「クリスマスのパリで、よく宿が取れたな、お前。」
「日頃の行いがいいんだろ?」
「はっ!よく言う…。」
ヴァンドーム広場近くの、裏通りにあるホテル。
観光客が宿泊するようなものではなく、日本でいえばビジネスホテルのような宿だ。
洒落た夜景も、高級なワインも、クリスマスツリーも、ブッシュ・ド・ノエルもない。
けれど、こんな幸せなクリスマスはないとサンジは思う。
ナミとルフィとコンコルド広場で別れて、明日、またアパートを訪ねる約束をした。
ルフィもナミも思いがけず、初めて『2人きりのクリスマス』、になった訳だ。
きっと今頃
「間が持たなくて、困ってんぞ。あいつら。」
ゾロが言った。
うん、そんな気がする。
上着を脱いで、ゾロはサンジを車椅子から抱えあげた。
そしてそのまま、そっとベッドの上に横たえる。
サンジは素直に腕を伸ばし、ゾロの背に手を回した。。
軽く唇を重ねて、サンジは尋ねる。
「…仕事の話…ホントだよな?投げ出してきたわけじゃねぇんだろ?」
「んなワケあるかよ。そんなことしたら、てめェ、おれを許せるか?」
「いや、オロす。」
「だろ?…ラッキーだったか、アンラッキーだったか…。まぁ、今のおれにはラッキーだった。」
「ごめんな、心配かけてよ…。」
「ああ、マジで焦った…まさかいくらなんでも、ルフィの所に行くとは思わねェよ。」
「あはは!びっくりしたか?」
「びっくりした。が、行き先がパリだってわかって、少し安心はしたけどな。」
「安心して、それから?」
「………。」
「あ。やっぱり妬いたな?」
「妬くか!!」
なんか、夢みたいだな。
ここがパリで、ルフィとナミさんと、あんなに楽しい毎日を過ごして、オーナーオルセーやアンリ達にも逢えて、
『オービット』で、まかないでも料理が出来て。
「なァ、ゾロ…おれのほっぺた抓ってくれねェ?」
「あァ?なんで?」
「夢じゃねぇかと思ってんだ、今…。」
「なんだと?」
ゾロは少し怒って、サンジの耳を噛んだ。
「それじゃ、くすぐってぇよ。」
ああ、ゾロだ。
夢じゃねぇ、ゾロだ。
「夢じゃねぇよ。夢じゃねぇ事、分からせてやる。」
抱きしめられて、キスを繰り返されて、吐息はすぐに甘くなる。
「…あ…カーテン…引いてねぇぞ…。」
「かまわねぇよ、覗くヤツなんざいねぇ。」
「あ。」
「あ?まだなんかあんのか?」
「…雪…。」
ゾロも、愛撫の手を止めて窓の外を見る。
雪だ。
街はすでに、白く染まり始めている。
「おい、泣くな…。」
「うるせぇ…泣かせろ…。」
卑怯だよなぁ、こんなのって。
また、惚れ直しちまうじゃねぇか。
このクリスマス、絶対ェ忘れねェ…。
おれがどんなに幸せで、どんなにコイツを愛してるか、大声で叫びたい。
けど、誰にも言わねェ。
ゾロにも言わねェ。
もったいないからな。
去年の分を取り戻したなんてモンじゃない。
今日のこの喜びがあれば、この先何があったっておれは大丈夫。
「サンジ…今度どこかに行く時は、黙って行くなよ?
