BEFORE




 『…いらっしゃいませ。明けましておめでとうございます。

 ようこそ、『バー・オールブルー』へ。初詣に行かれましたか?どうぞ、カウンター奥へ。』



フランキー、キュー。

BGM



 『フライデー・アーリータイムバー・オールブルー』



FMサウザンド・サニー、78.7MHz

コールサインJOSS-FM

系列JFN



 『1月7日、今年最初の金曜日です。明けましておめでとうございます。

 バーオールブルー、マスター、サンジです。初詣、行ってきました。

 なんと鎌倉の鶴岡八幡宮へ。2日に行ったんですけど、いやぁ、もぉ…すんごい人でした。

 神頼みに行ったのか、人の頭を見物に行ったのか…どっちだったかなァ。』



サニースタジオ、珍しくギャラリーが多い。



サンジのファンの女子大生2人と、オバハン3人もいる。

サンジがにっこり笑うと、女子大生がきゃー!と声を挙げて、オバハンに睨まれていた。



 『先日、ある方に頼まれて、やっとの思いで手に入れた酒なんですが…。“ポール・ジロー、ビクター・サロモン”

 …モルトではなくブレンデットです。…1945年、1946年、そして1947年の原酒をブレンドしたという珍しい酒です。

 …これを手に入れるのに、オーストラリアまで行ってしまいました…向こうは夏です…暑かったですよ。』



サンジは、テーブルに肘を着いてふっと一息つき



 『…会社の創立記念日に使うというその酒を…届けたらとても喜んでくださいました…。

 何故、この珍しい酒が欲しいのか…教えてくださいました…実は、45年はその方のお父様が奥様…

 その方のお母様と結婚された年、46年は会社を興された年、そして47年は、その方が生まれた年…なのだそうです。

 その方のお父様は昨年亡くなられ…お母様も入院されていて…だから、会社の創立記念日に、

 その酒を社員に振る舞いたかったとおっしゃられました。

 …普段…とても高飛車で、好きな事への投資は惜しまないワンマンな社長でしたから…驚きました…

 そういう一面もあるのだと…人は…見かけではないんですね…あ…社長には、喋ってしまった事は内緒に。

 …では、今年最初の曲、行きましょう。アンドリュー・シスターズで、“素敵なあなた”。』



サンジは、スタジオから見える風景を眺めながら、小さく笑う。

いつもの、マロニエの下。

そこに、いつもの姿が無い。



曲が終わる。



 『…アンドリュー・シスターズ、“素敵なあなた”…1937年のミリオンセラーです。2008年に廉価版が発売されてます…

 今流したのは、廉価版音源です…出来る事なら、1933年のユダヤ人のスラング、インディッシュ語の方で聞いてみたいです…。

 今日は、どんどん曲をかけて行きましょう!では次の曲…これはボクのリクエストで“MOON GLOW”…1934年、

 作曲・ウィル・ハドソン、作詞・アーヴィン・ミルズ…これからおかけするのは1975年、ミルト・ジャクソン。

 ……おい、手が止まってるぜ。』



サンジは笑って、向かい側の席を見る。



 『…申し遅れました。実は、先日役立たずのフランキーをクビにしまして、新しいバイトを雇いました。

 ご紹介しますね。ロロノア・ゾロ、20歳、学生です。はい、ゾロくん、ごあいさつ。』



テーブルを挟んで向かい側に、腕を組み、不本意丸出しの顔。



仏頂面で、ゾロはぼそりと



 『…ども。』



 『無愛想ですみません。まァ、こんなのはどうでもいいんで。お待たせしました、“MOON GLOW”。』



今日のギャラリーが多い理由はこれだ。



いつもの『バー・オールブルー』なら、DJサンジ1人なのに、今日はもう1人面白そうなのがいる。

そういえばこの前、なんか面白いサプライズがあったと言ってたが。



そんな理由。



女子大生とオバハン達が、そろって悲鳴を挙げた。

11月11日の放送で、サンジに大告白をしたあの学生だと知って大騒ぎだ。



曲が流れている間、マイクの音声はラジオには流れない。



 「……話が違うぞ、サンジ!!」

 「…どこが?おれ、ちゃんと言ったろ?番組を手伝ってくれってよ。」

 「DJやるなんて聞いてねェよ!!」

 「言ってねェよ?」

 「…っ!!」

 「…DJなんて大層なもんか。ただ、座って、おれの言う事に相槌打つだけじゃねェか。できねェってのかよ?」

 「なんだよ!?バイトってのは!?そんなポジション、毎週出ろって事じゃねェか!?」



と、スタジオのやり取りを聞いていたフランキーが、紙の束を掲げて



 「あの日以来、お前ェを出せって要望がこーんなに来てんだよ!いい加減観念しやがれ!」

 「……できるか!」

 「……あのな。まさかお前ェが、あそこであんなセリフを叫ぶとは、おれだってスーパー驚いたんだ!

