「ルフィーナ様…!ルフィーナ様!!」 さすがは猫だ。 4本足で走り出したら風のようだ。 「…あった!隠し入り江!!」 「…え!?…ウソ…!!…って、どこに入り江があるの!?」 「この下です!!」 だが、ペロが指差した場所は、ただ岩壁と茂みがあるばかりで海など何処にも見えない。 「入り江に降りる道…崩れてなければいいんだけど…!こちらへ!」 ペロが、茂みの中へ潜っていった。 「こんなトコ通るの!?」 「うはっ!面白そう!!」 「大丈夫、狭いのは入り口だけです。」 「フランキーじゃ通れそうにないわね。」 「目印しとこう。」 チョッパーが、木の幹に仲間の印の『×』をつけた。 茂みをくぐり、ようやく全員の背が立つ場所へ抜けた時 「うひょおほほお〜〜〜〜!!!」 ルフィが歓声を上げた。 チョッパーも、ナミも、ロビンも、思わず溜め息を漏らした。 巨大な岩のドーム。海側からの入り口から、差し込む光のせいで、入り江の水面はコバルトブルーに輝いている。 そしてドームの天井は 「光ってる!!あれ、ダイヤ!?」 「ええ、そうです。」 「ダイヤの天井…まるでシャンデリアね…。」 「ペロ、あれ、船じゃないか!?」 チョッパーが指差した場所に。 「………!!」 船だ。 確かに船であったものだ。 黒く焼け焦げ、マストは折れ、無残な姿を晒しているが、間違いなく船だ。 ペロの瞳から涙がこぼれる。 「エメロード・オブ・シンフォニア!!」 「…大きい…キャラックだわ…あ…なんかメリー号に似てる…。」 「エメロード…!」 ペロが駆け下りて、近寄った。 かつて、偉大なる航路を駆けた船。 海賊女王を乗せた海賊船。 皆の夢を、運んだ船…。 「ただいま…!エメロード!」 “ おかえり ” と、船が答えたような気がした。 ペロは、きっとドームの天井を見上げた。 「ルフィーナ様…!」 ダイヤの鉱脈の入り口に通じる道があった。 ルフィーナが眠る、『宮殿』への入り口。 だが、噴火の時の地の揺れが、かなりドームを崩してしまっており、道がなくなっていて風景も変わっている。 「…岩壁ばかりで、それらしい場所が見えないわ…。」 ロビンがつぶやく。 「それはないわよ!ここまで来たのに!!チョッパー!ダイヤの匂いとかしない?」 「するワケないよ。」 「ねぇ、ルフィ!!適当に壁、崩してみて!」 「よっしゃあ!ゴムゴムの銃(ピストル)!!」 ボコン!ドカン!バゴン! 何発かの拳を打ち込んだ時、ルフィの手は、どこかに穴を開けた感触を得た。 「空いた!!」 「よくやったわルフィ!!」 「ルフィーナ様!!」 ペロが、砂塵に向かって駆け出そうとしたときだった。 銃声が響いた。 「!!?」 「ご苦労だったな、麦わら!」 振り返ったそこに 「ベリエ!!」 「!!」 煙を吐く銃を手にした手下を従えて、今、ルフィたちが抜けてきた場所からベリエが見下ろしている。 「懐かしいねぇ、この場所。思い出すぜ。なァ、猫。」 「!!」 「まさかお前が、こんな芸当の出来る猫とは知らなくてなァ… シャルルの野郎、まさかお前にエターナルポースを預けているとは思わなかったぜ。」 「………。」 「まぁ、いい。おかげでおれも、この島に来られたんだ。感謝するぜ、麦わら。」 「うるせぇよ。」 「ダイヤを拝むのは、お前らを始末してからでも遅くはねぇ。 それに今頃は、てめぇの仲間も、おれの手下共が始末している頃だろうしな。」 「そんなこたぁねぇ。あいつらが、お前の手下なんかに負けるもんか。」 ルフィの言葉に、ベリエは低く笑った。 そして、ルフィの後ろにいるナミとロビンを見て 「…おい、見ろアンデレ。女共がいるじゃねぇか?マルコの野郎はどこで油を売ってやがるんだ?」 「さぁ?」 眼鏡をかけた細い顎の男、アンデレ。 「まぁ、いい。すぐに追いついてくるだろうよ。その間に、麦わらの首を上げるとするか。」 「腰の調子が悪いと言っておろうが。」 「かーっ!情けねぇな!!まさか、女やタヌキの相手もダメだとは言わねェだろうな!?」 「タヌキじゃねェ!!トナカイだーっ!!」 「“ワタアメのペット”だな。」 「ペットじゃねぇ!海賊だ!!もの申すぞ50ベリー!!」 「…まぁ、それくらいならばな。」 アンデレが、腰の短剣を抜いた。 ナミが、天候棒(クリマタクト)を構える。 「短剣?随分とナメてくれるわね?」 「歳なものでな、あまり大降りの得物は扱えん。」 「あらあら、歳は取りたくないわよね。」 「本当ね。ひとつの妄執に捕らわれ続けて、愚かで哀れだわ。」 「生憎、そんな挑発に乗るような若造ではないぞ。小娘。」 「言ってれば!?サンダーチャージ!!」 「六輪咲き(セイスフルール)!」 ロビンの手が、アンデレの体を羽交い絞めにする。 「!」 「サンダーボルトテンポ!!」 雷一閃!! 大音響が轟く。 だが 「!!」 