BEFORE
「…戻ってこねェな…。」
火に手をかざしながら、フランキーが独り言の様に言った。
ロビンは、はぜる炎を見つめながら、
「そうね。」
「迷ってる訳じゃねェよな。」
「サンジはともかく、ゾロはどうかしら?」
「結構経つぞ。」
「そうね。ゾロが見つからないなら、一度は戻ってきてもいい時間ね。」
「見つかってんなら、戻ってこねェのはなんでだ?
まさか、そのまま“コト”になだれ込んでるんじゃねェだろうな?」
「なだれ込んでるんじゃないかしら?」
「ぶっ!」
ロビンはにこりともせず、さらりと言ってのける。
「ま、ま、まさか…この状況でか!?」
「別に不思議じゃないわ。あの2人、お互いがとても好きなんですもの。」
「だからってよ!仲間が行方不明の真っ最中に!!」
「行方不明でも、死んだ訳では無いわ。」
「おい!」
ロビンは笑って顔を上げ
「失った感じがする?」
フランキーは言葉を飲み込んだ。
「どう?」
「……いや。」
「でしょ?」
また、ロビンは笑った。
確かに。
行方はわからないが、『失った』という感覚が無い。
必ず、この先で合流できるという確信が、ある。
いつの間にか、自分にもそんな感覚が生まれていたことが、どこか嬉しい気がする。
「……まぁ、あいつらも無事だろ。その内ひょっこり戻ってくるか……。」
「私達もする?」
「ぶっ!」
思わず、口から火が出た。(マジ)
フランキーは慌てふためき、うろたえながら、
「す、するって何を!?」
「セックス。」
「ぶぶっ!!」
「あら、あなた、私がヴァージンだなんて思ってないでしょ?」
「言うな――――っっ!!女がそんな事カンタンに口にするんじゃねェェ!!」
「まさかと思うけど、あなた童貞?」
「ンなワケあるかァァ!!17で済ましとるわァァ!!」
「私、16だったわ。」
「!!」
「好きな人だったらよかったんだけど。」
一瞬で、洞内は沈黙に染まった。
ゾロもサンジも、戻ってこない。
「なァ……なんで…こんな…流れになってんだ……?」
「至極真っ当な流れだろ…。いい加減観念して、足開け。」
荒い息が交わる。
サンジが深く息をつく度に、唇から吐かれた息が、白く、淡く、揺れながら消えていく。
気温が低い。
「……やだ…寒ィ……。」
「こっちに集中すりゃ、すぐあったかくなる。」
鍾乳石の森の中。
白く光る石に体を預けて、サンジは背中からゾロの愛撫を受けている。
湿った黒いスーツを、まだ半分体に纏ったまま。
ゾロの歯が、サンジのはだけたワイシャツの襟を咥えてずらし、白いうなじに舌を這わせる。
「…ひゃ…っ…ん…。」
「………。」
頑固に足を閉じたままのサンジの膝を、ゾロも膝で無理矢理押し開く。
「…あ…ぁ…ああ…っ…。」
足を押し開かれるだけの行為で、挿入されたかのようにサンジは激しく震えた。
「…なァ…やめろ…こんな場合じゃねェって…ナミさんや…ルフィたち…
無事かどうかもわからねェんだぞ…っ…!」
「無事じゃねェと思ってんのか?」
「思うか…!」
「なら、いいじゃねぇか……ルフィだぞ。」
「………。」
ゾロが、背中で小さく笑うのが聞こえた。
「今、ムカついたな?」
「…たりめーだ…わかった風な口ききやがって…!」
「どっちに怒った?おれが、ルフィは無事だと確信してることか?
それともこういう時にルフィの名前を出したことか?」
「………!」
「ん?」
歯を食いしばり、赤くなった顔を隠しながら、サンジは開き直ったように言う。
「両方!!」
「悪ィ。」
笑って、ゾロは軽く詫びた。
軽口の詫びを言った瞬間に、膝で、服の上からサンジの陰嚢をグイと押し上げ、刺激する。
「…あぁあぅ…っ!!」
そのまま膝を、グイグイと押し付けて激しく揺さぶった。
サンジの唇から、白い吐息と切ない声が漏れる。
「…ヤダ…っ…!…イっちまう……!」
「いいぜ?このままイっても。」
「………!!」
ついさっきまで、妙な生き物に食われて、死にかけてたくせに!!
