「ンマー、というワケで、頼んだぞ、フランキー。」  「…ああ。」 フランキーは、あまり気乗りのしない顔で、自分に何かを言い聞かせるようにうなずいた。 都内某所。 とある建築会社のオフィス。 社長の椅子…ではなく、社長の事務机の端に腰掛けながら、アイスバーグは困ったように笑うと  「…気がのらねェってツラだなァ。」 その言葉に、フランキーはサングラスの奥から、苦笑いするアイスバーグを睨み付ける。  「フランキー、自分の腕にプライドを持つのは結構だが、  てめェの様に仕事の選り好みばっかりしてやがると、本当におまんまの食い上げになるぜ?」  「余計な説教はいらねェよ。」 フランキーは、アイスバーグと同じ建築士について学んだ兄弟弟子だ。 やがてアイスバーグは独立し、こうやって都心の一等地のビルに事務所を構えられるまでになったが、フランキーの方は…。 腕はいいのだ。 はっきり言えば、センスも技術も仕事の速さも、兄弟子より優れているとアイスバーグ自身思う。 だが、昔ながらの職人気質で、発注主や他の技術屋と上手くつき合うことが出来ない。 見た目の厳つさと、荒っぽい言動が相まって、今でも一匹狼の大工としてしかやっていけない。 中には彼の腕に惚れ込んだ変わり者(アイスバーグ含む)もいて、 時々仕事を回してくれるのだが、それだけでは食っていける訳が無い。 今回も、アイスバーグはフランキーのプライドを傷つけない程度に、 おだて、宥めすかし、少し説教して、あるアパートの補修の仕事を回した。 仏頂面をしていても、アイスバーグには感謝している。 ただ、それを素直に示す方法をフランキーは知らない。  「じゃ、行ってくらァ。」  「ああ、しっかりな。」 アイスバーグの事務所を出て、地下鉄の駅に向かいながら渡されたメモを開く。  「○○区麦わら1丁目…アパルトマン・サウザンド・サニー…。」 アイスバーグから請け負った仕事は、あるアパートの修繕工事だ。 ここから、地下鉄と都電を乗りついで1時間弱というところか。 大工道具の入った、薄汚れたナップザックを背負い直し、フランキーは駅へ向かう。 さて 彼はまだ知らない。 コレから訪れるその場所で、彼の人生を360度回転して、 更に180度戻って45度位傾くようにひっくり返すような出来事に遭遇するコトを。 風が冷たい。 秋も大分深くなって来た。 今朝、この秋一番の冷え込みになったとアマタツが言っていたが。  「…このアタリだよなァ…一体どのアパートだァ?アイスバーグが言うような、オンボロアパートなんざ無ェぞ?」 大きな通りから1本入った住宅街。 最寄の都電の駅から5分くらいという良アクセス。 某有名大学に通う学生も多い界隈なので、アパートやマンションもそれなりにあるが、 いくら歩いても、『サウザンド・サニー』という看板のそれに行き当たらない。  「…っかしいな…。」 地図でももらってくりゃよかったな。 フランキーはそう方向音痴な方ではないが、似たような区画が続くとやはり錯覚もする。 すると  「…まったく、てめェいい加減に自分のアパートの位置くらい覚えろよ!  毎度毎度、駅まで迎えに行くこっちの身にもなりやがれ!」  「わっかんねェんだよ!この辺り、ごちゃごちゃしてっからよ!」  「てめェ、ここに住み始めてから何年経つんだよ!?」  「…3年?」  「それを奇跡と言わずして、何と言うんだか教えろよ。」 騒がしい男2人組。 これは普通に歩いていても、かなり目立つコンビだろう。 緑の髪の筋肉質な男と、金の髪の華奢な体つきの男。 ほぼ同じ身長だが、全く違うタイプ。 その、金髪男と目が合った。 道のど真ん中でのみっともないやり取りを見られた、そんな罰の悪そうな顔をした。 どうやら迷子を迎えに行っての帰り道、それが原因のケンカの最中らしい。  「………。」 金髪の青年は、フランキーがメモを片手に立ち尽くしているのを見て、瞬時に状況を察したらしい。 