BEFORE
今年も葡萄はよく実った。
秋の空の下、明るい笑い声の中でたわわに実った葡萄が次々と圧搾機にかけられ、
アメジストを溶かしたような果汁が樽へと詰められていく。
「おお〜い!みんな!!昼メシだぞ!!」
よく通る声が、昼食を知らせた。
その声に、いつも真っ先に反応するのはルフィ。
葡萄畑の真中から、一目散に走りだす。
「待ってましたァ!!」
「お前ェはまた!!大事に扱えッつってんだろ!!?」
「ホントに、サンジの昼飯が楽しみになっちまったな!」
ゲンゾウが言った。
「なァゾロ!サンジの“単身赴任”はいつまで続くんだ?」
「もう、いい加減、攫ってくりゃいいだろ?」
ヤソップとウソップが、親子でゾロを攻めたてる。
「アホ言え。あいつをこっちに、置きっぱにできる訳ねェじゃねェか。」
「そうよね、だったら、あんたがドンになればいいのに。」
「おお!そうすりゃ、サンジはず〜〜〜〜っと、こっちにいられるよな!!」
「同じゾロシアの息子なんだから、どっちだってなァ。」
「…ナミ…チョッパー…ウソップ…てめェらなァ…。」
その時
「セニョール・ゾロ。これはどこへ置きゃあいいんですかい?」
振り返り、ゾロは思わず溜め息をつく。
「…ケースに空けておきゃいい。」
「シ、セニョール!」
「……なんでギンまで連れてくんだよ…。」
ゾロの呟きを拾ってサンジは
「しょうがねぇだろ?手伝いたいって言うんだからよ。」
「…絶対ェ…てめェがここに居付かねェように、監視する為にくっついて来たに決まってるじゃねェか。」
「そんなこたねェよ。マジで、あいつ、ここのワインのファンだぜ?」
「あの呼び方も止めさせろ!」
「だから、しょうがねぇって。
お前のツラ見て、呼び捨てに出来る度胸のあるヤツなんざ、“ウチ”にゃいねェよ。」
ヴァンダンジュ達が、庭に用意されたテーブルに着きはじめた時だ。
黒いロードサイクルが、バイク並みのスピードで走ってきて、玄関前でスピンターンし、横付けされた。
ヘルメットを外すと、見事なアフロが溢れる。
(アフロでメットがいらないんじゃないか?というのはサンジの談。)
「ヨッホッホッホホホホホ!!ハイみなさん!こんにちはー!!」
「おー!ブルックー!!」
「あら、いらっしゃい、神父サマ。」
「こんにちは!本日もよいお天気で!!」
「あ!クランクが変わってる!!シマノのFC-R550!!高かったでしょ!?」
「ヨホホホ!中古品ですよ。でも、状態がよくて〜〜〜〜♪」
「ええ!?どこ!?どこで買ったの!?」
「ネット通販です。ヨホホホ。」
ナミとブルックは、今ではすっかり自転車仲間。
「ブルック!この前のチャ会、面白かったなァ〜〜〜!!」
「はいぃ!また次もゼヒ、お誘いください!!」
ウソップとはネット仲間。
ナミがうんざりと言う。
「…またエロチャ会…。」
「言うなァ!!」
家の中から、大皿に盛ったパスタを抱えてロビンが出てきた。
ブルックの姿を見て、にっこりと笑い
「あら、いらっしゃい、神父様。」
「ヨホホホ!これはこれは、ロビータ…いえ、ロビンさん!こんにちは!