心の叫びは声にならなかった。
「…てんめ…これが…っ…ついさっき…助けてくれたヤツへの態度か…よ…っ!!」
「…必死に助けてくれたヤツへの、最大級の礼だと思うが?」
「これのどこが!!?」
「このまま食われちまうかなと思った時、“ああ、もっぺんヤっときたかったな。”
と思ったんだ。だから、至極真っ当な流れだろ?」
「ぅううううっ…!」
白い頬が真っ赤に染まる。
「………っ!」
「…コック…足…開けよ…。」
耳元で囁く声。
いつもの、憎らしげな声ではなかった。
反抗期の少年が、普段悪態をついてばかりの母親へ、何かをねだる様な躊躇いがちな声音。
言葉と同時に、熱く、乱れた呼吸が、サンジの耳朶をくすぐる。
「…挿れてェ…開いてくれ…。」
「……う…。」
押し付ける膝に触れるサンジの肌から、するりと力が抜ける。
それでも震えて抵抗する太腿を、ゾロは膝で軽く押した。
「…さんきゅ…。」
「………。」
白い柱に体を預けて、サンジは顔を隠し唇を噛み締める。
ゾロの手が、前に回ってベルトを外し、ファスナーを下ろす。
ずっとサンジの肌を愛撫していたはずなのに、ゾロの指先は少し冷たかった。
「……っ!」
茂みの奥にあるものに触れ、そのまま愛しながら、片方の手で下着ごとズボンを下ろす。
「……ふ…ぅ…っ…!」
冷気に、敏感な部分を晒されて、サンジはビクンと震えた。
サンジのものを愛撫する手は止まらず、先端から零れるものを
陰茎に擦りつけながら、ズボンを下ろした手で、後ろの蕾に触れた。
「……!!」
かくん、と、サンジの膝が崩れる。
「おっと。」
支えて、抱きしめ、激しく肌を探り、また固くすぼまった花に手を伸ばし
「…ひ…ゃぁ…っ…。」
何度も
ここに己を突き立てた
その度に愛しくて
そこへ放つ度に、愛しさが募って
まさか男のここで、こんなに興奮できるなんて思わなかった
サンジの耳に、ゾロが自分のそれを解放する音が届く。
それが今、どんな風になっているのか、もう何度も見て、何度も味わってきた。
その行為自体、初めは信じられなかった。
それで、自分がこんなに乱れて、快感を得られるとも思っていなかった。
嫌だ、と、口で言うのは男のプライドの最後の砦だ。
なのに、それでも感じるのは、欲しいのは
お前だから
ぴちょん
「ひゃぁぁっ!!」
サンジが悲鳴を挙げた。
首筋に、水滴が落ちた。
その瞬間、ゾロが自分を貫いた。
電流のような衝撃に挙げた悲鳴は、暗い洞窟の中に響いていった。
「………。」
サンジの艶を含んだ悲鳴は、空間に溶け込んで消えた。
ここにあるのは沈黙と、焚き火の燃える音。
「…それが必要だったの。仕方がないと思ったわ。それが、女の武器だということも知っていたし。」
「………。」
「…身を隠す場所を替える度に…必要に迫られればそうしたわ。」
「………。」
「……クロコダイルとも寝たわ……。」
「………。」
「聞いてるでしょ?バロックワークス。私、ルフィ達の敵だったのよ。」
「………。」
「他人に興味は無かった。ルフィ達が全滅しても、それは海賊団がひとつ、消えてなくなるだけの事だと思っていた。
……あら、これは関係ない話ね、うふふ…。」
「やめろ。」
「………。」
ロビンは、笑顔を浮かべていた。
だがその笑みは、まるで固まった人形のようだ。
「あいつらは、そんな話一度もした事はねェ。初耳だ。
それにおれは、ウォーターセブン以前のお前の事に、興味はねェ。」
「………。」
「…何でそんな話を、おれにする?」
「…さぁ…。」
「………。」
「あなたが嫌いだからかしら。」
「……それも初耳だ。」
「……初めて見たわ、あなたみたいなお人好し。ルフィ以上かも。」
「褒め言葉と受け取っとくぜ。」
「………。」
再び、沈黙が流れた。
火が、少し小さくなった。
だが、どちらも新たに木をくべようとはしない。
「ロビン。」
フランキーが呼んだ。
「おれは。」
「………。」
「お前が、あのゴーイング・メリー号に乗りこんだ以前の事を知りたいとは思わねェ。」
「………。」
ロビンは、冴えた眼差しで笑った。
