「島が見えたぞぉ〜〜〜!!」 ルフィの声に、展望室で午睡の真っ最中だったゾロは目を覚ました。 ソファの上で半身を起し、ふと、右腕を見る。 昼食の後ここへ上がり、一通りのトレーニングをした後 「…喉渇いてねェか?プロテイン入りドリンク作ってやったぜ。」 そう言いながら、機嫌良く上がってきたサンジと少し話して、そのまま腕の中に抱き寄せた。 「…ホントにてめェは、時を選らばねェな。」 毒づきながらも、サンジは笑ってキスを返し、1回だけ愛を交わした。 「…続きは上陸してからな?」 睡魔と最後の闘争をするゾロに小さく囁いて、サンジはゾロの右腕から離れた。 「…着いたか。」 立ち上がり、刀を差して、ゾロは窓から島影を見る。 水平線の上に浮かぶ、少し靄のかかった島。 サニーの頭の上で、ルフィがはしゃいだ声を挙げる。 「ナミ!なんて島だっけ!?」 「ニーベルング島、春島よ。」 「春島かぁ〜。」 ウソップが嬉しそうに言った。 「花が多い季節だと嬉しいわ。」 ロビン。 「丁度いい時期なんじゃねェか?風が暖かいぜ。」 フランキー。 「桜、咲いてるといいなぁ。」 チョッパー。 「花見したいですねー。」 ブルック。 そして 「美味い食材があるといいな。」 サンジ。 ルフィが叫ぶ。 「おぉ〜〜〜い!ゾロ!いい加減に起きろォ!!島だぞォ!!」 「今、行く――!!」 さて、続きをする準備をしに行くか。 「6度の方向の岩場に船を着けるわ。潮の流れもいいし、岩礁も無いわね。フランキー、お願い。」 「よっしゃぁ!」 ナミは、ルフィに向かって微笑み 「船長!」 と呼んだ。 打てば響くようにルフィが言う。 「野郎ども!!上陸準備だァ!!」 「お――――っ!!!」 が、その時だ。 どどん!! 激しい爆裂音がした。 サニー号が瞬間大きく揺らぐ。 「何!?」 「爆発の様よ。」 慌てて、体勢を立て直してナミは船べりから身を乗り出した。 爆発音の方向、船体の右側後方から、細く煙が上がっている。 フランキーが慌てて叫ぶ。 「鼻!!トナカイ!!船を止めろ!!」 「チョッパー!!ガスフル!!」 「うん!!」 チョッパーが人型になって駆けていった。 ロビンが言う。 「機雷だわ。」 「ええ!?」 よく見ると、漂う海藻に混じって、何かボール状のものがいくつか浮いていた。 「…いつの間にか…機雷の只中に入ってしまっていたようね。」 「…うそ…!」 サニー号は惰性で海を進み、さらにいくつかの機雷を爆発させる。 「うわわわわわ!!フランキー!!大丈夫かァ!?」 ウソップの悲鳴にフランキーも 「…大丈夫だ!とは、あんまり言いたかねェな!!」 「うわぁ!まだまだあるよぉ!!」 チョッパーが叫んだ時、空からゾロが降ってきた。 「ルフィ!!コック!!」 「おう!!」 「よっしゃぁ!!…ルフィ!膨らめ!!」 「ゴムゴムのぉ…風船っ!!」 「…空軍(アルメドレール)……。」 瞬間、ゾロが大きく跳躍する。 船縁から身を躍らせ、海へと飛び出した。 「…七十二…煩悩鳳!!」 機雷が一挙に炸裂する。 腹を大きく膨らませたルフィ。そのルフィを 「バルーンシュート!!」 海へと蹴り出す。 フランキーが叫ぶ。 「風来バースト…ミニマムパワ―――!!」 炸裂した瞬間の機雷原の中をサニーが飛んだ。 「ゾロー!!」 飛んでくるルフィの上に、ゾロは着地する。 空気抜けを上手く整えながら、ルフィは勢いに任せてゾロを抱えたまま海の上を飛んで行った。 その空気が抜け切ろうとする刹那 「ルフィ!!ゾロ!!」 