相変わらずお美しい〜〜〜〜vvヨホホホホvvv」
瞬間、フランキーの鉄拳がブルックの脳天を直撃した。
「このエロエセ神父!!何しに来やがったァ!!?」
「あ。ヒドイ。お手伝いに来たのに(泣)。」
「メシ食いに来ただけだろうが!!」
「サンジさん!ドリンクは牛乳で!!」
ブルックは、体が回復してすぐにコルシカへやってきた。
フランキーとロビンに、土下座して、今までの悪意と罪の全てを懺悔し、許しを請うた。
だが、許す、許さないの問題ではなく、懺悔をされる理由も2人にはなく、
ただただ泣きじゃくるブルックに「もう、いい」と言ってやるしかなかった。
「…実は…ヴェローナを出てきたのです…。」
「まぁ、どうして?」
「…………やっぱり、ゾロシアが恐ろしくて…。」
「……自業自得じゃねェか。」
「どこか当てはあんのか?」
フランキーの問いに、ブルックは寂しそうに首を振った。
「だったら!ウチの教会にいろよ!ずっと、神父がいない教会だったんだ!!」
「あら、ルフィ。いたの?」
「どっから湧いて出たてめェ!!?」
そんな理由で、居座った。
皿が行き渡り、ようやくグラスを掲げた時だ。
「医者の御用はありませんかー!?」
「おー、チョッパー!元気かー!?」
「おれは元気だ!ところで医者のご用命は!?」
ロビンが笑いながら
「今日は怪我人もいないわ、残念ね。」
「なんだよー、ここの連中丈夫過ぎる…(がっくり)。そうだ!サンジ!」
「なんだよ?」
「ゾロにムチャされてねェか!?診てやるぞ!!」
「なんだと!?くらァ!?」
「結構です!!(汗)」
フランキーが呆れ顔でからかう。
「診てもらえ、サンジ。」
「そうね。フランキーの言う通りよ。この子たちったら、サンジが来た日から毎晩なんですもの。」
「あぁら、お盛んvv若いのねェ。」
ベルメールが煙草を揺らしながら言った。
ゾロが真っ赤になりながら
「何で知ってる、ロビン!?」
「ウチはそんなに広くないわ。」
「ロビン―――っっ!!」
「ああああああああああああ!!」
下ネタ全開トークに、みな一斉に笑った。
真っ赤になってサンジが逃げ出す。
月に1度、サンジは必ずコルシカへやってくる。
ひとりでやってくる時もあるが、こうやってギンやらヨサクとジョニーやら、くっついて来る時もあった。
2日ほどで帰ってしまう時もあり、半月以上滞在する時もある。
稀に、来られない月もあるのだが…。
時折は、2人で旅行もした。
昨年は、剣道の国際大会で一緒に日本へ行った。
収穫と仕込みの時期は、ドメンヌのそれ全てが終わるまで、『家族』で過ごした。
ゾロが、ヴェローナへ行く時もある。
だが、未だにゾロシアの屋敷に泊まった事はない。
呼ばれることもない。
それ以前に、顔を合わすことを極力避けている。
お互いに。
「…ゾロ、今年のヌーヴォは、お前届けに来てくれんだろ?」
「…重てェから、送る。」
「…あのな…。」
ヌーヴォの時季は、ゾロの誕生日に重なる。
あれから毎年、フランキーとロビンはゾロシアに、宅配でヌーヴォとビンテージを届けている。
注文を受けた訳ではなく、世話になった上司に贈る感覚で送っているのだが、後日きちんと代金を振り込んでくる。
「飲んでもらえるだけで嬉しいのに…。」
振込みの明細を見て、いつもロビンは苦笑いするが、黙って受け取ることにしていた。
あれからゾロシアは、黄猿の後の椅子に座り、コミッションの5大ボスの1人になり、北イタリアを牛耳るドンとなった。
ただ、そんなもんになられたお陰で
「……先月、来られなくてごめんな。」
「…仕方ねェ、てめェが悪い訳じゃねェ。」
「…親父のせいでもねェからな。」
「………。」
2ヶ月振りだったんだ。
毎晩ヤって、何が悪い。