怒らねェから、ちゃんとどこに行くか言っていけ。」
「…心配?」
「心配に決まってる。おれの知らねぇ間に、よりにもよって何でルフィんトコだ?」
ナミさんすごい。
本当にこいつ、ルフィの方に妬いてる。
「何笑ってんだ?」
「笑ってねぇよ。……ゾロ……。」
「ん?」
「…愛してる…。」
「…さっき、そう言ってたのか?」
サンジは笑ってうなずいた。
「…朝まで…愛してくれよ…。」
「朝までだ?ふざけんな。」
「あらま、お疲れ?さすがに中国から飛び続けはキツかったか?腰にキタ?」
「…そうじゃねぇよ。」
「?」
「…ずっと一生、朝も昼も夜も、愛してやる。」
ああ、チクショウ。
コイツ、ホントにおれを泣かせる天才だ。
「サンジ。」
「…ん…?…あ…あ…ん…っ。」
「メリークリスマス。」
「………。」
サンジは大きくうなずいた。
固く、ゾロの頭を抱いて、額に、頬に、口付ける。
「…プレゼント…おれ…何も用…してね…な…。」
「…いらねぇ…いい声聞かせてくれりゃ、何もいらねぇよ…。」
首筋に口づけて、ゾロは
「お前がいりゃ、何もいらねぇんだ。」
聖夜は、静かに、穏やかに暮れていく。
かえって、ここが裏通りだったのがよかった。
妙な喧騒がない。
大きな通りは、どこも賑やか過ぎて、有名なホテルの方がきっと落ち着かなかった。
「…ゾロ…もう…来て…早く…。」
「…ああ…おれも…今日、ちっと早ェかもしれねぇ…。」
動かないサンジの足を、手馴れた様子で静かに抱え、秘所を探り、
快感を呼び起こす部位を指で刺激する。
「…あっ!あああっ!!…あ…あ…ゾロ…っ!!」
「ほぐれんの…早ェぞ…。」
耳元で、ゾロが深く溜め息をつく。
「ゾロ…来て…指…もぉ…ヤダ…。」
「…ああ…待ってろ…足、広げるぞ?」
「ん…んん…っ!」
去年のこの日、初めてサンジに触れた。
触れて、愛して、本当なら結ばれるはずだった。
結果は最悪だったが、もう、そんなことはどうでもいい。
そんなことに、どこかこだわっていた自分達が恥ずかしい思いがした。
大事なのは過去じゃない。
今だ。
これからだ。
「ああああ…っっ!!」
受け入れて、サンジが大きく背を仰け反らせる。
その背中を支えて、ゾロは激しく揺さぶった。
足の動かないサンジとの交わりを、少しでもサンジが快楽を感じ、
悦びを得られるようにと願う。
サンジもまた、足が動かなくても、もっとゾロを喜ばせてやりたいと思う。
濃密で、深い、2人のその行為。
傷ついた足を晒すことを、サンジは恥じなくなった。
その悦びが、さらにゾロの血を熱くする。
互いに与え合う、悦楽。
「…ゾロ…!…このまま…このまま…イって…!」
「イきてェか?もう、いいか?」
サンジはコクコクと何度もうなずき、ゾロにしがみつきながら
「…ん…っ!…すご…いい…っ!今日…お前…すごい…っ!」
「…シチュが良過ぎなんだよ…1番イイのは…テメェだけど…な…!」
外、寒いのかな?
寒いよな。
雪だもんな。
ああ
窓、真っ白だ…。
でも、全然寒くねェ。
暑いくらいだ。
いや
熱い。
「…あっ!あんっ!!あ…あ…う…あ!!」
ベッドが軋む。
他の部屋に聞こえたりしねぇかな?
もう…止まんねェけど…。
「ああ!ゾロ!!ゾロォ!!」
「…サンジ…っ!!…イイぜ…すげぇイイ…っ!」
激しい律動とともに、淫らな濡れた音が響く。
ベッドの軋む音が、さらに激しく大きくなる。
「…く…っ…!」
「――――――……っ!!」
ゾロが呻くと同時に、サンジの唇は切ない悲鳴を漏らした。
静寂が、帰ってくる。
やがて、同時に深い溜め息。
ゾロの腕の中で、サンジはまだ小刻みに震えていた。
荒い息を、抑えることが惜しい気がした。
ゾロが抱きしめると同時に、サンジもゾロの背中に手を回し、力を篭め、胸に顔を埋める。
愛おしい
「…ああ、本当に…てめェ以外いらねぇ…。」
おれも。
言いたかったが声を出せない。
ただ微笑んだサンジを抱きしめ、ゾロはもう一度
「メリークリスマス…。」
を言った。
そして
いきなりですが12月31日・東京。
テレビから『捕ったどー!』と、お笑いタレントの声がする。
台所から、くいなの作る蕎麦の、だしつゆのいい匂い。
今年はサンジが、たっぷりおせち料理を作ってきたので、大助かりだとご機嫌だ。
あれから2日後。
ゾロとサンジはルフィとナミに見送られて、パリを発った。
いい、クリスマスだった。
2人は春までパリにいるという。
互いの家族と、ウソップ・チョッパー・ロビン・ビビらに逢ったら、よろしく伝えてくれと頼まれた。
居間のコタツでサンジがずっと、携帯の使い方をアイサに教わっていた。
「だからー!ここをね、一回押すだけで、ホラ!受信メールが見られるんだよ?」
「ちょ、ちょ…!アイサちゃん!頼む…もう1回言って…。」
「もぉ、やだぁ!サンジお兄ちゃん、お馬鹿なんだもん!!」
「お馬鹿…(T0\)」
「こらこら、アイサ。」
「だってぇ!おじいちゃんだって、フツーにメールも見るし、iモードもやってるし、カメラも使うもん!
