BEFORE


 2階の窓から見える月が、随分と大きく見える。

空気も澄んで、こうやって窓を開け放していると、風が冷たいくらいだ。



秋が、近い。



 「……ん……。」



衣擦れの音、絡み合う吐息。

草むらの虫の声。



 「…ゾロ…。」



互いを呼ぶ、甘い声。



 「…なァ…やっぱり…ここはヤベェんじゃねェ…?」



サンジが、呼吸の乱れた声で言う。

やはり、荒い息の中からゾロの声が答えた。

ゾロの部屋

ベッドではない。

畳に敷いた、ふたつ並んだ布団の中。



 「大丈夫だ、オフクロもさっき公民館に行ったし、行ったらしばらく戻ってこねェよ。」



誰もいない。ふたりきりだ。



そう言って、ゾロはサンジの唇を塞ぐ。



 「…続き…しようぜ…サンジ…。」

 「ん…けど…よ…。」

 「大丈夫だ。わかったから。」

 「何が…?」

 「ヤリ方。お前が風呂に入ってる間に、ネットで調べた。」

 「……インターネットの社会の歪み……。」

 「言ってろよ。」

 「んなモン検索するな。…てか、検索して当たるのかよ?ったく…。」

 「…ヨクしてやりてェんだ。」

 「………。」

 「…好きだ…サンジ…。」



ああ。

クラクラする。



 「…お前の声…好きだな…。」

 「声だけか?」

 「聞くか?」



ゾロが笑う。



ガキ臭ェ顔。



 「なぁ。」

 「あ?まだ何か言うのか?」



ゾロは、少し眉を寄せた。



 「…ん…これで最後。」

 「何だ?」

 「お前、ホントにおれでいいのか?」

 「いい。」

 「…おれが、結構ビビッてるの、わかってるか…?」



ゾロは、少し考えてからうなずいた。

が、サンジがゾロより先に答える。



 「それでも、好きだ。」

 「………。」

 「好きだよ。」



開き直りでもなんでもない。

その一言を告げただけで、こんなに心が満たされるなんて、思いもしなかった。



サンジは大きく手を広げた。

その胸の中に、ゾロは顔を埋める。



 「おれも好きだ。」



ゾロの方も、ようやくそれを告げた喜びがあるのだろう。

目が少し潤んで、今にも泣きそうな。



言葉が途切れた。

シーツが波打つ音がする。

口付けの濡れた音。

掌が肌を滑る音。

漏れる、悦楽の声。



生まれたままの姿で、サンジの体はすっぽりとゾロの腕の中に包まれていた。

何度も何度も、顔に、体にキスされ、されるたびに小さな声を挙げる。

その声を聞くごとに、ゾロの血も熱くなる。



幼い頃から好きだった。

手を繋げば放したくなかった。



それが恋だと知った時から、この時をどれだけ待ち焦がれたか知れない。

ゾロとて、人並みの常識は持っている。

叶う恋ではないと、ちゃんとわかってはいたのだ。

そして、幼さゆえの迂闊な行為で、わずかな望みも断たれたと思っていたのに。



叶えられた。

答えてくれた。



 「…サンジ…サンジ!」

 「…ん?…なんだ?…何だ?ゾロ…?どうしたい…?いいぞ…お前の…好きに抱いていい…から…な…?」

 「てめェは…?てめェはどうして欲しい?…おれは…てめェの感じてる顔が見てェんだ…!」



サンジは、熱い瞳で笑い



 「…感じてる…スゲェ感じてるぜ…?わかるだろ…?」



夕刻、途中で止められて、そのまま体の疼きは続いている。

むしろ、ずっと感じやすくなっていて、わずかな指の動きにも、サンジは過敏に反応して震えた。



 「…ハンパだったから…ガマンできそうにねぇんだ……。」

 「…ん…おれも…イキてぇ…イかしてくれ…お前で…イきたい…。」

 「…挿入れて…イキたい…。」



サンジはうなずく。

少しはにかんだ顔。



 「…サンジ…うつ伏せにするぞ…。」

 「ん…。」

 「恥ずかしかったら…顔隠してていいからな。」



どこか、まだ幼い気の使い方。

でも、らしくていい。



うつぶせにしたサンジの、白い果実にゾロは両手をかけた。

まるで、本当に果物をふたつに割るように、肉を割り、その奥へ舌を這わせる。



 「ひ!…あ!!」

 「…こうすんだ…。ホントはゼリーとか、ローションとかあるらしいんだけどよ…

  ワセリンでもいいってあったんだが…見つからねぇ。今度買っとく。」

 「う…あ…ああ…!あ!…あ!」

 「…感じるか?」



サンジは、何度もうなずいた。



 「…一回イって、出したヤツを代わりに使うのもアリだって…

  でも、やっぱり最初は、おれのでイかせてェからよ…。…指…入れるぞ…。」

 「え…!?う…あ…!!」

 「指で…解して…柔らかくして…そうして…挿入れるって…。」

 「あ!?…あ…あ!!あああっ!!ああ!ヤ…嫌…!」

 「……いきなり2本はキツイか?」



こういうトコが、まだまだガキだ。



でも



 「…イッ…!?あ!?ぁあ…ああああああ!!」

 「…ここか?…見つけた、前立腺。」

 「…ひ…うく…ひ…うん…ん…!」

 「…へェ…ホントに感じるんだ…?」



ううううう!

クソ!!勉強熱心で結構なこって!!



