BEFORE
 

 「エースがこの国に来た時、城へ招いたのは死んだ父です。

“炎の賢者”様だと、父に紹介されたのです。年もあまり私と違わないので驚きましたが…。」



ロビンの執務室。

側に、いつものようにカリファがいる。

ずっとゾロを睨んで、目を逸らそうとしない。

そのカリファを、ウソップが睨んでいる。

また何かあったら、今度はおれだって、という覚悟だ。



 「どこから来たといった?」

 「…さぁ…そういえば、あの方がどこから来たのか、聞いたことは一度も…。」



ゾロは小さく息をついた。

そして



 「あの野郎、緋の人間だ。それもかなり王族に近い。」



ゾロの言葉に、サンジもロビンも、カリファも驚いた。



 「緋…?」

 「そんな…!!あの方は先王のご信頼も篤く…!」

 「先王が信頼した理由は?」

 「あ…。」

 「緋の王族だったからじゃねぇのか?…あの紅天の力、王族に出る能力だろう?

 どの国にも1人や2人、御子でなくとも力を持つヤツがいるじゃねぇか。

 おれの母親もそうだった。直系じゃねぇが、お袋も王の家系だ。」

 「…エースが…。」



サンジがつぶやく。

と、カリファが



 「では何故、そのことを黙って…身分を隠されてまで…。」

 「目的があったんだろ?アイツはそれをはっきり言ったぜ。『サンジはおれがもらう』ってよ。』

 「!!」



カリファは思わず、口元を両手で覆った。

ロビンも目を見開いて、少し顔を青ざめさせた。



 「緋の王族ならうなずける。緋は今、国が疲弊している。サンジがいれば、水の力が手に入る。」

 「そんな…エースが、私達を騙して…?」



ロビンの体がぐらりと揺れた。

慌ててカリファが支える。



当のサンジは、黙って姉を見つめるだけだ。

本当にサンジをいたわってくれたのは、真実、姉1人だけだったのかもしれない。

サンジの封印が解けた今、この場に居るのは姉の忠実な家臣カリファだけだ。

誰も、サンジの力を恐れて近づこうとしない。



サンジ本人、感情を抑えて乱れさせないように努力している。

小さな子供の頃のように、感情を暴走させるわけにはいかなかった。

だが、それは非常に疲労を伴う。



その時だ。



 「申し上げます!!」



神官が、駆け込んできた。

ロビンの前に膝まづくと、息を切らしながらも一気に叫ぶ。



 「只今、国境沿いの物見の報せが入り、碧国軍が国境を越え、燈へ攻め入ったとのこと!!」



驚愕が走った。



誰も、声も出せなかった。



ただ、サンジもさすがに驚いたのか、すぐそばにあったクリスタルの壺が小さな音を立ててひび割れた。



 「燈…!?」



ゾロが叫んだ。

ロビンも



 「緋ではなく…燈へ?…いきなり…何故?」



さらに



 「御注進!!碧国軍、只今、当藍との国境から20キロの位置にて布陣!!」

 「なんですって!?」



カリファも叫んだ。

報告は続く。



 「碧国軍、さらに緋国との国境へ派兵の模様!!」



それぞれの斥候に、ゾロは問う。



 「それぞれの司令官はわかるか?」



一瞬戸惑ったが、ロビンが大きくうなずいたので



 「緋へ向かう軍司令はゲダツ。」

 「藍はシュラ。」

 「燈へはオームにございます。」



最後の燈の司令官の名を聞いた時、ウソップが青ざめた。



 「親父…!」

 「………。」



ウソップの父はオームの軍の隊長だ。

しかも先陣を切る千人隊長だ。

すでに交戦状態に入っている軍隊に、ゾロの養父が混じっている。



 「あの野郎!!」



わかっていて。



 「ウソップ!!戻るぞ、碧へ!!」

 「で、でも…!!」

 「…ゾロ…。」



サンジが、少し顔を青ざめさせて、震える声でゾロを呼ぶ。

が、その一瞬にカリファが叫んだ。



 「ゾロ殿下!!貴方をこの城から出すわけには参りません!!」

 「なんだと!?おれに命令すんな!!」

 「わが国に、今にも攻め入らんとする国の皇子を、目の前にして黙って返せるとお思いですか!?」

 「…おれは人質にはなれねェぞ。あいつはおれを、弟などと思っちゃいねェ。思っていたら、こんなことはしねぇだろうよ。」



ゾロは、サンジに向かい



 「行ってくる。待ってろ、必ず戻って来る。」

 「…おれを連れて行け…!おれなら、軍隊のひとつやふたつ…!」

 「…おれの国の民だ。」

 「!!」

 「…先陣を切っているのは、ウソップの親父だ。…おれを育ててくれた男だ。おれに乳をふくませてくれた、女の亭主だ。」

 「………。」

 「ここにいろ。」

 「ゾロ…。」

 「お前は、お前の国の民を守れ。姉を守れ。」



その一言に、カリファが息を飲んだ。

ロビンは立ち上がり



 「…この国で、一番速い馬をお貸ししましょう。カリファ、ゾロ皇子に武具を一式。」

 「かしこまりました。」

 「ありがてェ。感謝する。」



ウソップも、深々と頭を下げた。

そして



 「ゾロ…!」

 「心配するな。ヤソップが、そう簡単にくたばるかよ!」



ゾロは、今度はサンジに向かい



 「…いいな?ここにいろ。」

 「………。」



サンジの唇にキスした。



 「おれは負けねェ。」



力強い笑顔に、サンジはうなずくしかない。



 「ゾロ皇子。」



ロビンが呼ぶ。



 「そのまま先陣に立って、燈を攻めることはありませんね?」

 「そのつもりだ。」

 「もし。」

 「………。」

 「あなたが燈を攻めるようなことになったら、この国に2度とお戻り下さいますな。」

 「姉さん…!」

 「安心しろ、おれはエネルの手先にはならねぇ。」

 「本当に?」

 「ああ、約束する。」

 「…わかりました。信じましょう。」



ゾロは、小さく笑った。

そしてロビンも微笑んで



 「サンジ。」

 「………。」

 「行きたいのなら、行きなさい。」

 「!!?」

 「陛下!?何を仰います!!?」



カリファの言葉には耳を貸さず、ロビンは言う。



 「見せて頂戴。あなた達の覚悟を。」

 「姉さん…。」

 「そして、必ず戻っていらっしゃい。2人で戻ったその時は、例え世界を敵に回しても、私があなた達を守ります。」

 「ありがてェ。」



サンジの唇に、笑みが戻る。

ロビンに駆け寄り、抱きしめ



 「ありがとう…姉さん。」

 「…必ず…必ず戻ってくるのよ?約束して。」

 「戻ってくるよ。絶対に、戻ってくる。」

 「では、お行きなさい。…弟を頼みます、ゾロ。」



ロビンは初めて、『皇子』とゾロを呼ばなかった。



 「ありがとう、ロビン。」



素直に、ゾロは感謝を述べる。

侍従達が、ゾロとウソップの為の武具と鎧を一式運んできた。

2人でそれに同時に手をかける。



 「10分で支度しろ!サンジ!!」

 「5分で充分だ!!」

 「殿下!誰か供の者を…!!」



カリファが叫んだが、ロビンが言った。



 「必要ないわ。」

 「陛下!殿下は、外に出るのも初めてなのですよ!?」

 「…必要があると思うの?」

 「…それは…。」

 「心配要らないわ。ゾロは、きっと約束を守ってくれます。それよりも、重臣たちを集めなさい。藍国軍令を発動させます!」

 「御意!女王陛下!!」





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              (2008/3/21)

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