帰りたい 帰りたい 帰りたい 帰りたい ワタシも帰りたい。 帰りましょう。 あの場所へ。 みんなの夢の、あの場所へ。 ある日の午後。 偉大なる航路―グランドライン―を行く海賊船・サウザンドサニー号は、 コックサンジが、夕食用の魚を捕まえる為に流した底引き網にかかった、大きな宝箱を引き上げた。 「比較的新しいようね。」 と、ロビン。 「大きいなー。」 と、チョッパー。 「よっこらしょ…!ふぇ〜、結構重いな!」 と、ウソップ。 「肝心の魚はかからなかったが、こいつぁ大漁だ。」 と、サンジ。 「何が入ってるのかしら〜。早く開けて!早く!!」 と、ナミ。 「ちょっと待ってろ。今、鍵を壊すからよ。」 と、フランキー。 「あんまり期待しない方がいいんじゃねぇか?」 と、ゾロ。 「な〜にが入ってるかな〜♪肉ならいいな〜にっくにっく、肉肉肉〜〜ん♪」 と、ルフィ。 「…よし!開いたぜ!」 「さぁ〜〜お宝ちゃ〜〜んVVごたいめ〜〜〜〜……。」 箱の蓋を、開けようとしたその時 「あー!よく寝た―――っ!!」 勢いよく蓋が開き、箱の蓋の上から覗き込んでいたウソップは、思いっきり顎を強打した。 全員、一瞬何が起きたかわからなかった。 だがナミだけは、「こんなこと前にもなかったかしら?」と、思ったがすぐに忘れた。 沈黙が流れる。 麦わら海賊団のクルーの目は、一転に集中している。 誰も、何も言えなかった。 目の前の光景に、誰も声も出ない。 が、その沈黙をやんわりとロビンが裂いて、言った。 「まぁ、可愛い猫ちゃん。」 そう、箱の中にいたのは猫だった。 猫 のはずだ。 だが、今、コイツ、喋ってなかったか? しかも、人間のようにきっちり服を着て、そして 「どうも、みなさま。初めまして。」 羽根飾りのついた、ツバの大きな帽子を取り、優雅に『立って』挨拶をした。 ばた―――ん!! 勢いよく、箱の蓋は閉じられた。 閉じたナミが叫ぶ。 「あたし達、何も見てないわっ!!箱も拾わなかったし、喋る猫とか2本足で立つ猫とか、何にも見てないっっ!!」 「ウチにも喋って、2本足で歩くタヌキがいるぜ。」 「タヌキじゃねぇ!!トナカイだっ!!」 ゾロのツッコミにチョッパーが叫んだ時、箱の中からまた声がした。 「ああ、お願いですぅ〜!開けてくださいぃ〜〜。 嵐に遭って、船が難破して、この箱に潜り込んで助かったんですぅぅぅ〜〜〜!! やっと出られたのにぃぃ〜出してぇぇ〜〜!いくら猫が狭い所好きでも、もう飽きましたぁぁ〜〜〜!!」 「いやぁあああ!!やっぱり喋ってるぅ〜〜〜!!」 「喋りますよぉぉ!」 「喋らないわ!猫は喋らない!!」 「そちらのタヌキさんも、喋ってるじゃないですかぁ!」 「だからタヌキじゃねェ!トナカイだーッ!!」 「開けてやろうぜぇ!ナミぃ!!」 「開けるなナミ!そいつはバケモノだ!化け猫だ!!」 大騒ぎのクルーの中で、冷静なのはゾロとロビンとフランキーの3人だ。 「どっちにつく?ニコ・ロビン?」 「どうしようかしら。」 「放り出す方に1票。」 ゾロが言う。 するとそれを聞いたナミが 「多数決よ!!このまま放り出す方に賛成の人!!」 「は―――い!!」 ナミ、ウソップ、そしてゾロ。 珍しく、サンジがナミの意見に同意しない。 「放り出す以外に、このまま非常食追加って選択肢もありかと。」 「人でなしーっ!!」 箱の中から声がした。 さらにチョッパーも激しく落ち込んで 「追加って追加って…やっぱりおれって、まだ非常食のカテゴリなんだ…。 非常食反対!!放り出すのもはんたーい!!」 ルフィが嬉しそうに言う。 「どーだ!ナミ、5対3だ!!開けるぞ!!おい、猫、出て来い!!」 「あああああ!ありがとうございます!!」 絶望したかのように、ナミは天を仰いだ。 再び箱が開いて、中から猫が飛び出した。 ぱんぱんと服を叩き、襟を正し、羽根飾りのついた帽子を取って、優雅に腰を沈めて頭を下げる。 「では、改めまして!初めましてみなさま!!お救い頂きありがとうございます!! ワタクシ、シャルル・オーギュスト・ド・ペロー、と申します。