飛ぶサニーの上からウソップが手を伸ばす。 ゴムゴムの能力でグンと伸ばした腕が、ウソップの手を掴む。 ルフィとゾロは、ぐいんと大きくしなって 「うわぁぁぁぁぁっ!!ルフィ!…っおい―――!!」 「ああああああ!!ダメだ――――っ!!」 「ああああああああああああああああああ!!なんでおれまでー!!?」 「ごめ―――ん!!ゾロぉ――――っ!!ウソップぅ――――っ!!」 ごごごごごごごご―――ん!! 大音響。 フランキーは呆然と、破壊された2階部分の壁を見上げた。 ぽつん、とロビンが言う。 「……船底より、修理は楽よ。きっと。」 機雷原を抜け、さて、次は何が出てくるかと身を固くした時だった。 「…ルフィさん、船が来ます。」 「………!!」 ブルックがステッキで示した方向に、サニー号と同じくらいの大きさの船が一隻。 よく見ると、その大型船を旗艦に、着き従う船が数隻。 いずれも 「武装してるわ。」 ナミが言った。 ウソップが息を呑む 「か、海軍か!?」 「海軍じゃねェな…旗が違う。」 その時だ 「停まれ!!海賊!!」 電伝虫を使ったスピーカーから声が響き渡る。 言われなくても、サニーは停止している。 だが、フランキーの手はコーラエンジンのレバーにかけられたままだ。 ウソップも、鼻血を垂らしながら、ガオン砲のカタパルトに入っている。 黒い旗艦が、緩やかにサニーに横づけされる。 小型の船もサニーを取り囲んだ。 甲板に、銃を構えた兵士がずらりと居並んでいる。 砲門は全てこちらを向き、既に煙を上げていた。 と、靴音がして、黒い軍服姿の軍人がマントを風に吹かせながら現れた。 場所が遠いので顔がよく見えない。 背後に、軍服とはかけ離れた礼装の執事を従えている。 「船長は?」 軍服が尋ねた。 「おれだ!」 ルフィが答えた。 「名乗れ。」 素直に、ルフィは叫ぶ。 「モンキー・D・ルフィ!!」 途端に、兵士らからざわめきが起こる。 「麦わらのルフィ!!」 「3億ベリーの賞金首!!?」 「3億だって!?」 「…じゃあ、あの3本刀…海賊狩りか!?」 「…たった8人でエニエス・ロビーを落とした…あの、麦わらの一味…!!」 ブルックが肩をゆする。 「ヨホホホホホ!!みなさん有名人でいらっしゃる!!」 「他人のフリするな!!」 ナミがツッコム。 軍服が言う。 「この島に来た目的は?略奪か?」 「来ようと思って来た訳じゃねェよ。記録指針(ログポース)がたまたま、この島を指しただけだ! 目的は…う〜〜〜〜〜ん…美味いメシと冒険!!」 「(ぼそっ)あとはお宝。」 ナミが付け加えた。 「やはり略奪か?」 兵士らが、一斉に銃口をルフィに向ける。 「一言多いんだよ、てめェ。」 「あら、つい。」 ゾロのツッコミに、ナミは悪びれずに舌を出す。 そして 「今のは冗談として(半分)、別にケンカ売るつもりはないのよ。ただ、ログが貯まるまで、普通に過ごせればいいだけ! できれば、海軍なんか呼ばないでくれたら嬉しいんだけど…。」 「…この島に海軍は必要ない。海軍は嫌いだ。」 軍服が答える。 「ほう。」 フランキーがつぶやいた。 ロビンが尋ねる。 「教えてくれないかしら?この島のログは何日で貯まるの?」 「…5日だ。」 「じゃあよ!5日の間、せめてここに停泊させてくれよ!!ログが貯まったら、すぐに出航すっからよ!!」 いつの間にか、カタパルトから出ていたウソップが叫んだ。 軍服は答えない。 じっと、悪名高い『麦わらの一味』を吟味しているようだ。 サンジが、一歩進み出て、穏やかな口調で言う。 