BEFORE
それからのことを、あえて語る必要はないのだろうが、やはり語っておきたい。
あの戦の後、碧の106世皇帝の即位を皆で祝った。
即位の式典中、ずっとナミが笑いをこらえているのに、ゾロはかなり青筋を立てていた。
心の中で
「てめェの結婚式で仕返ししてやる。」
と、密かに誓っていたのは言うまでもないが、結局それはサンジやウソップに阻まれた。
皇帝即位の前日に、ゾロはサンジを自身の伴侶として『大公』の地位を与える宣旨を出した。
法律的に婚姻は出来ないが、神官たちはそれを受け入れ、容認した。
禁忌でありながらも、その身に奇跡の御子を孕んだ者を、排することは出来なかったのだ。
そして、碧の皇帝となった翠天の御子と、大公になった蒼天の御子の力は大陸をあまねく潤し、旱魃に苦しんでいた緋はかつての豊かさを取り戻した。
その緋の国王フランキーは、行っていた事業が全て終わるのを見届けて、わずかな未練もなく退位した。
国中が驚きひっくり返ったが、『コイツを王にすりゃあ文句はねェだろ!?』と、ルフィを無理矢理王座につけて出奔した。
「聞いてねェぞフランキー!!」
ルフィの叫びも、すでに国境を越えて藍へ入ってしまった兄の耳には届かなかった。
型破りの王の傍らには常に、美しく聡明な王妃と、“隻眼の賢者”と呼ばれる摂政がいて、賢明な政治を行ったという。
だが、ルフィもまた兄と同じように、若くして、王座をまだ11歳の次男に譲って、
エースに一切合財押し付けた後、王妃と一緒に大陸の外へ旅に出てしまったのは後の話。
そして出奔した『愚兄』は、只の人となって藍の国で船大工を始めた。
その船大工の評判は、たちまち藍の国中に響き渡り、やがて大きな造船会社の頭目となった。
そして、評判の船会社を視察に訪れた藍の女王に、何の前置きもなくこう言ったという。
「結婚してくれ!!」
その時、女王の忠実な女官は、女王がふたつ返事でうなずくものだと思っていたと後に語った。
その時の女王の答えは
「……今頃?」
だったという。
「心底不機嫌な声でしたわ。当然ですわ。何年も待たされて。とんでもないセクハラですもの。」
と、女王の伝記に記された、女官の言葉である。
だが、その後の女王の系譜に、2人の間の子供たちの名が記されているのだから、多分幸せな生涯を送ったのだろう。
燈は、アイスバーグが娘ビビに位を譲ったのは、彼が50の齢になった年だった。
女王となったビビはすでに母となっていて、即位の式典の間中、その夫の礼服の裾に双子の元気な子供達がまとわりついていた。
燈王家はどうやら双子が生まれる家系らしい。
女王ビビの夫は、碧の男だ。
碧皇帝の即位式に参列したビビを、もてなしたのがその男だった。
話が巧くて無駄に明るいその男と、ビビはすぐに打ち解けた。
父も、その男がどんな人物かすでによく知っていて、ビビからほのかな想いを告げられた時に反対する事はなかった。
姉の緋王妃も。その男の主である碧皇帝も大公も、その恋を祝った。
当初、男はあまりの身分の差と、自分が皇帝の側を離れること双方を躊躇った。
それでも、大人しい引っ込み思案な娘の方から、『燈へ来てくれませんか?』と震える声で言われてしまっては、男が廃るというものだ。
国民は、心優しく美しいビビの結婚を喜び祝ったが、いかんせん、大公となったその夫の、不思議に長い『鼻』だけが欠点だと囁きあったという。
そして
翠天と蒼天の御子。
「…見えたぜ、サンジ。あれが琅都だ。」
山間の街道。
吹きあげる風になびく髪を押さえながら、サンジは遥か眼下の美しい街並みに息をついた。
藍の首都青都の街並みの色は明るい白だが、琅都のそれは心が暖かくなるような茶色の街並みだ。
2人で、旅をしてここへ“帰って”きた。
本当は、碧軍と共に帰還するべきだったのだが、ゾロ自身が
「皇帝になったら、気ままな旅もできなくなるからよ。最後にのんびりさせてくれ。」
と、ボン・クレーらと別行動を取ったのだ。
高位の武官や文官等は反対したが、ゾロは譲らなかった。
これが最後のワガママだからと、頭を下げて頼んだのだ。
