BEFORE
「あ!フランキーのアニキ!行って参りやした!これでいいんですかい?」
「いや〜〜〜、かなり積もってきやしたぜ!明日は雪だるまかぁ?」
「ああ、ご苦労さん。今日はもうあがっていいぞ。ああ、家政婦のおばちゃんにも、もう今日は帰っていいって言っとけ。」
ジョニーとヨサクが戻ってきた。
ヨサクは手に、分厚い書類袋を抱えている。
「へい!あ、アニキ!2代目は、離れですか?」
「…ああ、それ、入札書類か?」
「へい、2代目に目を通していただこうかと。」
「おれが渡しておく。」
ひったくるように書類を取り上げ、フランキーは「ご苦労」と2人をもう一度ねぎらった。
「…なんかオレ達追い返されてねェか?」
2人は首を傾げたが、雪がかなり積もってきたので、道の明るい内に帰らせようというフランキーの心遣いだと思うことにした。
「さぁて…。」
フランキーの口元に、かすかに笑みが浮かんだ。
「…まぁったく…頑固にもほどがあらァな、なァ、マユゲ。」
家政婦に呼ばれ、離れに行った。
そこで見た光景を、フランキーは一瞬で理解した。
「…何年離れていようと、本当に繋がっている者同士ってのは…その溝も一瞬で埋めちまうモンなんだなァ…。
へっ、あんな小さなガキだったのによ。」
って、ちょっと待て。
「おれは親父か。」
それでも口元に、笑み。
早い冬の落日の後も、部屋の中はほんのりと白く染まっていた。
降りつむ雪の灯り。
ほのかに浮かび上がる白い肌に、ゾロは何度も口づけする。
目の見えないサンジが、わずかでも肌が離れるのを嫌がりすがるので、その両手はずっとサンジの体を抱いていた。
小刻みに震えるのは、寒さか、それとも忌まわしい記憶への恐怖か。
「…嫌なら無理するな…。」
「…無理なんかしてねェ…確かに怖ェけど…でも、お前だ…。」
また、サンジはゾロの顔を探る。
「ゾロ…。」
見えぬ目に、涙。
「大丈夫だ、挿れねぇから…でも、気持ちよくしてやる…。」
「…だめだ、そんなの。」
「………。」
「…お前もヨクならなきゃ嫌だ…。」
サンジの顔を両手で包み、頬を摺り寄せてゾロは笑う。
「こうしてるだけで十分だって…わかるだろ…?…夢見てるみてぇだ…サンジ…。」
「…ゾロ…呼べよゾロ…もう一度…呼べ…。」
「お前も呼べ。おれを呼んでくれ。」
「ゾロ…。」
「サンジ、サンジ、サンジ。」
「ゾロ…ゾ…ロ…ああ、ゾロ…ゾロだ…ゾロだ…ゾロだ…。」
「…ああ、おれだ。おれだよ、サンジ…。」
何度も互いの名を呼び、呼びながら口づけ、舌を絡ませる。
サンジは、ゾロの体を至る所全て手で探り
「ゾロの腕…ゾロの胸…ゾロの肩…。」
触れる度に、その場所を言葉でつむぐ。
「ゾロの手…ゾロの指…ゾロの頬…唇…耳…あは…あった…ピアス…みっつ…。」
しゃらん、と、指で鳴らしてサンジは笑う。
目に涙を滲ませて。
「ゾロ…ゾロ…。」
「…いい加減にしろテメェ、おれだ。間違いなくおれだ。」
「…あははは、やっぱりゾロだ…間違いねぇや…。」
そしてまた、サンジのほうから口付ける。
「…ん…ふっ…うん…。」
乱れる息。
絶え間なく動く、ゾロの熱い手。
「ゾロ…なぁ…来いよ…。」
サンジは、わずかに足を開いた。
青白く浮かび上がる、雪のように白い太腿。
ヒクヒクと震える腰を浮かせて、サンジはゾロの腕を取って誘う。
だがゾロは眉を寄せた。
「サンジ…。」
あの事件の時、サンジを犯したのはあの伏龍会会長だけではなかった。
治療した医者が、思わず顔を背けるほどの傷だった。
1人2人に犯されただけでは、こんなに酷い裂傷にはならないと話した。
一番重傷なのはもちろん目だったが、その次に傷の深いのはその場所と心だった。
本当は欲しい。
身を繋いでひとつになりたい。
だが…
「…頼む…ゾロ…来て…。」
「………。」
「ゾロだろう?お前だろう?なぁ?」
「サンジ…。」
「…欲しいんだ…お前に満たしてもらいてェんだ…ゾロ…!」
「………。」
「…覚えてるぞ…あの夜のこと…テメェもおれも初めてで…それでも体って不思議だよな…?