そこを刺激され続け、サンジの体はびくびくと震える。

同時に、もう片方の手も、サンジのものを捕らえてずっと愛撫を続けていた。



 「…ああ…あん…ふあ…あ…!」



大きく背を反らせ、サンジはゾロの指に合わせて腰を動かす。

もっと、とせがむ様に、だが、恥らうように。



 「挿入れていいか?なァ?もう、いいか?」

 「う…うう…。」

 「ここ、欲しくねェか?」

 「クソ…エロガキ…。」



その言葉に



 「挿入れる。」



低い声で、ゾロは宣言する。



 「ヤ…!ヤダ!!まだ…待って…!!」

 「待たねェ、てか、待てねェ!」



腰を抱え、引き寄せ、溶けたように濡れ柔らかく解されたその場所へ、

ゾロは自分のものをあてがい、そのままゆっくりと押し開く。



 「あ!!ああああ!!」



あまりの声の大きさに、サンジは自分で驚いた。



 「サンジ…力抜け…抜いてくれ、もっと奥に行きてェ…!」

 「…ムリ…無理だって!…やっぱ…んん…くあ…ああ…っ!」

 「…サンジ…サンジ…。」



ゾロは、サンジの顔にキスを浴びせ、何度も名を囁いた。

まるで、子供をあやすように。

少しずつ、ゾロがサンジの奥へ入ってくる。

その間ずっとゾロは、優しいキスと柔らかな愛撫を止めなかった。



ふぅっと、サンジの全身から、堅い力が抜けていく。



 「…よし…イイコだ…。」



もう、突っ込む言葉も出てこない。







歓びが、大きくて。







 「ゾロ…!」

 「…スゲェ…てめェん中…スゲェイイ…ああ…やっぱ、自分でするより何倍もイイ…!サンジ、動くぞ…!」

 「く…う…あ…あ…ゾロ…ゾロ…!」



正面から体を繋ぎ、ゾロはサンジの両腿を抱えて、力任せに突き動かす。

根元まで、サンジの中へ突き刺さったそれは、擦れる度にグチュグチュと淫らな音を繰り返した。



 「…熱ィ…。」



ゾロが呻く。



熱いのは、テメェのモノの方じゃねぇのか?

そう言いたかったが、言葉はおろか、声も出ない。



痛くて苦しい。

こんな行為は初めてなのだ。



なのに



 「…ゾロ…ゾロ…は…ぁ…ああっ!ゾロ…イイ…すご…っ…イイ…!」



薄く開いたサンジの目に、サンジの言葉に喜ぶゾロの顔。



 「このままイクか…?イけるか?サンジ…!」

 「…ん…イク…もぉ…イク…止めるな…このままもっと…もっと動いて…!」



激しく、肌のぶつかる音。

動く度に、布の擦れる音が大きくなる。



 「あ!あああ!!ゾロ!!ゾロォ…!!」

 「…く…っ…!」



大きく、ゾロの腹筋がうねるように動いた。

サンジも、海老のように反った背中と腰が、小刻みにひくひくと震える。

ゾロの手に捕らえられたものの先端から、まだぴゅくぴゅくと白い液体があふれていた。

深く身を繋げ、最後の一滴までサンジの中へ注ぎ込んで、それでもなお惜しむかのように腰を引き寄せ、

まだ中で、自分を締め付ける襞を感じながら、ゾロはサンジを抱きしめた。



 「…はぁっ…はぁ…は…。」

 「………。」



互いの体を抱きしめあい、乱れた息のまま目を交わす。

そして、どちらからともなく顔を寄せ合い、深いキスを。



もう、戻れない。



戻る気もない。



進むだけだ。



 「……好きだよ、ゾロ。」

 「知ってる。」



固く、再び抱きしめあう。

風は冷たかったが、少しも寒くはなかった。























 「…じゃあな…待ってるぞ、ゾロ。」



駅のホームに、左から列車が入ってくる。

ひとつしかないプラットホームだ。

右から来る電車が下り、左から来る電車が上り。



 「勉強しとけよ。落ちたなんて許さねぇからな。」

 「わぁってるよ。がんばる。…他の勉強も。」

 「そっちはいいんだよ!!そっちは!!」



真っ赤になるサンジの顔。



夕べ、あれから、3回もしてしまった。

2度目はバックから突かれ、3度目は座ったまま正面から、最後にまた背面座位で。



と、ゾロはサンジの耳元に



 「…どれがよかった?」



と、囁いた。



 「死ね!!」



反射的に蹴り潰す。



 「次に会う時は、もっと色々覚えとくかんな。」



そう言って、にやりと笑うゾロを見て、再びサンジは目眩を覚える。





やっぱり



ガキだわ



そんなガキに





 「なんで、こんなに惚れちまったかなァ…。」

 「あ?なんだって?」



列車が、ぷしゅーっと音を立てて止まる。

扉が開く。



 「なんでもねーよ。じゃあな、ゾロ。」

 「おう。」

 「春、待ってる。」

 「ああ、ダブルベッド、買って待ってろよ。」

 「ワンルームにそんなモン置けるか、バーカ。」



扉が閉まる。

閉まる瞬間に、ゾロが何かを叫んだ。

聞こえなかったが、顔を見りゃわかる。









 「愛してるよ、ゾロ。」







口だけ動かして答えたら、動き出した電車の扉の向こうで、ゾロが嬉しそうに笑った。

ホームの端まで、ゾロは列車を見送った。

ゆるいカーブの向こうに最後尾が消えるまで、ずっとそこに立っていた。



列車のドアにもたれかかったまま、サンジはゾロの嬉しそうな顔を思い出してまた笑う。

そんな自分の感情が、嬉しい。



 「…少し大きな部屋…探すかな…。」















END







今、年の差萌をしております。

先日ゾロが年上を書いたので、今回はサンジが年上。

田舎は東武○○線沿線をイメージしました。

しかし

殆どオリジナルですね、この話。


BEFORE

                    (2007/10/6)




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