BEFORE
ぴしっ
ぴしっぴしっ
また、あの音…。
どこから?
「………!?」
腕の中?
「チビ!?」
「…いけない!!サンジ!!」
ロビンが駆け寄る。
と、サンジはロビンの目の前で、思いもよらぬ行動をとった。
背伸びし、ゾロの首にしがみつき、その唇に自分のそれを重ねた。
「!!?」
「やめて…サンジ!!」
ロビンの声はもう悲鳴だ。
びきっっ!びしっ!びしびしっ!!
何かが割れる音は、はっきりとゾロの耳に届いた。
サンジだ。
小さなサンジからその音はしている。
「チビ!!?」
引き剥がし、肩を掴んでサンジを見た。
「ああ!!蒼天…どうか!!」
悲鳴に涙が混じる。
カリファが、崩れるロビンの体を支えた。
サンジの体が、まるで炎のようにゆらめき輝いた。
金の髪に施された飾りが、ひとつ、またひとつ、弾け、砕かれていく。
砕かれると同時に、それらはみな小さな炎を上げて消えていった。
「封印…!?」
鬱陶しい飾りの全てが封具!?
髪、腕、指、首
最後に、耳朶に着けられた封具が弾け飛んだ時、オレンジに輝いていた体が少しずつ形を変えていった。
「…ああ…!」
悲痛なロビンの声。
光はあふれ、弾けて、館中を包みこむ。
「なんだなんだなんだァ!?何があった、ゾロォォ!!?って!おおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!?」
駆けつけたウソップが仰天して、腰を抜かした。
顔を覆いながら、ロビンが吐くようににつぶやいた。
「運命に逆らうことを…なんとしてもさせないというの…!?」
「陛下…!陛下!お気をしっかり!!」
光の洪水に目を眩ませながらも、ゾロはサンジを抱えた腕だけは決して放さなかった。
そして、再び視界が戻った時、腕の中にいたのは
「…“サンジ”…?」
自分の服を、しっかりと握る手。
背中に回った片方の腕。
肩に埋められた、金の髪…。
さわ と、風が吹いた。
金の髪が、ゾロの頬をくすぐる。
ついさっきまで、腕の中にすっぽりと収まっていたはずの小さな体。
それが…。
ゆっくりと、腕の中の体が身じろいだ。
白い顔、青い瞳が、まっすぐにゾロを見た。
そして、唇が微笑み
「…ゾロ…。」
と、呼んだ。
「………。」
ウソップは声も出ない。
目の前の不可思議に、ただ呆然とするばかりだ。
だがゾロは、理屈も理由も要らなかった。
ただわかったのは、そんなものを全てすっ飛ばして、今、喜びに心が満ち溢れていることだけだ。
そして、自分の馬鹿な考えが、やはり間違っていなかったのだということを確信した。
ざまあみろ!
「…おれを騙す事は出来なかったってワケだな、“サンジ”?」
“サンジ”は、困ったように小さく笑い。
「…言ってろよ、この馬鹿マリモ…。」
「マリモだぁ?」
「テメェの頭だよ。人のことをよくもまァ、チビだのナスだの馬鹿にしやがって。」
「……やっぱり、チビはお前だったんだな…?」
「…チビの方は、お前を騙した訳じゃねぇ。本当に…あの姿のおれは、この姿の記憶は持っていねェんだ……。許してやってくれよ。」
それでも、小さなサンジも、体と心がゾロを記憶し、抱いた想いに反応した。
「会いたかった…。」
「おれもだ。」
再び抱き合い、そのぬくもりと幸福に酔う。
その光景を、ウソップは呆然と見つめるしかなかった。
ロビンも、しばらく氷のように冴えた目で、抱き合う恋人同士を見つめていたが、
「サンジ、離れなさい。」
「………。」
「お願い…ゾロ皇子…その子を放して…。」
「…断る…。」
「…どう…か…。」
地に崩れ、肩を震わせるロビンを支えながら、カリファが言う。
「ゾロ殿下…!あなたも皇子というお立場なら、これがどんな大罪かおわかりでしょう…!?」
「…ああ、そうだな…まともな恋じゃねぇのはわかってる。だが、もう止める気はねェ。ロビン、こいつをおれにくれ。頼む。」
「………。」
答えないロビンに代わり、さらにカリファが叫ぶ。
「そうではありません!!これはそれ以上の禁忌です!!まさか知らないわけでもありますまい!?」
「……なんのことだ?」
カリファが、目を見開く。
ロビンも。
そして、サンジも。
「…知らないのか…?聞かされていないのか、ゾロ…?お前、碧の皇子なんだろう?」
サンジの言葉に、ゾロはさらに眉をゆがめて
「…何の話だ?おれがお前に惚れることが、禁忌なのはわかる。だが、それ以上の大罪とは何だ?」
言って、ゾロはウソップを見た。
ロビンも、ウソップを見る。
ウソップは、全員から見つめられて慌てふためき、ぶんぶんと首を振って
「し、知らねェ!!何のことだよ!?おれが知るわけねェだろ!?」
知らない。
ゾロは知らない?
