BEFORE






 「……今、フランキーの雄叫びが聞こえたような気がした……。」

 「そっか?水の音じゃねェのか?」



刀を差し直し、ゾロはこともなげに言った。



サンジは、湿ったネクタイを結びながら、ぶつぶつと



 「……なんか…このまま戻るの…エレェ恥ずかしいな……。」

 「あ?なんでだ?」

 「……絶対ェ…シテたってバレてる気がする……。」

 「今更じゃねェか。」

 「……ああ…そうだよ…今更だよ……。」



背中に、落ち込んだ時の効果線を背負って、サンジは膝を抱えてしゃがみこむ。



 「なんだ?立てねェのか?……ああ、ちょっと激しかったか?悪ィな。」

 「悪いなんて、これっっっっぽっちも思ってねェだろ…!?」

 「思ってねェよ。」



さらっ



言ってのけた。



サンジの中で何かが切れたが、体のだるさと、自己嫌悪と、何より



快感の名残で



怒る気も失せた。



抱えた膝の間から、ちら、と憎たらしい男の顔を見る。



 頭にくる



頭にくる  だけ。



とっくの昔に、ハートは全部持ってかれちまってる。

ちゃんと自分でわかってる。

本当は、もっと素直に、甘えて、好きだと言って、自分から体を開けたら楽なのに。

いつまでもいつまでも、最後の高い壁を崩せない。

でも、崩したくない。

崩してしまったら、おれはきっとダメになる…。



 「コック。」



 「………。」



 「歩けるか?」



顔を上げ、自分を見下ろすゾロを見上げる。



 「………。」



 「ゾロ…。」



 「ん?」



 「……好きだ。」



 「ああ、知ってる。」



 「…愛してる…。」



 「それも知ってる。」



 「……捨てないで……。」



 「………。」



 「…離れないでくれ…どこへも行かないで…おれだけを見て…他の誰も…見ないで…。」



前髪と手で顔を隠しながら、絞りだす様なサンジの言葉に、ゾロは、膝を着いてサンジの顔を覗き込む。



 「…このまま2人で…どこかへ行きたい…。」



 「……いいぜ。」



静かに、ゾロは答えた。



 「…お前が望むなら、おれはサニー号を降りてもいい。」



 「………。」



 「ルフィから離れてもかまわねェ。」



 「………。」



 「お前がいるならそれでいい。」



サンジは首を振った。

サンジの体を抱きしめて、ゾロは優しい声で言う。



 「お前のままでいい。」



 「………。」



 「自分の心に嘘をつくな。」



 「………。」



 「おれもお前も、多分ナミより欲が深ェ…。」



 「………。」



 「全部が欲しい。だが、お前の……“愛”……ってヤツが、ひとつやふたつじゃねェ事はよく知ってる。」



 「………。」



 「…お前は…旅を進めて…何かが起きて、誰かに会う度、その数をどんどん増やしてく…

 …いちいち腹を立てても仕方がねェと、最近ようやくわかってきた。」



 「……ゾロ……。」



 「お互い、素直じゃなくてもかまわねェだろ。今更、おれもお前に、甘ェことを言うつもりもねェ。」



ぽろっと、サンジの目から涙が零れた。

唇に笑みが浮かぶ。



ゾロは、トンと自分の胸を叩き



 「ここにあるものが真実なら、それでいいじゃねェか。

 お前の、さっきのありえねェ様なセリフも、ここの片隅に眠ってる言葉だと思って、受け取っとくぜ。」



 「…忘れろ…思い返したら、めっちゃ恥ずい…。」



真っ赤な顔を、ゾロの肩に埋めて隠す。



 「…ナミもウソップも…ルフィと一緒だったら苦労してんな、きっと。」



ゾロが言った。



サンジも笑ってうなずいた。

















 「あら、お帰りなさい。」



 「ったく…!!どこで道草食ってたんだよ!!」



 「あああ!心配かけてごめんよォ!!ロビンちゅわ〜〜〜〜ん!!」



サンジは内心バクバクもので、それでも満面に笑みを浮かべ、目をメロリンハートにしてロビンの前に跪く。

ゾロは、むっつり黙ったまま、フランキーの横に腰を下ろした。

フランキーは、ゾロを見ないまま



 「……お前ェなァ…ちったぁ状況ってモンを考えろ。」

 「余計なお世話だ。」



と、ゾロはちらりとロビンを見て



 「……何があった?」

 「あ?」

 「ロビンだ。」



ロビンは、サンジの言葉に笑っていた。

だが



 「……涙の痕がある。」

 「………。」



フランキーは、頭をガリガリと掻いた。



 「……堅物そうな顔してその実、相当なタラシだな。てめェは。」

 「あァ?」

 「…そういう所に、マユゲもイカレてんだろうがよ。」



それには答えず



 「……ロビンが泣くのを見たのは、司法の塔での1回きりだ。」

 「………。」

 「まァ…おれには関係ねェ。」



