BEFORE
 



藍・燈の国境。

北から西へと抜ける街道は、藍から燈へ、海からの産物を運ぶルートだ。

その為、潮街道と呼ばれている。

道は広く整備され、大軍を一気に押し寄せるとしたら、非常に都合の良い道だ。

その道を臨む、峠の頂上で、3頭の馬が脚を止めた。



ゾロとサンジとウソップ。



サンジは馬を降り、遠い陵線に向かって大きく息を吸った。

目を閉じ立ち尽くすサンジを、ゾロとウソップがじっと見守る。



 「……気が、あちらからこちらへ…大きく動いてる。間違いない、こちらへ迫ってる。」



指差す方向は燈の朱都。

そして、目の前の街道がまっすぐに繋がるなだらかな山。



 「…何か別の、大きな気が向かってくるな…。よくわかんねぇけど。」

 「軍が動いたか?戦況に何か変化が起きたかもしれねぇ。」

 「いや、そういうもんじゃなさそうだ。」

 「…とにかく、この辺りはまだ無事みたいだな…やっぱり交戦しているのは燈側だ。急ごうぜ!」

 「ああ。大丈夫か?サンジ。」

 「心配しなくていい。この姿に戻っちまえば、滅多なことじゃ壊れやしねぇよ。」



3頭は再び駆け出し、燈へ入った。

が、燈へ入って間もなく



 「軍隊だ!燈軍だ!!」



ウソップが叫んだ。

10人程の斥候が、こちらに気づいて



 「止まれ!!何者か!?」



と、叫んだが、ゾロの姿を見て、斥候達は顔を青ざめさせる。



 「緑の髪…!」

 「ロロノア・ゾロ!!」

 「碧の皇子だ!!」



途端に、3人は取り囲まれた。



 「おーおー、有名人だな、お前。」



サンジが言う。



 「言ってろ。…見てろ、その内…。」



ゾロがつぶやくと同時に



 「…金の髪…?」

 「ほら、おいでなすった。」



ゾロは、どこか嬉しそうに言った。



 「蒼天女神の御子!?」

 「藍の…!!」



ゾロは有名だが、サンジはその姿形を知るものが殆どないのが実情だ。



 「あれ?おれも有名?」



サンジが、どこか楽しそうに言った。

燈王族の人間だったら、2人が共にいるのを見たらきっと真っ青になっただろう。



と、ウソップが前へ進み出て



 「控えおろう!!こちらにおわすを、どなたと心得るぅぅぅぅ!!」



始まった。



 「おい、ウソップ…。」

 「いいから、やらせとけ。」

 「恥ずかしい…。」

 「そのうち慣れる。」

 「遠くの者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!

 これにおわすは、碧国第105代皇帝エネル陛下の御弟君、第11皇子にして翠天源神の御子ロロノア・ゾロ殿下!

 さぁらぁに!その隣におわすのは、藍国第126代女王ニコ・ロビン陛下の御弟君にして、麗しき蒼天女神の申し子!

 藍国王弟サンジ殿下にあらせられるぞ!いざいざ!頭がたぁ〜かぁ〜いぃ〜〜〜〜い!!」



沈黙。



だが、取り囲む兵等の動きに変化はない。



 「あれ?」

 「………。」

 「おっかしーなー。いつもなら大抵ここで、『へへーっ!』ってなるんだけど…。」

 「あのな、ウソップ。」



サンジがつぶやく。



 「今、碧に攻められてんだぞ?燈は。」

 「あ。」



しかも



 「…まこと、藍国王弟殿下か?」

 「そうなんだけど…証拠をと言われたら、この姿だけだな。」



と、ゾロが言う。



 「聞きたい事がある!エネルは今どこに本陣を構えている!?知っていたら教えてくれ!!」

 「それを答えると思うのか!?」

 「…あー、もっともだ。」



サンジが呆れて、天を仰ぐ。



 「馬鹿ばっか…。」

 「捕らえろ!碧の皇子だ!!」



どっと、兵の輪が縮まる。

3人背中を合わせて、腰の剣に手をかけた。



 「さて、どうする?」

 「ナントカしろ、サンジィ!!」

 「って、おれかよ?順番からいったらお前が先陣だろ?ウソップ。」

 「…なんとかすんぞウソップ、あまりコイツに、余計な力使わせたくねぇ。」

 「………。」



人でない力だ。

異端の力は、人に恐怖しか与えない。



 「…けどよ…ここで捕まる訳にはいかねぇよ!!」

 「わかってる。」



ゾロは背筋を伸ばし、剣を投げ捨てた。

一瞬、ウソップはぎょっと目を見開いた。



 「わかった。投降する。その代わり、コイツだけは行かせてやってくれ。」



言って、ウソップを指差す。

ウソップは仰天し



 「ゾロ!?」

 「おれ1人が捕まれば済む事だ。お前がヤソップの所へ行ければいい。」

 「でも…!」



その時。



 「ふーん。ホント、噂通りの頭ね。2人とも。」



女?



