そのまま、メリーに行った方が絶対早いのに、ゾロはあえて城に戻った。 ゾロが使っている方の部屋で、周りに誰もいないのを確かめて、しっかりと錠を下ろした。 昼間とはいえ、豪華なゴブラン織りのカーテンを引くと、部屋の中は薄墨色の闇に包まれた。 だが、 「開けろ。」 言って、ゾロは、サンジが閉めたカーテンを全部開け放つ。 光があふれる。 外はまだ曇り空とはいえ、室内を映し出すのに十分な明るさだ。 「ヤダよ!こんな明るさ!」 「暗かったら、見えねぇだろ。」 「こういうのは、暗い場所での秘め事じゃねぇのか!?」 「んなコト誰が決めた?」 あああああ、もう、コイツは! 昼間の明るさの中で、ゾロはお構い無しに服を全部脱ぎ捨てた。 サンジがためらいがちにネクタイを外し、ようやく上着を脱いで、 シャツの一番上のボタンに手をかけた時にはもう、生まれたままの姿になっていた。 「ケダモノ。」 「うっせぇ、遅ぇよ。」 サンジに近づき、ゾロは両手で襟をつかんだ。 「触んな!自分で脱ぐ!!」 「じゃあ、さっさと脱げ。…あー、やっぱオレが脱がせてぇ。」 「触んなっっ!!…って、うぎゃあああ!!」 悲鳴が、どこか楽しげにはしゃいでいる。 自分でそう認識してしまったら、後は 楽しむしかないな 「……う…うん…ああ…っ……。」 声が、艶を含むようになるまで、さしたる時間はかからなかった。 その声に、絹のシーツが擦れる音が混じる。 サンジの足が蠢くたびに、衣擦れの音が激しくなり、ゾロの脳髄を刺激する。 聞いた事のない、淫らな絹の音。 白い天蓋のレースを通して届く柔らかな光が、サンジの白い肌を更に白く浮かび上がらせる。 ゾロが突き、押し上げる度に、大きく仰け反るサンジの背中の下から起きる絹の音。 漏れる声。 シーツを掴む両手が、薄紅色に染まる。 上下する胸に咲いた2つの花弁が、赤く、ピクピクと震えていた。 「…あっ…あっ…あっ…!」 ゆっくりと抽挿を繰り返し、先端のくびれた微妙な部分で、動きを一旦止める。 そこが、たまらなく気持ちがいい。 だが、サンジはそれがもどかしいのか、それを、奥へくれと言うように腰を動かした。 「…ゾロ…んな…ハンパなトコで…止めんなよ…っ。」 「じゃあ、どこならハンパじゃねぇんだ?奥か?」 意地悪い声で問いながら、ゾロは深く腰を突き上げた。 「…あっ…!んぁっ!!」 「ああ、ここか。」 「…く…ふ…ぅン…。」 「…待ってろ…ここなら…もっとヨクしてやる方法…あるぜ?」 言うなり、ゾロはサンジを引き起こした。 起こし、両足を抱えて、挿入したまま巧く体を入れ替える。 背中から挿れ、抱え込むように、背面座位の形になる。 そして、ゾロはサンジの両の太腿を抱えて、更に腰を深く突いた。 「…ひ…っ…あああああああああっ!!」 「…ホラ…いいだろ?」 「…う…う…く…クソマリモ…っ!」 「…ついでに、そのまま前見てみろ。」 「……?」 いぶかしげに、サンジはためらいつつ目を開く。 「…何…?」 「頭の上の時計…。」 「……?」 ベッドのヘッド部分が、大きな棚になっているベッド。 その上に、豪華なアンティークの時計がある。 2人の天使と女神が、大きな水盤に見立てた時計を抱えているデザインのものだ。 「…何…?なんだよ…!」 「よく見ろ。」 「……?」 サンジは、はっと目を見開いた。 磨きこまれた金の時計。 そこに、大きく脚を広げたサンジの姿。 「…あ…!!」 複雑な彫金のいたるところに、2人の姿が映りこんでいる。 