BEFORE




 「…ウソップ達と、ナミ達の流された穴は、行き止まりだったのね?」

 「おお、そうだ。ここまで1本道だったぞ。」

 「あたしの方もそうよ。ロビンたちが歩いて来た道は?」



ナミの問いに、サンジが答える。



 「……鍾乳石の柱でかなり入り組んではいたけど……道としては1本…のような気がする。」

 「お前とゾロは、あっちから来たぜ。…おれ達が辿ってきた方向と同じだ。」

 「あんた、また迷ったの?」

 「うるせェ。」



サンジがつぶやく。



 「柱に惑わされただけで…ほっといてもここまで来れたんだな…ほっときゃよかった…。」

 「あら、どうして?」

 「う!」



もっと追求したい気もするが、今はそれどころではない。

ウソップが腕を組み



 「……なァ……もしかして……この洞窟出口ねェんじゃ……?」

 「…ちょっと!怖いコト言わないでよ!!」

 「ルフィ…大丈夫かなァ…。」

 「泣くな、チョッパー。」

 「…確かに…ウソップの言う通りだな…水が流れ込んだ、あの穴しか出られねぇんじゃねェのか?」



フランキーの言葉にブルックが



 「では、我々が落ちたという場所へ戻れば、脱出できるのでは?」

 「……ムリだ。滅茶苦茶深い穴だった。」



ゾロが言った。



 「ロビンの能力でなんとかならねェか?」



ウソップの言葉にロビンは



 「それは可能だけれど……ルフィの安否がはっきりしないうちに、次の行動はとれないわ。それに……。」

 「それに?」

 「…いつ、またここが水で溢れるか、予測がつかないのよ。」

 「う!!」

 「…ルフィ…どこ行っちゃったのよ…。」



ナミの声に、涙が混じっている。

ルフィなら、こんな時なんと言うだろう。

船長不在

こんなに、重苦しいものだとは思わなかった。



進むべきか

戻るべきか

ルフィを探すべきか

まずは脱出を選ぶべきか



 「……ルフィ…生きてるよね……。」



チョッパーの言葉に、ウソップが激しく反応する。



 「バカ言うな!!そんな訳あるかァ!!」

 「…でも…だって…。」

 「大丈夫よ、チョッパー。」



ロビンが優しく言った。

そしてゾロが言う。



 「チョッパー。」

 「………。」

 「おれ達の船長を信じろ。」



ゾロの言葉に、チョッパーはにじんだ涙を擦った。

サンジが、ポンと頭を叩く。



 「………。」





さあ、どうする?





ゾロは心の中でつぶやいた。

決断を下すべき船長はいない。

この中に、決断を下せるものはいない。





 「ルフィを探すしかねェな。」





ゾロの言葉に、全員うなずいた。



 「みなさん。」



声を発したのはブルックだった。

穏やかな口調に、緊張がふっと溶ける。



 「……ここに今、こうして皆さんが無事だったのです。

 能力者のロビンさんもチョッパーさんも、ワタクシも無事だった。

 船長が、無事でない訳はありません。」

 「………。」

 「では、ルフィ船長はどこへ行ってしまわれたのでしょう?」

 「そりゃ流されて…。」

 「鍾乳洞の奥へ水と一緒に…。」

 「ハイ。その通り。では皆さん、質問です。あれだけの水、どこへ行ってしまったのでしょう?」

 「どこって…。」

















どこ?















 「…流れが無ェ…。」



サンジが呆然とつぶやいた。



全員、辺りを見回した。



ゾロとサンジと、フランキーとロビンは、水の流れていく方向へ歩いて行った。

だが、今、どこを見てもその流れが無い。



 「…ここで火を焚いた時は…確かに側を水が流れ込んで来てた…。」

 「水の流れた跡はあるわ…でも、流れていない…。」

 「おれ達が流れ着いた場所は行き止まりで…。」

 「あたし達の方もそうよ。」

 「他に…道なんか無くて…。」

 「じゃ、あれだけ押し寄せた水はどこへ…?」

 「…その答えが出りゃ…ルフィも見つかる!」

 「ヨホホホ!その通りです!!皆さん!水の行方を追いましょう!!」

 「けどよ…どうやって?」

 「もっかい、水が押し寄せたらわかるかもな…。」

 「物騒なコト言わないでよ、ゾロ!!」



と、ナミが叫んだ時だ。





ゴゴゴゴゴゴ……



 「!!」



 「え…?」



 「…おい…。」



 「…まさか…。」



 「嘘…。」



 「おいおいおいおい…。」



 「あわわわわわ……。」



 「……ヨホホホホホ……。」



ゴゴゴゴゴゴゴ……。





ドドドドドドドド……。





ゴ―――――――――ッ!!



