エメロード海賊団の、最後の砦。 ここを、『宮殿』と呼んでいた。 エメラルドの為の、ダイヤの宮殿。 なんと贅沢な。 満足でしたか、ルフィーナ様? 幸せでしたか、ルフィーナ様? この島での、最後のひと時。 ワタクシは、とても幸せでした。 「猫!!目ェ開けろ!!」 ルフィの声に、ペロは遠くなりかけた意識を取り戻した。 ベリエの指が首に食い込んで、息が詰まる。 ドームから、道なき道を鉱脈へ進みながら戦う間中、ベリエはペロを離さなかった。 どうしても、攻撃の手が緩まざるを得ない。 「ルフィ…さん…!」 「おう!」 「こいつを…こいつを倒してください…!ワタクシはこのまま死んでもいい!どうか、ワタクシにかまわずこいつを倒して!!」 「バカいうな!!こいつぶっ飛ばすのを見届けなくて、どーすんだ!?」 ペロを掴みあげ、ベリエが言う。 「おれをぶっ飛ばす?…面白いことを言うヤツだぜ、なァ、ドラ猫?」 「…く…ぅ…っ!」 「今、おれがこいつの首を捻じ切れば、それで終わりだ。」 「……!!」 「エメロード海賊団は全滅だ。」 「ううう!!!」 「そして、おまえらもな!麦わら!!」 ベリエが叫んだ。 そして、ペロの首に力を加える。 悲鳴すら上げられない。 「ゴムゴムのバズーカ!!」 「!!」 寸でのところでベリエは避ける。 だが、返す勢いで、ペロを岩壁に叩き付ける様に投げ捨てた。 「ぐはぁっ!!」 転がったペロは、エメロード号が横たわる入り江へと真っ逆さまに落ちていく。 「猫!!」 「ストロング右(ライト)!!」 フランキーの腕が、空中のペロをキャッチした! 「フランキー!!…お前ら!!」 ルフィの顔に明るさが戻る。 だがベリエの目は驚きに曇った。 「…何をしてやがんだ、あいつらは!!」 「さぁ、どうだったかな。」 ゾロが答える。 「お前の30年の妄執に、エメロード達の30年の想いが勝ったんだよ。」 サンジが言った。 「敵討ちなんて、今更正義の味方ぶるわけじゃねぇ!でも、てめェは許せねェ!!」 ウソップがカブトを構える。 「女の心を踏みにじって!最低よ!」 ナミも、天候棒を。 「…これも因縁。」 ロビンがつぶやく。 「ペロの30年、絶対無駄にしないから!!」 チョッパーが叫んで、人型になる。 「ベリエ!お前をぶっ飛ばす!!」 ルフィが、拳を硬く握る。 「ギア2(セカンド)!!」 ルフィの体が、桃色に染まる。 全身から水蒸気を発しながら、血液に圧力をかける。 その光景に、思わず、ベリエは一歩後ろへ下がった。 だが 「30年…そうだ30年…追い続けたんだ…追い続けてそして、やっとこの手に入るんだ!ジャマをするなぁああああ!!」 「ゴムゴムのJET銃(ピストル)!!」 爆発のような衝撃音! 吹っ飛んだベリエの体が岩に叩きつけられる。 フランキーが、ペロの体を捕らえた腕を回収した。 ペロは、気を失いぐったりとしたままだ。 チョッパーが駆け寄り 「ペロ!ペロ!しっかりしてペロ!!」 呻いて、ペロがうわごとのように言う。 「…ベリエ…許さない…ベリエ…!」 「ペロ!」 目を開き、ペロは痛みに耐えながら体を起こす。 と、ずっと被っていた帽子がないのに気づき 「帽子…!ワタクシの帽子は!?」 「こんな時に帽子かよ!?」 「ルフィか、てめェ。」 「あれじゃない?」 ロビンが指差す。 見ると、ルフィとベリエが戦っている間合いの間に、ペロの羽根飾りのついた帽子が落ちている。 「帽子!!」 飛び出すペロを、ロビンが止める。 ゾロが言う。 「間合いに入るな!死にてェのか!?」 「帽子!ワタクシの!!」 「帽子と命どっちが大事だ!?」 ウソップが叫ぶとペロは 「帽子です!!」 