「…厚かましい申し出かもしれねェが、水と食糧を分けてもらえるとありがたい。もちろん、代価は払う。」 瞬間、兵士たちの顔に戸惑いが走った。 中には、銃口を上げてしまった者もいる。 それは、軍服の後ろにいた執事も同じだった。 「?」 様子が変だ。 明らかな戸惑いがある。 だが、軍服は微動だにしない。そして 「わかった。」 ルフィの目が丸くなる。 「許そう。」 軍服の言葉に、ナミは笑って 「ありがとう!!」 と叫んだ。 その時、執事が軍服に向かい 「お嬢様!!」 「お嬢様!!?」 耳ダンボで激しく反応したのは――――もちろん、サンジ。 途端に、ゾロのコメカミに青いものが立つ。 それを無視してナミが言う。 「ありがとう!大丈夫、ここから一歩も動かないわ!約束するわ、ログが貯まったら…。」 「上陸しろ。」 “お嬢様”と呼ばれた軍服が答えた。 「だが、街の中をうろつかれるのは良しとしない。」 「拘束する気か。」 フランキーが言う。 「…軟禁と言ってもらおう。」 「同じ事だな。」 ゾロが言った。 「でも、それでも助かるわね。」 ロビンが微笑む。 サンジが船縁に上がり、騎士の様に跪いて“お嬢様”に手を差し伸べ、目をメロリンハートにして叫んだ。 「ありがとうございます、プリンセス!!この感謝の意を表す為に、どうか貴女の目を見て、 貴女の手を取って、お礼の言葉を述べさせていただけないでしょうか!!?」 はい、始まっちゃいましたー。 そんな表情で全員が肩を落とす。 ブルックがサンジの隣に進み出て 「…あのォ…パンツ見せ…。」 最後まで言わせてもらえず、骨はコックの足元に沈む。 その時、軍服が帽子を取った。 影になっていて見えなかった顔が、陽光の下に露わになる。 その顔。 「え!?」 「うそ!!」 「……!!」 「ええええ!!?」 「………。」 「私の名は、ブリュンヒルド・クロイツェル・フォン・ローゼンベルク。…この島の領主だ。」 長い名前に、ルフィが顔をしかめる。 「…ブリ…クロ…???」 「ブリュンヒルド、ワルキューレの名前ね。」 「呼びにくいな―。なぁ、ブリちゃんって呼んでいいか!!?」 「………。」 次の瞬間、船長は一斉に仲間の鉄拳制裁を受けた。 たった今、目をハートにして頬すら染めて敬意を表したサンジの顔は、一瞬で蒼白になっていた。 それは、サンジのすぐ後ろにいたゾロも同様だった。 ブリュンヒルドと名乗った軍服姿の女領主。 その顔。 「…驚いたな…世の中には同じ顔の人間が3人はいると言うがよ。」 「え!?そーなのか!?」 チョッパーが驚いた。 ウソップが生唾を飲み込む。 「……サンジと同じ顔だ……こんなことってあんのか…?」 体の線がわかりにくい軍服の為に初めはわからなかったが、すらりとした痩身は明らかに女性の体だった。 だが、帽子を取ったその白い顔の造作は、麦わらの一味のコックのそれに他ならない。 帽子の中に収められていた金の髪は長く、今はひとつに束ねられている。 不思議なのは、他者にあると思えない、『あの』眉毛まで同じ事だった。 兵士らが、サンジを見て驚いたのは無理もない。 だが、領主ブリュンヒルドはまったく表情を動かさず 「……着いてこい。上陸を許そう。」 言い放ち、背中を向けて船室へ消えた女を見送りながら 続きはねェな。 と、ゾロは心の中で呟いた。 (2010/2/10) NEXT ワルキューレの慟哭TOP
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