形のいい唇が、『コイツも迷子か』と動いたような気がした。 咥えていた煙草を指でつまんで、唇から放すと  「探しものかい?」 と、微笑んで言った。  「…ああ、まぁな。」 余計なお世話だ、と言う必要もない。 むしろ、声をかけられてラッキーだったかもしれない。 人の世話になるのはシャクだが、いつまでも知らない街をウロウロしているよりはずっといいだろう。  「『サウザンド・サニー』って名前のアパートを探してるんだが、知ってるか?」 と、金髪の男と緑髪の男は同時に目を丸くした。  「?」  「…サニーに用事?」  「知ってるのか?」  「…まぁ、知ってるような知らないような。」  「ふざけんな。」 金髪男が笑った。 緑髪男の方は、これ以上はないという仏頂面でフランキーを睨んでいる。  「着いて来い。」 再び煙草を咥えなおし、金髪男が背中を向けて歩きだす。 ちら、とフランキーを一瞥して、緑髪男も歩きだす。 5分も歩かないうちに、2人の足が止まった。 フランキーも足を止めて辺りを見回す。 すると  「ここだ。」 金髪男が指差した。  「ここ?」 怪訝な顔で、フランキーは見上げた。  「ここが?」  「ああ、ここが『アパルトマン・サウザンド・サニー』だ。間違いねェ。」 金髪男が断言した。 ここが? 口の中でフランキーは再び言い、また目の前の建物を見上げる。 アイスバーグは、そのアパートはかなり老朽化していると言った。 なるほど 確かに古くてボロボロだ。 壁はヒビだらけだし、窓も所々歪んで割れている。 雨樋もガタガタ。屋根は剥がれてズタズタ。 いつの時代の物か、屋根の上にレンガで積んだ煙突があるが、無残に折れている。 その時の衝撃だろう、近い部分の屋根が大きく窪んでいた。  「アパートじゃねェじゃねェか。」 フランキーの言葉に、金髪男がそれを見上げながら笑った。  「ムリねェなァ。実際、郵便配達やら宅急便やら、新人だと見つけられねぇんだ。  アパートって建物じゃねェからな。それにここまでボロだと、人が住んでると思ってもらえなくてなァ。  この辺のガキ共なんざ、オバケ屋敷って呼んでるぜ。」 住宅街の一角 蔦の絡んだ塀に囲まれた、それは古い洋館だった。 フランキーも建築屋だ。 コレがいつ頃、どんな洋式で建てられたものか一目でわかった。  「明治初期の擬洋風建築じゃねェか?こんなモンがまだ、都心に残ってたのかよ?  …すげェ…長野の旧開智学校に似てるな…。」 気合の入ったサングラスを外し、フランキーは一歩を踏み出す。 目に、眩しいくらいの好奇心。 と、背中から金髪男の声がした。  「管理人さんが言ってた大工ってあんたか?」  「はぁ?」 緑髪の男が金髪に問う。  「何だ?大工?」  「…何だよ、てめェ聞いてなかったのか?  サニーのあちこち、ガタが来てるから修理を頼んだってロビンちゃんが言ってただろ?」  「知らねェ。」  「…まぁた寝トボケてやがったな?」 フランキーは2人に  「…何だ?お前らここの住人か?」 金髪男がにやりと笑って答える。  「ああ、おれはサンジ。5号室の住人だ。…こいつはゾロ。2号室。」 この野郎 すっトボケやがって 喉まで言葉が出かかったが、出がけにアイスバーグに  『大事な昔なじみの持ちモンだ。妙なトラブルは起こしてくれるなよ。  お前ェの腕を見込んで、この仕事を依頼するんだ。』 と、念を押されていた。 住人は、大家にとっては『お客様』だ。 金髪男はにやりと笑い、塀の中へ入って行った。 ちゃんと、玄関前に車寄せまである。 がたつき、古ぼけた観音開きのドアには、古いが細工のいいステンドガラスが嵌め込まれている。 くすんだり、ヒビが入ったりしているが、マニアが見たら涎をたらしそうな細工物だ。 さすがに取っ手だけは壊れたのだろう、ドアの形とはマッチしない。 