BEFORE
とりあえず、猫とトナカイが鍋の具になるのを免れた食後。 サンジが、クルーそれぞれに好みのお茶を出した。  「猫は何が好い?」  「あ。ではお言葉に甘えて、マタタビ茶を。マーマレードを落としていただけると嬉しいのですが。」  「ウィ、ムッシュ・シャア(猫)。」 食事中、ペロはずっと美味しい美味しいと言って、料理を褒め続けてくれたのでサンジは気分がいいらしい。 本当にマタタビ茶が出てくるから、さすがはサンジだ。  「う〜〜〜ん、なんとも芳しい!  この香りは、サウスブルーのタスカンビア産と覚えますが。いかがでしょうか?料理長?」  「驚いたな。当たりだ。」  「へぇ!すごいんだな、お前!!」 チョッパーが言った。  「ははは!いいな!!気に入ったぞ、お前!!」 ルフィが言った。 そしてその次に、どんな言葉が来るか大概決まっている。  「なァ、猫!お前、おれの仲間になれ!」  「ああ、また始まった…。」  「猫の手も借りたいって、いうけどよー。」 ナミとウソップが溜め息をついた。  「いいじゃねぇか!おれ、コイツ気に入ったんだ!!」 するとペロは、お茶を一口飲んで息をつき  「ありがとうございます。船長さん。でも、それは丁重にお断りいたします。」  「えー!?なんで!?来いよ!一緒に海賊やろうぜー!!」  「……ワタクシは、あなた方の仲間にはなれません。なぜなら、ワタクシはすでに、ある海賊団の一員だからです。」  「アンタが海賊!?」 ナミが、素っ頓狂な声で叫んだ。  「はい。ワタクシはこう見えても海賊なのです。」  「猫の海賊団か。」 ゾロが言った。 なめんなよ  ばーい又吉(違う)  「いえいえ、ワタクシ以外はみな、れっきとした人間ですとも。」  「なんていう海賊団なの?」 ロビンが尋ねた。 重ねるようにフランキーも  「船が難破ってのは、その海賊の船が難破したってことか?」  「いえいえ、ワタクシが乗り合わせた船は、普通の貨物船です。  …振り返って考えるに、船底に1匹もネズミを見なかった。その折に気づくべきでした。  あの船は、沈む運命だったのです。ですが、ワタクシは助かった。ワタクシは運がいい!」  「おれも運がいいぞ。」 ルフィが言った。 さりげなく、ペロはロビンの質問をスルーした。 それに、ロビンは気づいていたが、それ以上問うことはしなかった。  「ワタクシを、仲間にお誘いくださったご厚情には心より感謝申し上げます。  ですが、ワタクシは帰らねば。仲間のいる島へ。」  「仲間のいる島?」 ウソップが尋ねた。  「はい。仲間は、ある島で待ってくれているはずです。急いで戻らねば。時間がないのです。」 少し、声が低くなった。 毛に覆われた顔は、真剣そのものだ。  「その島って、どこにあるんだ?」  「わかりません。でもワタクシ、エターナルポースを持っております。」 ペロは、腰に下げた袋の中から、小さなエターナルポースを取り出して見せた。 やはり、真っ先にナミが食いつく  「随分古いエターナルポースね。あ。島の名前が書いてある……ディ…ディア…『ディアマンテ』……?  …ディアマンテ…って、ダイヤモンド!?」 ナミの声が、確実に1オクターブ上がった。  「はい。『ディアマンテ』島。そこに仲間がいるのです。」  「ね、ねぇ〜〜〜え?猫ちゃん?ううん!ムッシュウ・ペロー?」  「どうぞ、ペロとお呼びください。マドモアゼル・ナビゲーター。」  「じゃあ、ペロちゃん?何でその島…ダイヤモンドなんて名前なの?」 チョコレートに、砂糖をまぶしたようなナミの声。 ゾロが、うんざりと肩を下げる。  「こんな、ダイヤモンドが採れるからです。」 そう言って、ペロはどこからか、自分の顔ほどの大きな石を取り出した。  「どっから出したんだ?そんなデカイ石。」  「ポケットです。」  「ドラえ●んかよ!!」 ウソップがツッコンだ。 そのウソップを、ナミは蹴り飛ばして押しのけて  「ちょっと見せて!!……これ、ダイヤじゃない!?」  「ダイヤだと言ってます。」  「すごい!!なんて大きさなの!?  これ、切り出してー、カットしてー、磨いたらー………あ…あ…あああああ!!キャ――――ッ!!」 