 「……!!」

 「キタ―――――――ッ!!!」

 「きゃあああああっ!!」

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――っ!!!」

 「あぎゃおえおごあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 「マジかよ…っ!!」

 「………まぁ………。」

 「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 「あ。ダメ。ワタクシ、今度こそ死にます、ヨホホホ……がくっ。

 …って、もう死んでるんですけど――っ!!ヨッホホホホ!!スカルジョ――――ク!!」

 「言ってる場合か――――っ!!」



叫ぶウソップをゾロが掴まえる。

サンジは咄嗟にチョッパーを抱えた。

ナミのすぐ側にフランキーがいた。フランキーは右にナミ、左にロビンを抱える。



 「ブルック掴まれ!!」



ゾロに抱えられたまま、ウソップの手がしっかりと



 「アフロはやめてください―――っ!!」

 「だから言ってる場合か―――っ!!」

 「来るぞ!!」

 「ひぃいぃぃっ!!」



瞬間、ゾロはサンジを見た。

サンジも、ゾロを見た。



同時に、唇の端が上がる。











押し寄せる水、猛烈な力に翻弄される。

抗うことのできない苦痛。

だが、ゾロはしっかりと目を開いた。

逆巻く渦。

闇。

何も見えない。



 …コック…!!



フランキーが尋ねた。

必要とあらば、サンジを斬れるか?と。



斬れる。



と答えた。



そして、万が一そうしたなら。







 お前ひとりを逝かせやしねェ







その時は、お前の血におれの血を交わらせて





おれも逝く











フランキーは、左腕に力をこめた。



利き腕に抱えているのはナミだ。

力の弱い左腕にロビンを抱えた後悔が、一瞬脳裏を掠めたが、すぐに振り払った。



放してたまるか!!



 おれ達は、最後のその島へ一緒に行くんだ!!



 麦わら



 ルフィ



 なァお前



 わかってるか?



