BEFORE
「碧軍が、燈へ攻め入った!?」
その報せを、フランキーは灌漑工事の現場で受け取った。
周りには、昔の子分達。
「アニキ!?ルフィは!?」
「ルフィは今、燈にいるんでしょう!?」
「助けに行かねぇと!!」
歯噛みし、フランキーは手にした道具を投げ捨てて走り出す。
「思ったより、仕掛けてくるのが早ェぞ!エネル!!」
城へ着くなり、フランキーは叫んだ。
「重臣どもを集めろ!!すぐに燈へ兵を送れ!!」
「なりません!陛下!!」
「なんでだ!?」
「時勢を見定め、議会に図り、その上で…。」
「んな悠長な事やってられっか!!緋に手を貸してくれた国へ、それじゃあ義理がたたねぇんだよ!!
いいか!!本軍を燈へ、国境守備隊を碧との国境へ集結!!急げ!もたもたしてる暇はねぇぞ!!」
そして、そこへ
「申し上げます!」
「なんだ!?」
「エース様よりご伝言が。」
「あの馬鹿!やっと連絡を寄越したと思ったら、このクソ忙しい時かよ!!」
エース。
フランキーのもう1人の弟。
だが、エースはフランキーが王になる何年も前に、ふらりと旅に出たきり落ち着くことがなかった。
ただ、数年前から藍で、王子のお守りをしていると報せがあったのみで。
人んちの子供のお守りをする暇があるなら、てめェんちのアホ弟の面倒を見やがれ。
と、何度言っても戻らなかった。
その内に、いい土産を持って帰る。
そう言って。
いい土産、に、心当たりはあるのだが。
そう、うまくいくはずもない。
第一、 姉女王が許すわけもない。
「エース様より、もう一言。」
「何だ?手短に言え。」
「…翠天の御子、蒼天の御子と邂逅せり。」
「!!」
その一言に立ち止まり
「おいおいおい。」
つぶやき、そしてまた
「スーパーだな。」
と、いつもの意味不明の一言を吐いた。
だが、最近近侍の者達は気づき始めた。
フランキーがこの言葉を吐く時は、非常に困惑している時なのだ。
邂逅とは、ただ巡りあったという意味ではないだろう。
つまり
なるべくしてなったということだ。
どこまで、根の深い伝説なのだ。
ここまで来たら、逆に呆れ返る。
どっちも男だろう?
ただでさえ、許されるはずのない禁忌だ。
そして、そうと知ってなお、ふたりは魅かれ、愛し合ったのか?
「…たまんねぇな…。」
ふと、フランキーは思案顔になり
やがて
「……おい!前言撤回!!碧との国境守備隊現状維持!!本軍を3軍に分け、藍へ1軍を送り、残りを燈へ!」
「藍!?」
「お気は確かか陛下!?」
「正気も正気だ。エネルの野郎の目的は燈じゃねぇ!藍だ!!」
燈のココロも、均衡が崩れた、と言っていた。
その中で一番の大国が碧である。
だが、それは軍事力においての話であり、経済力では最も藍が力を持っている。
最も国力の弱い緋を攻めるのは容易いが、他国の非難を浴びるのは必至だ。
燈も、国が弱いわけではないが、食糧事情などで他国に頼る部分が多い。
有無を言わせない状況を作るのは、碧と最も対等に発言権を持つ、藍を奪うのが一番早い。
“赤の十字架”を国境にしている4国、侵攻する為には山を越えなければならない。
エネルがまずその手始めにと燈の国境を越えたのは、比較的標高の低い、藍への街道を奪うためだ。
そして、そうさせたのは今藍にゾロがいるからだ。
サンジと出会い、想い合うようになったゾロを、藍の女王が許すはずはない。
ゾロは、混乱の種だ。
藍国内に投じたその混乱の種が、芽吹いた頃合いを見計らい計画を実行に移した。
エネルは自ら陣立てし、燈へ攻め入った。
オームの先軍の背後の本陣に、優雅な天幕を立てている。
燈軍との小競り合いが始まってから3日が過ぎた。
「…まだ、掃除は終わらんか?」
退屈そうに、エネルは尋ねる。
「今しばらくお待ちを、間もなく、掃き清められましょう。」
近侍が答える。
「藍へ攻め入る時は、吾が陣頭に立つ。その時、世は神の再来を見るのだ。」
攻め入られている燈。
国王アイスバーグは朱都にあって指揮を取っていたが、ここにいたってエネルの目的が藍への街道にあることに気づき始めた。
大きく戦を仕掛けなければ、おそらく燈国奥深く攻め入られることはないだろう。
しかし、今それをやり過ごしても、緋の後か藍の後か、必ずエネルは攻めてくる。
「出陣する!碧皇帝を討つ!!」
アイスバーグは宣言した。
