「ヤダ!!」 ルフィの声が、ゾロの部屋にこだました。 昼間、ゾロが切り裂いた壁の穴に声が抜けて、妙な具合に反響していった。 デカくて広い、『あの』ベッドに、ルフィは胡坐でデンと座り込んで、鼻息を荒くした。 他の仲間も皆、ベッドの周りに集まっている。 船長のその一言に、仲間は全員(除くロビン)溜め息をついた。 「まぁ、大方の予想通りの反応だな。」 ウソップが言った。 ルフィは更に叫ぶ。 「この城の中全部、まだ探検し終わってねぇ!!」 「まぁた始まった…あんたねぇ!!毎度毎度言うけど、あんたの目的はラフテルでしょ!?海賊王でしょ!? こんな所で寄り道してる暇があるかってゆーのよ!」 「目の前の冒険を逃がして、海賊王が務まるかぁ!!」 「しっかし、すっげーなー。全部の部屋に、こーんな隠し通路作ってあるって、どーゆー目的だよ?」 穿たれた穴を覗き込んで、ウソップが言った。 「城によっては、戦いの時の逃げ道…という事もあるだろうけれど。 この城は、建てられた時期からいっても、それには当てはまらないわ。」 考古学者ロビンはさらに言う。 「それに、この道を使って脱出するにしても、この島の出入りはあの入り江しかないのよ? なのに、あそこにはそれらしい出口はないわ。 それと、昼間、船長さんと少し城の中を回ったのだけれど、この城には、表から見えない空間がいたる所にあるの。」 「使用人の数はそんなに多くないはずなのに、人の気配だけはそこかしこにあるのもおかしいのよね…。」 ナミも言った。 「何だよナミ!お前ェも感づいてたんじゃねぇかぁ!?」 ウソップの叫びに 「気のせいだと思ったのよ!だって、誰が壁の中に人がいると思うの!? 今だって、どこからか覗かれてると思うと…気味が悪い! だから!もうここを出ようって言ってるの!わかってよ!ルフィ!!」 「やぁだぁ!!もっと探検してぇぇええ!!」 イヤダイヤダのヤダモン・ルフィ。 「カワイクねぇって。」 サンジがつぶやく。 それより早くそこから降りろ。 そこでそうやってジタバタすんな。 気が気でない。 ここに入ってから、チョッパーの鼻をごまかす為に、必死にタバコをふかし続けるサンジ。 そのチョッパーが 「でも、覗いてるなんてヤな感じ。」 と、つぶやいた。 よかった。 気がついてない。 不意にナミが 「それにしてもゾロ、アンタ見られてるのをよく気がついたわね。」 「…まあな。」 「で?その時、アンタ何してたの?」 「ああ、昼寝してた。」 「コックさんは、気がつかなかったの?」 「いやぁ、全然…。」 はっ!! ちーん 仲間の視線が 痛い 「…………そういうこと………………昼寝ね?……確かに?……ンまぁぁぁあ!!昼間っからおサカンですこと。」 「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 サンジ逃走。 「なァによゾロ!!それじゃこれって、単なるスケベのノゾキじゃない!!」 「それが問題なんだろーが!!人がサカってんのを壁の中から覗くのが、マトモな神経の人間がやることか!?」 「うーむ、一理ある。」 ウソップが同意。 チョッパーも同意。 「オレも、寝てるの覗かれるのなんてヤダ。」 「そうね。趣味を疑うわね、人間として。」 だが、人間性を語るには、この連中もかなり問題がある。 「それとこれとは別にして、誰が2人を覗き見していたのかしら?」 ゾロのコメカミに青筋が立つ。 ロビンの発言に、というより、その時のことを思い出して、怒りが甦ったという感じだ。 1回で終わっちまった とか もっと、まったりしたかったのに とか あの顔を、他のヤツに見せちまった とか あの声を、聞かせちまった とか メリーでヤってりゃよかった とか とか とか とか…。 「それはやっぱり使用人の誰かでしょ?エリザベートさんなワケないし。」 「…そうかしら?」 「え?ロビン…?」 「図書室で、今日1日ずっと本を読んでたの。