 お前ェは







渦の力が弱くなる。

フランキーは力の全てを両腕にこめた。

ふと見た腕の中。

ナミは気を失っていた。

だが、能力者のはずのロビンが



 「………。」



この状況で、そんな顔で笑うのか。







ああ



やっぱ



いい女だ







逆巻く水の中で、フランキーは初めてロビンに触れた。













 「ぷはぁっ!!」

 「でっ!」

 「ぐはっ!!」

 「…っ!!」

 「きゃぁっ!!」

 「痛ェ!!」

 「…う…っ!」

 「ヨボボ!!」



8つの体が、地面に投げ出された。



 「…って…えええ!?」

 「ごほっ…エホ…っ!」

 「……あ?…あれ?…あれれ!?」

 「…はぁ…はぁ…え…?」



荒い呼吸音が8つ。

全員が濡れネズミだ。



 「ブルック!しっかりしろ!」

 「…ずび…ずびばぜんじだ…ごめいわくを…げぼ…。」

 「チョッパー、おい無事か!?生きてるか!?」

 「………ドクター…おれ頑張ったよぉ……。」

 「うし、生きてる。」



ゾロが立ち上がる。

刀を鞘から抜き、水を払った。



 「……地下じゃねェな。」

 「……見て…星…空……ああ、風……樹…!!助かったァ!!」



ナミが叫んだ。



 「出られた……なんで!?」

 「………。」



周囲は水浸しだ。

そして地面といいながらもそこは、ぶよぶよとして立ち上がると足が地面にめり込む。



 「泥炭だわ…。枯れ草が腐って積もっている地面よ…。」

 「………。」

 「どういうこった?」

 「…なんでもいいよ…助かったんだ…おれ達…!!」



ウソップが泣き声で叫ぶ。





この『真実の森』は、湿気の多い樹海で、時折ゲリラ的なスコールに見舞われる。

火山が生んだ堅い岩盤部分に降った雨は、地面に吸い込まれること無く、

標高の低い地点を目指して激しい流れとなる。

その流れが、あのすり鉢に流れ込み、自然に空いたあの穴から鍾乳洞へ落ちていく。

鍾乳洞は全体的に傾斜していて、水は鍾乳洞の奥の低い場所へ流れ込む。

フランキーとロビンが、ゾロとサンジを待った広場は、その水が溜まる場所だった。

広場の地形は、徳利に似ていて、溜まった水はその口目指して勢いよく吹き出す。

その噴水のような流れに乗って、彼らは地上へ再び吐きだされたのだ。



 「こうやって…出られたって事は…。」



 「…ルフィ…まさかルフィもこうやって…あいつ、先に!?」



ナミが言った瞬間。



 「ぉぉおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!」



 「!!」



 「あの声!!」



 「ルフィ―――!!?」



 「ルフィ!どこだ!?ルフィ!?」



 「ぉぉぉおおおおおおい……。」



 「ル―――フィ――――っ!!」



 「どこにいるんだゴムァ!!?」



サンジが叫ぶと



 「……ココ!!ココだぁ〜〜〜〜〜〜!!」



 「!?」



 「どこ!?」



 「……ゾロぉ〜〜ナミぃ〜〜ウソップぅ〜〜〜〜!!」



 「ルフィ!!」

 「どこよ!?どこにいるの!?」

 「ルフィ!?」



 「サンジぃ〜〜〜〜チョッパぁ〜〜〜〜〜ロ〜〜ビ〜〜〜ン〜〜〜!!」



 「ルフィ!どこだ!?」

 「どこだよー!ルフィ〜〜〜!!」

 「ルフィ…どこ?」



 「フランキぃ〜〜〜〜〜ブルックぅ〜〜〜〜〜〜!!」



 「どこだ!?麦わらァ!!?」

 「ヨホホホホ!!ルフィさぁ〜〜〜〜ん!!」



 「ココだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。」



 「!!」



 「たぁすけてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」



 「………。」



全員、ほっとすると同時に目が点になった。



夜が、白々と明けてきた。

よく見ると、目の前に崖がある。

今気づいたが、その岩壁を滝が流れていた。

激しい瀑布では無い。

沢の流れが、少し強くなった程度のものだが。



 「た〜〜〜〜す〜〜〜け〜〜〜て〜〜〜〜(泣)」



崖から伸びた木の枝に、ルフィが引っかかっていた。

滝の水が、絶えずルフィの体を濡らしている。

なるほど、これでは動けまい。



一瞬呆然とし



そして



森の中を、8つの笑い声が響き渡った。















 「三十六煩悩鳳!!」



斬撃が、ルフィを捕らえた木を切り裂いた。



 「うひょ〜〜〜〜〜〜〜っ!」



落下するルフィの体。



 「百花繚乱(シエンフルール)。」



ロビンの腕が咲き乱れ、ルフィをキャッチした。

ポンポンと弾かれて、フランキーがルフィをキャッチする。



 「あ〜〜〜〜〜〜、助かったぁ〜〜〜〜〜!!」

 「ったく、まさか外に出てるとは思わなかったぜ。」

 「水ん中じゃどーにもなんねェじゃねーか。

 もぉ、水の流れるまま、されるがまま、なすがまま。で、気がついたら木の上。」



ぷっと頬を膨らませ、ルフィは地面に降りた。

その頭に、ぽーんと麦わら帽子が飛んできた。



 「あ!帽子!!よかったぁ!!」



ロビンが笑って



 「上の木の枝に引っかかってたわ。」

 「よかったぁ!で、全員無事か!?」

 「見ての通りだ。」

 「無事だぜ。」



ルフィはにかっと笑い



 「ぃよぉ〜〜〜〜〜〜し!!んじゃ、冒険再開だァ!!」

 「ちょっと待てェ!!」



全員がツッコんだ。



 「ん?何か問題あるか?」

 「ありまくりだぁ!!」

 「もう、こんな森ヤダぁ!!」