碧からの宣戦布告のない交戦状態。
その宣言は事実上の燈からの宣戦布告だった。
2つの国、藍と緋へ、正式な国使が出される。
「お父様!あたしも行くわ!!」
ナミが、すでに戦支度を整えて、軍議の間へ駆け込んできた。
ビビも、同様の姿になっている。
「ならん!お前達は朱都に残り、おれの代わりに近衛の兵をまとめるんだ!」
「お父様!!お願い連れて行って!!」
ナミの言葉を無視し、アイスバーグはビビに言った。
「ビビ、禁裏の兵の全権をお前に預ける。」
「はい、お父様!」
「ビビ!?」
ナミは驚いて、父と妹を交互に見る。
「ビビ!何言ってるの、あんた!?」
だが、ビビも姉を無視し
「近衛連隊長!チャカ!ペル!」
「はっ!!」
2人の屈強な男が、走り出て膝をつく。
「各城門を閉じて。ただし南の門は開放。要所に兵を配備し、急の時に備えなさい。」
「ははっ!!ビビ様!!」
2人を追うように、出て行こうとするビビの腕をナミは掴んだ。
「ビビ!」
「何?」
「あんた…わかってるの?これは戦よ!?」
「お姉さまこそわかってないわ。お姉さま、万が一の時の事を考えて。」
「万が一って…!そんなこと!!」
「勝てると思ってる?」
「…!!」
重臣たちが居並ぶ軍議の場。
全ての目が、姉妹に注がれている。
「お父様、お姉さまを途中までご一緒させて。もちろん、ルフィさんも。」
「…うむ。」
父は、下の娘の意図を察した。
ビビは、ナミの体を抱きしめた。
「大好きなお姉さま。」
「………。」
「藍へ行って。ルフィさんと藍へ行って、藍の国境守備隊と合流して。エネルが攻め込もうとしているのは藍なの。
急務は、藍への街道を奪われないこと。」
「でも、それをしたらエネルは必ず軍を返して、双方からこの朱都を襲ってくるわ!」
「だから、藍の女王様にお願いするのよ!さらにその後方から、碧軍を囲むの!それを出来るのは姉さまだけよ。
ルフィさんも一緒なら、必ずニコ・ロビン女王は聞き入れてくれる!そして、そのまま緋へ。」
驚いた。
こんなことを、考えることの出来る妹だとは思わなかった。
「私は、燈の女王になるのよ。守って見せるわ!!」
そして、もう一度ビビは姉を抱きしめ
「そして、姉さまは緋の王妃になるの。燈と緋の縁は、私たちがいる限り絶たれることはないわ!ね?素敵でしょう?」
「ビビ…。」
アイスバーグが、娘たちの肩を抱き、懐に引き寄せた。
「すまんな、ナミ。本当は大陸一の花嫁支度をしてやりたかったが。…この戦装束で
嫁ぐことになってしまった…ンマー、お前らしくていいかもしれんな。」
「お父様…。」
「ルフィ君。…そういうことだ。娘を頼む。大丈夫、大抵の事は1人で何とかできる娘だ。」
「うん、知ってる。」
ルフィは、肩当と胸当てだけの簡素な支度だ。
だが、ルフィがとんでもなく強く、自分たちの王女を託すにふさわしいことは誰もが認める。
燈の重臣たちは、ルフィとナミの前に膝を折った。
「姫、お幸せに。」
「王子、王女をお頼みいたします。」
ナミの目から、涙が溢れる。
父の胸にすがって、ただぽろぽろと涙を流す。
「いやだ、姉さまのほうが泣き虫になっちゃった。」
言いながら、ビビも泣いて――。
そして
「おばあさま…!」
ココロにすがりつき、今度は声を挙げて泣いた。
「…ごめんね…笑ってお別れ言いたいのに…。」
「花嫁は泣くもんと決まってるさ…。亭主に愛想をつかしたら、いつでも帰っておいで。」
「ふふっ…うん、そうする。」
ようやく、赤い目で笑う。
「さあ、行け!時が惜しい!」
「…はい!」
「行くぞ、ナミ!!」
「うん!!…ビビ!…“また”ね!!」
「うん!“また”ね!!」
手を振り、妹は姉を見送った。
もう二度と、会えないかもしれない。
でも、そうは思わなかった。
なぜか力に満ち溢れている。
自分の手を、しっかりと握って離さないルフィの手から、どんどん力が流れ込んでくるようだ。
「ルフィ!」
「なんだ!?」
「…この手、離さないで!!」
振り返り、笑って、ルフィは叫ぶ。
「あたりまえだ!!」
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(2008/3/29)
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