皇帝に頭を下げて頼まれては、引き下がるしかなかった。
しかし、この後も『最後のワガママ』が何度も繰り返されることになろうとは、まだ誰も知らない。
「まぁ、おれ様が一緒だからよ、安心してくれていいぜ!」
と、胸を張るウソップに、新皇帝は
「何言ってんだ。てめェもヤソップと一緒に帰れ。」
「なんだとぉ!?そんなにおれはお邪魔虫かぁ!?」
「それがわかってんなら、2人きりにさせろよ!!」
つまり
新婚旅行がしたいわけだ。
「勝手にしろ―――ッ!!」
怒り狂うウソップをボン・クレーに押し付けて、帰還する碧軍を見送った。
「じゃあねぃ!先に行って待ってるわよ〜ぅ!」
「陛下!琅都でお待ち申し上げております!!」
「道中どうぞお気をつけて!!」
「準備万端、整えておきます!ご安心を!!」
「殿下!!お体をおいといくださいますよう!」
明るい碧の兵士たちのその声に、ゾロもサンジも手を振って応えた。
そして今度は、仲間たちとの別れ。
今度会う時は、ゾロの即位の式典だ。
「緑の頭に緋の衣!楽しみにしてるわ〜。」
ナミが、意地悪げに笑って言った。
ロビンは、最後まで笑っていた。
別れ際はさすがに泣くかと思っていたが
「もう、あなたの為に泣くのは飽きたわ。」
「じゃあ、これからは自分の為に、たくさん笑ってくれよ。」
その言葉に、ロビンはちらりとフランキーを見て笑った。
「お元気で、お元気で、殿下…お体を大事になさってくださいまし。冷やしたりなさいませんように。
足元の悪い所など、お歩きになってはなりませんよ?それから…。」
「ああ、カリファ、もうわかったから。昨日から、何回同じ事を言ってるかわかってるかい?」
「ホラ、またカリファが持っていっちゃうのよ?」
「はっ!?ご無礼を!」
ルフィが、さっきからウズウズした様子だったが、我慢できないと言った様子で
「なァ、サンジ!」
「ん?」
「お腹、触っていいか!?」
一瞬、フクザツな顔を見せたが、サンジは笑って
「どうぞ?」
と言った。
するとナミまで
「あたしもいい?」
「お!おれも触りてぇな!!」
「……私も。」
ナミ、フランキー、ロビンまで。
「じゃ!」
屈んで、ルフィはいきなりサンジの腰を抱いて、腹に耳を押し付ける。
途端にゾロが、額に青筋を立てて
「てめぇルフィ!!何やってんだ!?」
「触ってる。」
「そりゃ、抱きついてるってんだよ!!」
「いーじゃんかぁ!減るもんじゃなし!!」
「ん〜〜?ホントにいるのォ?」
「うふふ、やっぱり、まだわからないわね。」
「しかし、どこで育ってんだ?」
「…おれがいちばんわからねェんですけど…。」
「まー、いいや!!赤ちゃん生まれたら、会いに行くからな!」
ルフィの言葉に、ゾロは笑った。
「おう、待ってる。」
と
「なぁ、ゾロ、おれも触っていいか?」
エース。
エースは、フランキーがこしらえた寝台を乗せた馬車で戻る事になった。
急ごしらえにしては、かなりよく出来た寝台車だ。
だいぶ顔色はよくなったが、さすがに歩くことはまだ出来ない。
「…ちょっとだけだぞ。」
仏頂面のゾロにサンジは呆れて
「決めるのはおれだよ。…祝福してくれ、“炎の賢者”…いや、“隻眼の賢者”かな?」
「ははは、それ戴いてくぜ。……祝福を。」
「ありがとう。」
そして、サンジは身をかがめて、エースの額にキスした。
「っっ!!?」
ゾロが、怒鳴るかと思った瞬間に、サンジが言った。
「いいじゃねェか。」
そして、皆サンジに声を揃えて
「減るもんじゃなし。」
「!!!!!!!」
何かが確実に減るような気がする。
そう思うのは、おれだけか?
心の中で自分に問い、ゾロはエースでなくサンジを睨みつける。
が、何事もなく笑い返してくるサンジを見ると
だめだ。
やっぱり、コイツ最強だぜ。
と、思ってしまう。
それを、これから独占できるのだ。
確かに、減るもんじゃない。
「なァ、ゾロ。」
エースがゾロを呼んだ。
「あ?」
「…休戦協定、お終ェにしていいか?」
「あァ!?」
この野郎、まだ諦めてねェのか!?
