BEFORE 「チョッパーに縁談!?」 思わず、素の声で叫んでしまい、サンジは口元を覆った。 関の京屋敷。 若夫婦の奥室。 ゾロは大坂より、サンジは聚楽第から戻った。 同じ京の内、とっくに帰っていると思っていたサンジは、なぜかゾロより遅れて2日後に帰ってきた。 「まだ6つだぞ…。…しかも…井伊家の姫…?」 「ああ。家康の養女に迎えて、徳川家から嫁に出すと言ってる。」 「…兄は毛利家からの嫁で、弟は徳川家からの嫁か…。」 「ところで、てめェ、なんでおれより帰りが遅かった?」 「ん?ああ。」 サンジは笑い、事の次第を話した。 あれから、氷雨はすっかり淀君のお気に入りになり、離してくれなかったのだ。 淀から『姉上』と呼んでほしいとまで言われ、片時も側から離さなかった。 「…お前が大坂から戻ったと、おまつ様に取り成してもらってようやく帰れたんだ。」 「………。」 複雑な目で、ゾロはサンジを見た。 本当は男なのだ。 女心をくすぐる術も身につけている。 もともと、心底女性をいたわる性格なので、やる事なす事そつがない。 数日の滞在で、サンジはすでに、数名の側室を味方につけてしまっていた。 女の戦場の最大の敵は女だ。 ならば、その女を味方につければいい。 「…綺麗で…無邪気な女性(ひと)だったぜ、茶々様は。」 ゾロは、少し怒ったような顔をしてサンジを胸に抱きよせた。 「………。」 「…男の感情が動いてるんじゃねェだろうな?」 「……おれは男だよ……。」 「………。」 「女性は、大事にしてやらなきゃならねェ…。男の勝手で右へ左へ動かされるだけの人生を、 自分で必死に切り開こうとしている…いたわって差し上げて何が悪い?」 ぱく と、ゾロの歯がサンジの耳朶を噛んだ。 「…ん…っ…。」 ゾロの唇を素直に受けながら、サンジは言う。 「…その徳川の姫も…井伊家の姫も気の毒だ…まだまだ、母親に甘えたい盛りだろうに…。」 「…だったら…お前がいたわってやりゃあいい…。」 「………。」 「…ものは考えようだ…なにもわからねェガキの時に嫁に来れば、いやでもこちらに染まっていく。」 「…受けるつもりなのか…?」 「…そうするしかねェな…。」 「………。」 「…無理矢理の縁組でも…。」 「………。」 「…おれの様に…最上の相手に出会えることもある…。」 サンジは黙って微笑む。 「………。」 「……いい子だと…いいな……。」 静寂の中で、じっと身を預けあう。 ほんの少し離れていただけなのに、まるで10年も逢えなかった恋人のように。 夜の帳が迫る。 気を利かして、ロビンも下がっていて誰も側にはいない。 「…ゾロ…。」 「……ん……?」 「……してェ……。」 「………。」 滅多にない、サンジからの誘い。 いつも、ゾロの方が強いることが多いのに、ゾロはサンジを抱きしめたまま動かなかった。 「…ゾロ…?」 「………。」 耳元に唇を寄せて、ゾロが一言をささやく。 「………。」 告げられて、サンジは怒りを含んだ目を、天井の辺りに漂わせた。 そこに、確かに、人の気配がある。 先ほどまではなかったのに。 「京屋敷はいつもこうだ…。」 「………。」 「…あらゆるところに目がある…角々に…妖怪がいる。」 「殿…。」 女声を作り、サンジが呼ぶ。 しなを作り、濡れた目で 「…抱いてくださいまし…。」 「………。」 「…お慕いしております…殿…。」 目が、いたずらに笑っていた。 抱きよせて、唇を奪う。 この温もりがあれば、何にも負けない気がする。 いや、きっと負けねェ。 互いの背に手を回し、顔中に口づける。 着物の襟元を割いて、手を入れ、肌を探ると、サンジは切ない声をあげた。 本物の、女のような声。 見せてやるつもりはない。 ゾロは明かりを消した。 だが、外から零れるように降る月明かりに、白い肌が浮かんで見える。 脱がせる訳にはいかない。 だが、サンジは、構うことなく肩から着物を滑り落とした。 「…おい…氷雨…。」 「…殿…ああ、殿…ゾロ様…。」 上からの視線はまだある。 なのにサンジは止まらない。 「……見せてやろうぜ……。」 耳朶に寄せて、サンジが消え入るような声でささやいた。 「…大丈夫…任せろ…。」 「………。」 ゾロを褥に横にさせ、サンジはその着物の帯を解いた。 襟をくつろがせ、広げながら、胸に舌を這わせる。 ゾロの胸には大きな傷がある。 袈裟掛けに走る、おそらく命にも関わったのではないかという傷だ。 