その笑みはあの頃の、ミス・オールサンデーと呼ばれていた頃のそれに戻っていた。
「…ウソツキ…。」
「嘘じゃねェ。おれはウソップじゃねェ。」
フランキーは、目に怒りを漂わせ
「おれにとってのニコ・ロビンは、司法の塔で見たままの姿でしかねェ。」
「………。」
「それ以外のお前を、知る必要はおれにはねェんだ。」
「……それは、それ以外に興味が無いんだという意味にもとれるわね。」
「おい…!!」
「…だって、私は知りたいわ。」
「!!」
「…私は知りたいと思うもの…。」
「………。」
「今だけがいいなんて…絶対に嘘…。」
今のロビンを他の仲間が見たら、きっと驚き、どうして良いかわからずうろたえるだろう。
これほどに、感情を揺れ動かしているロビンを、他の仲間は見た事が無い。
そして、フランキーはそうとは知らない。
思わず、フランキーは頭を掻いた。
ふっと、ロビンは笑い
「……フランキー。」
「なんだ…?」
「あなたにお願いがあるの。」
なんだ?という顔をして、フランキーはロビンの言葉を待った。
ロビンは静かに微笑みながら
「…もし、この先の旅で私が、ルフィや…あなた達の邪魔になるようだったら…。」
「おい!!」
「ちゃんと答えて。…その時は、あなたに私を殺して欲しいの。」
「ロビン!!」
「逃げないで!聞いて!!」
「!!」
急に荒げられたロビンの声に、フランキーは思わず息を飲む。
「……卑怯よ…フランキー……。」
「………。」
「…みんなが…どんな人達か…わかってるはずよ…だから…この先…あんな事が再び起きたら…
みんなまた…私を助けてくれようとする…ええ、いいの。それはいいの。
とても嬉しい……許されるなら…助けてもらうわ…でも……。」
「………。」
フランキーの頬を、冷たいものが流れていった。
水滴や涙ではない。
ずっと、黙っていた。
ずっと、胸の中に秘めていくはずのものだった。
それを、ロビンに見透かされていた事に、今気づく。
「万が一……。」
フランキーは、ロビンの言葉を遮った。
「万が一、おれとお前が一緒に世界政府の手に落ちたら、おれがお前を殺してやる。」
「!!」
ロビンの、紫の瞳が見開かれる。
そして
「……やっぱり…そうなのね……。」
「………。」
ロビンの目から、涙が零れた。
穏やかに微笑み、ロビンは言う。
「ありがとう……これで…安心して旅を続けられるわ……。」
「ロビン。」
「もちろん、行くわ。ラフテルに。……言ったでしょう?“万が一”よ?」
「ああ、“万が一”だ…!おれだって、サニーが最後の場所に辿り着くまで、
死ぬ気なんざ、これっぽっちもねェぞ!!……だから。」
「………。」
「……嫌いだなんて言ってくれるな……。」
「………。」
「お前が…どんな過去を引きずってようが…おれが出逢ったニコ・ロビンは…
海列車で出逢ったニコ・ロビンだけだ。」
「………。」
「必死に、仲間を守ろうとして戦って、命まで捨てようとした、
“麦わらの一味”のニコ・ロビンだけだ!!他は知らねェ!!要らねェ!!」
静かに微笑んで、ロビンは笑う。
ポロポロと零れる涙が、真珠の様に綺麗だ。
「……よかった……。」
「………。」
「あなたに出逢えて…よかった…。」
「………。」
「あなたに出逢えて…嬉しい…。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………フランキー。」
「………。」
「……こういう時は…黙って抱きしめてくれるものよ……。」
「〜〜〜〜〜〜!!」
まあ
この寒い中で、あんなに汗をかくなんて。
心の中で思ったが、口にはしない。
「意気地なし。」
「!!!!!!!!!!……っ!!遅ェぞ!!グル眉――!!まぁだ迷子は見つからねェのかァァァ!!?」
「……どこへ行くの?」
「ションベンだ!!」
「ホントに?」
「うるせェ!!」
「別のものなら手伝ってあげるのに。」
「だから、そういう台詞を、若い女が吐くんじゃねェェェ!!」
(2009/5/11)
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