 ある年、航空自衛官が宇宙飛行士試験に合格したのを見ての決断だった。 5年勤め上げた後、JAXAの『第2次アポロプロジェクト』宇宙飛行士募集にとびついて、見事に合格、渡米した。 宇宙ステーションに通算2年滞在、地球に帰還後、すぐにアポロ計画のアストロノーツに選ばれた。 その時は、悲鳴のような声で、嬉しさを伝えてきたっけな。 その頃には、さすがのナミさんも折れて、『恋人』になってはいたらしいんだが、 なかなか結婚に応じてくれず、挙句の果て、月に行ったルフィが全世界生中継で  「いい加減おれと結婚しろォ!」 と、プロポースをしたのは超有名なエピソードだ。 その後、ナミさんがアメリカに行ったのかどうか…。 今でも、週刊少年ホニャララに、ナミさんの作品は連載され続けているけどな。 チョッパーは、ナミさんの後にサニーを出た。 この前も、『元気だよ』という手紙が届いた。 時々、PCや携帯にメールも届く。 それに返信をしても、『送信出来ませんでした』『メールセンターでお預かりします』という返信しかない事の方が多い。 チョッパーは アフリカのソマリアへ行った。 テレビでニュースを見る度に、元気でいろよと心の中でつぶやく。 心配するこっちの気持ちをよそに、送られて来る写真の、子供たちに囲まれたチョッパーの笑顔はいつも明るい。 日本に帰国する時は、いつもパリ経由で帰る。 そんな時は、必ず、おれの店に寄ってくれた。  「サンジィ〜〜〜お腹空いたァ!!」  「あのな、チョッパー…一応ここも、高級フランス料理店なんだが…。」 ボロボロのシャツにボロボロのズボン。 でも、チョッパーは誇らしげに胸を張る。  「何が食いたい?」  「サンジのオムライス!」  「承りました、スーパードクター・チョッパー。」  「バカヤロー、おだてても何も出ねェぞ!コノヤロがー!」  「ヨホホホホホ!!サンジさ――ん!!まぁた、来ちゃいましたー!!」  「あー!ブルックだー!!」  「おおおお!!!チョッパーさん!!これはこれはお懐かしい!!お元気そうで…!!  ワタクシ、びっくりして目玉が飛び出るかと思いましたー!!ヨホホホ!!」  「なんだよ…また来たのかブルック?」  「はいぃ、ニースの別荘で、一夏を過ごそうかと思い、まし、てっ♪」  「あ!ブルックの作曲した歌、アルジェリアで聞いたぞ!」  「ヨッホッホッホ!ありがとうございます!」 すると、店の奥で食事をしていた若い日本人観光客が、ブルックに近づき  「あの〜〜〜〜〜〜!!作曲家のブルック先生ですよね!?」  「はい、そうです。ワタクシ、音楽家、ブルックです。」  「きゃああああああああ!!」  「お会いできて光栄です!!」  「あのっ!サインしていただけますか!?」  「ハイ、喜んで。ところでお嬢さん方。」  「はい!」  「パンツ、見せてもらってよろしいですか?」 毎度、こいつのセクハラには手を焼く。  「おーっす!サンジ!いるかぁ!?…おお!チョッパー!ブルック!」  「おや。」  「うわぁ!エースだ!!」  「…いらっしゃい…。」 ブルックに、サインをねだっていた観光客達が、瞬時に頬を染めてぽうっとなる。 そりゃぁな 日本航空の、パイロットの制服に身を包み、いかにもパイロットです、な格好で立ってりゃな。  「わー…。エース、民間のパイロットになったってホントだったんだー…。」  「ああ、狭いコクピットの中で、お茶も飲めないフライトなんて、もうごめんだ。」  「(ひそ)…国際線のパイロットになれば、会社都合でパリに来放題ですからねェ。」  「(ひそ)あー、なるほど…。……って、エース、まだ諦めてないのか!?」  「このおれの辞書に、“諦める”という文字はねェ。それから“待つ”という文字も消しちまったからな。」 恋のツワモノ。 ブルックは、売れっ子作曲家になり、年収20億もの金額を稼ぎ出すらしい。 けど、おれ達に対しては昔のままで、骨だけになった体は、どんなに美味いものが食えるようになった今でも、もう戻らないらしい。 