聞けば、なんと父親に、ミホークにつけられた傷だという。 元服前、ミホークと立ち合っている時に斬られたのだと事も無げに言った。 後に、その理由をミホークに尋ねた。 すると 「あやつ、本気でおれを斬ろうとしたのだ。 立ち会いと、本気の殺し合いの区別も付けられぬ愚か者。わからせるために斬った。」 子も子なら、父も父…。 その傷は、ゾロにとって戒めであり、目標だ。 いつか、剣士として父を超えてやる。 その傷に、サンジは細やかに舌を這わせていく。 古傷とはいえ、敏感で、時折ゾロはぴくりと震える。 「…殿…。」 呼ぶ声に、答える。 「…氷雨…。」 暗がりの中で、サンジの白い歯が見えた。 思えば、サンジを氷雨と呼んで抱いたことはなかった。 白い体はしなやかに蠢いて、全身でゾロの肌を愛撫する。 「…ゾロ様…。」 「…氷雨…。」 白い頬を捕らえて、ゾロは唇を貪った。 視線はまだある。 鬱陶しいと思いながら、それが、逆に何かを煽る。 背中を激しく撫で摩ると、サンジは悲鳴をあげて背を反らした。 その手を、そのまま下へ撫でおろし、白い柔らかな膨らみを掴んでまた撫で、その奥にある花央へ指を挿し入れた。 「…ん…ああっ…。」 「…氷雨…っ…。」 「…ああ…殿…あ…ぁ…。」 「………。」 と、薄暗がりの中で、ゾロは一瞬身を固くし目を見開いた。 探る指先が 激しく濡れている これはまるで…。 「…ひ…さめ…?」 「…はい…ゾロ様…。」 「………。」 「…あ…ゾロ…ぁあ…そんな…恥ずかしゅうございます…。」 心の中で、ゾロは舌打ちする。 この気配さえなければ…! 「…殿…ゾロ様…あ……どうか……。」 「………。」 「…も…ぉ…堪えられませぬ…。」 半身が、擦り寄せられる。 重なる胸に、暖かく豊かな膨らみまで感じる。 腰は細く、足は滑らかで、その奥は泉のように濡れて、そこを訪う(おとなう)ものを焦がれていた。 いつもそこにあり、ゾロの愛撫で堅く屹立し、刺激を求めて震えるものが見つからない。 「氷雨…?」 「…はい、殿…。」 「………。」 これはサンジだ。 サンジのはずだ。 これは誰だ? こんな“女”知らない。 だが 「……ゾロ……来い……。」 耳朶深く、囁かれた声はサンジのものだった。 その瞬間の声に、ゾロは我を忘れた。 体を入れ替え、サンジを褥に押し倒し、一気に、開いた足の間へそのままの勢いで身を進める。 「あああっ!!」 濡れた挿入音と共に、歓喜に震える声が響いた。 何度も肌を打ちつけ、煮え滾る槍で貫きながら、固い手でサンジの肌を探る。 その感触は柔らかく、いつもの引き締まった肌ではなかった。 指が、首筋へ辿る道なりに 「!!?」 さらに柔らかな …胸…。 「…ん…ぁあ…っ…!」 大きく震え、柔らかな膨らみを揉みしだくと、その先端にあるものが固くなるのがわかった。 ありえない、この感触。 戸惑いながらも、愛撫の手は止まらない。 迸る情が理性を蹴り飛ばして、探る手を、打ちつける衝動を止めない。 「…く…っ…!」 「…殿…そこは…もう…。」 「………。」 「…ああ…殿…殿…っ!」 「…サ……氷雨…!」 「…殿…殿…ああ…ああ…っ!」 「氷雨!!」 荒い呼吸、濡れた音、清楚な奥方の乱れた声、男の、妻の名を呼ぶ声はまるで野獣の咆哮の様だ。 「……くださいませ…殿……ゾロ様……!!」 奥深くへ付きあげた瞬間、激しく締め付けられ、ゾロの目の前が真っ赤に染まった。 腹の底から放出されたその解放感に、ゾロは大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。 まだ、射精は止まらない。 幾度か腰を突き上げて、最後の一滴まで絞り出すようにサンジの腰を掴んで引き寄せる。 「…あ…まだ…そのままで…どう…か…。」 「………。」 しっかりと作られた女声。 「…殿…。」 白い手が、ゾロを求めて空を泳ぐ。 その手を握り、ゾロはサンジを抱きしめた。 その瞬間 疎ましい気配は消えた。 気がつくと、ゾロの腹に、サンジの精の痕があった。 だが… 「…サンジ…。」 「………。」 「…サンジ…だよな…。」 「………。」 「…おれが今…抱いたのはお前だな…?」 少し間があり 「…ああ…。」 いつもの、声が答えた。 サンジは、褥に手をついて半身を起こし、微笑んでゾロを見下ろした。 白い指が、ゾロの頬に触れる。 「…ごめん…。」 「…何を…した…?」 ゾロの問いに 「…こういう術と…技があるんだ…。」 