女神の服のドレープや、水盤や、天使の羽、そこに、あらゆる角度であらゆる部分が。 感じて、猛り、愛撫を待ち焦がれて泣いているものを。 ゾロのものを、深く咥え込んで震えている場所を。 「うわっ…!やっ…!嫌だ!!」 「おっと、逃げんなよ。」 「変態…!」 「おお、上等。」 言い放ち、激しくゾロはサンジを揺らした。 「…あっ!…やっ!ヤダ…!!嫌…!!」 「嫌だァ?おい、コイツはちっとも、嫌だって言ってねぇぞ?」 言いながら、ゾロは前へ手を伸ばす。 「こんなんなってんぞ?どこが嫌なんだ?」 「…う…。」 「…ほら…テメェの好きに動いていいぜ。」 わずかに、理性は残っている。 こんなに明るい場所で、ゾロに翻弄されて乱れている自分が、たまらなく恥ずかしい。 自分と同じ男に抱かれて、我を忘れて喘いでいることが口惜しい。 それを、ちょっとでいいから、わかれよ…! 歯を食いしばり、それに耐えようとすると見越したようにゾロが言う。 「恥ずかしがんな…オレだって…結構、いっぱいいっぱいだぞ…?」 「…う…うう…く…ふ…。」 両頬に流れる涙を、舌で掬ってそのまま口付ける。 「…もっとイヤラシクなれよ…サンジ…。」 「…や…や…ぁ…っ。」 「思いっきりエロくなれ。そうしたらもっと、ずっと感じるぜ…?ヤラシイテメェが見てぇんだ…。 オレももっと興奮して、テメェをもっとヨクしてやりてぇ。」 「…ゾ…ロ…。」 サンジは震えながら、体をひねってゾロの首に抱きついた。 「そうだ。それでいい。」 揺さぶり、腰を突き上げるゾロに合わせて、サンジも腰を揺らす。 濡れた髪が光る。 金の色が踊る。 肌の上を、真綿色の粒が、光って流れ落ちていく。 「…キレイだ…明るい場所で見るお前と、夜のお前とじゃ全然違う…。肌…こんなにキレイだったんだな…たまんねぇ…。」 「…なァ…もう…そんなに…言うなよ…っ…おかしくなっちまう…。」 「なれよ…。オレはもう…とっくにおかしくなっちまってるぜ…?テメェのせいだ。」 瞳を交わし、唇を貪る。 再び正面から体を入れ替えて、ゾロはサンジを横たえようとしたが 「待て…ゾロ…。」 「あぁ?」 「……上に…乗る…。」 ゾロは目を見開いた。 サンジが、自分から上になるのは初めてのことだ。 そうしたい時は、嫌がるサンジの腰を無理矢理引き寄せてするしかなかったのに。 「なァ…だから…ここ…お前のでいっぱいにして…。」 自分から、サンジは腰を落とした。 深く、奥へ分け入った刹那、サンジは切ない悲鳴を上げた。 「…ン…!ああ…っ!」 「…っ!!」 あまりの陶酔に、ゾロも一瞬目が眩んだ。 「…ふ…っ…うん…んっ…。」 「…サンジ…気持ち…いいか…?」 「…う…うん…ン…っ。」 コクコクと、上下に腰を揺らしながらサンジはうなずく。 根元まで全て、ゾロのそれはサンジの内部にいるのに、それでももっと中を侵すことを欲して更に突き上げる。 そのたびにサンジは声を挙げ、身をくねらせた。 ゾロの固い手が、サンジの芯を捉えて激しく上下する。 そこからも涙が溢れて、ゾロの手を濡らした。 柔らかな白い光に、白い肌が溶けていくように見える。 金の髪が揺れて、揺れる度に光を放つ。 ベッドが、ミシミシと規則正しい音を立てる。 絹のシーツの擦れる音が激しくなる。 サンジがゾロを呼ぶ声が、ゾロがサンジを呼ぶ声が響く。 「…サンジ…このまま…!」 ゾロが、そう叫んだ瞬間。 「!?」 何かが、ゾロの体にまとわりついた。 