ゾロが身構えた時、エースはおかしそうに笑って
「終戦ってことで。…もーいい加減無理だな。諦めることにする。」
息をついて言うエースの言葉に、ゾロはどっと肩の力が抜けるのを感じた。
つーか
今の今まで、諦めてなかったのか?コイツは。
すると
「なんだ?諦めんのか?エース?」
ルフィが言った。
さらにサンジが
「そうだなぁ。それはそれで、なんか寂しいかなァ…?」
「何だと!?クラァ!?」
「はーいはいはい!もう、そこまで!いつまでもここで名残を惜しんでてもしょうがないんじゃない?
それに、コイツラのイチャイチャぶり、いつまでも見ていられるかっていうのよ。」
「あー、それもそうだな。ホラ、お前ェら、さっさと行った行った!」
「そうね。早く発たないと、岩石砂漠のど真ん中で夜明かしよ?」
「…姉さん…それ、ちょっと悲しい…。」
それでも笑いながら、サンジはロビンを抱きしめた。
その目に、わずかに光るもの。
ゾロは、ぶつぶつと何かをつぶやきながら荷物をひとつ肩に担い、腰に剣を指して、馬の手綱を握った。
「ホラ、乗れサンジ。」
「誰が。」
「腹の子に障るだろうが!」
「うっせぇよ!てめェ二言目にはそればっかだな!!いい加減ウゼェんだよ!!
おれよりガキか!?歩いていく!馬はいらねぇ!!」
言い放つや、サンジは早足で歩き出した。
慌てて、ゾロは追いかける。
「ちょ…待て!…おい!サンジ!!…走るな!バカ野郎―――ッ!!」
丘の向こうの街道へ、2人の姿が見えなくなるまで仲間は見送っていた。
見えなくなってもまだ聞こえてくるケンカの声に、全員呆れて肩をすくめ、笑った。
「さて、もうひとふん張りだ。疲れたなんて言わねェだろうな?」
「誰が言うか。」
「…大丈夫か?」
その一言に、サンジは腹をぽんと叩いて
「お前ェのガキだ。そうそう簡単に疲れやしねェって。」
瞬間、ゾロは目を泳がせた。そして
「あ、そっちの意味か。」
「どっちの意味だよ!?下ネタ方向で反応するんじゃねェ!!」
条件反射で脚が出た。
まったく。
だがさすがに、ここまでの旅は長かった。
小さく息をつくサンジに、ゾロは手を差し伸べた。
だが、そこは素直にならないのがサンジだ。
その手を弾いて
「じゃ、お国入りといきますか?皇帝陛下?」
「って、だから走るな――!!」
琅都の宮殿に帰りついたゾロとサンジは、国民の歓迎を受け、高官たちはみな膝をついて新たな皇帝を迎えた。
それから
トツキトオカ後に生まれた奇跡の子供は姫君だった。
ドクターくれはに取り上げられた子供を初めて見て、抱き上げた時のゾロの顔を、ウソップは『絶対に人には見せられない顔』と表現した。
言いながら、後にウソップはあちらこちらで語りつなげることになる。
多少の脚色と誇張を加えて。
その姫君。
金の髪に琥珀色の瞳。
マユゲもしっかり大公に似ていた。
笑うと口元に出来るえくぼは、ゾロの母親に似たのだと、ヤソップが言った。
姿は“母親”そっくりだが、性格の方は“父親”そっくりで、しかも2人の御子の力を両方とも兼ね備えて生まれてきた。
大地と語り、水の上を滑り、雲と話し、木々と歌う娘を、2人はありったけの愛情を注いで育てた。
長じて、彼女も愛のある結婚をし、子供を生み、育て、やがて父の皇位を継ぎ、女帝となった。
女帝は、その力を大陸中に注ぎ、全ての国々はその時代大いに栄えたという。
ちなみに、この女帝の夫は緋国の王子だ。
年齢は女帝より2歳年下だったが、年齢の割には老成した男だった。
彼女の強大な力をものともしない、炎の力と風の力双方を持った紅天と朱天の御子で、その容姿は父方の伯父にどこか似ていた。
初め、彼女の父は結婚を猛反対した。
その口にする理由は様々だったが、本当の理由は各国の王族の誰もが察したものである。
その両親が、どれほどに互いを想い合い、どれほどに幸福であったか、女帝はいつも人々に語っては微笑んでいた。
些細な事で、毎日の様にケンカを繰り返すのだけには閉口したけれど。
新たな伝説を記したその両親は、女帝の治世の15年後に相次いでこの世を去った。
仲のよい2人だった。
現し世に、ひとり残って生きるのは嫌だったのかもしれない。
その時は碧の、いや大陸中の民が涙を流した。