と、誰かさんのように切り返す。 ナミが呆れて 「ロビーン、お願い。」 「ええ。…多輪咲き(グランフルール)、デルフィニウム!」 花を咲かせ、ペロの帽子を回収する。 「ありがとうございます!!」 帽子を抱きしめ、ペロはしっかりと被り直した。 その様子にルフィが 「あっはっは!お前ますます気に入った!!なァ、猫!おれがこいつをぶっ飛ばしたら、仲間の件、もう一度考えてくれ!!」 「…ルフィさん…。」 「そんな事にはならねぇぞ!麦わら!!ここでぶっ飛ばされるのはテメェのほうだ!!」 「おわったった!!!」 ベリエも体技の持ち主だ。 それも 「月歩!!」 ベリエの巨体が宙を跳ねる。 サンジが叫んだ。 「あいつも六式使いかよ!!?」 「元海軍だからな。」 ゾロが吐き捨てる。 「ゴムゴムのJET戦斧!!」 「鉄塊!!」 2人の激しい戦いを見つめながら、チョッパーがペロに言った。 「ペロ、おれ達と行こう。」 「………。」 「ルフィは勝つよ。」 ナミも、腰を落として 「行こう、ペロ。」 「………。」 ウソップがうなずく。 サンジも 「非常食でよければ、な。」 フランキーが小さく笑った。 そしてゾロが 「まぁ、あいつに見込まれたら、到底逃げられねぇぞ。」 と、笑った。 ロビンも笑う。 「………。」 シャルルが死んでからは、ずっとひとりぼっちだった。 この島へ来、シャルルの最後の望みを叶える為だけに生きてきた。 終わったら 「今度は、自分の夢の為に生きよう!」 チョッパーの言葉に、静かにペロはうなずいた。 ペロ、お前の夢は何かしら? ふふふ…お前が話せたら、聞けるのにね。 ルフィーナ様 ペロの望みは ルフィーナ様の笑顔だけです ペロの夢は ルフィーナ様の幸福です シャルル様 その笑顔を 幸福を ルフィーナ様に下さるのはあなただけです。 だから ペロはもう一度 ルフィーナ様の笑顔が見たい それが ワタクシの 「指銃!!」 「!!」 ルフィの体に、ベリエの指が突き刺さろうとする瞬間 「火薬星!!」 炸裂! その一瞬、ルフィがウソップを睨み付けた。 「手を出すな!!」 だがウソップは 「コイツの十八番なんだよ!この蝮野郎の!!仁義もへったくれもねぇやり方で、あいつらを潰したんだ!!」 「ルフィ!!こいつに本当の海賊の戦いを教えてやれ!!」 サンジも叫ぶ。 「ケリつけて、今度は9人でここを出るのよ!!」 ナミも。 「ゴムゴムのォォ!!」 「倒れんぞ…おれは倒れんぞぉぉおお!!」 どんなに強くとも、六式使いであろうとも、ベリエは歳を取りすぎていた。 30年。 この島に来ることだけを望み、財宝を手にすることだけを望み。 その妄執を、強く抱いていたのはベリエのみ。 部下達は、その強さと勢いに乗っかっていただけに過ぎない。 欲しかった。 この島の宝を。 あの輝きを。 「30年…目の前にあるんだ!!今!おれの!!目の前に!!」 血走る目、流れる汗。 澱んだ呼吸。 「ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)―――!!」 「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!」 ギア2による拳の乱打!! 叩きつけられ、なおも打ち据えられるベリエごと、ドームの壁が崩れていく。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「ルフィさぁあああん!!」 ペロが叫ぶ。 目に、涙を溢れさせて。 30年 今終わる!! NEXT BEFORE 長靴をはいた猫TOP NOVELS-TOP TOP