 「わかってっか!?全員死にかけたんだぞォ!!?」

 「生きてるじゃねェか。」

 「今度同じ目にあって、生き残る自信ないです、ワタシ。」

 「結果オーライ!!」

 「冗談じゃないわ!!」

 「でも、ナミ。お宝いいのか?」

 「はっ!!そうだったわ!!冒険再開――!!」

 「ぅおいっ!!」

 「悪魔だ!!」

 「目がベリーだ!!」

 「しゅっぱぁぁ〜〜〜〜〜〜〜つ!!」

 「あーるこー♪あーるこー♪わたっしは!げんき〜〜〜〜〜〜♪(c:じぶり)」



大きな溜め息をつき、サンジがつぶやく。



 「……確かに元気だな。」



ゾロが答える。



 「元気で何よりだ。」



ロビンが笑う。



 「元気が一番ね。」



フランキーが



 「元気があれば何でもできる!…どっかで聞いたな。」



ロビンは歩き始めた仲間に向って



 「みんな、ちょっと待って。」

 「あ?」

 「ん?」

 「……宝は、ここにあるわ。」



ロビンの発言に、ナミが



 「えええええええええ!!?どこ!?どこに!!?」

 「ホントか!?どこだ!?」

 「宝箱なんかねぇぞ!?」

 「ロビン…どういう事だ?」



ゾロの問いにロビンは笑って、ルフィが引っかかっていた崖を指差した。



 「?」

 「………。」



スタスタと、ロビンは崖に近づいていった。

滝の水は滝つぼに落ちて、川となって流れて行く。

地下から吹き出した水も、この流れと一緒になっていくのだろう。



 「……この地形を見て。ここも、地下からの水が吹き出した時は、激流になるのね。」

 「だったら、こんな場所でのんびりできねぇぞ。」



フランキーの言葉に、ロビンはまた微笑んで。



 「だから、ずっと人の手が入らなかったんだわ。」

 「……どういうことだい?ロビンちゃん?」



岩壁に手を当て、ロビンはナミを呼ぶ。



 「見て。」

 「…ただの岩……………………!!?」

 「どした?ナミ?」

 「……………。」

 「なんだ?」

 「…さぁ…。」

 「ヨホ?」

 「……………まさか。」

 「ね?」



ナミの目が見開かれる。

驚きと、そして



 「……ウソ……これって……この岩壁全部!?」

 「なんだよ、ナミぃ!?ロビン!!」

 「……見つけた……宝……。」

 「え?」



振り返ったナミの目が



 「おお、ベリーだ。」



ゾロがつぶやいた。

ナミが、ぶるっと身震いひとつして叫ぶ。



 「この岩壁……翡翠の壁よ!!」

 「ヒスイ…!?」



全員が声を揃えて叫んだ時、朝日が差し込んできた。

その光に、壁が照らし出されると



 「わ!!」

 「うおっ!!」

 「こいつぁ…!!」

 「うおおおおおおおおお!!」

 「すっげぇ〜〜〜〜!!」

 「きゃああああああああああ!!!」



呆然と、サンジが言う。



 「…苔むした岩壁だと思った…。」

 「なんてこった…翡翠の1枚岩かよ!!」

 「…スゲェな…。」



ゾロも、呆然と岩を見上げる。

朝日を受けて、岩壁全体が深い碧色に輝きだす。



 「すごい…狼汗(ろうかん)だわ!!」



ナミの声が震えている。



 「狼汗(ろうかん)?」



ブルックの問いにナミが答える。



 「碧色がひときわ濃いヒスイをそう呼ぶのよ。

 ヒスイの中でも最高級品質…!しかもなんて純度が高いの!!」



深く美しい碧色。



その色が、ゾロのようだと言ったら、きっとみんなにからかわれる。



だから言わねェ。



サンジは小さく笑った。



クン、とチョッパーが鼻を鳴らした。



 「海の匂いだ……あの岩壁の向こうから……。」

 「ってことは……。」



ルフィが、仲間を振り返って叫ぶ。



 「“真実の森”を抜けたんだ!!」



その言葉にサンジがはっとして



 「“真実の森”ってのは……。」

 「…鍾乳洞の…石柱の森の事か…。あそこを抜けねェと、ここには辿り着けねェんだな…。」



ゾロが繋げた。

ロビンが



 「“真実の森を抜けよ そこに宝がある。”こういう事だったのね。」

 「…まったく、スーパーだぜ。」



フランキーが笑った。



真実の森を抜けて



彼らは宝を見つけた。



すっと、ロビンがフランキーに身を寄せた。

フランキーの手が、ロビンの手を握る。



気づいたのは、ゾロと



 「………。」



サンジ。



互いに手を伸ばしはしなかったが、同時に、翡翠の壁へ歩みを進めた。



 「さあ、ゾロ!仕事よ!!」



ナミが言った。

ゾロは舌打ちし



 「おれに命令すんな。」



刀を抜き放ち、一閃。



すると



 「え!?」

 「おわ!?」

 「ちょっと…!!」



大音響が、森に響いた。

空へ鳥が大量に飛び立つ。

羽音と鳴き声。

やがて、その音が静まる。



 「あのねー!!いくらなんでもこの大きさで、どーやって持って帰るのよ――っ!!…持って帰りたいけど。」

 「大は小を兼ねるだろ?」

 「そりゃそうだけどっ!!」

 「翡翠で家でも作る気か!お前ェはぁ〜〜〜!!」



ナミがはっとして



 「ヒスイの家……ステ…キっ…vvvv(トリップ)」

 「ナミがイった――――っ!!」





 「ところで……。」





ブルックがおずおずと言った。





 「ん?」





 「…………ワタシ達…ここからどうやって帰るのでしょうか………?」



















 「……………。」







さあ?









(2009/5/11)



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