「………。」 「天井裏のヤツだけに、術をかけられねェから…お前まで巻き込んじまった…ごめん…。」 「………。」 サンジは苦笑いしながら 「…たまには女もいいだろ…?男のおれに飽きた時は、いつでもしてやる。」 言った瞬間、サンジはいきなり床に叩きつけられた。 「!!」 「ふざけんな。」 口調も、表情も穏やかだった。 だが、怒りが深いのが嫌でもわかる。 背中から、青い炎が立ち昇っているかのようだ。 黙ったまま、ゾロはサンジに口付けた。 「後味悪ィ。仕切り直すぞ。」 「え…?」 「脚開け。」 開け、と言いながら、ゾロはサンジの両足首を掴んで左右に裂いた。 「…う…わっ…!」 「………。」 「…ちょ…ゾロ…。」 何も言わず、ゾロはサンジのものを口に含んだ。 「…ん…あっ…!!」 「…こうされる方がいいだろ…?」 じゅぷ、とわざと音をたてて、ゾロはサンジのそれにむしゃぶりついた。 「…やぁ…っ!」 「やだ?」 「…あ…ん…ぁ…ヤだ…。」 「その声で言われても、真実味ねェな。」 カリ、と甘噛みすると 「…ひっ!…ぅん…ああっ…!」 いつの間にか、サンジは自ら大きく足を広げている。 ゾロが手で押さえていない事に気づいていない。 無意識に、自ら腰を突き出して、震える様にわずかに振りながら、ゾロの舌の動きに翻弄される。 「…いいか…?サンジ…?」 「…んん…っ…あ……ぃ……。」 「ん?」 べろん、と、下から上へと舐めあげる。 「ああっ!!…ぃい……あ…いい…ゾロ…っ!」 きゅ 固くなったものとは正反対の、柔らかな包みを手の中で握る。 「…はぁ…っ!…ああああっ…!!」 口で含み、左手の指で揉み、右手の指を 「…ん…んああっ!!」 やっぱり、ここに挿れたんだな、さっき。 一瞬、そんなマヌケなことを思ってしまった。 さっきの精が、指を伝って溢れてくる。 ぐちゅ ぐちゅ 「ヤラシイ音させてんな…。」 「…言うな…っ…。」 「すげェ…ぐちょぐちょだ…溢れてんぜ…。」 「…アホ…てめェの…だろ…っ!」 「やっぱ、おれのか。」 「他に誰のが…!!」 不意に、指の動きが止まった。 「…え…?」 中断の失望に、サンジは戸惑いの声をあげる。 「…おれだけだ…。」 「………。」 「…好きだ…“サンジ”…。」 何故、涙が零れるのかわからない。 愛されすぎている 怖いほどに 嬉しいのに、申し訳ない思いでいっぱいになる。 でも 「…好きだ…ゾロ…。」 真摯な眼差しで答え、サンジはゾロの首に抱きついた。 ゾロが、自分をあてがうのがわかった。 それへ、サンジは自ら腰を下ろす。 ゆっくりと だが、緩やかに速度をつけて しなやかに、ゾロのそれはサンジの中へ埋められる。 「……う……。」 眩暈がする。 ゾロの額から一気に汗が噴き出す。 「…あ…あああっ!」 小刻みに揺れる腰。 その背中を抱え込んで、ゾロは言う。 「…おい…あんま…動くな…良過ぎる…!」 「…ヤダ…動きてェ…っ…。」 「………っ!」 「…ゾロ…ゾロ…ゾロ…!」 正面から抱き合い、ゾロはサンジを抱えて必死に動きを抑えようとしたが 「………。」 「…やぁ…ゾロ…動いて…。」 「………。」 「…ゾロ…ぉ…。」 「…いいぞ…。」 「………。」 「…動け…思いっきり…。」 「…あ…ゾロ…!」 「…踊れ…好きなだけ…。」 「………っ!」 ゾロは、仰向けに横になった。 手を伸ばし、サンジのそれを握り、動きに合わせて上下する。 白い肌が踊る 喉を反らし、髪を揺らして 震える太腿が、ゾロの腰を締め付ける。 淫らな濡れた音と、狂乱の声が混じる。 ゾロ ゾロ ああ、いい…! すげェ…! サンジ いいのはてめェだ たまんねェ…! 互いに、世俗の疎ましい事など全て吹き飛ばし、忘れていた。 脳裏に浮かぶのは、互いの名だけ。 「…サン…ジ…ヤベェ…悪ぃ!保たねェ…!」 「…ん…っ!…いいぜ…イキやがれ…っ!」 「…う…く…ぅあっっ…!!」 猛烈に締め付けられた。 そのあまりの快感に、絶頂を見た。 腰を抱く手に、ありったけの力がこもり、白い肌に赤い痣が浮かぶ。 「…あ…ああああ…ぁあ――――― っ!!」 奥殿中に響き渡るほどの声。 いや、間違いなく、近い控えの間のロビンは聞いている。 だが、それは後から思い返した事で、今、全ての理性を手放した2人には、どうでもいい事だった。 (2009/9/19) NEXT BEFORE 赤鋼の城 TOP NOVELS-TOP TOP