火が揺らめく洞窟の中で、サンジの、うわずったはしゃぐ声だけが響いている。



その声に紛れ込ませるように、フランキーは



 「なァ。」

 「あァ?」

 「……お前ェ……万が一だが…必要とあらば、マユゲを斬れるか?」

 「斬れる。」



躊躇うことの無い即答。

だが、フランキーは揺らがず



 「斬ってどうする?」



 「聞くだけヤボだな。」



想像通りの答えだと思った。



フランキーは、にやりと笑い。



 「そうだな。」

 「………。」

 「そうだろうな。」





フランキーが笑った。

その笑顔を横目に見て、ゾロはサンジを見た。



自分達がいない間、この2人も、『命』のやり取りをしたのかもしれない。



その時だ



 「サンジ〜〜〜〜〜〜!!ゾロォ〜〜〜〜〜〜〜!!」



 「!!」



4人は思わず立ち上がった。



 「おお〜〜〜〜〜〜い!ルフィ〜〜〜〜〜!いるかぁ〜〜〜〜〜!?」



サンジの顔が輝く。



 「チョッパーだ!!」



ロビンも



 「ウソップよ!!」



 「ここだ!!」



 「ウソップ!!お前たちだけか!?」



石柱の影から現れた2つの影が、火に照らされてはっきりと形を作る。



 「サンジ〜〜〜〜〜〜!!」



顔を涙でぐしゃぐしゃにしたチョッパーが、サンジの懐に飛び込んできた。



 「チョッパー!!」

 「あああああああああああああ!!ゾロぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 「抱きつくな!!ウソップ!!」

 「感動の再会くらいさせろよぉぉ〜〜〜!!もぉぉ〜〜死ぬかと…ホンキでじぬがどおぼっだぁぁ〜〜〜〜〜!!」

 「…今、ルフィって呼んでたわね…一緒じゃないの?」

 「おれとチョッパーだけだ……ナミも…ブルックもいねェのか!?」

 「………!!」



サンジは、抱えていたチョッパーに



 「お前らどっちから来た!?…よく、ここだってわかったな!」

 「おれ達が流れ着いたの、行き止まりだったんだ…すぐに水が引いたから助かって

 …後は流されてきた方向戻って歩いてたら、サンジの煙草の匂いがしたから……。」

 「…そっか…クソ…ナミさん…。」





と



 「…何か聞こえない?」



ロビンが言った。



 「何…?」



 「………。」











 ……ヨホホホ〜〜〜〜……ヨ〜ホホ〜ホ〜〜〜……



 「!!」

 「……っ!!」



 ……ビンクスの酒を〜〜〜届けにゆくよ〜〜〜〜〜……



 「ブルックだ――――っ!!」



チョッパーとウソップが同時に叫んだ。



そして



 「………ウソップ!?チョッパー!?いるの!?どこ!?」



サンジが叫ぶ。



 「ナミさんだ―――――っ!!んヌワッミすわぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

 「サンジくん!!」

 「ナミさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んvvvv!!」

 「よかった…ナミちゃん…!」

 「ロビ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!」



ラブハリケーンをクリマタクトで弾き飛ばし、ナミはロビンに抱きついた。



 「よかった!無事でよかったぁ!!ロビーン!!」

 「…あなたも…無事でよかったわ…。」



ナミの後から、おっとりとブルックが現れる。



 「ヨホホホ!こんばんはみなさん!ご機嫌宜しゅう!!」

 「ご機嫌麗しい状況か!?」



ウソップがツッコム。



 「よかった〜〜〜皆さんご無事で!!」

 「ちょっと待てブルック、ナミ。ルフィは一緒じゃねェのか?」



全員が一瞬に凍りついた。



 「…ルフィ…いないの!?」

 「おれはてっきりウソップと一緒かと…。」

 「チョッパー抱えるのが精一杯だった…。」

 「ナミ、お前たちはどっから来た?」



ゾロの問いに



 「見ての通りそっちの奥よ。行き止まりだったの。

 すぐに水は引いたけど、ブルックがなかなか目を覚まさなくて…。」



蒼ざめた顔で言うナミにフランキーが



 「…あの時、ルフィはナミに手を差し出してたよな…。」

 「……でも、握ってないわ…こっちに来たのは見えたけど…。」

 「同じ方向に流されたとしても…引いた水と一緒に、また流されたのかしら……。」

 「その可能性は高いな…。」



沈黙が流れる。



8人が合流できた。



だが



ルフィがいない。









(2009/5/11)



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