ここの蔵書、殆どが、『悪魔の実』に関する本だったわ。」 「それが…なんだ?」 ウソップが尋ねる。 「この城の主が、『悪魔の実』について、研究を重ねていた節があるの。」 ゾロが、目だけでロビンを見た 「150年前の初代城主、カイエン・バートリの記録をその中に見つけたわ。そこに、気になる名前を見つけたの。」 「誰…?」 チョッパーが、身を乗り出した。 ロビンは、図書室から失敬してきたらしい、古い本を開いて 「この序文にね。こう書いてあるの。“我が母エリザベートに懺悔する。ル・コント(伯爵)カイエン・バートリ”。」 一瞬、全員が硬直した。 そしてゾロがつぶやいた。 「懺悔…?」 「あーもう、参った…墓穴掘った…。」 思わず仲間の元から逃げ出し、客室階の一角に、しつらえられたテラスに出たサンジ。 落ち着いて、また新しいタバコに火をつけて、ふーっと大きく息をついた。 「ああああああ…どんな顔で、ナミさんに会えばいいんだ…?」 もうとっくに、オレ達の事はバレてる。 それはわかってる。 でも、あからさまにされたのは、これが初めてだ。 どうせ、ゾロは言い訳もしないんだろう。 言い訳? して ほしいのか? 「…してほしくは…ないけどな…。」 自分はこんなに、ナミもロビンも好きなのに、それ以上に想ったり、体が反応したりするのはゾロ。 自分でも、とっくの昔にわかってる。 頬が熱くなる。 昼間のSEXが、ふと思い出されて体が熱くなる。 「あら、どうしたの?こんな所で。」 サンジの心臓が大きく鳴った。 振り返ったそこに、黒いドレス姿のエリザベートが立っていた。 本当に、この女性には黒が似合う。 月のない夜 黒服の海賊と、黒衣の貴婦人。 エリザベートはにこやかに笑い 「こんばんは。」 サンジも、タバコの火を消し、胸に手を当てて 「こんばんは、ご機嫌麗しゅう、マダム・ラ・コンテス。」 「ほほほ…まぁ、オマセさんなご挨拶だこと。」 オマセ? 見事なガキ扱いに、サンジの肩ががっくりと下がる。 「どうなさったの?皆様と一緒ではないの?」 「あ〜…いやぁ…ちょっと…散歩。そう、散歩です。マダムの方こそ、こんな夜更けにお1人で?」 「ふふふ、わたくしも散歩。」 「では、ご一緒にいかがですか?ヒミツの、夜の散歩。」 「ほほ…なんだかドキドキするわ。」 「では。お手をどうぞ?」 サンジの腕をとり、エリザベートは微笑んだ。 テラスから庭へ下り、他愛もない会話を交わす。 やがて、エリザベートはサンジに尋ねた。 「コックさんは、北の海(ノースブルー)のお生まれだそうね?」 「はい。でも、育ったのは東の海(イーストブルー)です。」 「ご両親は?東の海にいらっしゃるの?」 「親はいません。親のような、そうでないようなジジ…いえ、恩人はいますけれど。」 「…旅は…楽しい?」 「ええ、とても。」 その時のサンジは、本当に嬉しそうに笑った。 エリザベートもにっこりと微笑み 「素敵だこと…わたくしは、この城から出たことがないから、とてもうらやましいわ。」 「え…?出たことが…ない…?」 「ええ。」 思わず、サンジは立ち止まった。 美しい笑みの中に、深い悲しみを見たようで胸が痛む。 少しでも、自分が慰めてやれることといえば 「マダム、貴女の為に、最高のお茶を淹れさせていただけませんか?」 エリザベートは、少し驚いた顔をして 「あなたが?わたくしに…?」 「はい、是非!…マダムには、腕の良いテス料理長がおいででしたので、ボクの腕前を振るうのは、おこがましいと思っておりました。 ですが、お茶ぐらいは、許していただけませんか…?」 サンジを見上げ、エリザベートは嬉しそうにうなずく。 「ありがとう、コックさん。」 「どうかサンジとお呼びください。海の一流料理人、サンジ。」 鈴のように、またエリザベートは笑った。 (2007/6/1) NEXT BEFORE エターナルブラッドTOP NOVELS-TOP TOP