「おはよーサンジくん!夕べ眠れた?おじさんが出来上がっちゃって、うるさかったでしょ?」 「ん?あ、ああ、そうだね。ご機嫌だったね。」 そうでなくても、そんな状態で眠れるはずもない。 そうか、おじさん騒いでたのか。 全然知らない。 今日は法事の日だ。 従姉も朝から黒の装いだ。 「ねぇ、サンジくん、お坊さんの御膳に、何か精進もの一品頼めない?」 「ああ、いいよ。お坊さんのだけでいいの?」 「…少〜し、多めに作ってもらえたら嬉しいな〜〜。」 「了解。」 裏手に、自宅用の畑がある。 野菜を見繕おうと、サンジは裏へ回った。 と、 「!!」 勝手口の側に井戸がある。 井戸端に、ゾロがいた。 ポンプで水をくみ上げて、流れる水に頭を突っ込んでいた。 上半身裸で、背中まで水をかぶっている。 やがて、ぶるっとひとつ頭を振って、ポンプに引っ掛けてあったタオルで頭を拭く。 そして、サンジに気づいた。 「………うす。」 ゾロの方から 「………おす。」 夕べ、言いたいことを言った為か、変わらず仏頂面ではあるが、ぶっきらぼうな所はなかった。 昨日の今日。 目を合わせるのが…辛い。 「………。」 スゲェ、筋肉。 高校生の体か?コレが? 日に焼けて、均整が取れていて、無駄な肉なんかない逞しい体。 うわ。 顔がまた熱い。 「あ、あのさ。」 「あァ?」 「夕べの…話だけどよ…。」 「ああ。」 胸についた水滴を拭いながら、ゾロはサンジの次の言葉を待った。 「…おまえさ…おれを…どうしたいワケ…?」 「あァ?」 ゾロの眉毛が歪む。 今更何言ってんだ?と、言いたげな目。 だが、ゾロはけろりとした声で 「ヤリてェ。」 「はぁ!?」 「何かおかしいか?お前が好きだ。だからヤリてェ。自分のモンにしてェ。」 やっぱりガキ? ダイレクトに過ぎる。 つーか、頭痛がする。 なのに、なんだよ?このドキドキは! 「自分でする時は、テメェの顔しか浮かばねェからな。」 「はぁぁあ!?自分で!?自分でって!?」 「誰だってするだろ?したコトねェとは言わせねェぞ。」 「あ、あのさ、普通はその手の雑誌のグラビアの子とか、周りのキレイな子とか…。」 「興味ねぇ。とにかくテメェしかいらねぇから、気になったこともねぇ。」 やっぱりガキだ。(断言) けど、なんちゅー、はた迷惑な方向へ行っちまいやがったんだよ!? 叫びたいのをなんとか抑え、サンジは出来るだけ冷静さを装って言う。 「…言っとくが、おれはやっぱり女の子の方が好きだぞ? 間違っても…男と付き合いてェとか、男にされてェとか思ったことは、一度もねェ。」 するとゾロはけろりと 「かまわねェよ。」 「あ!?」 意外な返事に、サンジは面食らった。 「あン時、お前がおれをフッたのはわかってる。お前が答えてくれることァねェってのも十分わかってる。 けど、おれはまだお前が好きだ。昨日の今日で、思い切れるほど簡単じゃねぇ。」 「…!!」 「未練たらたらで、情けねェとは自分でもわかる。でも、やっぱダメだ。守りてェって今でも思う。」 サンジの胸が、ズキンと痛んだ。 「悪いな。」 ゾロが言った。 「あ?」 「確かに、一方的に言うだけ言っちまった事は認める。悪かった。」 「…ゾロ…。」 「迷惑だよな。」 言い残して、ゾロはタオルを肩にかけ、井戸の側を離れて歩いていった。 法事って、坊さんの読経の間は結構退屈で、余計なことを考えちまうもんだ。 いつぞや、おふくろの時でさえそうだったから、じーさんとばーさんであれば尚更かもしれねぇ。 ちら と、伯父の後ろにいるゾロの顔を見れば、これまた退屈そうにアクビなんかしている。 ごつっ 従姉が、息子の頭を殴る音がした。 殴られた頭をさすって、ゾロが顔を上げた。 目が、合ってしまった。 笑いもせず、ゾロはじっとこちらを見ている。 慌てて、逸らした。 逸らすしか、ない。 逸らして、自分の周りにいる親類達を見回す。 母がいなくても、おれを大事にしてくれる優しい人たち。 この人たちの気持ちを思えば、ゾロと、そんな風になんてなれるワケが無い。 なれる以前に、おれにはそういう趣味はねェんだ。 それなりに女の子とも付き合ってきた。 女の子との経験だって、ちゃんとある。 今、特定の子はいないけど、それでも……。 不意に、井戸端でのゾロの姿を思い出す。 高い背丈 厚い胸 引き締まった腰 太い腕 6年も経つと… ガキも、あんなに大人に、『男』になるんだな。 あれが、後3,4年したら…。 背中、広かったな 肩幅なんか、おれよりあるぞ。 筋肉がついて、無駄な肉なんかなくて、胸板の割りに腰が締まってて、手も、きっとおれより大きい…。 日に焼けて、草の匂いがして……。 多分、学校でもモテてんだろうな…。 てめェの声、すげェ腹に響く。 名前呼ばれた時、心臓が止まるかと思った。 なぁ、ゾロ お前、まだ気づいていないだけだ。 大人になったらイヤでもわかる。 お前の今の想いは、『想い』じゃなくて、『惑い』なんだってこと……。 「般若〜〜〜心経ぉ〜〜〜〜〜…。」 カーン、と、鐘の音がして、サンジは我に返った。 じーちゃん、ばーちゃん、罰当たりな孫でごめん…。 合掌 NEXT BEFORE (2007/10/6) NOVELS-TOP TOP