が。 「…ナミさんに急かされちまったから、思わず出てきちまったが…一体、何なんだよ?テメェ、エラそーに!」 「あぁ?」 街中の道を歩きながら、サンジは悪態をつきながら髪のリボンをむしり取った。 ナミが買ったものだから叩きつける訳にもいかず、ポケットにねじ込む。 明らかに、ルフィが案じたようにサンジは怒っていた。 「『出かけるぞ?』テメェ、自分には命令すんなとか言いながら、 人にはずいぶんとエラそーに言ってくれるじゃねぇか、あ?大体、今日は…。」 そこまで言って、口をつぐんだ。 せっかくの陸だ。 宿を取ろうという話もあったが、手持ちの金に余裕がなかった。 それでも、ゾロの誕生日をここで迎えたから、できるだけゾロの好きな ものを出してやろうと2,3日前から仕込みをしたというのに、 いざ、本番という時になって、それを取り上げられて無駄にされたのだ。 腹も立つ。 ナミが、2人を追い出そうとしたのはサプライズプレゼントだから、前もってこんな計画があったことも知らないサンジ。 ただ、パーティが終わったら、2人で静かに酒でも飲めたら、それで満足だったのだが…。 「ここでいいか?」 ゾロの声に、ふと我に返る。 ここ とゾロが示したのは、1件のホテルだった。 いかがわしい宿ではない。 だが、贅沢な一流ホテルでもない。 ごくありきたりの、旅人が泊まるようなホテルだ。 「オレも金が無ぇんでな。贅沢なディナーとやらは無理だけどよ。」 「…ディナーって…。」 ツラかよ? 言いそうになったが、やめた。 そして 「…おいおい、今日が何の日かわかってんだろ?こういう場合は、奢るのはオレじゃねぇのか?」 「本当は、テメェの作った飯の方がいいんだけどよ。」 「!!だったら…メリーで、みんなで祝ったほうが良かったじゃねぇか…なんでそれを…。」 「……ん……ああ、ルフィのヤツがな…。」 「ルフィ?」 不意に、出掛けのルフィの顔が浮かんだ。 「ルフィが、オレを連れて出かけろって?…あのバカキャプテン。」 「いや。」 「?」 一瞬、ゾロは何かを言いかけたが 「…まぁ、いいか…で?どうする?来るのか?来ねぇのか?」 「…ここまで来たんだ。引き返したら、バカだろ?」 ホテルのレストランで食事をし、サンジがチョイスした酒を抱えて部屋に戻った。 ごく普通のダブルの部屋。 だが、窓から見える夜景がなかなかいい。 港の明かりが揺らめいて、灯台の焔が、規則的に部屋の中を駆け抜けていく。 これからこの部屋で、ゾロが何をしたいのか。 そんなことは、十分すぎるほどにわかっている。 肩越しにちらりと振り返ると、ゾロがジャケットを脱いで、ソファに投げ出していた。 「…先に風呂、使うぜ。」 ネクタイを緩めながら、サンジがバスルームに向かおうとした時 「待て。」 ゾロが言った。 そして 「風呂は後でいい。」 「…ヤダよ。昼間、ナミさんと追いかけっこして、汗かいたんだ。」 「いいから。そこに立て、窓の所に。」 「…?」 素直に、窓辺に立つ。 と 「脱げ。」 「…ゾロ…?」 「脱げよ。」 「…自分がされてイヤなコトを、お友達にしちゃいけませんって、ママに教わらなかったか…?命令すんなよ。」 「ああ、命令だ。」 「何だと…?」 「…“船長命令”だ。脱げ。」 「はぁあ?」 今、なんと言った? 「ふざけんな。“船長命令”?テメェは誰だよ?今、どこにルフィが居るんだ?」 「脱げよ。」 聞く耳、持ってんのか? 「ちっ…!頭、イカレてんじゃねぇのか?」 言いながら、上着を脱いだ。 シャツのボタンを外し、ベルトを外し、ファスナーを下ろして、下着ごと足元へ滑り落とす。 ズボンの裾から足を抜きながら、靴も脱ぎ捨てた。 「脱いだぜ?さあ、ご満足か?“船長”?」 強い口調。 だが、心臓は早鐘のように打っている。 大きく波打つ心臓から送り出された血が、体の芯に流れ込んでいく。 サンジが服を脱ぎ捨てている間に、ゾロはベッドサイドのラタンの椅子に腰を下ろし、 サンジの白い肌が現れていく様を見つめていた。 そして、いつもの口調で 「…まったく…同じ人間で、男で、どうしてこうも違うものができるのか不思議だぜ。」 「オレは、テメェが不思議だよ…!」 窓に背を向けたサンジの目に、灯台の明かりに照らされたゾロの顔が、一瞬通り過ぎていく。 その目が、どことなくいたずらに笑っていた。 