日常が帰ってきた。 毎日、人ごみを掻き分けるように歩き、通いなれたアスファルトの道を歩いて出勤し、人々の舌を満足させ心を満たしながらも、 サンジの心は晴れない。満たされない。 だが ( 忘れられるよな…こうしていればきっと…あいつだって、久しぶりにおれの顔を見たから、昔の惑いを思い出しただけだ…。 アイツだってきっといつか…そんなバカな時があったって、笑い話にしちまえる時が来る…。 ) 勤め先のレストランの厨房。 大振りのフライパンを振り、フランベの炎を操る。 こんな時に、余計なことを考えるな。味が狂う。 けれど “ 好きだ。” “ 触っていいか? ” ゾロの声が 小さいゾロ かわいいゾロ 生意気なゾロ 幼いゾロの顔を思い起こす だが、思い出せない。 散々だ。 あれから何度、料理長に怒鳴られたかも思い出せない。 結局仕事にならない。 情けない。 コレでプロか?おれってヤツは! 「もう帰れサンジ!!頭冷やして出直して来い!!」 料理長にトドメの一言を言われ、やむなく帰った。 逃げるように帰って、そのままベッドに潜り込む。 情けねェ 情けねェ情けねェ 情けねェ情けねェ情けねェ情けねェ!! 「畜生!!」 枕を、壁に叩きつける。 タオルケットを頭からかぶり、体に巻きつけて丸くなる。 と “ 触っていいか? ” ドクン “ 触るだけだ。 ” ドクン ドクン “ 触るぞ。 ” 「…う…。」 ドクン ドクン ドクン 「…ヤベ…おい、おれ…!コレは…ヤベェだろ…!?」 ありえねぇ。 こんなの。 「…ん…。」 手が、頬に触れる。 ゾロが、触れた場所を辿る。 思った通りの大きい手だった。 少し冷たかった指は、サンジに触れている間に熱くなっていった。 ゾロが触れた自分の唇に、指を這わせる。 あの夏の日 触れた唇を思い出す。 幼いキス なのに、熱かった 今、あのゾロの唇はどんな感触なのだろう? ダメだ ダメだ、こんな想像!! するならもっと別の もっと可愛い女の子の…。 ゾロ ああ、ゾロ 広い背中、厚い胸、大きな手、腕…。 あの手が あの手に 「…ダメだ…止まんねェ…!!」 涙が滲む。 ありえないと、わずかに残った理性で思う。 その理性が、警告音を鳴らしているのに。 「…あ…っ…!あ…ああっ…!!」 声まで出ちまう。 嘘だ!嘘だ、こんなの…!! もう、手がそこから離せない。 刺激を求める欲求は、もう消せない。抑えられない。 他の、淫らな妄想も出来ない。 今、サンジの閉じた瞼に浮かぶのは、引き締まったゾロの肉体だけだ。 脳裏に広がる妄想の光景は、ゾロの手が自分を愛撫し、固く抱きしめるビジョンだけだ。 「…ゾ…ロ…ああ…ゾロ…!!」 激しく、自身に加える刺激。 感じて、固くなって、震えながら蜜をこぼすそれを、嫌悪しながら愛おしむ。 自分の手が、ゾロの手であると空想し、脚を広げて、名を呼び淫らな吐息を漏らす。 「う…くぅ…クソ…畜生…チクショウ!!ゾロ…ゾロ!!」 背中が、大きく反る。 気がつけば、いつの間にかシャツの前をはだけ、ずらしただけのつもりのズボンも下着も、どこかへ脱ぎ捨ててしまっている。 他者には、絶対に見せられないあられもない姿。 だが、自覚しても 「……あ…はぁ…っはっ…ああ…あ…!!」 涙が溢れる。 「…何で…こんな…。」 触れてほしい。 触って、愛撫して、キスしてほしい。 「…クソ…く…あ…ゾロ…ゾロ…ゾロぉ…!!!」 チクショウ 心の中で、もう一度吐き捨て 「―――っ!!あ……ああっ!! あ ――― っっ!!」 ひとつだけの、荒い息。 激しく上下する白い胸。 のそり、と、腕を動かし、サンジは、指先に滴る自分のそれを見つめた。 自己嫌悪は確かにある。 だが、それ以上に、『感じて』しまった自分を愛おしくも思った。 しかし 「………〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 がばっと、サンジは立ち上がった。 肩が、大きく震えている。 その表情には、確かに怒りがあった。 「ゾロ――!!!」 NEXT BEFORE (2007/10/6) NOVELS-TOP TOP