年に2,3度訪れるブルックと違い、エースは ひどい時になると、3日に1回の割合でやってくる。 もはやストーカーだ。 逆に、あれから1回も会えないのはウソップ。 サニーの前で、泣きながら見送ってくれた優しい男は、あれから本当に県知事になった。 パリの新聞にまで、活躍の記事が載るのだから、日本でのブレイク振りは想像するにあまりある。 ナミさんもブルックも、「ウソップはスゴイ!」と、いつも感心している。 人気者の県知事は、2期勤めを果たした後、どうやら中央政界に打って出る気満々らしい。 末は  「もちろん!総理の椅子!!CHANGE!Yes!We can!!」 そりゃ、どっかの大統領だろ。 会えなくても、元気なコトが一番よくわかる。 だから、心配はしてない。 ただ、忙しいから、体だけは大事にしろとメールを送ると、ウソップは必ず「お前もな。」と、絵文字たっぷり返してくるんだ。 それから… ああ 一度、オフクロの法事で日本に帰国した時、ビビちゃんの旅館にやっと行けた。 もちろん、ゾロと行った。 ビビちゃんは涙を流して喜んで、一番いい部屋を空けて待っていてくれた。 隣に、いつも立っている男が気になるなァと思っていたら  「婚約者です。(赤)」 顔も性格も心意気も、いい男過ぎて、なんか妬けた…。 文句のつけどころが無さ過ぎ。 ムカツク そう言ったら、ゾロにバカにされた。 それから、東京に戻るまで、戻ってから、ずーっとケンカしっぱなし。 でも、ビビちゃんは、あの頃の様にニコニコ笑って見送るだけだった。 さすがだ、と今でも思う。 そのままパリとハーグに別れたのに、2週間後にはクソゾロが、けろっとした顔で「腹減った、メシ。」っつって店に入ってきて、  「ルフィか!てめェはァ!」 またケンカして…。 え? ロビンちゃんとフランキー? ああ、言わなくてもいいかな?って思ったんだけどな。 だって、あの二人が幸せなのは、今更話すことじゃないだろ? うん。 あれから、ロビンちゃんは、双子の赤ちゃんを産んだんだ。 男の子と女の子。 お兄ちゃんが、ルフィ。妹が、ナミ。 つけた名前を聞いて、みんな大爆笑だ。  「だって、他に思いつかなかったんですもの。」  「だよなァ?」  「って、おれの妹がナミなのかァ?結婚できねェじゃん!!」  「おまえらはしていいんだよ!!」  「しないわよ!」  「だから、何でしてくれねェんだ!?」  「したくないからよ!」  「ぐはぁっ!」 それから少しして、二人はサニーを買い戻した。 ローンはたっぷりあるけれど、きっとその内、繰上げ返済してのけるにちがいない。 フランキーは、去年、世界的に権威のある建築賞を受賞した。 もはや、貧乏な流れの大工じゃない。 事務所を構え、50人近いスタッフを使って仕事をする、一流の建築デザイナーになった。 かくいう おれの5件の店も、全部フランキーの設計だ。 これが今だったら、どのくらいの設計料をボッタクられるか、わかったもんじゃない。 その奥様、と呼ばれるロビンちゃんは、建築賞の授賞式で、その美しさを讃えられて、アメリカの『タイム誌』の 『本誌が選ぶ、世界のファーストレディ100人』に選ばれ、旦那を差し置いて写真が載ったりした。  「ウソップも、総理になるってんならファーストレディを持たねェとなァ。」  「……紹介してください……(泣)」 これは、授賞式のレセプションに招待されていたウソップと、フランキーの会話。 みんな 夢を果たし 更なる夢に向ってる  「なァ、サンジ。…ゾロ…相変わらず…オランダなのか…?」  「………。」 チョッパーが「ごめん」と、小さく言った。 エースが、苦笑いを浮かべる。 ブルックも、黙って紅茶を口に含んだ。 もうひとつ おれには夢があった。 それは、ロビンちゃんたちの結婚の後、親父と仲直りして、デュバルがフランスへ押しかけてきた後に抱いた夢だ。 5件出した店は、全て同じ系列のフランス料理の店。 