その取っ手をガチャリと開けて、サンジと名乗った金髪男が、上着を脱ぎながら先に入る。  「ただいまー。」 一歩、中へ入ってフランキーは声を挙げた。 こんな建築を、東京のど真ん中で見られるとは思っていなかった。 彼等が立っているのは玄関ホールだ。 広い。 畳で数えたら、多分20畳近い広さがあるだろう。 中央に、2階へ上がる階段。 ホールは吹き抜けになっていて、2階はテラスの向こうに部屋が並んでいる。 1階の壁際にも、幾つかのドアと、奥へ繋がる廊下があった。 築200年というところか。 古いにもほどがある。 ぶっちゃけ、お屋敷だ。 この屋敷が建ったばかりの頃にはおそらく、まだ、この辺りをちょんまげを結った奴も歩いていただろう。 そして、主人が帰るとこのホールで、『お帰りなさいませ、だんな様』とかいって、使用人達が出迎えたに違いなかった。  「おっかえりー!サンジ!ゾロ見つかったか!?」 おかえりなさいませ ではないが、元気のいい出迎えの声。 不意に振ってきた声に、フランキーは顔を上げた。 2階のテラスの向こうから、黒い髪の少年が覗いていた。  「ん?そいつ誰だ?」 少年は、全く臆することなくフランキーを見下ろしている。 好奇心に溢れた、大きな黒い目。 邪気はないが、フランキーにはあまり面白い状況ではない。  「ロビンちゃんが言ってた修理屋だ。ロビンちゃん、管理人室にいるか?」  「んにゃ、さっき買い物に出てった。すぐ帰るってさ。きっといつもの花屋だ。  それよりサンジ!おれ、腹減った!」  「おれが知るか。」 緑髪のゾロは、2人のやり取りなど意に介さない様子で、そのまま中央の階段を上がり始めた。 登る度に、ギシギシと危険な音がする。  (根田から腐ってんな。修理なんて段階のモンじゃねェんじゃねェのか?) よく見ると、不器用な修理の後が、新旧取り混ぜてあちらこちらに見受けられる。  (…気が遠くなるような作業になりそうだな。) バキっ! 言ってる側から  「あ。ゾロ、また階段突き破った。」  「見てねェで助けろ!ルフィ!クソ…足が抜けねェ!!」 フランキーは大きく息をつき  「…なぁ、おい。管理人が戻るまで、この辺だけでも見ていいか?」 ずっぽり足がはまったゾロを、少年が必死に抜こうと踏ん張っているのを横目に、サンジはスタスタと階段を上がりながら  「ああ、いいんじゃねェの?」 と、答える。  「ん〜〜〜ぐぐぐ!おい、サンジィ手伝えェ!」  「勝手にはまったんだろうが。ほっとけ。ああ、こいつは1号室のルフィ。」  「…ああ…。」 そうか。 デカイ屋敷だ。部屋数もかなりある。 その部屋のひとつひとつを改装して、アパートに作り変えた訳だ。  「あ、お帰り、サンジく〜ん。ゾロ、見つかったのね?」  「ああ!ナミさん!ただいま〜vv」 ようやく脱出を果たし、ドアを開けて中へ入ろうとするゾロの部屋の隣のドアが開き、オレンジ色の髪の少女が顔を出した。 ドアのプレートには『3』の文字。  「ちょっとゾロ、あんたもいい加減にしなさいよ?そう毎度毎度、迎えになんか行けないんだから!」  「そう言うセリフは、毎度毎度自分で足を運ぶ奴が言う事だろうが!」 バタン!と激しい音を立ててドアが閉まった。 古い屋敷にはかなりなダメージ音だ。 フランキーのコメカミがピクリと動く。 すると、今度は『4』のプレートがついた部屋のドアが開き  「おい、ゾロォ!!家を労われェ!!」 と、叫びながら、鼻の長い男が顔を出す。  「ったくよぉ!ここがぶっ壊れたら、おれ達ゃ行く所がねェってのに!大事に使えよ!まったくよォ!!  …あああ!?まぁた階段ぶち抜きやがった!!」 天を仰ぐように溜め息をつく男に、フランキーは好感を持った。 どんなボロ屋でも、大事にする人間に悪い奴はいない。  「ああ、ウソップ。修理ならもう心配いらねェぞ。」 サンジが言った。  「あ?」  