戸惑うサンジの顔に、微笑が漂う。
「…あっはっは!知らない?お前、本当に皇子扱いされてねぇ皇子なんだな!?しかもその生(な)りで!」
「あァ?」
サンジはゾロの腕から離れた。
離れがたく手を伸ばすゾロの指から、すり抜けるように。
そして、サンジはゆっくりと姉の前に立つと
「…姉さん…運命は抗うものでも受け入れるわけでもないよ…。」
「………。」
「切り開いて掴むものだ。」
わずかな間に、ロビンは落ち着き、冷静な判断力を取り戻した。
そして、弟へ
「私は女王よ。それを許すことは出来ないわ。」
「許される気も、それを請うつもりもねェ。」
「…そう、なら仕方がないわ。」
ロビンは立ち上がり、ゾロを見据えて言った。
「ゾロ皇子を捕らえなさい!!」
命令一下、屈強な兵士等がわらわらとわいて出て、ゾロを囲み後ろ手を取った。
ゾロは逆らわずさせていたが
「…過保護なことだな、姉君。そんなに弟が可愛いか?」
「…可愛いわ。弟ですもの。どんな恋でも、本当なら叶えさせてあげたい。けれど、私は女王です。
弟の幸福が、国の不幸を招くことがわかっていて、どうして叶えられるというの?」
「…国の不幸…?」
ゾロが捕らえられたのだ、当然ウソップも縛りあげられた。
「いたたたたたた!!チクショー!なんなんだ!?
いくらカスみてェな立場でもゾロは皇子で、碧の親書を持ってきた国使の立場だぞォ!?こんなことしていいと思ってんのかァァ!!?」
「不要とあらば如何様にも、あなたの兄上の手紙にはそう書いてありました。」
その答えに、ゾロは笑った。
「…あー、やっぱりな。」
「って!?うそぉぉぉ!!?」
ゾロは、サンジを見て問う。
「…これが大罪だと、お前は初めから知っていたか?」
少し置いて、サンジは答えた。
「知っていた。」
そして
「森で会った時…初め、緑の髪だとわからなかった。木の葉影に紛れてたからな…。びっくりしたよ。」
「………。」
「姉さん、あんまりそのことをみんなが気にするから、逆に意識しちまうってことも起きるって、ちゃんと次には伝えてくれよ。
自分と同じ男だ。そんなことになるわけがねぇ。そう思った。だから、わざわざ覗きに行った。
あんな野郎に、惚れるなんてことがあるわけねぇ。そう思って行ったのに……。」
「サンジ…?」
サンジはゾロへ向き直り
「…知っていて、惚れたと言ってくれたのかと思ってたよ…。まさか知らないとは思わねェ。」
「だから…!何の話だ!!?」
ゾロの叫びに、ロビンが答えた。
「“翠天源神の御子と蒼天女神の御子を、邂逅させてはならない。”各王家に伝わる言い伝えです。」
「なんだと…?なんだ、そりゃあ!?」
ウソップも、首をかしげた。
「カリファ、後は任せます。」
「御意。」
「サンジ、来なさい。」
「………。」
「サンジ。」
サンジは動かない。
「…一度解けた封印を戻すことはもう出来ない…。あなたが、ここでこうしているだけで…。」
「…わかってるよ、姉さん。」
「サンジ!」
ゾロの呼びかけに、サンジは振り向いて笑い
「…時間はたっぷりあるさ…環境はよくないが、しっかりお勉強してこいよ。」
「待て!お前は知ってるんだな!?だったらおれは、お前の口から聞きてェ!!」
「…かー…デリカシーのねェ男…。」
「あァ!?」
「…それを知ったら、おれから聞かなくてよかったと思うさ。じゃあな、ゾロ。しばらくお別れだ。」
「おい、今度会う時はどっちの姿だ?」
サンジはゾロの問いに笑って
「この姿だよ。もう、チビには戻れない。戻る気もねぇけど。あっちの方がよかったか?」
「………。」
聞きたいことは山ほどある。
しかし…。
「サンジ。」
「…ん…?」
「好きだ。」
その言葉に、一瞬空気が凍てつく。
男が男に好きだと言った、その反応に対してのものではない。
明らかに、それ以外の恐怖が駆け抜けたのだ。
だが、その中でサンジは微笑み
「ああ、おれもだ。」
と、躊躇うことなく答えた。
「安心した。」
にやりと笑い、ゾロは言った。
「それだけ聞けりゃ、腹は括れる。」
カリファが、兵士等に手で合図した。
引き立てられて、ウソップが溜め息をつく。
「あー…どんな牢屋だろ〜〜〜〜?」
「石牢か水牢か、少なくとも昨日までの寝床は望めねぇなァ。」
「お前のせいだぞ、バカヤロォォォ!!おれ、生きて帰れるかなぁ〜〜…。」
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(2008/3/21)
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