最近携帯で、動画も撮ってるんだよねー。」
「おお、スゲェな親父。」
「それにしても、着信が300件?アンタもかーなーり!しつこいわね〜。」
「うるせぇよ。」
泣く泣く、サンジは携帯をしまいこんだ。
「でも、ちゃんとサンジくんの居場所を知らせてくれるんなら、ちゃんと役に立ってるわよね。」
くいなの言葉に、コーシローがうんうんとうなずく。
と、サンジが
「…あれ?そういえば、お義兄さんは…?」
「ああ、ダンナ?知らなーい。」
「え?」
「あのねー、アルゼンチンって所にいるんだけど、台風で、空港が水浸しで飛行機が飛べないんだって。」
「…は?確か去年も、そんなこと言ってなかったか?」
「ああ、そういえばそうね?ま、いいんじゃない?
亭主元気で留守がいいっていうでしょ?はーい!お蕎麦できたわよー。」
ゾロとサンジは顔を見合わせた。
去年は、クリスマスだけでなく大晦日も辛い思いで過ごした。
こんなに満たされた思いで、年を越すことを感謝している。
なので
「…おれ達って、けっこう幸せなんだろうな…。」
「まぁな…少なくとも、ウチの義兄貴に比べたらな…。」
コーシローが、困ったように笑った。
このシリーズ中、名前も出してもらえない、不幸なくいなの夫。
「2度あることは3度で、来年の大晦日もどこかでさびし〜く迎えるんじゃない?」
「くいなさん…。」
「だいじょーぶよ、サンジくん!3年もすれば、この領域に達するから。
絶対、ゾロって鬱陶しい男になるわよ〜。」
どの領域?
てか余計なお世話だ。
ふとサンジを見れば、本気で嫌そうな顔。
「ねぇ、おかあさん!今年はSMAPまで起きててい〜い?」
「どうせ寝ちゃうくせに。」
「サンジくん、この前戴いたお酒、美味しかった。お父さんに、よろしく伝えてください。パリは楽しかったかい?」
「…はい。」
「それはよかった。」
コーシローさんを見ていれば、ゾロがどんな男になるかよくわかるよ、くいなさん。
また、新しい年が来る。
去年がどんなに最悪だったかなんて、もう忘れたよ。
ふと、コーシローがサンジに言った。
「サンジくん、よかったら、携帯電話の使い方、私が教えてあげようか?」
「…え?いいんですか?」
「…やめとけサンジ。」
「え?なんで?」
ゾロやアイサやくいなに聞くよりは、コーシローの方が、
もっと優しく、わかりやすく教えてくれそうな気がする。
「ゼヒ!教えてください!!」
「じゃあ、見せて、どれどれ…ああ、この機種なら私のとそう変わらないね…。まずね…。」
こそっと、くいながゾロに言った。
「…あ〜あ、知らないわよ、ゾロ?」
「おれは一度止めた。後は知らん。」
「…明日、サンジ兄ちゃん、初詣に行けるかなァ…?」
昔から、この父は人に物を教える時、相手が全て理解するまで根気よく、
粘り強く、妥協をせずに取り組む人だった。
つまり
クドイ
「…ああ、おれ、親父に似たのか…。」
当たり前の幸せを認識して、今年も暮れていくロロノア家である。
メリークリスマス。
そして、よい新年をお迎えくださいませ。
2008年がアナタにとって、最高のHappy Yearでありますように…。
END
(2007/12/12)
『にじはなないろ』続編です。
ある日ふと
「あー、またクリスマスかー。」と思った時
「そういえば、あそこのあいつらは、今年はまともにクリスマスを過ごせるのだろうか?」
ということを考えてしまいました。
そしてぱたはヒネクレモノなので、
「そうそう簡単にロマンチックにさせてたまるか。」
そんな感じです。
でも結局はこうなるのか。
クソ。
作中に登場するウェイター・アンリ君
友人の息子の名前を借りました。
「でもそんなの関係ねェ!」が得意技の5歳。
母の方に「クリスマスのパリなんか知らない」と言われた。
BEFORE
『巴里の7日間』TOP
お気に召したならパチをお願いいたしますv
TOP
COMIC-TOP