BEFORE







前略 サンジ様



お元気ですか?

いつもメールしてるけど、ちょっと気分を変えて、こんなアナログな手紙もいいでしょ?

(ちなみにサンジくん。メール打つの、相変わらず下手ね?(^^))



今、あたし達は、イタリアにいます。

サンジくんお勧めのミラノです。

丁度資金が乏しくなったのと、ロビン編集長から依頼されたこともあって、ミラノを取材しています。



あのね

おととい、ウソップのツテでガレーラ本社へ行ったら、なんと!!

創始者トム・ワーカーに逢えました!!

それでね、もうひとつ驚いたのは、ガレーラ本社のロビーに、ゾロのあの写真がドーンと飾られてあったの!!

で、この写真のカメラマンがあたしの友人だって話したら、すっごく喜んで興味を持ってくれて、ゾロに会いたいって言ってくれたわ!!

トム・ワーカーがよ!?

おかげで独占インタビュー、取っちゃいました!!



来月号のウチの本に載るから、要チェックよ!



しばらくは、ミラノにいるつもりです。

ここを拠点にして、フィレンツェとかヴェネツィアにも行ってきます。

イタリアの次はどこに行こうか?って、ルフィと相談中。

でも、今あたしはこの国が面白くて仕方がないから、もしかしたら、“アンタ1人で、勝手に先に行ってて”ってことになるかもね?



ルフィに付き合うって、ホントに疲れるわ!!



でも、あたしも見てみたいんだ。



入道雲がわいていたらその麓まで

川が流れていたら海まで

遠くに虹がかかっていたら、その端まで



あの街の向こう

あの山の向こう

あの海の向こう

あの空の向こう



どこまでもどこまでも 行ってみたい。



行きたくて仕方がないの!



ねぇ、サンジくん

いつかサンジくんも、あたし達を追いかけてきて!

ゾロと一緒に!

待ってるから!





                                ナミ



PS こういう“待つ”なら、いつまでも待つわ

















 「虹の端まで、か。やっぱりかわいいなァ、ナミさん。」



店のホールで、ひとりサンジがつぶやいた時、奥からゾロがのっそりと姿を見せた。



 「ぶ。」



相も変わらずの仏頂面。

珍しいスーツ姿のゾロ。

決して似合わないわけではないのだが。



 「どこかおかしいか?」

 「ツラ。」

 「それは直しようがねぇ。」

 「自分で認めるか?」

 「ナミ、なんだって?」

 「今、ミラノだって。」

 「ほー。」

 「元気そうだ。」

 「元気じゃねぇわけがねぇ。」

 「虹の端まで行きたいってさ。」

 「ますますルフィに毒されてきたな。」

 「一緒に旅してれば、ルフィ色になっていくさ。」

 「ルフィ色ねぇ。落ちつかねぇ色だな。」



ふと、ゾロは思いついたように



 「いや、あいつはルフィ色にはならねぇ。ナミはナミだ。他のどの色にもならねぇよ。」



サンジの眉が、ピクンと動く。



 「ほ〜、ナミさんを、よく知ったようなお言葉で。」

 「嫉くか?」

 「誰が。」



毒づいて、サンジは笑う。



ルフィ色

ナミ色



ウソップにも

ゾロにも

そしてサンジにも

何ものにも侵されない、自分色がある。



光が、レンズをすり抜けて七色になる。

七色になった光は、再び交じり合い、結び合い、そしてまたひとつの画像を映し出す。



一瞬を



永遠を



レンズの奥で結び、焼き付ける。









 「さて、そろそろ行くか?」



ナミからの手紙を封筒に戻しながら、サンジは少し高い声で言った。

と、ゾロは、目を宙に漂わせて



 「…なァ、お前ェの親父って、どんな人だ?」

 「どんなって?普通だよ。」

 「その普通の基準がわからねぇ。」



時計の針は、午後1時。

2時に、サンジの実家のレストランの、ランチ営業が終わる。



サンジの父親に会いに行く。

頑固で、血が頭に上りやすく、口より先に足が出るというウワサの、『ごく普通の』親父に。

夕方の、仕込みの時間までなら、という約束を、必死になって取り付けてくれたのはパティとカルネだ。



サンジを車へ乗せる為に、ゾロが抱き上げようとした時、サンジは逆に尋ねた。



 「くいなさんの時、お前の親父さんはどうだったんだ?」



2人が結ばれたあの日の内に、ゾロはサンジを実家へ連れて行った。

とんでもない歓迎振りだった。



長男が、伴侶だといって連れてきたのが、肢体に障りのある、しかも男だというのに、一家の歓待ぶりは異常なまでのハイテンションだった。

コーシローもくいなも、最後には泣きながら、「この馬鹿をヨロシク。」と頭を下げた。



多分に酒のせいもあったかもしれない。

ついでに、ゾロの酒豪っぷりはロロノア家の家系だという事も、その時に悟った。



 「くいなの時?確か泣きながらアニキの手握って、頭下げて拝んでたな。」



さすが、くいなさん。



サンジは苦笑いするしかない。

抱え上げられ、目が合った瞬間、ゾロの唇の端に口付た。

珍しいサンジからのキスに、ゾロの頬がわずかに染まる。



 「ま、蹴り飛ばされても殺されやしねぇから、安心しろ。」

 「はぁ!?話が違うぞ!テメェ!」

 「だって、世間一般の親はそんなもんだろ?だいじょーぶだいじょーぶ、ナントカなるって。」

 「ルフィか!テメェはぁ!?」



大丈夫

ふたりなら



何があったって、一緒に『歩いて』いく。

もう離れない、離さない。



サンジはゾロの首に回した手に力を込めた。

ゾロも、抱えた体を固く抱きしめた。



そして、互いに顔を見合わせて



 「うっし!行くか!」



と、気合を入れて外へ出た。



まばゆい光に一瞬目が眩む。

いつの間にか、季節は春を越え、初夏を迎えようとしていた。



ゾロがここへ居を移した時、やっと買い換えた、だがやっぱり中古(太っ腹の現金一括払い)のトヨタガイアのナビに、サンジの体をそっと降ろす。

後部に車椅子を載せ、ゾロはパンとひとつ自分の両頬を叩いた。



 「まぁだ、気合が足りねェのかよ?」



振り返りもせず、サンジが笑う。



 「違ェよ。」



憎々しげにゾロは笑い、答えた。



 「あんまりシアワセすぎて、夢じゃねェかと錯覚しただけだ。」

 「似合わねぇーっ!!」



サンジの爆笑と、急発進するエンジン音が、青く高い空に消えていった。







END





(2007/6/29)



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番外編:にじはなないろ-サンジの7日間-