その後も、4つの国に時折御子は生まれたが、その誰もが人々に愛され、愛し、幸福をもたらしてその生を全うした。
互いに結ばれた縁は、やがてそれぞれの神の血筋を薄めてゆき、1000年を経る頃には、御子の物語は遠い伝説となった。
かつて、伝説を書き変えた皇帝が4国の国境に穿った谷は、徐々に左右に離れ、ついには地を分け、
大陸は離れて、あるものは沈み、あるもの隆起して高い山脈を形成し、今度は海を4つに分けた。
そして
「あの光の先に、“偉大なる航路”の入り口がある。 どうする?」
「しかしお前、何もこんな嵐の中を……なァ!」
「よっしゃ!偉大なる海に船を浮かべる、進水式でもやろうか! おれは、オールブルーを見つけるために。」
「おれは海賊王!」
「おれァ大剣豪に。」
「私は世界地図を描くため!」
「お…お…おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!」
「行くぞォォ!“偉大なる航路−グランドライン−”!!」
「おい、コック。10秒手ェ貸せ。」
「妥当な時間だな…。」
今度は海が、新たな伝説を生もうとしている。
それも、ひとかけらの運命。
END
かなで様44444HITリク『ゾロサンでファンタジー』
キーワードを戴いておりました。
『王子』『強すぎる力』『エースVSゾロ』『チビナス』『伝説』他
奈落の底に落とすのは必須項目←ここがポイントか?
全てを入れるのは難しかったのですが…いかがでしたでしょうかぁっ!?
奈落の底には最後の最後に落としてみました。(鬼)
どーしても、全員書きたくなるんです。
ドクターくれはのポジションにチョッパーを起きたかったのですが、それをやったらあまりにも話が飛ぶのでやめました。
一応設定は作って、出すつもりだったのですが断念しました。
悪いクセです。
ファンタジーなので、かなり長くなるのを覚悟して書き始めました。
が。
公開を始めた頃には、実はゾロかサンジが死ぬ予定でした。
当初、ゾロが死ぬ方向で書いていたのですが途中でサンジになり、サンジが死ぬ事を前提に書き続けていったはずなのに。
生きてやがった、コイツ。
みたいな。
しかも、妊娠しやがったコイツ。
みたいな。
こういう、いわゆる『グランドラインの奇跡』ネタが嫌いだったらごめんなさいです!!
私もホントは苦手なんですよ。
男がガキ生めるかってーの。
ですが、古事記とか、中東の神話とかにはあるんですよね…そういう話。
西遊記だって、三蔵様が妊娠しますからね。
悟空が流産させる薬で流産させましたが。
そんななので、ファンタジーだし、こういうこともあっていいかしらーと。
勝手に動き回るんですもの…あいつ等…。
やはりあの一味は、私なんぞの手に負えるような連中ではないと改めて思い知りました。
魂は流転すると思います。
転生ではなく、流転。
その際の前世の記憶が云々は、私は認める人ではないのですが、同様の生き方を選ぶ事はあるのではないかと思っています。
その魂の記憶が強ければ強いほど、引き寄せあう力も強いのではないでしょうか?
マジ話
麦わらの一味って、とてつもなく強い魂の者同志の集まりじゃないですか。
『運がいい』ルフィの『運の強さ』は、ルフィの強い魂が招き寄せるものなのでしょう。
余談ですが
先日レッドラインに到着したルフィが
『1人も欠けずにここへ来れて良かった。』って、言ったでしょ?
あのセリフに『ドキッ』となりました。
ああ、ルフィも、常にそういう覚悟はしてるんだ。
と、改めて船長の器のデカさを感じました。
普段、なんでもない顔して、「あいつらは死なねェよ!」って言ってるくせにね。
さて、私信
理樹さんやー。
ワタシこういうパラレルを書くと、全員殺すか全員生き残るかの両極端になることに、今気が付きました。
切腹。
追記
オカマ meet a 変態が書けて楽しかったです!!
会話を想像して楽しんでいただけましたか!?
最後になりましたが
かなで様!ありがとうございました!!
(2008/5/28)
BEFORE
Piece of destiny-TOP
お気に召したならパチをお願いいたしますv
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COMIC-TOP