その声に、3人はその主を見た。



女性だ。

身に、銀の鎧をまとっている。

オレンジ色の髪の、美しい少女だ。

そして、その傍らに黒髪の少年。



兵等が叫ぶ。



 「殿下!お下がりください!」

 「相手は碧の皇子でございますぞ!!」



すると少女は



 「翠天源神の御子ね。ロロノア・ゾロ。エネルの弟!」



言い放ち、少女は腰の細剣を抜いて、切っ先をゾロへ突きつける。

ゾロは微動だにせず、少女の顔を見た。



 「こんな場所で、何をしていたの?皇子自ら斥候かしら?」

 「…“殿下”か。第一王女ナミか?第二王女ビビか?」



にやりと笑い、ゾロは尋ねた。

すると、傍らにいた少年が



 「ナミだ!」



と、答えた。



父国王・アイスバーグが、オームの軍のいる国境沿いに向かったのを見送り、

ナミは少数の軍を率いて越境街道を押さえるために、ここまで辿り着いた。

ここで、燈軍を藍軍と合流させるつもりだ。



 「普通答えないのよ!そういう時は!!」

 「えー?そうなのか?オレはルフィだ!」

 「ルフィ?」

 「だから答えないんだってば!!」



王女らしからぬ剣幕。

ウソップが叫ぶ。



 「緋の王子!?」

 「これはこれは…。」



サンジが大きく息をついた。

周りを取り囲んでいる兵士から、声が上がる。



 「王女様!どうかお下がりください!」

 「いいえ、こいつに聞きたいことが山ほどあるのよ。」

 「奇遇だな、おれもだ。」

 「いいわ!聞きましょう。みんな、下がって。」

 「王女!」

 「ナミ様!!」

 「大丈夫よ。ルフィがいるもの。」

 「おう!」



そのやりとりに、ゾロは笑った。



 「なるほど。」

 「なにが“なるほど”よ。」

 「いや、そういう事かと思っただけだ。」



途端に、ナミの頬がぼっと染まる。



 「ほらな。」

 「うるさいわね!!あんたの方こそ…!!」



言いかけて、ナミはゾロの隣にいるサンジを見て、険しい表情を浮かべた。



 「…翠天と蒼天の御子。」



ナミも、すでにその口伝を聞いているのだろう。



 「そういう事なの?」

 「…そういう事です。」



サンジは笑った。



 「…信じられない。」



ナミのつぶやきにサンジは笑う。







奇しくも、4国の王子・王女が揃った。



碧のゾロ

藍のサンジ

燈のナミ

緋のルフィ



 「おれ、遠慮する。」



用意された天幕に、ウソップは入ろうとしなかった。

だが、ゾロは



 「入れ、ウソップ。」

 「けどよ。」

 「入りなさい。」



ナミが言った。



 「今、この状況で、1人でも碧側の人間が側にいた方が、あんたの主人の為よ。」

 「わかった。ありがとう。…あんた、いいヤツだな。」



ウソップの言葉にルフィが



 「おれんだぞ。やんねーぞ。」



ルフィの言葉に、ナミの鉄拳が炸裂した。

結婚前からすでに尻に敷かれている。



幕の中には5人だけ。

他の将軍も家臣も、ナミは入れなかった。



 「まず、教えてもらいたいのは、碧の陣容だ。」

 「ちょっと待って、聞きたいことは私が先よ。」

 「おれは急いでる。コイツの親父の元に、一刻も早く着きたいんだ。」

 「あのね。今、私達の国を攻めている男の弟の言うことなんか、素直に聞けると思う?

 しかも、藍の王子連れで!あなたが、藍の王子と一緒にいる。

 そのことがどれだけ重大なことか、とても気になるわ。そのことに、今回の侵攻が関係あるの?

 そうなら、サンジ王子、あなたも事と次第では、タダじゃ置かないわ。」

 「何だと…?」



顔色を変えたのはゾロだ。



 「待ってくれ、ナミさん。落ち着いて、おれ達の話を聞いてくれ。あなたは今、とても心が乱れてる。ゾロ、お前も。」

 「あたしは落ち着いてるわ!」

 「お前は黙ってろ、サンジ!」



今にも、掴みかからんばかりの2人に



 「チョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと!!待て待て待て!!落ち着け!2人とも落ち着いてくれ!!」



ウソップが叫んだ。

そして、



 「落ち着け!確かに、今お前等の互いの立場は微妙だ!だけど!今、正しい状況を知ることが一番だ!!

 落ち着いて、腹割って!おれ達が知る限りの事を順番に話そう!!」



 「!!」

 「う…。」



黙りこむゾロとナミ。

と、



 「…はっはっは!!スゲェな、お前!」



ルフィが笑った。



 「見ろよ、4国の王子王女が、一瞬で黙りこんじまったぞ!最強家臣だな!」

 「は?」

 「いいな、お前!気に入ったぞ!!」



ルフィは立ち上がり



 「…おれ、みんな気に入った!えっと、ゾロ。」

 「おう。」

 「サンジ。」

 「うん。」

 「ウソップ。」

 「お、おう。」

 「ナミ。」

 「…何よ。」

 「おれ達が、今、一番してェことは?」



と、全員が声を揃えた。



 「エネルをぶっ飛ばす!!」



ルフィはにっこりと笑い。



 「おれもだ。」



と、答えた。



 「アイスのおっさんには、メシ食わせてもらった恩があるからな。」

 「あんたの理由はそれなの!?」



納得できない!

ナミは憮然として頬を膨らませる。

だがすぐに



 「ちょっと待って。エネルはあんたの兄さんでしょう?」



と、ゾロへ尋ねた。



 「おれはアイツを、兄貴だと思ったことは一度もねェ。向こうもそうだ。」



ゾロが答えた。

ウソップが言う。



 「よし!まず、ナミ王女!」

 「ナミでいいわ。」

 「よし、ナミ!まず、お前から話してくれ。何で燈軍がここにいるのか。」



ナミはうなずき、話し始めた。







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              (2008/3/29)

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