ちゃんとどうすればいいのか、体が教えてくれた…お前がおれの中で満たされて…お前がおれを満たして…
…あの瞬間、おれは本当に幸せだった…。」
「サンジ。」
固く、ゾロはサンジを抱きしめる。
サンジの両腕がゾロの首に絡みついた。
ゾロは正面から抱えたサンジの腰を、少し抱えあげて
「……足、もう少し開け。」
と、小さな声で言った。
大きく息を呑む音。
そして、深いキス。
熱く、濡れた先端が、サンジの肉の襞を割るのが分かる。
思わず、サンジは足を大きく左右へ開いた。
「あ…ああ…。」
入ってくる。
ゾロのものが、熱い想いが。
ゆっくりと、だが躊躇わず。
すがりつき、痛みに耐えるサンジの目尻を涙が伝う。
「う…っ…く…ふぅ…っ…!」
「…入ったぞ…全部…入った…わかるか…?わかるな…?」
サンジは無言で、何度もうなずいた。
「熱い…ああ…ゾロの…ゾロだ…ゾロの…。」
「…サンジ…!」
抱きしめる。
力の限り。
サンジの腕もそれに答える。
激しく揺さぶりたい衝動を、ゾロは必死に抑える。
なのに
「ゾロ…!ああ…いい…!…もっと…もっと欲しい…!…奥まで来いよ…奥までもっと強く突いて…!!ゾロ!」
「…サンジ…。」
「嬉しいよ…嬉しい…やっと…やっと…ゾロ…ゾロ…ゾロ…!!」
ゾロは固く目を閉じ、歯を食いしばった。
だが、もう堪えきれない。
愛しさが止まらない。
ほとばしり出る想いが、ゾロの背中を押す。
「サンジ!!」
褥の上に押し倒し、力の限りの律動を加える。
肌を打つ音と、濡れた挿抽音が、薄墨色の闇の中に響く。
ゾロはサンジの肩と頭を抱え、何度も何度も想いを打ち込む。
ゾロの厚い体を力の限り抱き返して、サンジもまた肉体の命じるままに蠢き回った。
繰り返すキス。
何度も互いを呼ぶ声。
求めて
求めて
互いに高みへ駆け上る。
「…あっ!…あぁ―――っ!!ゾロ…ゾロォっ――!!」
…ここは…部屋の中だよな…?
障子もちゃんと閉めたはずなのに…雪が…降ってる…。
白くて、やわらかくて、それで儚くて。
雪が降るたびに、思い出したのはいつもお前だった。
あの朝、どんなに身を切られる思いで、お前の体を離して出て行ったと思う?
二度と会えない、そう思ったら悲しくて、口惜しくて。
こんな形で再会したが、またこうやって、お前と……。
「なァゾロ…お前…ここへ帰ってきてからどうしてたんだ…?」
腕の中で、サンジが尋ねた。
まだ、辺りは闇。
長い冬の夜はまだ続いている。
「ああ、…まぁ、修行だな…戻ってすぐに家庭教師4人もつけられてよ。」
「え?…家庭教師…?」
サンジの肩を抱えなおし、ゾロはポリポリと頬を掻いて
「ヤクザッつっても、中の仕組みは“会社”でな、だから経営学とか社会学とか法律とか、そんな感じの勉強をな…
普通大学4年間でやる内容を1年でやらされた。地獄だったぜ。」
「…へェ…。」
「その後は現場だ。ドカヘルかぶって、ニッカボッカはいて、鉄骨担いで梯子昇って。」
「へぇ〜え…ははっ、見たかったぁ。」
「2年前に親父が死んで…跡を継いだ。まだ2代目になって日が浅ェもんでよ、未だにジョニーやヨサクはおれを『若』って呼ぶ。
しめしがつかねぇケジメがねぇって、よくフランキーは言うが、そういう自分はおれの事ァ時々『ゾロ』って呼び捨てだ。」
「無理ないな…ああ、フランキー…声のカンジは変わってねェよな…懐かしかった。
…フランキーのおばあさん…お前がいなくなってからも…おれ、時々遊びに行って、メシ作ったりしたんだぜ…いい、ばあちゃんだった…。
まだ元気だって…?」
「…ああ、施設に入っちゃいるが、ピンピンしてらぁ…テメェは?」
「…おれ?」
「…あれから…。」
「…学校行って調理師になって就職して…認められてフランスに行った。」
「…ああ、そうらしいな…夢…叶えたな…。」
その夢を
そう心でつぶやくゾロを察して、サンジは指でゾロの唇に触れた。
「1年前に両親が事故って…お袋が逝った…親父は右の手足をなくした。おれはそれで日本に戻った。
けど、親父、お袋の1周忌を待たずに病気で死んだ。仲良かったからな、お袋の側に早く行きたかったんだろ…。つい半年前だ…。」
「そうか…。」
「そんな時によ?“お前を知ってる。逢いたいのなら逢わせてやる。”そんなこと言われたらよ…のっかっちまうって…。」
サンジを抱える手に力をこめる。
「でも…ホントに逢えた…。ははっ、結果オーライだ。」
不意に、唇を塞がれる。
それ以上、もう何も言うなというのだろう。
長い口付けの後、サンジはゾロの胸に顔を押し当て、ゾロの肌の匂いを吸い込んだ。
「ゾロ…抱きしめててくれよ…?今度は朝になっても、おれが目覚めるまでこうして、抱きしめていてくれ…。」
「ああ、ずっとこうしてる。放さねぇ。…もう絶対、置き去りにしねぇ……つーか、あのな、サンジ。」
「ん?」
「ここは、おれの家だ。」
「そーだったな…。」
ゾロの唇が、サンジの目に触れた。
暖かい、優しいキス。
光は、ここにあった。
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(2007/7/13)
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