「ウソ!?」 アンデレは、何もなかったかのようにそこに立っていた。 そして 「…お前たちの船長は、悪魔の実、ゴムゴムの実の能力者。ゴムが通電しないことはよくわかっているはずだ。」 眺めていたベリエが、にやりと笑う。 アンデレは、服の衿の間から、ちらりと中を見せた。 ゴム製のスーツだ。 「相手の力を知らずに、戦いを挑むような愚かなことはしない。泥棒猫、お前の最強技がそれであることは調べがついている。」 「う…!」 「…この人たち…私たちのそれぞれの戦い方を、研究してきたの?」 ロビンが言った。 チョッパーが驚いて 「じゃあ、サンジやウソップたち…!!」 「おそらくゾロもね。」 ルフィの目が見開かれた。 ペロが歯噛みして叫ぶ。 「そうです!そうやってコイツらは…卑怯極まりないやり方で、敵を殲滅するんです!!」 ペロは剣を構え、彼の体格からは巨大ともいえるベリエに立ち向かった。 「でやああああああああああああああああ!!」 「!!」 切っ先が届こうという瞬間、ベリエの岩のような手が瞬速の動きを見せた。 右手でペロの剣を叩き落し、左手でその首を掴んで引きずりあげる。 「ペロ!!」 チョッパーが叫んだ。 「うぐ…ぅっ!」 「クソ生意気なドラ猫が…!」 「………っ!!」 「猫!!」 「動くな麦わら!こいつの首へし折るぜェ?」 「!!」 ベリエとルフィが対峙する。 そして一方 「お嬢さん方、よそ見をしている場合かね?」 「ロビン!!危ない!!」 腰の調子が悪い? 「どこが?」 ロビンはつぶやいた。 なんという早い動き。 「トレスフルー…!」 「させん!」 アンデレは服の袖口から、ロープのような物を一瞬にして引き抜いた。 それは鞭のようにしなり、咲いたロビンの腕に巻きつく。 「あうっ!!」 悲鳴を上げ、ロビンがうずくまった。 血飛沫が、まさに花のように舞う。 「ロビン!!」 駆け寄るナミの足元に、しなり反転したその紐が飛んできた。 「逃げろナミ!!」 ルフィが飛び出す。 その声に、ナミは思わず飛び退る。 が、着地をしくじり、転倒した。 唸りながら、ロープはアンデレの手に帰る。 「ナミ!気をつけて!!ワイヤーソーよ!!」 「ええ!?」 銅製の細い紐状の剣。 鞭のようにしなり、自由自在に操れる。 体の一部に巻きつけば、そのままその部分を切断することも可能だ。 つまり、この武器は。 「ナミィっ!!」 ルフィが駆け込む。 ナミを抱えて、ジャンプしたルフィの腕を、ワイヤーソーが捕らえた。 「うわああっ!!」 「ルフィ!!」 「いいぞ!アンデレ!そのまま轢きちぎれ!!」 「やめてぇ!!」 「三輪咲き(トレスフルール)!!」 ロビンの手が、ワイヤーソーを操るアンデレの腕を取った。 「クラッ…!!」 なんと素早いことか。 ルフィの腕から瞬時にワイヤーソーを解き、返す勢いでロビン本体に襲い掛かる。 「うおおおおおおおおおっ!!」 そこへ、チョッパーが駆け込み 「刻蹄十字架(クロス)!!」 入った!! アンデレが吹っ飛び、岩に叩きつけられる。 「大丈夫か!?ロビン、ナミ!!」 「ええ…!」 「ありがと…チョッパー!!ルフィは!?」 いない!! 「ベリエもいない…どこへ?」 「あいつ、ペロを捕まえたままだ!!」 と、爆音が轟く。 「あそこ!!」 ナミが指差す。 ドームの一角。 ベリエの手にはまだペロが。 「15年でシャルルを捕まえ、あとの15年はてめぇを追いかける日々。長かった…長かったぜ!! なぁあ、ドラ猫!!うれしいだろう?“仲間”の所へ帰れて、“仲間”と一緒に墓に入れるんだぜ? なァおい、麦わら。なんだったら取引しねぇか?てめぇ、おれの一味に入らねぇか?ダイヤを山分けしてやってもいい。 山分けしたって、一生遊んで暮らせるだけの額になるんだぜ?無尽蔵なんだからよ!! 第一、つまらねぇと思わねぇか?こんな猫の為に命張ったって、得なんざありゃあしねぇよ? 今ならまだ、てめぇの仲間の命も助かるってもんだ!!なぁ…!!」 瞬間、ルフィの拳が炸裂した。 「黙れ。」 低い声が答えた。 「それ以上喋ったら、ぶっ飛ばす。」 「交渉決裂か。」 ベリエの腕の中で、ペロは涙を流した。 「おお、おお、可哀想に。泣いてんのか?あ?そりゃあ、泣きたくもなるよなぁ? おれに一矢も報えねェまま、せっかくここに連れてきてくれたやつらまで、もうじき自分と一緒に殺されちまうんだからよ!!」 「!!!!!」 「意地張ったって、つまんねぇだろうが? てめェの主人、シャルルも、最後までバカな意地張り通して、つまらねぇ人生送って、つまらねぇ死に方をしやがった。」 「!!!!!!」 ペロの瞳から、涙が溢れて流れ落ちる。 「黙れって言ってんだろぉおおがああああっ!!」 NEXT BEFORE 長靴をはいた猫TOP NOVELS-TOP TOP