がちゃがちゃ、チーン。 チョッパーがつぶやく  「目がベリーだ!」 そして  「進路変更!!ダイヤモンド島に向かうわよっっ!!」 航海士宣言。  「お―――っ!!」 船長&コック同意。  「いつになったら行けるんだ?新世界。」 フランキーがつぶやく。  「うふふ。でも、面白いわ。」 ロビンが微笑む。  「まぁ、いつものこった。」 ゾロが言う。  「うっ!何だか、“島に行ってはいけない病”が」 ウソップ。  「なんだか面白そうだな、ワクワクすんな!!」 チョッパー。  「ワタクシを、連れて行ってくださるのですか!?」 ペロ。  「もっちろんよぉ!!送ってってあげるわ!!その代わり、ダイヤを分けてって、あなたの船長にお願いしてくれるぅ?」  「ええ、もちろん!!…ウチの船長は、優しい方です。  それにあの島は、島全部がダイヤで出来ていますから!いくらでもお好きなだけ!!」  「し、し、し、島全部がダイヤ……っ(卒倒)」  「ナミさん、しっかり!!」  「おい、猫、これ以上刺激してやるな。血管切れるぞ。」  「うわああ、ナミ!目がダイヤになってる!!」  「前世魔人の正体見たり!なんちって…あー、誰も知らねー。」  「ダイヤで出来た島か。」  「楽しみね。ドキドキするわ。」  「よぉ〜〜〜〜〜〜し!!取り舵いっぱぁ〜〜〜〜〜〜い!!」 サニー号は、波を大きく蹴立てて、進路を変えた。 目指すはエターナルポースの先、『ディアマンテ』島である。 同じ頃。 サニー号よりはるか後方に、ある船の姿があった。 サニーより大きなガレオン船だ。 黒い船体の、マストの頂にあるのは海賊旗。 その船の甲板で、大勢の海賊たちが床に広げられたガラクタをさぐっていた。 一段高いデッキの上で、男が叫ぶ。  「どうだ!?あったか!?」  「いいや、どこにもありやせんぜ。」 海賊たちは、皆首を縦に振った。 デッキの男は歯噛みして  「くそ…やっぱりあの猫が、持ってやがったのか!」 と、男の後ろにある船室の扉が開いた。  「お頭…!やっぱり、どこにもエターナルポースはありません。  あの時、あの猫が咥えて逃げやがったんだ!」 扉の奥から、体の大きな初老の男が現れる。 赤銅色の肌。太い腕。白髪交じりの褐色の髪。 シワを刷いた目は老いてはいても眼光鋭く、真一文字に結ばれた口元には髭がぼうぼうに生えていた。 海賊の頭。 だが、腰に帯びた剣には、海軍のマークが刻印されている。 男の名はベリエ。 海賊であるが、元海軍大佐だ。 軍律を犯し、脱走して海賊に身を崩した。 甲板に広げられたガラクタに、ベリエはゆっくりと歩み寄った。 そして  「……やっと探し出したと思ったら、この体たらくか!この役立たず共がぁぁあああ!!」 凄まじい蹴りが、様々なものを薙ぎ払い、吹き飛ばした。 海図やペン立て、コンパス、定規、コップ、天球儀、星座版、インク壺…。  「猫を追え!とっ捕まえて、あのエターナルポースを取り返せ!!」  「け、けど、お頭、この広い海の何処を探したら…。」  「そんなの知ったことか!!とにかく探せ!!…おれがあのお宝を手に入れる為に、どれだけ我慢を重ねたと思ってんだ?  やっとの思いであいつを探し出して、もう少しであのエターナルポースを手に入れるトコだったってのに…!!探せ!猫を探せ!!」 その時、別の船室の扉が開き、ひょろりと背の高い、銀縁眼鏡の男が現れた。  「お頭、あの時逃げた猫が、潮に流されたとしたら、おそらくこちらの方向へ、流されているのではないかと思われます。」 海図を広げて、男が言った。  「おお、さすがだ、航海士。……おい!西南の方向へ、鳥を飛ばせ!!」  「へい!!」 手下の1人が、おおきなトウゾクカモメを連れてきた。 そして、その背に、伝々虫を括りつける。 目玉の大きな、希少種の伝々虫だ。 この種は、自分が目で見たものまで、同種を通して持ち主に映像として伝えることが出来る。  「いいな?猫を探すんだ。あのふざけたドラ猫野郎を探し出して知らせろ!!」 トウゾクカモメは一声鳴いて、空へ飛び立った。 そして、まっすぐに、サニー号が向かった方向へ消えていった。 NEXT BEFORE 長靴をはいた猫TOP NOVELS-TOP TOP