「…だから、お前がウチに来てくれりゃいいんだよ…。」
「………。」
「親父に対する意地と、おれへの愛と、どっちが重いワケ?」
「〜〜〜〜〜〜!!!」
もっとも、意地を張っているのはゾロシアも同じだが。
「…ホンット…親子だな…てめェら…。」
17年もかかったんだ。
17年かかるかも知れねェ。
それでもいいかとサンジは笑う。
と、車のエンジン音がした。
畑の向こうの道を、真っ赤なフェラーリ・テスタロッサが走ってくる。
田舎の畑道に、これほど似合わない車もない。
「あれ?じいちゃんの車だ。」
ルフィが言った。
「あれ、旦那のか?」
ゲンゾウが呆然と言った。
「うん。この前買ったんだ。早ェぞぉぉ〜〜〜〜。」
「うん、そりゃな…。」
ウソップが呆れて言った。
ゾロがつぶやく
「……腹…つかえてねェか…?」
フェラーリは、ブルックの自転車の横に乗りつけると、がばっとガルウィングのドアが開いた。
「ルフィ!降りるのを手伝わんか!!」
「あのな、じいちゃん!1人で乗り降りできねぇんなら、乗るなって!!」
「バカもん!!税金対策じゃ!買ったからには乗らんでどうする!?」
その姿にサンジがつぶやく。
「…おお、見事につかえてんな、腹。」
「やっぱり…。」
よっこらせ、と真っ赤なスポーツカーから降りたガープは、髭をひとなですると
「おお、ロビン!相変わらずいい女じゃ!」
「ありがとうございます。」
まずいつもの挨拶。
「あら、旦那、アタシ達は?」
「おお、お前達もいい女じゃぞ、ベルメール、パンギーナ!」
「あたし達は?ガープさん?」
ノジコとナミが問うと
「悪いが小娘には用がない。」
「うっわ!!傷つく!!」
「ヨホホホホ!イエイエ、じゅ〜〜〜ぶん!たわわに実られて、オイシソ……ぐはぁっ!!」
ブルックが、ゲンゾウの足元に沈んだ。
「フランキー、報せがあってきた。」
「…なんでしょう?」
「来年春の、“ヴィニタリー”の出品が決まったぞ。」
「え!?」
フランキーの腰が浮いた。
ロビンも驚いて
「…まぁ…!」
「おお!やったな!!」
「おめでとう、フランキー!!」
どっと座が湧く。
ヴィニタリーは、国際的なワイン見本市だ。
集められるワインは、ハイクォリティなワインのみである。
出展者は全世界から3000。開催期間5日間で、90万人が訪れる。
あくまでも商業目的のイベントで、この見本市で注文を得たら、それはとてつもない商取引となる。
コンテストも開かれ、当然、最優秀賞『グランドゴール』に輝いたワインは世界一のワインだ。
その見本市に
「『ベラ・ロッソ・アレアティコ』を出す!!」
「すっげェェェ!!!」
ルフィが叫んだ。
ガープが笑って言う。
「あれほどパンチの効いたワインも他にないわい!!『グランドゴール』は無理でも、
絶対に賞を狙える!!ほれ、フランキー!これが協会からの推薦状じゃ!」
受け取り、フランキーはしばらくそれをロビンと見つめ
「………ぅ…うう…ううううう……。」
「お、泣く。」
「あ、泣く。」
「うおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
「あははは!やっぱり泣いた〜〜〜〜〜。」
ロビンと抱き合い、涙と鼻水でぐしょぐしょだ。
「あああ〜〜〜〜〜〜!うおおおおお〜〜〜〜〜〜!おおおおお〜〜〜〜ん!」
「ぃよぉ〜〜〜〜〜し!!乾杯だァ!!」
「Un toast!!!」
グラスが交わされ、高らかに乾杯の声が挙がる。
笑いと、フランキーの泣き声が落ち着いた時、ガープが言った。
「ああ、ゾロ。当然、ヴィニタリーにはお前に行ってもらうぞ。」
「は!?」
「まさかお主、ヴィニタリーの会場がどこか知らんわけはあるまい?」
「………。」
ゾロはまた、真っ赤になった。