いや 違う まとわりついているのは確かだが、それはゾロに向けられた感覚ではなかった。 全身に奔る快感と、額の辺りにまとわりつく不快感。 それらがゾロを同時に襲う これは 視線 ―――― ? 誰かが、オレ達を見ている ? どこから? 誰が? どこから!? 「あ!…あああっ!!ゾロ!ゾロ…!」 その瞬間を迎えようとするサンジの悲鳴に、ゾロは無意識に腰を掴み、引き寄せ、自らもその愉悦の果てへ飛んだ。 手の上に、熱いものが溢れて落ちる。 たまらなく愛しさが溢れる。 抱擁を求めるように、サンジが手を差し伸べる。 だが 次の瞬間、ゾロはサンジをベッドの上に叩きつけ、傍らにあった和道一文字を抜き放った。 「!!?」 かすむ意識の中でびくりとサンジが震えた時、ゾロは大きく跳躍すると、抜き放たれた刃で石壁を切り裂いた。 裂かれた壁が、ガラガラと音を立てて崩れる。 「ゾロ!?」 震える声で、サンジは叫ぶ。 全裸のままのゾロはベッドから飛び降りると、切り裂いた壁の向こうへと飛び込んだ。 「ゾロ!」 必死に体を起こすが、半身が、思うように動かない。 「ゾロ!ゾロ!?」 激しく波打った天蓋が、ようやく収まる。 やがて、静寂が戻った。 しばらくして、ゾロは崩れた石壁の中から戻ってきた。 手に、抜き身の和道一文字。 その時になってサンジも初めて、壁の中に妙な空間があることに気がついた。 隣のサンジの部屋ではない。 まったく別の、回廊のような真っ暗な空間。 「何だ…?これ…?」 「…わからねぇ…だいぶ奥まで続いてる。」 「どうしたんだ…?何が…!?」 「視線を感じた。…粘るような視線だった。…この中に、今、誰かいたんだ。」 「!!?」 思わず、サンジはシーツを引き上げ肌を隠した。 女性のような仕草だったが、無意識に。 「デバガメ野郎!!」 ゾロが吐き捨てる。 そして、サンジを引き寄せて胸に抱きしめた。 「…テメェを見てた…。」 「…え…?」 サンジは、ゾロの顔を見上げた。 怒りが深い。 青ざめてさえいる。 「…オレ…?」 「…ああ…“オレ達”をじゃねぇ。テメェだけを見てた…。」 「………。」 戸惑うサンジの肩を抱く手に、ゾロはありったけの力をこめる。 痛いくらいだ。 だが、サンジは身じろぎひとつしない。 「…オレだけの顔だ…それを…!許さねぇ!!」 怒りに震えるゾロを、サンジも抱きしめる。 愛されている実感が、心の奥から湧いてくる。 自分を抱き返すサンジの手に、ゾロは我に返ったのか、深く息をついて 「…すぐにでも、ここを出た方がいいのかもしれねぇ。…何かヤベェ空気を感じる。」 しかしサンジは小さく笑い、首を振った。 「コトを荒立てんな。本当に、ただのデバガメかもしれねぇし…。みんなそれなりに楽しんでるんだ。 明日になってからでも大丈夫だよ。」 「…おい…。」 「大丈夫。どんな時も、オレ達は切り抜けてきただろ?」 明るく笑い、サンジはゾロの唇にキスした。 余韻を楽しむことは出来なかったが、満たされたひと時だった。 気づけば少し日が傾いて、窓の外には夕焼けさえ見えていた。 「もう、すぐに日が落ちる。それにきっと、明日の方がいい天気だ。」 その笑顔に、ゾロもようやく笑った。 それからしばらくして、ゾロはナミの姿を探した。 随分とセレブな格好のナミとロビンを見つけて、明日にでも出航しないかと言った。 反対するかと思ったが、 「そうね、ここに長居する理由はないわ。」 ロビンが言い、ナミも、それに反対する理由がなく、少し残念そうだったが 「そうね、潮時ね。