 おかげでおれァ、今月まで給料20%の減棒だぞ!!」

 「……ぐっ!!」

 「ゾロくーん、曲終わるわよ〜〜。」

 「〜〜〜〜〜〜!!!」



僕はまるで故郷を持たない者のように

火星から来た異星人みたいな気持ちで

転げる石のようにうろつき回っていた

星々からのメッセージに気づくまでは



あれは青空に浮かぶ月明かりのせいだったのかな

その月明かりのおかげで僕は君と出会えたのかな



今も君の声が耳に残ってる、「強く抱きしめて」

僕は神様にお願いする、この恋を終わらさないで



あのとき二人はまるで宙に浮かんだ気分になって

天国の歌があちらこちらから鳴り響いてきたんだ



おやおや、今も月明かりが青空に昇ってるみたい

僕はずっと忘れない、君を授けてくれた月明かり







 『…ミルト・ジャクソンで、“MOON GLOW”、ギターはジョー・バス、でした…。

 お客様、何かお作りしましょうか?…はい、かしこまりました。

 では、“ブルームーン”を1杯。ゾロ、レモンだ。』



 『……イエス、マスター。』



外から、ものすごい黄色い悲鳴が上がった。

今の、ゾロの一言に反応したものだ。



 「フランキー、メールがすげェよ。」



スタッフが、パソコンのディスプレイを眺めつつ、笑いながら言った。



 「あっはっは!スーパーだな!!こりゃ、社長賞もんだぜ!!」

 「あの、『ぼそっ』具合がいいのよねェ〜〜〜。」



 『…おまたせしました。ブルームーンでございます。

 …では、ここで、“BLUE MOON”…と行きたいところですが…。』



サンジは、チラと、ゾロを見て笑う。



 『…最近…この曲が好きになってきました…ひとりぼっちの夜は、一瞬に通り過ぎるそよ風…

 …思い出はこれから、たくさん作っていきましょう…ひとりの夜は“これっきり”…。

 “DAYS OF WINE AND ROSE”…“酒とバラの日々”。今日は2001年、アン・サリーでお届けいたしましょう。

 どうぞ、暖かな陽だまりの様な声を、お楽しみください。』





曲が始まると、ゾロもようやく笑った。





これからずっと、ふたりで――。





すっと伸ばされたゾロの手に、サンジも手を重ねる。







草原をかけ抜けると

以前はなかったのに

そこには閉じようとしているドアがあり

そのドアには「これっきり」と書いてあった



一人で過ごす夜は

それは一瞬通り過ぎていくそよ風のようなもの



輝ける微笑みの思い出が詰まったそのそよ風は

わたしを酒とバラの日々、そしてアナタへと誘ったの











 『…ああ、もうこんな時間ですよ。お時間、大丈夫ですか?…新年に早速のご来店、ありがとうございました。

 今年1年が、お客さまにとって素晴らしい年になりますように。それではまた…来週もこの時間に、

 バー・オールブルーでお待ちしております…。マスター、サンジでした………。

 おい、ゾロ?お客さまにご挨拶もできねェのか?』



 『…ありがとうございました…。』



 『…ホンット、無愛想ですみません。改めまして、また来週のご来店、お待ちしております。』



エンディングの、サックスのメロディが流れる。

フランキーが、ゾロにフリップを見せる。

「最後のタイトルコールをしろ。」

ゾロは、相も変わらずの仏頂面で



 『…フライデー・アーリータイムバー・オールブルー。』



流暢な発音で流れたラストコール。

再び、黄色い悲鳴が挙がった。



 「よっしゃあ!来週から、これで行こう!!」

 「いやぁ〜〜んvv惚れ惚れする低音〜〜〜〜〜!!」

 「うぉおおお!メールが1000通超えたァ!!」

 「ああああ!FAXの紙が無ェ!!」

 「よし!ついでにトラフィック呼べ!ゾロぉ!!」

 「いい加減にしろ――っ!!」



結局、その日の放送で、次の交通情報の佐々木さんコールもさせられた。