立ち上がり、窓辺に寄って、ゾロはサンジの体を抱きしめた。 頬や額、唇に、幾度も軽いキスを繰り返す。 そしてまた抱きしめ 「……?」 サンジの眉がゆがむ。 ゾロが、自分の肩に顔を埋めたまま、肩を震わせて笑っているのだ。 「…オイ…?ゾロ…?」 ゾロは、弾かれた様にサンジを抱き上げると、そのままベッドに倒れこんだ。 「オイ!ゾロ!?風呂に入らせろ!!シャワーくらいいいだろ!?オイって!!」 「…ダメだ。」 「オイ!!まさか、また”船長命令“か!?ふざけんな!!」 「ルフィがよ。」 さっきから ゾロの答えは答えになってない。 「ルフィがどうした!?」 「ルフィが、プレゼントだって、くれたんだよ。オレに。」 「……何を……?」 ゾロは、笑いながら答えた。 「“1日船長さん”」 「は!?」 「今夜12時まで、オレが船長だとよ。」 「…シンデレラか?」 「だから、『オレになったつもりで、サンジにいろんなこと命令していいぞ!』てな。」 「なにぃ!!?」 「じゃ、風呂に行くか?隅から隅まで洗ってくれよ。“船長命令”だかんな?」 「テンメ…!」 ある意味、これはナミより始末が悪い。 ルフィ!!あのバカ!! 「ホラ来い、コック!!背中流せ!!」 「るせぇ!!テメェで洗え!!」 「船長命令だっつってんだろが。」 「断固拒否!!」 「テメェの誕生日にも、やるって言ってたぜ?“1日船長さん”」 「!!」 「……。」 「…本当か?」 「おう。」 「……。」 サンジは、小さくため息をついた。 唇に、小さな笑みが浮かんでいる。 「…覚悟しとけよ?」 「楽しみにしとく。」 「…では、仰せの通りに。ロロノア船長?」 「おう、“剣士サンジ”」 「はァ?剣士?」 「ああ、こうも言ってたな。今日はオレが“船長”で、お前が”剣士”で、ルフィが“コック”なんだとよ。」 「何ィィィィ!!!?」 サンジがベッドから跳ね起きた。 「じゃあ…じゃあ…オレが今日の為に仕込んできた食材達…は…?」 「ルフィの手の内だな。」 「ふざけんなぁ!!帰る!!メリーへ帰るぅぅぅぅ!!!」 「ダメだ。」 「はなせぇ!!ゾロォ!!」 「船長と呼べ。」 「うるせぇ!!このタコ!!死ね!!」 数分後、この声が静まり、代わりに艶を含んだ声に変わった頃、ゴーイングメリー号では。 「はっぴば〜すで〜ぞ〜ろ〜♪はっぴば〜すで〜ぞ〜ろ〜♪」 「おめ〜でと〜♪おたんじょぉ〜び〜〜♪ まぁ〜たひとぉ〜つぅ〜〜〜おおきくなったのよ〜〜〜♪あっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」 主役のいない、バースデイパーティ。 なのに、これだけ盛り上がれるのは、一種の才能ではないだろうか。 そして。 テーブルに上に、ゾロの為に居並ぶはずの、そして最高級の『料理』になるはずのモノが、所狭しと並んでいる。 「ねぇ、ロビン。同じ食材でも加工する人間で、こんな恐ろしい状態に変貌するものなのねぇ…。」 「そうね?でも、美味しいわよ?」 「…あんたの味覚って壊れてるんじゃない?」 「なぁなぁルフィ!オレの時もやっていいか!?“1日船長さん”!!」 「おう、いいぞ!!じゃあその日はオレが船医だ!!」 「怖ぇ!それは怖ぇ!!」 「ロビンもやるか!?」 「ええ、ありがとう。」 「ナミもやらせてやるぞ!」 「結構よ、アンタが航海士じゃ、この船、即沈没だわ。」 「今だって、似たようなもんだしな。」 「何ですってぇ!?ウソップ!!」 「あっはっはっは!!よぉ〜〜〜〜し、もっかい歌うぞぉ!!はっぴば〜すで〜大剣豪ぉ〜〜〜♪」 Happy birthday to you♪ 「おい、サンジ。そういや、まだ、“おめでとう”言ってもらってねぇぞ?」 「言うか!!このバカ剣士!!」 「船長だって。」 めでたしめでたし 「めでたくねぇぇ!!」 END はいっ!(みやお) ル絡みのゾ誕ノベルスでした。 何度も申し上げますが、私はZS以外は書けません。 ZSは私の人生のすべてです。 彼らの幸福を、心底祈っております。 頼むから、オフィシャルでもっと仲良くケンカしてください。 しかし、内容に合わない背景だな。 ↑ 2005年UP時のコメントのまま 3年経って…別物にも萌える今日この頃 いかん! BEFORE (ゾロ誕トップからお越しの方はプラウザを閉じてお戻りください)