明日、出航しましょう。ルフィには言った?」 「いや、まだだ。明日出航可能かどうか、航海士の意見を聞いてからが筋だろう。」 「よく出来ました。いいわ。ルフィにはアタシが言っとく。少しでも、天候がいい時に本島に着きたいものね。」 その時、ロビンがふと、振り返った。 「…どうした?」 ゾロにも、理由が思い当たる。 「……いいえ、気のせいみたい。」 「気のせいじゃねぇ。」 「え?何?」 だが、ゾロは答えなかった。 ただ 「明日、無事に出航できりゃそれに越したこたぁねぇんだ。気にすんな。」 ナミが、ぎょっとして 「ちょっと…何!?気にすんなって気になるわよ!!ちょっと!ゾロ!!」 「…大丈夫だ。オレ達全員揃ってりゃ、何とかなる。どんな時も、オレ達は切り抜けてきただろ。」 「だから!何!?何なのよぉ!?」 「…今夜一晩、全員できるだけ離れるな。」 「気になるぅ!!ゾロォ!!」 ゾロは、サンジのセリフをそのまま言って、食堂へ向かった。 「奥様。」 豪奢な部屋。 城の最上階、エリザベートの部屋。 今の声は、ヘンドリーのものだ。 エリザベートは、4匹の金獅子が支えるカウチで、足を伸ばして斜に座りながら、ちらり、とヘンドリーの顔を見た。 「お客様方が、明日の朝、出航したいと申されております。」 「ええ、そうね。食事の時に聞いたわ。 残念だけど、仕方がないわね。あの方達は海賊ですもの。」 すると、エリザベートの傍らに控えていたテスが尋ねる。 「では…今回はお諦めに…?」 するとエリザベートは 「まぁあ、いいえ。まだ、今夜一晩あるのよ?夜は長いわ…大丈夫でしょう?ヘンドリー、テス?」 妖艶に笑うエリザベートに、2人はにこりと、いや「にやり」と笑った。 そして、深々と頭を下げ 「お任せくださいませ、奥様。」 と、答えた。 最高の礼を尽くして。 ヘンドリーが尋ねた。 「して…“どちらの娘”をお選びに?」 どちらの娘 問われて、エリザベートは、わずかな惑いも見せず 「…始めはロビンさんにしようかと思ったのだけれど…。」 「ニコ・ロビン、7900万ベリーの賞金首でございます。」 「ええ、知っているわ。ナミさんがそう仰っていたもの。」 「では、そのオレンジの髪の娘の方を?」 「いいえ、あの子はダメ…若すぎるわ。」 ヘンドリーが、少し苛立ちを見せた顔になる。 「ではどの者を?残りは、全員殿方にございますぞ。」 「うち1人は、人間とはいえません。…肉付きは良さそうにございますが。」 エリザベートは立ち上がり、扇で口元を覆って小さく笑った。 頬が、ほんのりと赤い。 「あの子がいいわ。金の髪の綺麗な子。」 「…男ですぞ?」 「ええ、そうね。…でも…殿方の腕の中で、喜びの涙を流したのよ?とても綺麗だった。 あんな肌、初めて見たわ。白くて、艶やかで、しっとりしていて…それがほんのりと紅色に染まって… それに…金の髪に憧れていたのよ。」 ヘンドリーとテスは互いに顔を見合わせて、少し呆れた様な顔になったが、すぐに背筋を伸ばし 「かしこまりました。奥様の仰せの通りに。」 一礼し、出て行った。 二人が消えた後、しばらくエリザベートは部屋の中をゆったりと歩いていたが、 やがて窓辺に寄り、ガラスに映った自分の顔に、そっと触れた。 「ああ、エリザベート…もうすぐお別れね…?今度は、金の髪になるのよ?」 囁いて、微笑んだ。 (2007/6/1) NEXT BEFORE エターナルブラッドTOP NOVELS-TOP TOP