その日、モンキー・D・ルフィは悩んでいた。 どのくらい悩んでいたかと言うと、サンジが3時のおやつに、 ルフィの目の前に置いた紅茶のマフィンについていた、紙のカップまで食べてしまうほどに悩んでいた。 理由は明白である。 明日、11月11日は彼の最初の仲間、ロロノア・ゾロの誕生日だ。 毎度、仲間の誕生日には(それを口実にした)盛大な宴を催しているのだが、今回は、ナミがこんな事を言い出した。  『せっかく陸にいるんだし、明日はサンジ君にリボンをつけて差し上げて、船から追い出しちゃいましょう。』 キャプテンが異議を唱えるより早く、チョッパーとウソップが賛成してしまったため、口を挟むことができなかった。 いや 『ルフィ』ならば、「ちょっと待てぇ!!」と、叫ぶべきところだったが。  「………。」 確かに。 ゾロにはそれが一番のプレゼントだろうと、ルフィ自身も思うのだ。 ( オレだって、ゾロに、何かしてやりてぇんだけどな。 ) 明日、多分ナミは  『ハイ。みんなからのプレゼントよ。』 と、言って、サンジをゾロに押し付けるんだろうけれど。  ( オレが、ゾロに何かしてやりてぇんだ。 ) けど。 そんなことを口にしたり、顔に出したりしたら、多分サンジはすぐに気づくし、気づいた挙句  『じゃあ、ルフィ。ゾロ頼むな。』 って、オレに譲るに決まってるんだ。 オレだって、そんなにバカじゃねぇ。 ゾロの一番がサンジで、サンジの一番がゾロだって、オレはちゃんとわかってる。 誕生日は特別な日で、一番大切な人と祝いたい日だってのはオレだってわかる。  「だけどオレも、何かしてぇんだ!!」 思わず、言葉が声になって出たことに、ルフィは気づかない。 そしてその声は、しっかりとある人物の耳に届いていた。 ゴーイングメリー号の地獄耳。 その名をニコ・ロビンという。 その日の晩。 ゾロがいつものように、船尾で筋トレに励んでいる。 岩場に打ち付ける波の音と、ゾロが腕を振る音と、その回数をカウントする潜めた声が和音になって響く。 ナミは、つい先ほど風呂に行った。 ゾロの姿と声を、『目抜き咲き』で確認したうえで、ロビンは、男部屋につながる扉をトントンと叩いた。  「船長さん?いる?」 ごそごそ、と音がして  「ん?」 ルフィの声だ。 居るのも、1人なのもわかっていたが。  「…今、剣士さん、船尾で1人よ?」  「うん。」  「お節介かもしれないけれど。」  「?」 ルフィが、船尾のゾロの元に行ったのは、それから間もなくのことだ。 さて、翌朝。  「勘弁してください!!ナミさん!!」  「恥ずかしがることないでしょ?今だけ!今だけだから!!」 ラウンジ 珍しくナミの方が、サンジを追いかけている。 ナミの手には、レースの大きなピンクのリボン。  「ウソップ!チョッパー!そっちから回って!サンジ君捕まえて!!」  「ええええええええええ!?」  「無茶言うなぁ!!」  「どけぇ!!長ッ鼻と青ッ鼻ァ!!ナミさん!!マジで!マジで!許して!!」  「この為にこのリボン買ったのよ!!無駄にするっていうの!?」  「ナミさァァ〜〜〜〜〜ン!!(泣)」 と。 大きな音を立てて、ラウンジの扉が開いた。 ゾロだ。  「!!?」  「あ。ゾロ!」  「もぉ!だから捕まえてって言ったのに!!」  『何やってんだ?アホか。』 そんな一言が、出てくると思っていた。 が。  「コック。」  「あ!?」  「出かけるぞ。」  「へ!?」  「ナミ。今夜、戻らねぇからな。」  「は?」  「行くぞ、コック。」 呆然とする4人を尻目に、ゾロはラウンジのドアを再び閉めて、出て行った。 チョッパーが、ぽつんと言う。  「…出かけるって。」 ウソップが言う。  「今夜戻らねぇって…。」 ナミが〆る。  「“行くぞ、コック。”だって…。」 サンジの唇から、火の点いていないタバコが、ポロリと落ちた。 その隙に、ナミの肩から咲いたロビンの手が、サンジの頭にリボンを留めた。 はっ! 我に返ってナミが叫ぶ。  「見た!?ゾロってば!一張羅のスーツ着てたわよ!!?一着だけのあのスーツ!!  それ着て“出かけるぞ”ですって!!サンジ君!!  何、ボーっとしてるのよ!!ホラホラ、あんたももっと上等のに着替えて、とっとと行きなさい!!」 ナミの声が、妙に弾んで笑っている。 自分の思い通りの展開になることが嬉しくて、可笑しくてたまらないという顔だ。  「…で、でもナミさん…今夜の食事…。」  「そんなもんは、どーにでもなるから!ホラ!早く!!」 5分後。  「いってらっしゃ〜〜〜〜〜〜〜い!!」 甲板からの盛大な見送りに背中を押されて、サンジは重い足を引きずるように、ゾロの後について行った。  「町に入ったらリボンは外せよぉ〜〜〜〜。」 ウソップの声が追いかけた。 ちら。 サンジが振り返った時、メリーの見張り台の上に居たルフィと目が合った。 ルフィはにんまりと、だが、いつになく優しい顔で、笑った。  「行った?」 マストの下からロビンが声をかけた。  「ウン、行った。」 マストから、ルフィが飛び降りてくる。  「あんなんで、いいのかな?ゾロ、アレで喜んでるのか?」  「あら、心配?」  「ん〜〜〜。」  「船長さんにしか、できないプレゼントよ?ちゃんと出かけていったじゃない?」  「そーなんだけど、サンジは怒らないかな?」  「怒らないわ。大丈夫、きっと喜ぶ。」 にっこり笑うロビン。  「…そっか、そうだよな?こんなプレゼント、他にねぇよな?」  「ええ。」 NEXT (ゾロ誕トップからお越しの方はプラウザを閉じてお戻りください)