「アチラ。ロビンちゃんが頼んだ、ミスター・カーペンターだそうだ。」  「大工さん!?」 ウソップと呼ばれた青年の顔がぱぁっと輝く。  「うわぁああ!やァっと来てくれたのかぁ〜〜!もー、おれの修理も限界だったんだよォ〜〜!」 所々、比較的上手に、小奇麗に修理されている箇所があると思ったが、この鼻の仕事か。 結構筋がいいな。  「ウソップ。チョッパーとブルックはどうした?」  「ああ、2人で出かけたぜ?なんか新宿で“鼠先輩”の新曲ライブがあるんだと。」  「ははっ!相変わらずミーハーなデコボココンビだなァ。“鼠先輩”なのに六本木じゃねェのか?」 階段途中のサンジはフランキーを見て  「今話したチョッパーってのがその6号室、ブルックは9号室。あと7号室と8号室と10号室があるがそこは空いてる。  今のトコここの住人は管理人のロビンちゃんを含めて8人だ。  チョッパーとブルックは、誰かサンと違ってちゃんと修繕の話は覚えてるだろうから、気にすることはねェだろ?」 フランキーはザックを下ろし  「わかった。とりあえずこのホールだけ見せてもらえるか?」  「どうぞ。…あ、ナミさん。今夜は魚介類いっぱいのブイヤベースを作るからねェ〜vv」  「ありがと、楽しみにしてるわ。出来上がったら声かけて。」  「はぁ〜〜〜いvvv」  「サンジ!おれには肉!!」  「てめェの腕でもしゃぶってろ。」 サンジという男、人に対する対応の男女差が激しい。 それぞれが、勝手に部屋に戻ろうとした時、  「ただいま。」 涼やかな女の声がして、玄関のドアが開かれた。 すると、階段上のサンジが、目をハートの形にさせて  「あああ〜〜vvロビンちゃん!おかえりなさ〜〜〜い!!vvv」  「ただいま、コックさん。」  「寒かっただろう?今、あったかいコーヒーを居れるからね!ああ、ナミさんにもオレンジペコの紅茶を!」 ロビン 管理人だな フランキーはおもむろに振り返り 彼女を見た  「あら、お客様?」  「例の大工さんだよ、ロビンちゃん。」  「ああ、よかった。思ったより早く来ていただけて。」  「あらキレイね、ロビン。コスモス?」  「ええ、きれいでしょ?ホールに飾ろうと思って。……アイスバーグ社長からの紹介で来ていただいた方ね?」 その問いかけが、自分に向けられたものと、フランキーは一瞬気づかなかった。 つーか 声をかけられたコトにも気づかなかった。 目の前に居る女が とんでもなく 美人過ぎた 見惚れて言葉も忘れるくらいに。  「…う…あ…ああ、いや…ああ…はい。」  「よろしくお願いします。私、管理人のニコ・ロビンと申します。」 差し出された手に、フランキーはようやく我に帰った。 なんてんだ?こういうの。 ああ、そうだ。 「今、『掃き溜めに鶴』とか思ったでしょ?大工さん?」 「あ!?」 頭の上から降ってきた、ナミという少女の声にギクリとなる。  「そうそう、掃き溜めに鶴が2羽…いや、ナミさんは掃き溜めの白鳥…。」  「…掃き溜めから抜け出せない白鳥で悪かったわね。」  「あああ!そんなイミで言ったんじゃないよぉ!!ここを掃き溜めにしてるのは、  あのむさ苦しい藻とか鼻とかなんだから!」  「鼻っておれかよ!?」 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる住人に、アパルトマン・サウザンド・サニーの管理人、ロビンはクスクスと笑うと  「ごめんなさいね。騒がしい所で。こんな調子だから、いくら修理をしても追いつかないの。」  「ああ、わかるな…しかし、今時珍しいな。」  「でしょう?古過ぎて、どうしようもないのだけれど。」  「…いや、この家じゃなく、アイツラ。」 ロビンは、一瞬ビックリした顔をしたが、すぐににっこりと笑った。  「…ここはトイレもお風呂も台所も共同だから…自然と住人同士が仲良くなってしまうみたいなの。」  