「きっと、ゾロシアも来るわよね。」
「そりゃ、有力スポンサーの1人だからな!」
「当然、おれも『ガラ・パーティ(ワインコンテスト結果発表パーティ)』には出席するぜ?ゾロ?」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「親父もな?」
にっこり笑って、サンジが言った。
ヴィニタリーは
毎年、ヴェローナで行われる。
そんなもんに行ったら、イヤでもゾロシアと顔を合わせることに…。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「無駄な抵抗だから。」
ポンと肩を叩くウソップに、ゾロは裏拳をお見舞いした。
「てめェンちのワインだからって、評価に手心なんざ加えねェからな。フランコ。ロビータ。」
一瞬
何が起きたかわからなかった。
全員が、誰かによく似た声に振り返る。
声は、ガープのフェラーリの中から聞こえた。
ガープが、してやったという顔で笑った。
呆然として、だがサンジがぱっと顔を明るくする。
笑顔がこぼれる。
テーブルの末席にいたギンが、慌てて車の側に駆け寄った。
ブルックとチョッパーとウソップは驚いて、テーブルクロスの下に隠れた。
ゾロも、呆然として見つめるしかない。
ヤベェ
心の準備ができてねェ。
ガープと違い、その体はしなやかな身のこなしで地面に降り立った。
実際の体のサイズよりも、威厳が体を大きく見せている。
だが、今のその姿は、マフィアのドンではなく、ただワイナリーを訪れた1人の観光客の姿だった。
「……ああ……!!」
ロビンの両目から溢れる涙。
フランキーの両目からも。
男は真っ直ぐに、こちらへ向かって歩いてくる。
その顔に、優しい笑みを浮かべて。
並んでそこに立つ、ゾロとサンジの姿。
かつて、自分たちの望んだ姿。
「………。」
「…父さん…。」
男は、震えるロビンを抱きしめた。
「………!!」
ロビンは言葉を失い、ただただ泣いた。
次にフランキーを抱きしめる。
「………っ!!」
歯噛みし、だがフランキーも両目に涙を溢れさせ、何度も何度もうなずく。
最後に
「………。」
「………。」
2人を、両腕に一緒に抱きしめた。
両腕に担うには、大きく、重くなり過ぎた体。
秋の空は青く、雲は白く。葡萄の雫は水晶の様に輝く。
この体に流れるワインの如き赤は、紛れもなくこの男から受け継いだもの。
熱い魂を溶かした
麗しき赤。
END
(2009/5/29)
ゾロシア×サンジーノあんどゾロ×サンジあ〜んどフランキー×ロビン
すみませんねェフラロビが止まらなくてv
『アクア・ヴィテ』に続き今回はワインv
ワインはあんまり語れない…語ると怖い。ツッコまれそうで(笑)
『ベラ・ロッソ・アレアティコ』にはモデルがあります。
『ドメーヌ・デュ・モン・サン・ジャン・アレアティコ・イル・ドゥ・ボーデ』
長いわっ!!(怒)
辛口でほのかにバラの香がする…らしいんですが。
これを飲んでるゾロシアを想像してごらーん(近頃お気に入り芸人ピース)
さて真面目な話に(こら)
どうしてもゾロシア×サンジーノだとロミジュリになってしまうのは、
ぱたの妄想がそこに行き着いてしまうからで…。
ロミジュリならいっそ舞台はヴェローナでっ!
ロミジュリならいっそ定石でっ!
マフィアならパターンでっ!
ワンパターンも磨けば光るっ!(ブンドル様格言)
…すみません暴走しました;
どこが真面目な話…。
ゾロシア×サンジーノ、もっと書きたいなァ
でも
ハッピーエンドの約束は守れたと思うんですが、いかがで?
BEFORE
Bello Rosso TOP
お気に召したならパチをお願いいたしますv
TOP
COMIC-TOP