次週から、そのスタイルが定着する事になろうとは、まだゾロは夢にも思っていない。



サンジはげらげら笑いながら、自然と零れる涙をぬぐう。



酒なんかもういらない。

ホントに、お前で酔えるよ、ゾロ。





さあ、始めよう



酒と バラと ラジオと 



お前の日々を







FMサウザンド・サニー、78.7MHz

コールサインJOSS-FM

系列JFN

毎週金曜日 午後5時





 『いらっしゃいませ。ようこそバー・オールブルーへ。』



 『どうぞ…カウンター奥へ。』







END





(2010/1/21)



BEFORE



「おや?」と思われた方もおられるかと(笑)

以前に受けたリクで書こうとした、『年下ゾロ』で2度目に書いた作品です。

リクを下さった方のご期待に答えられる作品ではないような気がして、途中で書くのを止めていた話です。



なるべくサンジのアル中具合を表現しないようにしてきたので、6話目あたりで「え?」と戸惑われた方も多かったと思います。

途中で「年下でなくてもよかったかしら?」と考えてしまったため、リク作品にはしなかったんです。

でも、ラストまで書いてしまったので、日の目を見せてあげたいとUPさせていただきました。



舞台はぱたの住む街です。

有名なジャズ奏者も、バーの多い街も、サニーヒルズスタジオのモデルも存在します。

サンジの番組もモデルとなる番組があります。

こっちはネタばれしちゃいましょう。

『SUNTRY Saturday waiting Bar AVANTI』土曜日の17時からJFN系列で放送されています。

この番組で、実際に平田さんの素敵な語りを聞くことができますw

ここでしか聞けませんよ?お宝Voiceですv

いくつかパターンがあるので、週ごとにどのパターンが来るかとても楽しみ。

HPはこちら→



あ。ラストのゾロの声は、デジモンのミラージュガオガモン声を想像してください(笑)



ラストに流れる『酒とバラの日々』は、アン・サリーを選びました。

そしたら、年末の紅白に出てきたのでびっくりしました(笑)





以下、作中ジャズ曲名一覧

興味のない方はすっ飛ばしてください。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございましたw

ではまた、来週もこの時間、バー・オールブルーでお待ちしております(笑)





・Calling you        1989年:ジェベッタ・スティール



・枯葉            1946年:イブ・モンタン

               1950年:ビング・クロスビー

               1952年:ナット・キング・コール

               1957年:フランク・シナトラ

(大橋巨泉氏独唱は音源無し:美香さんの音源も実は聞いたことありません;)



・ムーンライトセレナーデ

・星に願いを

・Pick yourself up

・ルート66

・星影のステラ

・Body & Soul

・ブルー・ムーン

・サマー・タイム

・イパネマの娘

・キラージョウ

・2人の危険な関係

・時を忘れて…

・ひとりぼっちの夜

・If I love again

・星に願いを

・素敵なあなた

・MOON GLOW



そして



・酒とバラの日々      作詞ジョニー・マーサー

              作曲ヘンリー・マンシーニ

              1958年:ジゼル・マッケンジー

              1963年:ペリー・コモ

              2001年:アン・サリー



1962年米国公開、1963年日本公開

監督:ブレイク・エドワーズ

主演:ジャック・レモン

   リー・レミック



ご参考までにw



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