「…そのようだな。」  「10号室のブルックさん以外は、みんな学生さん。  昼間は殆ど留守になるから、その間に修理をお願いできるかしら?」  「ああ、わかった。承知した。」  「…修理代…大分かかるのかしら?」  「そうだな…。」 フランキーは腕を組んで天井を見上げた。 コレだけの古い洋館、はっきり言ってかなりの金額がかかるだろう。 特殊な工具も必要かもしれない。 だが、この洋館を自分の腕で甦らせる事が出来る喜びもある。 このホールに立った時から、そんな高揚感が湧き起こって、早く手をつけたくて仕方がなかった。 金の問題ではない。 今すぐ、アチラこちらに手をつけたくて仕方がない。  「なァ。」  「はい?」  「…金はいい。勉強させてもらう。その代わり、おれが納得行くまで修理しまくって構わねェか?」 一瞬、目を丸くして、だがロビンは笑い。  「ありがとう。そうしていただけるととても助かるわ。」 そして  「もしよかったら、ここで寝起きをしたら?」  「いいのか?」  「いいも何も、アパートですもの。8号室が空いてるわ。」  「ありがてェ。」 実は、フランキーは決まった住居を持っていない。 つまり、『住所不定』。 普段はカプセルホテルやマンガ喫茶、サウナやカラオケボックス、果ては公園や橋の下が彼の寝床。 以前は決まったアパートに住んでいたが、あまりの大工道具の多さと家賃の滞納の酷さに追い出されてしまった。 アイスバーグの所に転がり込むこともしたが、いつまでもだらだらと世話になる事は、どーにも彼のプライドが許さなかった。  「へぇ、アンタここに住むのか?」 サンジが、何か面白いおもちゃでも見るような目で笑いながら言った。  「そっか!新しい仲間だな!」 ルフィが言った。 心底嬉しいという声だ。 だが  「仲間…?いや、おれは…。」 フランキーが言いかけたのを遮るように、ルフィが声を張り上げる。  「ぃよぉ〜〜〜し!そうと決まれば、歓迎会だ!宴会だ!宴だァ!!」  「おーっ!宴会大歓迎!!」 ウソップと呼ばれる鼻が同意した。  「ちょっと!勝手に決めないでよ!」 ナミが叫ぶ。  「よっしゃ!じゃ、ブイヤベースの下ごしらえに入るか!」  「やったー!さすがはサンジだ!」 その声に、ナミがぐっと詰まった。 ロビンが楽しそうに笑った。 フランキーが尋ねる  「あいつら、いつもこうなのか?」  「ええ。いつもこうよ。」 ふっと、ロビンの瞳に影が走る。 それを、フランキーは見逃さなかった。  「…だから、どんな人も、ここでは笑って毎日を過ごしているわ…サウザンド・サニー…いい名前でしょう?」  「ああ、いいアパートだ。」  「よかった。」  「あァ?」  「気に入ってもらえて。」  「………。」  「信頼して、任せられるわ。」 その時、ルフィがひときわ大きな声を張り上げた。 手に携帯。 誰かを呼び出しているらしい。  「だーかーら!新しい仲間が増えたんだって!!ネズミなんかよりずっと面白そうな奴だぞ!  すぐに帰ってきて一緒に宴会しよーぜー!!うん。  ホント!面白そうな奴だぞ!すぐに帰ってこねェと損だぞ!?なぁ〜〜〜あ〜〜!!」  「………。」 仲間 そう言われたのは初めてだ。 まぁ、いい。 おれは黙って、ここで、やりたいコトをやって仕事をして出て行くだけだ。 だが 面白い? あのガキ、人をおもちゃにするつもりか? と  「はい、あなたの部屋の鍵。」 ロビンの細い指につままれた小さなそれには、水色のリボンがついていた。 古ぼけて変色した、真鍮の鍵。 黙って受け取り、手の中に包み込む。 にっこりと、笑ったロビンの笑顔の暖かさが、そのままぬくもりになって残っていた。   NEXT                     (2008/9/24) めぞん麦わらTOP NOVELS-TOP TOP