けれど、やがてゾロと暮らすことになるこの地で、おれが本当にやりたい店は他にあった。 準備に数年をかけた。 フランスでの師匠は、首を横に振った。 けど、やりたかった。 フランキーに、また店の設計を頼み、土地を探し、購入した。 郊外の、田園が広がる街。 でも、パリ市内へのアクセスは悪くない。 いい街だ、貧乏暮らしをしている時から好きだった街。 その夢を 叶えたかった  「へェ…随分小ぶりな店だな…。」  「テーブルは5つだけ。…大衆食堂みたいな感じにしたかったんだ。」  「…ああ、懐かしい感じがするな…てか…この造り、サニーの食堂とキッチンそのままじゃねェか。」  「あっはっは!あったり〜♪」  「……ったく。」 笑って、ゾロは大きな飾り窓の側に歩み寄る。 ステンドグラスの飾り窓。 白い雲の向こうへ飛び立つ、青い鳥。 その羽に触れて、ゾロはまた笑った。 まだ、開店前の店。 木の香がすがすがしい。 サンジの新しい店 フランス料理ではない 日本風の洋食屋だ  「ん。」 差し出されたゾロの手に、サンジは黙ってメニューを載せた。 並んでいる料理の名  とろとろ卵のオムライス  スパゲッティミートソース  パワフルカツカレー  激安!筋(すじ)肉のハヤシライス  海の仲間のグラタン  etc… 全部、サンジの母が得意だった洋食。 サニーの仲間たちに食べさせていた料理。  「……下に行くと段々怪しくなってきたな…なんだ?この“冷や飯チャーハンししゃも添え”  “関西名物木の葉どんぶり”“東京風たぬきうどん”“京都風たぬきうどん”……なんだこりゃ?」  「ウケた?」  「ウケ狙ってどーする!?ここは、パリだぞ!?郊外っても、パリ市内だろうが!東京の下町か!?」  「遊び心?」  「………。」 メニューをよくよく見ると、裏表紙に油性のマジックでデカデカと 『ゾロ専用』  「………。」  「………。」 見詰め合ったまま、沈黙が続く。 やがて、ゾロの手がそっとサンジを引き寄せた。  「………。」  「………。」  「………。」  「……待たせた……。」  「……まったくだ……。」 腕の中で、サンジは目に涙をにじませて笑った。  「…転勤おめでとう。」  「……おう。」  「………。」  「……もう…離れねェからな……。」  「……うん。」 サンジを抱きしめ、そのぬくもりに酔っていたゾロだったが、ふと顔を上げ  「そうだ…看板見た。…この店の名前……。」  「ああ。いい名前だろ?…この店に付けようと思ってとっといた名前だ。」  「……そうか。」  「………。」  「…いい…名前だ…。」  「きっと…とびっきりの奴らが集まってくれる。」  「………。」 うなずき、また愛しい体を抱きしめる。 もう、離れない。 放さない。  「さて、最初のお客様。ご注文は?」  「とろとろ卵のオムライス。」  「ウィ、ムッシュ。」 慇懃に、丁寧に挨拶をして、サンジは極上の笑顔でゾロに告げる。  「いらっしゃいませ。ミル・ソレイユ(千の太陽=サウザンド・サニー)へようこそ。」  「と、食後にてめェ。」  「当店のメニューに店長はございませんです、クソお客様。」   BEFORE                     (2009/4/6)
END …しばらく、この美しいイラストに浸って下さい… ここまでお付き合いいただき、ありがとうございましたvv やはり本編より長くなってしまいました(笑) 好きだからしょーがないと笑ってやってください ちびっ太サマへ私信 今回、ワタクシの為にこんな素敵な絵を描いてくださり ホント〜〜〜〜〜〜に!!ありがとうございました!! この絵を見た瞬間にラストシーンが浮かびましたですよ この絵を目指して書いてきました!書いててよかった! 重ねて重ねて!ありがと〜〜〜〜〜〜vvv みんな、夢、かなえようね
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