どうか気安く『ペロ』と、お呼びください!!」 「わー、ご大層な名前。化け猫のクセに。」 ウソップがつぶやく。 「コホン。失礼ながらワタクシ、これでも由緒正しき ノルウェージアン・フォレスト・ノ〜〜〜〜〜〜ブル・キャットでございます。 そこらの野良猫や、駄猫や雑種と同列にしないで戴きたい。」 「充分普通じゃないことは認めるわ。」 ナミが言った。 「お前も、『ヒトヒトの実』を食ったのか?」 目を輝かせて、チョッパーは尋ねた。 だが、サンジが言う。 「チョッパー、この世に『ヒトヒトの実』は、お前が食った実ひとつきりだ。」 「…え?そうなのか…?」 「ええ、それが悪魔の実よ?この世に同じ実は2つ無いの。」 ロビンもうなずく。 ペロ、という名の猫は 「わたくしは純粋に猫です。ちゃんと泳げますよ?」 「猫のクセに泳げるのか!?」 「泳ぎますよ?何せワタクシは、ノルウェージアン・フォレスト・ノォ〜〜〜〜ブル・キャットなのですから!」 「そのノォ〜〜〜〜ブルキャットって、そんなに珍しい猫なの?ロビン?」 「さぁ、よく知らないわ。調べてみる?」 「はぁ、知識と教養のないものはこれだから……。」 「サンジくん、今夜猫鍋が食べた〜い。」 「イエッサー。」 「ああああああ!ごめんなさーい!」 間 ともあれ、麦わら海賊団は、海の真ん中で1匹の猫を拾った。 帽子をかぶって、服を着て、首にスカーフ、足にはブーツ。 2本足で立って、言葉巧みに喋る猫。 どこかで聞いた? 別にいいでしょ? 東映だもん。 「ところで、この船はどちらに向かっていらっしゃるのでしょうか?」 キッチンラウンジ。 テーブルの上に今夜の食事が並んでいる。 中央に、コンロにかかった土鍋がふたつ。 本当に今夜は猫鍋か?もしかしたらトナカイ鍋かもしれない。 ペロの問いに、ルフィが答えた。 「とりあえず“新世界”だ。」 「はぁ、なるほど!“とりあえず新世界”!ははは!冗談がお上手でいらっしゃる。」 「冗談じゃなく、“新世界”だ。おれ達、“ワンピース”目指して旅してる。」 「あっはっは!まるで海賊のようなことを………って、まさか、この船って…。」 一瞬、声に力がなくなる。 畳み込むように、ナミが言った。 魔女のように。 「そう、海賊船よ。」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」 猫が白目を剥く顔というのを、全員初めて見た。 「あはははははは!そう、海賊…!で、船長はどなた?」 ペロは、全員を見回して言った。 一斉に、7人の指が1人を指差す。 「おれだ。」 「あ、あなたが…?」 「そう、おれ。」 「せっかくだから、紹介しましょうかぁ?」 ナミがさらに意地悪く言う。 「麦わら海賊団・船長、通称:麦わらのルフィこと、モンキー・D・ルフィ。懸賞金3億ベリー。司法の島を陥落した男よ。」 「ルフィ…?…船長、ルフィと仰るんですか!?」 「ああ、おれはルフィだ。」 「………。」 ぴくり、とゾロのコメカミが動いた。 ルフィの名を聞いたペロの表情が、一瞬硬くなった。 ペロが反応したのは3億の金額でも、司法の島陥落の部分でもなかった。 ルフィ、という名に反応したのだ。 機関銃のように喋っていたペロの口が、瞬時に固まった。 「ああら、やっぱり知ってる?すっかり有名人ね〜え、ルフィ?」 「そぉかぁ?おれって有名か?」 「充分有名人よ、ルフィ。」 ロビンが笑って言った。 「ルフィ…さん。」 「ん?何だ?」 「……いえ。なんでも。」 少し、はにかんだような顔で、ペロは笑った。 と、サンジが、両手に野菜の皿を抱えてカウンターから出て来た。 「さあ!準備できたぜ!!鍋の蓋開けて材料ぶち込め。それから猫とトナカイ、まな板の上に乗れ。」 「ヤダ――――――ッ!!!」 ペロとチョッパーは同時に叫んだ。 珍客を迎え、笑い声がサニー号を包む、そんな夕暮れ時。 NEXT 長靴をはいた猫TOP NOVELS-TOP TOP